モチベーションをアップさせるには何が必要か?(第一回) 内容理論と活用方法

企業内でも「従業員のモチベーションを高めていきたい」といった声がよく聞かれます。
仕事に対するモチベーションが高い場合、次のような状態になります。
●集中して仕事を行うことができる
●充実感を持って働ける
●簡単には諦めない
●どんどん新しいことにチャレンジできる
●職場の雰囲気が明るくなる
●チーム一丸となって仕事に取り組める
つまり、生産性が向上し、チームワークもよくなり、新しいアイデアなどが生まれやすい状態になるのです。

1.モチベーションとは

「モチベーション」とは、一般的に「動機づけ」と訳されます。「動機づけ」と訳される場合は、上司や教師が部下や生徒を「仕事や勉強に動機づける」というような文脈で用い、組織のメンバーに対する仕事や目標への意欲を喚起する働きであると理解されています。

 

特に仕事についてのモチベーションは、「ワーク・モチベーション」と言われ、「目標に向けて行動を方向づけ活性化し、そして維持する心理的プロセス」と定義されます。

 

モチベーション理論は、大きく次の二つに大別することができます。

 

●内容理論   何によってモチベーションが発生するのか

●過程理論  モチベーションがどのように形成され変化し、人が動かされていくのか 

 

それぞれの代表的な理論について、表にお示しします。

 

本記事では、三回にわたって、モチベーションに関する代表的な10個の理論と、ビジネスの場でどのように活用していくかについて、お話していきます。

第一回目は、内容理論について、見ていきたいと思います。


 

 2.理論と活用方法


(1)マズローの欲求階層(段階)説

アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが、1943年に「人間の動機づけに関する理論」という論文で発表した理論です。

 

マズローは、人が持つさまざまな欲求を、5段階の基本的欲求に階層化しました。そして、一つの欲求が満たされると、その欲求の強さが減り、一つ上の階層の欲求が強さを増し、それぞれの目標を果たすためにとる行動の範囲を、欲求が決定するとしています。

 

また、高次の欲求が満たされないからと言って,低次の欲求をより満たそうとはしない(不可逆的)としているところが特徴的です。 



 

「生理的欲求」から「他者からの承認と自尊心の欲求」までを欠乏動機といい、これらは自分以外のものによって満たされる欲求です。

 

しかし、「自己実現の欲求」は、他の4つの欲求と異なり、満たされるほどに一層関心を強化される成長動機といわれます。

 

モチベーション論で、最も紹介される学説である欲求階層説は、批判の多い学説でもあります。

 

例えば、階層性はそれほど厳密的ではなく例外があるという批判(食事に事欠く状態でも創作を続ける芸術家など)や、階層が5段階もあるのか、あるいはもっとあるのではないかといった等の批判です。

 

それでもなお、最も紹介されているのは、マズローまでの研究で、人間の欲求構造が分析され,いろいろな欲求が抽出されていましたが、マズローの理論では、ある個人がどの欲求レベルまで充足されているのかを理解できれば,その人を動機づけるのにどの欲求に働きかければよいのかが明らかになるためです。

 

 


(2)アルダファーのERGモデル

アメリカの心理学者であるクレイトン・アルダファーは、実証的な調査データに基づいてマズローの欲求階層説の修正を試み、ERGモデルを提唱しました。マズローとアルダファーの理論の相違点は大きくは2つあります。

 

一つは、欲求の階層の相違です。マズローは欲求を5つの階層に分類しているのに対して、アルダファーは、生存欲求(Existence)・関係欲求(Relatedness)・成長欲求(Growth)の3つに分類しており、それぞれの頭文字をとってERGモデルと称しています。

 

E:生存欲求(Existence

欲求階層説の「生理的欲求」と「安全の欲求」をまとめたもの

R:関係欲求(Relatedness

 他者との関係を構築し維持したいというもので、欲求階層説の「所属と愛の欲求」にあたる

G:成長欲求(Growth

文字通り成長し自分が望むことを成し遂げたいといと欲することで、欲求階層説の「他者からの承認と自尊心の欲求」と「自己実現の欲求」にあたる

 

