レジリエンスとは?意味・高い人の特徴や築く10の方法を解説
1.レジリエンスとは
「レジリエンス(resilience)」とは、跳ね返り、弾力、回復力、復元力という意味を持つ言葉で、元々は、ストレス(stress)と共に、工学や物理学の世界で使われていました。
ゴムやバネは外部から外力が加わると歪み(ストレス)ます。そのときにどれくらいその力を吸収することができるか、また、どれくらい元の形に戻ろうとすることができるか、この一連の反応に関係するのが、物質や物体の持つ「レジリエンス」です。
近年では心理学の分野だけでなく、組織論や社会システム論、さらにはリスク対応能力、危機管理能力としても広く使用されています。
ビジネスシーンで「レジリエンス」が使われる場合には、組織のリスク対応能力(地震や災害等への対応力)についての場合もありますが、心理的レジリエンスについて使用されることが多いのではないでしょうか。
日本のビジネスの世界では成果主義を前提とした人事評価への移行や人員不足による多忙感などにより、心に何らかの歪みが生じる機会がどんどん増加しているといえます。
そのため、これらのストレス・歪みを跳ね返して回復できる力、「レジリエンス」が近年注目を集めているのだと考えられます。
2.ビジネスシーンでのレジリエンス
ビジネスシーンで用いるレジリエンスは、心理学の分野でのレジリエンスの概念です。
ナチス・ドイツによるユダヤ人の大虐殺行為「ホロコースト」で生まれた孤児への追跡調査がきっかけで注目を集めました。
元孤児の中には、過去のトラウマから立ち直れず、生きる気力を見出せなかった人たちがいる一方、トラウマを乗り越えた人たちもいることが判明しました。
この調査結果により、逆境を乗り越えた人たちは、困難な状況に圧し潰されることなく、「状況に準じて生き抜く回復力」を持っていることがわかり、レジリエンスという言葉が広く普及したとされています。
心理的レジリエンスには、研究者の間で様々な意見があり、一貫した定義はありませんが、
アメリカ心理学会の定義では、「逆境やトラウマ、惨事、脅威、さらには重大なストレス源に直面したときにうまく適応するプロセス」であり、総じて「困難な経験から『再起する』こと」とされています。
竹のように曲がってもすぐ戻る、しなやかさを持った心の状態である【回復力】、テニスボールのように何度凹んでも跳ね返すという打たれ強さである【緩衝力】、予期せぬ厳しい環境変化に抵抗するのではなく受け入れて合理的に対応する【適応力】などを指しています。
3.レジリエンスが高い人の行動特性
個人差はありますが、レジリエンスは誰もがもともと持っている心理的機能です。ものの考え方、感情や行動に対する認識や理解、感じ方や振る舞い方など、メンタルを回復させる能力を包括したものがレジリエンスです。
捉えどころのないレジリエンスを理解するためには、レジリエンスが高い人の行動特性(コンピテンシー)への理解を深める必要があります。 これらは、『レジリエンス・コアコンピテンシー』と呼ばれており、これを養うことでレジリエンスを高めることが出来るとされています。
アメリカ心理学会会長であったマーティン・E・P・セリグマン博士が発議・創設した「ポジティブ心理学」の研究の一つとして行われたレジリエンス向上のためのプログラムの研究「Master Resilience Training (MRT) 」では、以下の6つの要素がレジリエンス・コンピテンシーの主なものとして、挙げられています。
①自己認識
自己の思考、感情、行動、生理的反応に注意を払い自覚する能力
②セルフコントロール
自分の思考や感情を制御し、環境や状況に応じて適応させられる力
③現実的楽観性
ポジティブなことに気づき、期待し、自力でコントロールできるものにフォーカスし、目的を持った行動が起こせる能力
④精神的柔軟性
状況に応じてフレキシブルに考え、思考できる性質
⑤キャラクター・ストレングス
最高の強みを活用して自分の真の能力を最大限に発揮し、困難に打ち勝ち、自分の価値観に合った人生を創造する能力
⑥人とのつながり
信頼関係を構築し、維持していく力
