Netpress 第2478号 改めて考えてみませんか 「就業規則」の役割と作成する意味とは?

Point
1.就業規則は、企業における「労働契約の基本ルール」であり、労働者との間の法的関係を明確化する役割を果たします。
2.就業規則は、職場秩序の維持およびトラブル未然防止のための重要な指針となります。
3.就業規則という明文化された制度により、人事労務管理の一貫性・公平性・透明性を確保できます。


社会保険労務士法人HRM
特定社会保険労務士
告井 祐二


 近年の労働法改正への対応に伴い、就業規則の見直しに苦慮している人事担当者は多いと思います。改定作業が形式的なものとなり、本来の趣旨や自社の実情に即した内容が反映されていないケース、また従業員への十分な周知や理解が得られないまま運用されている事例も少なくありません。


 本稿では、就業規則を単なる規程ではなく、企業経営を支える実務ツールとして活用するために、その意義と役割を改めて整理します。

1.就業規則とは何か

 就業規則とは、企業が労働者に適用する就業上のルールを体系的に定めた規程です。


 就業規則は、労働基準法第89条において、常時10人以上の労働者を使用する使用者にその作成と労働基準監督署への届出が義務づけられています。


 その内容には、始業・終業時刻、休日・休暇、賃金、退職、服務規律、懲戒処分、休職制度、安全衛生など、労働者の労働条件にかかる重要事項が定められています。


 「労働条件にかかる重要事項」ですから、就業規則は単なる社内文書ではなく、法的拘束力を有する労働契約の一部として機能します。


【労働基準法第89条】
 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
〜 以下略 〜

2.就業規則の法的効力と労使関係への影響

 就業規則は、法令上の要件を満たし、かつ、労働者に周知されていれば、労働契約の内容としての法的効力を持ちます(労働契約法第7条)。そのため、個別の労働契約書に明記されていない事項であっても、就業規則に定めがあればその内容が契約に含まれることになります。


 特に懲戒処分や解雇に関する規定が就業規則等において不明確な場合、会社は労働者に対する処分の正当性を主張することが困難となり、不当解雇や懲戒権の濫用と判断されるリスクが高まります。懲戒処分については、あらかじめ具体的な事由を明記し、合理性・相当性を確保することが不可欠です。解雇についても、手続的適正と説明責任が求められ、不備があると労働審判や訴訟で不利な判断を受けるおそれがあります。トラブル防止の観点からも、規定の整備と適切な運用が重要です。

3.組織秩序維持とトラブル予防

 就業規則は、企業と従業員との間の共通ルールを示す「行動指針」であり、服務規律や懲戒規定を通じて、組織の統制力を確保するうえで不可欠な存在です。


 従業員に対して期待される行動や職務姿勢、遵守すべき事項をあらかじめ明示することで、ルールに基づいた適正な行動を促し、問題行動があった場合にも、就業規則に沿った処分を行うことができます。


 また、近年の労働環境の多様化(テレワーク、副業、ハラスメント対応など)により、就業規則に求められる内容も高度化・複雑化しています。これら新たな課題にも対応した内容を規定することで、時代に即した職場環境の維持とトラブルの未然防止を図ることができます。

4.公正な労務管理と従業員の安心感

 就業規則は、企業内での人事・労務管理の公平性と透明性を担保する役割も果たします。


 たとえば、昇給・昇格・評価・異動・休職・復職・退職といった処遇の基準を就業規則に明記することにより、属人的な運用を排除し、従業員にとって納得感のある制度運用が可能となります。このような運用が従業員の信頼を獲得し、モチベーション向上や定着率の改善にも寄与します。


 また、ハラスメント防止指針や育児・介護と仕事の両立支援策など、近年の社会的要請を反映した規定を組み込むことも、企業の社会的信用の向上に資する対応となります。

5.定期的な見直しと従業員周知の重要性

 就業規則は作成した時点で完成ではなく、企業を取り巻く法令改正や経営環境の変化に応じて、定期的な見直しと更新が求められます。特に、労働基準法、育児・介護休業法、労働契約法、男女雇用機会均等法等は、改正頻度が高いため、制度のアップデートを怠ると法令違反に問われるリスクもあります。


 また、就業規則の実効性を確保するには、内容の整備だけでなく、従業員への適切な周知(紙媒体配布、イントラネット掲載、説明会開催など)も不可欠です。周知がなされていない就業規則は法的効力を持たないため、実効性を担保するためには、作成・改定後の周知徹底が重要です。

6.おわりに

 就業規則は、企業の労務管理における最も基本的かつ重要な制度文書です。労働契約関係の明確化、組織秩序の維持、従業員の権利義務の明示、公正な制度運用のために不可欠な役割を果たします。


 就業規則の整備は、法的リスクを回避し、企業経営の安定性を高める有効な手段であり、同時に、従業員の安心と信頼を得るための基盤ともなります。


 今後、労務管理をより円滑に進めるためにも、法令に則した就業規則を整備し、実態に即した運用体制を構築していくことが重要です。



◎協力/日本実業出版社

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