過程理論(期待理論、職務特性理論など)と活用方法-モチベーション理論とは?(第二回)
1.職務特性理論ー過程理論①
ハーバード大学の教授であるリチャード・ハックマン(組織心理学)とテュレーン大学の教授であるグレッグ・オールダム(組織行動・経済学)は、「仕事の特性」が人の「やる気」に関連すると考え、その研究内容を「職務特性モデル」(Job-Characteristics-Model)として理論化しました。
職務特性理論(職務特性モデル)とは「核心的(重要)な職務特性を有する職務に従事する人たちは、心理状態に良い変化が現れ、結果的にモチベーションが上がる。ただし、モチベーションが上がる程度には個人差がある。」という理論です。
簡単に言うと、人は刺激的で面白い仕事だと感じるとやる気が出て、活き活きと働くということです。
「職務特性モデル」でおなじみの概念図を見て、理論全体の流れをおさえておきましょう。
①核心的な職務特性とは
職務特性モデルでは、以下「5つの特性」が、モチベーションを高めるための核心的(重要)な特性と考えられました。
1)技能多様性(Skill Variety)
単調な仕事ではなく、自分が持つ多様なスキルや才能を活せる仕事である
2)タスク完結性(Task identity)
始めから終わり(完結)までの全体を理解した上で、関われる仕事である
3)タスク重要性(Task siginificance)
他者の生活や社会にインパクトをもたらす重要な仕事である
4)自律性(Autonomy)
自分で計画を立てたり、自分のやり方で進められる裁量度の高い仕事である
5)フィードバック(Feedback)
結果がどうなったのかという手応えを、その都度、知ることのできる仕事である
②重要な心理状態とは
核心的な職務特性が満たされた場合、次の三つの心理状態を生みます。そして、この三つの心理状態を達成することで、「モチベーションが高まる」という「成果」につながっていくわけです。
1)仕事の有意味感(Meaningfulness of the Work)
意味ある、価値ある仕事をしているという実感
2)仕事への責任感(Responsibility for Outcome of the
Work)
仕事の成果・結果に対して抱く責任感
3)結果に対する知識(Knowledge of Results of the Work
Activities )
自分のしている仕事の結果・成果がどの程度なのかを知ることができる
③調整要因(Moderators)とは
職務特性から成果であるモチベーションが発生する度合いは、「個人の要因」の違いによって差があります。例えば、「自己成長したい」という強い「成長欲求」を持っている人とそうでない人では、当然、「成果」は違ってきます。
2.期待理論ー過程理論②
過程理論の中でもっともよく引用されるのが期待理論です。
①ブルームの期待理論
経営学・心理学教授のビクター・ブルームは1964年、著書「仕事とモチベーション」の中で、人間の行動は、「どこまでやればよいかの限界値が明確で、どうすればよいかの戦略が必要充分であり、達成した目標の成果が魅力的であれば、その目標に向かって動機付けされる」と主張しています。
具体的には、以下の期待を連鎖的に成立させることで、動機付けを実現出来るとしています。
ⅰ)目標(Goal)を実現する事によって、魅力ある成果(Reward)を期待する
ⅱ)戦略(Efforts) によって、目標(Goal) の実現を期待する
つまり、「売り上げ目標を達成するとボーナスがもらえる。」⇒「毎日、10件の顧客に会えば、売り上げ目標を達成できる。」⇒「ボーナスは魅力的なので、頑張る」といったことです。
また、当然ともいえますが、この2段階の期待の連鎖を実現するためには、戦略・目標・成果に、次の3つの設定が必要となります。
ⅰ)魅力ある成果の設定(Reward)
ⅱ)成果を実現するのに必要充分な目標値の設定(Goal)
ⅲ)目標値を実現するのに必要充分な戦略展開(Efforts)
次に、モチベーションの高さがどのようになると考えられているかを見ていきます。
ブルームは、「期待」「用具性」「誘意性」の三つの要素に対する知覚・信念・態度といった心理的過程が、モチベーションを左右しているものと説明しています。
●期待
ある行為が特定の成果をもたらすであろうという見込。がんばればどれだけの成果を成し遂げられるかという見込
●用具性
特定の行為が二次的結果をもたらす主観的確率。成し遂げられた成果によって例えば、賞金などが得られる見込
●誘意性
特定の結果や成果に対する主観的な魅力の度合い。もたらされたものに、どれだけの値打ちがあると感じるか
数値化するための式は、わかりやすく表記すると、
「モチベーション=期待×用具性×誘意性」と表されます。
②ポーターとローラーの期待理論
ブルームの期待理論で問題視されたのは、得られる報酬に対する「誘意性」が必ずしも明確でない点です。ブルームの期待理論が提唱されてから4年後に、不明瞭だった部分をさらに掘り下げた、ポーターとローラーの期待理論が提唱されました。
1968年に産業組織心理学者であるレイマン・ポーター(Lyman W. Porter)とエドワード・ローラー三世(Edward E.