もう一つは階層の移行性の相違です。マズローは、一つの欲求が満たされると、その欲求の強さが減り、一つ上の階層の欲求が強さを増すというように、高次の欲求への移行性だけを示しました。

 

一方、アルダファーは

 

ⅰ)欲求は必ずしも逐次的(順序を追って次々と)に活性化するものではなく、同時的に活性化することもある

ⅱ)上位階層の欲求の欠如は、下位階層の欲求の強度ないし重要度を増加させる


としています。

 

つまり、アルダファーは、高次の欲求が満たされない場合には、その欲求の充足に向かうだけではなく、より低次の欲求の充足に代替されうるとしています。

 

マズローが、充足された欲求は人格を支配する欲求とはなりえないと述べていますので、両者の考え方が大きく異なることが理解できます。

 

ERGモデルは、実証的なデータによって支持はされましたが、生存欲求・関係欲求ともに満たされない場合は、人々はどの欲求を最初に充足しようとするのかを説明し得なくなるという矛盾も指摘されており、モチベーションの現実的な説明可能性が減じられるという結果も招きました。

   

 

(3)マクレガーのX理論・Y理論

アメリカの心理学者・経営学者であるダグラス・マクレガーは、さまざま立場で管理に携わっている人にモチベーションについてのヒアリング調査を行い、対照的な二つの考え方(人間観)を発見しました。

 

1960年に著書「企業の人間的側面」で、管理者の従業員に対する伝統的見解を「X理論」とし、マズローの説を利用して、モチベーションに対する不適切なアプローチであることを示すとともに、人間主義的見解として「Y理論」を提示しました。

 

 

X理論・Y理論は、一見するとY理論が正しい理論であるかのように感じますが、そうとは言い切れません。

 

例えば、コンプライアンスの意識を高めるために全社員対象の研修を行い、未受講者には人事的なペナルティを課すといった手法は、X理論アプローチに基づいた施策です。

 

ただし、管理者の持つ人間観は、管理方針に反映され、その管理方針は、部下の行動に変化をもたらし、将来的に、上司の持つ人間観を反映した部下が出来上がるということを注意しなくてはなりません。

 

つまり、「アメとムチ」に基づく管理方法を常に行う場合、部下はそれがなければ動かなくなってしまう可能性があるということです。

 

ですから、特別な場合を除き、現在では社員のエンゲージメントの向上を目的とする制度や施策を実行する際に適しているY理論に基づく、モチベーション強化策が必要なのです。

 

例えば、組織目標を策定する際に、社員の意見をヒアリングするといった手法は、Y理論に基づくアプローチです。目標設定に参画することで、貢献したい、承認されたいという社員の意識は生まれていきます。

 

 

(4)ハーズバーグの二要因理論

アメリカの臨床心理学者である、フレデリック・ハーズバーグが1959年の著作「作業動機の心理学」で提唱した職務満足および職務不満足を引き起こす要因に関する理論です。

 

ハーズバーグが、約200人のエンジニアと経理担当事務員に対して、「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という質問を行ったところ、回答者が仕事で満足だったと答えた要因は、不満をもたらした要因の逆ではなく、まったく別のものだということがわかりました。

 

このことから、彼は仕事には「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)という2つの要因があり、それぞれが独立して存在するという結論に達しました。

 

①動機付け要因

職務に対する積極的な態度を引き出す要因です。例えば、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」などです。

 

これらが満たされると満足感を覚えますが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではないとされています。

 

動機付け要因は、マズローの欲求段階説でいうと「自己実現の欲求」「他者からの承認と自尊心の欲求」「所属と愛の欲求」の一部に該当する欲求を満たすものです。

 

②衛生要因

積極的な職務態度を引き出す要因とはなりませんが、改善すれば、構成員の不満を解消することのできる要因です。

 

「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」などで、これらが不足すると職務不満足を引き起こします。

 

衛生要因は、マズローの欲求段階説でいうと、「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」の一部の欲求を満たすものとなっています。

 

元々は、後者が人間の環境に関するものであり、仕事の不満を予防する働きを持つ要因であるのに対して、前者はより高い業績へと人々を動機づける要因として作用しています。

 

