内発的動機づけの理論と活用方法ーモチベーション理論とは?(第三回) 

今回が、モチベーション理論についての第三回目です。第一回目で内容理論、第二回目で過程理論について見てきました。 最終回である今回は、内発的動機づけについて見ていきたいと思います。この理論は、目に見える報酬が与えられない仕事に関しても、人は積極的に取り組むことがあり、このようなモチベーションについて説明しています。


 

1.内発的動機づけとは

内発的動機づけは、心理学で1940~60年代に隆盛していた行動主義アプローチに反論するかたちで提示された動機づけ概念の一つであり、米国の心理学者である、エドワード・L・デシが代表的な提唱者です。

 

(1)行動主義的アプローチとは

行動主義アプローチの代表例は、アメリカ合衆国の心理学者で行動分析学の創始者といわれるバラス・フレデリック・スキナーのオペラント条件づけ(operant conditioning)です。

 

オペラント条件づけとは、行動に対する罰と報酬の学習理論です。例えばネズミに、LED点灯時にボタンを押すと餌を与え、LED消灯時にボタンを押すと電気ショックを与える。そうすると、LEDが点灯した場合のみボタンを押すようになります。この実験から行動は報酬(エサやお金)によって動機づけられる(学習される)と説明されました。

 

(2)内発的動機づけとは

これに対してデシは、「人はエサやお金といった外部報酬(外発的動機づけ)がなくとも、内なる心理的欲求に駆られて自由選択的に行動するものだ、課題それ自体に喜びや満足をもって取り組むものだ」と反論しました。

 

そして、デシは、このような課題遂行にともなう自由選択や、課題に取り組むことそれ自体が喜びや満足と繋がって行動に動機づけられることを、「内発的動機づけ(intrinsic motivation)」と呼びました。

 

それでは、デシを中心とした研究業績から内発的動機付けについて見ていきましょう。

2.内発的動機づけに影響する二つの効果

①アンダーマイニング効果


自ら好んで取り組んでいる行動に外部からの報酬が与えられることによって、自発的なやる気が失われる現象をアンダーマイニング効果と呼んでいます。「外発的報酬は、内発的な動機付けを低下させる」ともいいます。

 

1960年頃まで、おおかたの心理学者は金銭や品物などの物質的な報酬には、人間の内発的動機づけを高める効果があると考えていました。ところが、デシは、大学生に対するパズルと金銭的報酬の実験により、物資的な報酬を代表とする外的な報酬(外から与えられる報酬)が人間の内発的動機づけを低下させることを確かめました。

 

少し分かりにくいと思いますが、アンダーマイニング効果の具体例としては「業務を効率化しようと自発的に取り組んでいたら、ある日効率化したら特別手当が出ると言われ、手当てがもらえた。

 

その後、特別手当の制度がなくなり、最初は経験を活かして効率化をしてみようと思っていたのに、手当てにつながらないなら、自発的には行わなくなった」といったケースが挙げられます。


②エンハンシング効果

しかし外発的報酬がすべてアンダーマイニング効果を示すわけではありません。言語報酬などの外発的報酬が逆に内発的動機づけを高める場合のあることも同時に指摘されるようになり,この現象はエンハンシング効果と呼ばれました。

 

デシは、先ほどの実験での金銭的報酬を言語報酬(「大変よろしい。誰よりも速くできました。それはまだ誰もできていません 」)に変えることで、言語報酬が内発的動機づけを高める,つまりエンハンシング効果があることを明らかにしました。

 

アンダーマイニング効果は、内発的動機づけが高まっている場合に現れる効果であり、もともと内発的動機づけが低い場合には、外発的動機づけがモチベーションをあげる効果があると説明しています。

 

つまり、まずは他人に褒められたい・評価されたいというモチベーションだったとしても続けるうちに、その行為自体にやりがいや楽しみを見出してモチベーションが高められることを示しました。

