Netpress 第2441号 思わぬ追徴課税も 税務調査で問題になる「関係会社間取引」とは?

Point
1.関係会社間取引では、しかるべき対価を受け取っていないなどとして取引価格が否認され、損金算入が認められずに追徴税額が多額に上ることもあります。
2.税務調査で指摘されやすい関係会社間取引と適切な処理について確認します(グループ法人税制により、国内の100%子会社との特定の取引では譲渡損益等を認識しませんが、ここでは取り扱いません)。


アタックス税理士法人
代表社員・税理士
愛知 吉隆

1.関係会社間取引の問題点

 法人税法上、寄附金とは、「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、法人が行った金銭その他の資産または経済的利益の贈与または無償の供与」(法人税法37条7項)と定義され、原則として一定の額を超える場合は損金不算入となります。


 寄附金税制が問題となる際の関係会社間取引の「関係会社」とは、親会社、子会社、孫会社にとどまらず、事業活動を行ううえで自社と密接な関係がある会社をいいます。


 関係会社との間で、不適正な価格で取引が行われたり、無償で貸付が行われたり、債権放棄や従業員の出向などを通じて利益が供与されたりした場合には、税務上、寄附金として扱われることがあります。


 損金経理を行った取引が寄附金として扱われ、寄附金の損金算入限度額を超える場合には、追徴課税が発生することになります。

2.関係会社間取引における不合理な取引価格

 関係会社間取引は、第三者(独立当事者)との取引よりも条件や価格等で恣意性が介在しやすく、問題となりやすい項目です。


 特に関係会社との売買で、どちらかの会社に有利(もしくは不利)な価格である場合に、それが不合理なものである(利益移転、課税回避等)とされたときは、寄附金等とみなされます。


 この種の取引は継続して行われることが多く、税務調査は3~5年分が対象となるため、金額は高額となります。


 税務調査にあたっては、関係会社を把握するため、臨場調査前にホームページ等で関係会社の情報を確認します。あるいは、申告書に添付される「出資関係図」「別表2(同族会社等の判定に関する明細書)」や有価証券の内訳明細書をチェックします。


 そして、臨場調査の初日に会社概要をヒアリングする際、関係会社間でどのような取引があるかを確認します。それを踏まえて帳票類のチェックを行い、取引額(単価等)が他社と比べて大きく異なっていないか、異なっている場合はその理由は何かを確認します。


 比較すべき他者がない場合は、原価計算等を行って、利益に偏りがないかをチェックします。

3.長年にわたり取引価格を見直していない場合

 意図的に単価を調整し、利益の付け替えをしていたわけではないものの、関係会社との単価の見直しを放置していた結果、寄附金に該当するとして問題になることがあります。


 特に数量が多いと、総額(単価×数量)では高額となり、利益移転として問題視されます。


 実務上の留意点としては、他者と比準し、取引価格が適正かを定期的に確認する必要があります。


 必ずしも他者と同額でなければならないという意味ではなく、納期、数量、地域性等に照らして、取引価格に合理性があるかが重要となります。


 比準すべきものがない場合は、原価計算等で適正性を担保することが大切です。

4.関係会社が経費を負担していない場合

 グループ企業間では、請求書の発行や入金管理の作業を一元化したり、各社ごとの財務会計資料や管理会計資料を本社が管理して経理事務を行ったりします。こうした場合に、関係会社でも相応の負担をするべきものとして問題となることがあります。


 ほかにも、同じオフィスの区画に入居している関係会社で、家賃負担や事務コストが一方の会社負担になっているケースなど、関係会社間(特に親子会社間)で経費負担があいまいになっていることがしばしばあります。


 特に子会社が設立されたばかりのときは、子会社の業務は親会社の主導で進められることが多く、費用負担(人的役務負担を含みます)もすべて親会社が行っているケースがあり、注意が必要です。


 経費の負担割合は、お互いの使用面積や社員数、役務提供の工数など何らかの合理的な基準で按分し、負担額を算出します。この基準については、定期的に見直しを行わないと税務調査時に実態とかけ離れてしまっていることがあるので、年1回は見直すようにしましょう。

5.親会社が子会社の損失を負担する場合

 親会社が子会社の整理や再建のために、債権放棄や支援を行うことがありますが、この場合の損失負担が寄附金となるか否かは、判断が難しいところがあります。


 親会社は子会社のために社会通念上果たすべき責務を負う場合があり、子会社に対する支援は単純な贈与(寄附金)とは実態が異なると考えられるからです。


 国税庁では、「損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであり、それをするに至ったことに相当な理由がある場合(法人税基本通達9-4-1)」「倒産防止のための合理的な再建計画に基づく等の相当な理由がある場合の無利息貸付け(同9-4-2)」は寄附金に該当しないとしています。

6. 関係会社へ出向する場合

 関係会社間では、従業員が出向することがあります。出向は、出向元の企業に在籍したままの異動であり、出向者への給与等支払い方法は次のようになります(①は海外出向、②は国内出向に多くみられます)。


出向先からその者の職位等を考慮して支払い、その総額と出向元での想定される年収とに差額がある場合は、補てん金を出向元が支払う
出向元からその者へ給与等の全額を支払い、出向先は相当の負担金を出向元へ支払う


 税務調査では、出向先が支払っている給与(もしくは負担金)が低額であり、その分出向元の負担割合が大きくなっている場合に、出向元から出向先に経済的利益の供与があったとして、寄附金課税の問題が生じます。


 出向の理由が子会社支援であることもあります。前述の「損失負担等の経済合理性」を満たすなら問題はありませんが、一般的に出向は倒産危機に陥る前の支援(業績不振子会社のてこ入れ、新規事業立ち上げの土台づくり等)が理由であることが多く、寄附金として指摘されやすいものといえます。



◎協力/日本実業出版社
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