ハーズバーグの主張は、二つの要因から人の満足・不満足を分析することから、二要因理論と呼ばれています。

 

 

 

モチベーションを高める効果は大きくありませんが、不満を解消するための衛生要因の具体的な応用としては、「フレックスタイム制」や、社員が何種類かの福利厚生施策を自由に組み合わせる「カフェテリア・プラン」などが挙げられます。

 

(5)マクレランドの三欲求理論

アメリカの心理学者である、デイビッド・マクレランドが、1976年に発表した欲求理論で、作業場における従業員には、達成動機(欲求)、権力動機(欲求)、親和動機(欲求)の3つの主要な動機ないし欲求が存在するとされています。

 

ⅰ)達成動機(欲求)(nAch : need for achievement

ある一定の標準に対して、達成し成功しようとする欲求

ⅱ)権力動機(欲求)(nPow : need for power

他者にインパクトを与え、影響力を行使して、コントロールしたいという欲求

ⅲ)親和動機(欲求)(nAff : need for affiliation

友好的かつ密接な対人関係を結びたいという欲求 

 

それでは、一つずつ見ていきましょう。

 

①達成動機(欲求)

達成動機(欲求)とは、成功の報酬より自身がそれを成し遂げたい、前回よりもうまく、効率的にやりたいという動機(欲求)です。

 

高い達成動機(欲求)をもつ人は、

 

●個人的な進歩に最大の関心があるため努力を惜しまず、何事も自分の手でやることを望む。

●適度なリスクをとるが、あまりに失敗するリスクが高い状況では、動機付けされず、成功の確率が50%程度の時に最も強く動機付けされる。

●自分が行ったことの結果について迅速なフィードバックを欲しがる。

といった特徴があるとされています。

 

マクレランドは、その後、学歴や知能レベルが同等の外交官に業績の差が出るのはなぜかを研究し、達成動機(欲求)の高い人はより良い成績を上げたいという願望の点で、他の動機(欲求)を持つものと差があることを発見しました。これは後にコンピテンシー理論として発展していきます。

 

②権力動機(欲求)

権力動機(欲求)は、他者にインパクトを与え、影響力を行使して、コントロールしたい、という動機(欲求)です。

 

権力動機(欲求)が強い人は 

●責任を与えられることを楽しむ

●他者から働きかけられるよりも、他者をコントロール下に置き、影響力を行使しようとする

●競争が激しく、地位や身分を重視する状況を好む

●効率的な成果よりも信望を得たり、他者に影響力を行使することにこだわる

といった特徴があるとされています。

 

③親和動機(欲求)

他者の注意,承認,支持を得たいという欲求。また自分に好意的な人に対しては,一緒にいたい,友好的な関係を維持したいという欲求です。

 

強い親和動機(欲求)をもつ人は 

●他者からよく見てもらいたい、好かれたいという願望が強く

●心理的な緊張状況には一人では耐えられなくなる傾向がある

●人の役に立とうとする

といった特徴があるとされています。

 

なお、その後、マクレランドは4番目の動機(欲求)として、失敗や困難な状況を回避しようという回避動機(欲求)という概念も追加しています。

 

マクレランドによれば、人は達成動機、権力動機、親和動機のすべてを持っていますが、その中の1つが優勢に現れるとしています。

 

また、これら3つの動機には、階層的関係やある動機から別の動機への移行性は考えられておらず、それぞれが独立のものであり、どの動機が優勢に現れるかは、本人のパーソナリティやそれまでの経験に依存するというのが、マクレランドの主張です。

  

マクレランドは、達成動機と経済成長に関する実証研究や達成動機を強化するための管理者訓練プログラムの開発も行ったことで、実証的な欲求系モチベーション研究の創始者として評価されています。 

 

 

 

 

 3.まとめ

モチベーションについての第一回目は、内容理論の代表的なものについてお話ししてきました。内容理論は、「何が行動を活性化するのか」、「何が行動を方向づけるのか」、つまり、Whatに当たる部分から考察した理論です。

 

整理のために、ご紹介した内容理論の位置づけをお示ししておきます。



次回は、過程理論について、ご説明をしていきますので、続いてお読みいただければと思います。

 

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