Lawler, Ⅲ)の著書である「Managerial Attitudes and Performance(管理職の態度と業績)」の中で発表された理論です。
ポーターとローラーの期待理論の概要を簡単に説明すると、頑張った結果得られた報酬にどれだけ満足したかが、以降の行動を起こすモチベーション(誘意性と期待)に影響するという理論です。
ポーターとローラーの期待理論の特徴としては、報酬とモチベーションの関係が「ループ」している点が挙げられます。
頑張った結果に対する報酬に満足した人は次の仕事に対するモチベーションが上がり、高いモチベーションで取り組んだ仕事は良い結果を生んで満足する報酬が得られるといったように、好循環を生むのです。
この期待理論のモデルは、以下のような一連の流れとなります。
ⅰ)期待(努力が報酬になる)と誘意性(報酬が持つ魅力)との度合いが、努力の大きさを決める。加えて、努力に対して能力・資質・役割・方向性が加わる度合いによって、得られる成果の大きさが決まる。
ⅱ)成果の大きさは、自己の達成感・成長感(内発的報酬)と、昇給・昇進・賞賛(外発的報酬)などの度合いに影響を与える。
ⅲ)報酬の大きさに対し、それが公正な報酬だと自己認識できているかどうかによって、満足度が影響される。
ⅳ)成果に対する報酬の度合いが期待に、満足度が誘意性に影響を与える。
3.公平(公正)理論—過程理論③
1965年に心理学者 のJ.ステーシー・アダムスによって提唱された理論です。
自分が「自分の仕事量や投入量(Input)と対価としての報酬(Outcome)」と、「他者の仕事量や投入量(Input)と対価としての報酬(Outcome)」を比較し不公平さを感じる場合、解消し公平となるような行動をとるように動機付けられとされています。
公平とは「自分の投入に対する報酬の比が、他者のそれと等しい場合」です。つまり、報酬の絶対額ではなく、他者との比較である点が特徴的です。
では、どのように比較が行われるかについて見ていきましょう。
尚、Inputは「努力、経験、学歴、能力、過去の成果、仕事や組織対する思い」Outputは「給与水準、賃上げ、表彰、自分の仕事に対する誇り、福利厚生」等が挙げられます。
ⅰ)自分のアウトプット÷自分のインプット<他人のアウトプット÷他人のインプット
⇒自分の投入量に対する出力の割合が、他者より低く、不公平な状態。
ⅱ)自分のアウトプット÷自分のインプット>他人のアウトプット÷他人のインプット
⇒自分の投入量に対する出力の割合が、他者より高く、不公平な状態。
この様に均衡状態でない場合、人間は公平(公正)感に関する認知的不協和(矛盾する認知を覚える不快感)を感じ、解消するためのモチベーションが生じます。
モチベーションの大きさは、認知される不協和の大きさにしたがって強化されます。又、均衡状態である場合は、モチベーションは維持されます。
そして、上記①の場合、人は不協和を解消し、公平性の認識が回復するため、以下の5パターンの行動をとるとされています。
ⅰ)あまり熱心に仕事をしなくなる。 ex)インプットを小さくする。
ⅱ)アウトプットを無理やり増やす。 ex)会社の物品の窃盗などによりアウトプットを大きくする。
ⅲ)自分および他人のインプットとアウトプットに関する認識を変える。 Ex)アウトプットとして現金給与だけでなく、自己の成長や、様々なベネフィッツ、雇用の保障なども認識する。
ⅳ)比較対象に対する認識を変える。 ex)比較対象を、同じ職場の人間ではなく、例えば同業他社の人間とする
ⅴ)比較そのものから退く。 Ex)仕事を(会社を)辞める