4.レジリエンスを築く10の方法
レジリエンスは、先天的な性質もありますが、後天的に考え方や行動を変えることで育むことができるとされています。では、アメリカ心理学会(APA)が提唱する「レジリエンスを築く10の方法」をご紹介します。
①大切な人とのつながりを育む
自分のことを気にかけてくれ、自分の話に耳を傾けてくれる友人や家族など大切な人と良い関係を築こう。自分を気にかけてくれる人からサポートの申し出があったら、受け入れよう。
②必ず乗り越えられるものだと知る
起こった事実は変えられないが、それをどう解釈するか、それにどう反応するかは変えられる。
③変化は人生の一部だと受け入れる
自分の力では変えられないことはある。まずはそれを受け入れ、自分が「変えられること」に意識を向けてみよう。
④自身の大切な目標に向かって、少しずつでも歩み続ける
自分自身が行きたい方向へ向かうために、今自分ができることは何だろうかと現実的な目標を設定すること──少しでもいいので前に進んでいると感じられるようなことをしよう。
⑤自分で決めて、自分で行動を起こす
問題から目を背けたり、ストレスの元が過ぎ去るのをじっと願ったりするのではなく、苦手な状況にも断固として立ち向かってみよう。
⑥自己発見の機会を探す
苦しんだりもがいたりしたことで、得た何かがあるはず。自分の成長したポイントを探し、きちんと知ってあげよう。
⑦ポジティブな自己肯定感を育てる
直感を信じ、自分の問題解決力に自信を持とう。
⑧ものごとを大局的にみる
つらい状況でもその状況をもっと広い視野で、長い目でものごとを考えてみよう。
⑨楽観志向でいる
自分が恐れていることを心配ばかりするのではなく、自分の望む良いことを思い描く。
「こうなったらどうしよう」より「こうなったらいいな」を思い描こう。
⑩自分のことを大切にする
自分のニーズや感情をみつめよう。心の声に耳を傾けよう。楽しいこと、リラックスできることをしよう。
「レジリエンスを育てる10の方法」は
●レジリエンスを強化するためには、自分にとって大切なことややりたいことを知り、自分ができることを見定めて行動すること。
●今の困難は、苦しくとも自分自身を成長させ、必ず乗り越えることができると信じること。
●一人で頑張り過ぎず時には人に頼ることやリラックスして気分転換すること
の大切さを教えてくれています。
次に、楽観志向については、特に重要な考え方ですので、詳しく見ていきたいと思います。
5.レジリエンスに不可欠な楽観志向
楽観志向についてお話しする前に、アメリカの臨床心理学者であるアルバート・エリスの生み出した心理療法である「論理療法(あるいは論理情動行動療法)」の基礎となる「ABC理論」を説明します。
(1)ABC理論
私たちの感情や行動は出来事そのものから生じるのではなく、出来事に対する私たちの解釈の仕方によって生じています。
「ABC理論」は人の悩みを生み出す過程を整理した理論であると同時に、その解決にもつながる理論です。
●【A】は「出来事(Activating event)」、実際に起こった出来事、ですが、広義には他者の意見のような抽象的なものも指します。
●【B】は「信念(Belief)」、その人の世界観を作り上げる信念、その人の持つ認知の枠組みなどを指します。
●【C】は「結果(Consequence)」、出来事の認知によって、結果として生じる感情や思考、生理的な反応、それに伴う行動です。
【A】・【B】・【C】が どのようにつながっていくのかを具体的に見ていきましょう。
例えば、会社の上司に、自分の作った企画を強く批判された。
【B】考え方・信念、ものの見方(Belief)
上司から仕事の成果を否定された自分は、自分に能力が無く、
これからも、ずっと優れた結果を残すことが出来ないだろうと考える。
【C】感情、行動(Consequence)
自分の能力の過小評価によってやる気が低下し、出社拒否というような結果となる。
ABC理論は、【A】と【B】・【C】を区別して吟味することで、自分の非生産的な思考を変える手助けをしてくれます。
【A】状況、出来事(Activating event)