アダムスの公平理論は、他者との比較が、「主観に大きく左右される」ことや、②の場合のように過剰な報酬を受け取っている場合については、どのように不協和を解消しようと動機付けられるかについては、必ずしも一貫した結果は得られていないという批判があります。
組織公正理論
営業などのように数字で明確に業績を確認できる職種ならともかく、企画や経理、新規事業のプロジェクトなど、数字でアウトプットを明確に測れない職種も少なくありません。
そのため、公平な評価制度を作るのがそもそも困難となることから、近年では、組織公正理論が注目を集めています。公平理論によって、組織行動を説明するために使用する場合に、組織的公正理論と呼ばれると考えて下さい。
ジェラルド・グリーンバーグらが提唱した組織の公正さを考える上での基本的な理論である「組織的公正の原則」は、組織の公平(公正さ)は、「分配的公正」「手続的公正」「相互作用的公正」の3つの要素で構成されるとしています。
1)分配的公正
分配的公正とは、給与や(役職などの)役割の分配の公正さのことです。
分配的公正を高めるということは、例えば組織のメンバー全員に給与額を納得させるというようなことなので非常に難しく、そのため、重要な要素ではあるのですが、次の手続的公正を改善することが現実的な解決および改善への近道だといわれています。
2)手続的公正
手続き的公正とは、分配の手続きの公正さのことです。例えば給料決定のプロセスやシステムがこれにあたります。手続的公正に影響を与える特に重要な要素は「規定(アプリオリ)の意思決定基準」と「意見表明(ボイス)」の2つです。
●規定の意思決定基準
規定の意思決定基準で重要なのは、意思決定の基準とその運用が全当事者にとって公平かどうかということです。つまり、業績評価の基準が全当事者にとって公平で、倫理的な問題もなければ、人はたとえ基準に完全には賛同していなくてもそれを受け入れやすくなると考えられています。
●意見表明
意見表明で重要なのは、意思決定に各人が参加しているか、あるいは意見が取り上げられているかということです。つまり、仕事の評価をされる際に、基準に照らし合わせてただ機械的にされるのではなく、自分の意見も聞いてもらえた方が納得しやすくし、
自分の意見が考慮されていれば、最終的な決定がたとえ自分の見解と違っても、人はそれを受け入れやすくなると言われています。
3)相互作用的公正
相互作用的公正とは、人と人とのコミュニケーションの公正さのことで、特にリーダーが行うコミュニケーションが組織の公正さにとって重要だという考え方です。ポイントは以下の2点です。
ⅰ)リーダーが部下を公平に扱い、論理的な決定をする、誠実な人間だと思われていること
ⅱ)リーダーの決定の根拠あるいは論理を理解するために必要な情報を偏りなく与えられていること。
1990年代に、我が国では、評価の公平性が注目され、さまざまな企業で成果主義的評価制度が導入されました。
しかしながら、その効果については、かえって、混乱を招いた事例などが相次いで報告されました。
このことは、成果主義そのものが問題ではなく、その運用のあり方が分配的にも手続き的にも工夫が足りなかったことを示しています。
4.目標設定理論—過程理論④
目標設定理論とは、1968年にアメリカの心理学者ロックが「タスクの動機付けとインセンティブの理論に向けて」という論文で提唱した理論で、目標という要因に着目して、モチベーションに及ぼす効果を探ることを目指した理論のことを言います。
目標設定理論では、モチベーションの違いは目標設定の違いによってもたらされると考えられ、本人が納得している目標については、「曖昧な目標より、明確な目標のほうが、また難易度の低い目標より、難易度の高い目標のほうが、結果としての業績は高い」いうことが確認されています。
マネジメント手法としての目標設定の考え方は、既に1950年代にドラッカーによって目標管理(MBO-Management by Objective)という形で提唱されており、目標管理(MBO)の理論的背景として、目標設定理論が説明されることが多くなっています。
それでは、目標がどのような場合、モチベーションを強化することができるのかを見ていきましょう。
ロックは目標を「個人が達成しようと試みるものであり、行為(action)の対象あるいは目的」であるとしており、3つのポイントを挙げました。
● 具体的であること:Specific
● 期限があること:Time constrained
● 困難であること:Difficult
又、動機の強さ(モチベーション)に影響を与える要素には、目標の難易度、目標の具体性、目標の受容度、フィードバックの有無の4つがあり、これらの要素を統合的に考える必要があるとしています。
1)目標の難易度
「目標は難しければ、やりがいが生まれ、その結果としての成果も高くなる。」ということです。これには「困難な目標を個人が受け入れる」という限定条件がつきますが、難しい課題に直面することによって、誰もが目標をクリアする為に生産性を高めようとチャレンジすることになり、結果、困難であればあるほど個人のモチベーション水準を高めることになります。ただし、あまりにも難易度が高すぎて達成が困難だと諦めてしまう目標では、取り組む前から達成不可と認識されてしまい、動機づけにつなげることはできません。努力すれば達成できる可能性のある範囲で、できる限り高い目標設定をするのが適切な目標設定であると言えます。
2)明確な目標の効果
明確で具体性を持った目標は、曖昧な目標よりも高いモチベーション(動機づけ)効果を持ちます。
何の為の仕事なのか、その業務が何の意味を持っているか、を明確にした場合と、何も知らされずに業務を遂行させた場合とでは、明らかに意味を明確にした場合の方が人は高いモチベーションを持つことが出来ます。
目標達成度の測定が容易であり具体的であれば、達成に向けて必要な努力も具体的に想像しやすく、実行手段が見えてくることがその要因であると言えます。
3)目標の受容度
目標は、他者が一方的に押し付けるのではなく、本人が受け入れていることが重要で、本人が理解・納得する方が強い動機づけにつながり、高いモチベーションを生み出します。大切なのは本人がやりたいと思う気持ちであると言えます。
4)フィードバックの効果
目標設定にフィードバックが組み合わされた場合には、モチベーション効果はより高くなります。また、目標達成に向けての進捗度合いの遅いものに対して、特にパフォーマンス改善効果が高いといわれています。
フィードバックはその回数よりも、早い時期にフィードバックを与えられる方が、遅い時期にフィードバックを与えられる場合に比べて最終的な業績は向上します。
その上でロックは、効果的な目標設定に向け7つのステップを紹介し、明確な目標設定を行うことで高いモチベーション維持が可能になるとしています。
ⅰ)目的や課題を明確化する
ⅱ)業績や成果の計測方法を明確化する
ⅲ)達成すべき基準とターゲットを具体化する
ⅳ)目標達成までの時間と範囲を明確に定める
ⅴ)目標に優先順位をつける
ⅵ)目標達成の困難度と重要度を定める
ⅶ)目標達成に必要な調整を行う
5.まとめ
モチベーションについての第二回目は、過程理論の代表的なものについてお話してきました。過程理論は、「行動はどのように維持・持続されるのか」、つまり、WhyやHowから考察した理論です。
次回は、内発的動機づけ理論をご説明していきますので、続いてお読みいただければと思います。
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