例えば、会社の上司に、自分の作った企画を強く批判された。
【B】考え方・信念、ものの見方(Belief)
自分には才能があり、あとは自分の意欲と努力の問題だと考える。
【C】感情、行動(Consequence)
今日中に新しい企画案をつくってみようというような結果となる。
お分かりいただけたと思いますが、出来事に対する考え方やものの見方である「Belief」を変えることで、感情や行動が大きく変化しています。
論理療法では、「信念(Belief)」には次の2種類があると考えます。
●ラッショナル・ビリーフ
…合理的な考え方、現実的な考え方、柔軟な考え方
●イラショナル・ブリーフ
…不合理な信念、非現実的、ねばならない、過剰な悲観
つまり、非合理的なイラショナル・ビリーフを、合理的な考えであるラショナルビリーフに変えることで悩みが解消されるとしています。
(2)楽観思考
それでは、次に楽観志向について見ていきます。
先述のセリグマン博士は、「楽観主義者は、悲観主義者よりも仕事・勉強ができ、良い成績・業績を上げ、成功する、苦しみに挑戦し乗り越えていくことができる、また、健康で長生きする(免疫機能の向上も判明)ことができ、楽しい幸福な生活を送ることができる」と述べ、悲観主義者も『説明スタイル』を変える指導を受けることにより楽観主義者に変わることができるとしています。
「説明スタイル」とは、過去に起きた出来事の原因や影響を説明するやり方、習慣的なスタイルのことを言い、楽観的な人と悲観的な人を分ける特徴的な目安となります。
説明スタイルを変えるために、「ABC理論」が役立ちます。では、どのように説明スタイルを変えるかということについて、見ていきましょう。
説明スタイルには大きく3つのスタイルがあり、以下のように楽観的説明スタイルを身につけることを勧めています。
①永続性:この事態の影響がいつまで続くのか
(悲観的)永続的 この原因は永久に続くものだ
(楽観的)一時的 この原因は変えることができる、または、その場だけのものだ
②普遍性:事態の発生が特定の理由によるか全般的理由か
(悲観的)普遍的 この原因は多くの状況に影響を与える(ex.先生は皆不公平だ)
(楽観的)特定的 この原因は二つか三つ程度の状況にだけ影響を与える(ex.〇〇先生は不公平だ)
③個人度:内向的説明をするか外向的説明をするか
(悲観的)内向的 自分のせいだ
(楽観的)外向的 他人や状況のせいだ
セリグマン博士は、楽観主義がレジリエンスの向上に有効であるとしていますが、「個人度」については、不幸な出来事を「外向的」(external)な原因によると見なすことは、責任を他のものに転嫁する危険性もあり、以下のような忠告をしています。
「楽観主義が良いことであることは間違いないが、楽観主義は万能薬ではない。しかし、楽観主義を身につければ、必要な時だけそれを使うことができる、やみくもな楽観主義ではなく、柔軟な楽観主義
(悲観主義の有益な部分も否定しない) の恩恵は限りないものだと信じている」
6.レジリエンスを高める名言
最後に、落ち込んだ時に思い出して頂きたいいくつかの名言をご紹介しておきます。
●マザー・テレサ(カトリック教会の修道女、ノーベル平和賞受賞 / 1910~1997)
神様は私たちに成功してほしいなんて思っていません。ただ、挑戦することを望んでいるだけよ。
●松下幸之助(日本の実業家、発明家、パナソニック創業者 / 1894~1989)
万策尽きたと思うな。自ら断崖絶壁の淵にたて。その時はじめて新たなる風は必ず吹く。
●スティーブ・ジョブズ(米国の実業家、アップル創業者 / 1955~2011)
過去ばかり振り向いていたのではダメだ。自分がこれまで何をして、これまでに誰だったのかを受け止めた上で、それを捨てればいい。
●トーマス・エジソン(米国の発明家、起業家 / 1847~1931)
私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ。
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