 

3.内発的動機づけを発展させた自己決定理論

「自己決定理論(self-determination theory)」は、アメリカの心理学者であるエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱し,その後、多くの研究者によって検討されてきた内発的動機づけの概念を発展させた理論です。

 

この理論のベースは、人間は「自律性の欲求」「有能性の欲求」「関係性の欲求」の三つの基本的心理欲求を持っており,それらを充足することによって健康で幸福に生きられる,という欲求論的立場に立っています。

 

今日、自己決定理論を説明する「認知的評価理論」「有機的統合理論」「因果志向性理論」「基本的心理欲求理論」「目標内容理論」といった五つの下位理論が示されています。

 


 

1)認知的評価理論

アンダーマイニング効果やエンハンシング効果でご説明した効果です。

そもそも、自己決定理論は、課題遂行にともなう自由選択や課題遂行それ自体に喜びや満足を見出すといった内なる欲求(内発的動機づけ)が、人の行動を高い質で動機づけることを説明する理論です。認知的評価理論(cognitive evaluation theory)は、課題に関連した外発的要因(たとえば、報酬が与えられる、〆切が設けられる等)を個人がどのように判断するかによって、内発的動機付けに、異なる影響を与えることを説明する理論です。外発的要因によって、個人が自立性や有能感の高まりを感じた場合、動機づけは高まります。 

 

2)有機的統合理論

有機的統合理論は、時に内発的動機づけを低下させることにもなる外発的動機づけであっても、その行動に対する個人の価値の認め方によっては、自己決定性(自律性)が高くなり、内発的動機づけに近い効果を及ぼすことを示しています。現実社会では、興味が持てない仕事にも取り組まなければならない時があります。この理論は、そんな時、前向きにモチベーションを上げる方法を教えてくれています。

 

「無動機づけ」(動機づけられないこと)の段階から、「内発的動機づけ」に至るプロセスを見ていきましょう


表の左側は自己決定度が低く、右側にいくほど自己決定度が高くなります。

 

ⅰ)外的調整

完全に外的な報酬や罰によって何かを行う段階で、もっとも自己決定性(自律性)が低い外発的動機づけです。例えば、金銭をもらえるから、あるいは叱られるから何かをするというのがこれに当たります。

 

ⅱ)取り入れ調整

報酬や罰ではなく、自尊心を維持させるために、あるいは人前で自尊心が傷つくことを恐れて、外部からの期待や要請等を取り入れて義務感に従う外発的動機づけです。例えば、「悪い学生と思われたくないから、遅刻しない」などがこれに当たります。

 

ⅲ)同一化的調整

外部からの期待や要請等に価値を認め(“有用だ!”など)、積極的に当然のことと認識して行動する動機づけです。例えば、「受験に受かるためには、予備校に通った方がいい」と自分の判断で行く場合などがこれに当たります。

 

ⅳ)統合的調整

その行動の価値を認め、さらに、その行動が自己の他の側面とも統合することです。「予備校に通う」であっても、「受験に受かるため」という直接の目的だけではなく、例えば「私は将来、科学者になりたい」という人生の目標があり、その目標(=自己の他の側面)と「予備校に通う」が関係していると考えている場合です。


内発的動機付けと近い様相を示すとはいえ、「予備校に通う」こと自体に、喜びを見出しているわけではありませんので、理論的には別種の動機づけとして理解する必要があります。

 

3)因果志向性理論(causality orientations theory

この理論は、動機付けを行為主体の個人差を表すパーソナリティーと自己決定性(自律性)の程度とを関連づけて説明しています。たとえば、自律的志向性の高い者は、自らの関心や価値に基づいて行動する傾向がある。統制的志向性の高い者は、報酬を受け取ること、罰を避けることに意識を向けて、外部からの統制に従って行動を調整する傾向がある。


非自己的志向性の高い者は、そもそも無気力であるために行動それ自体に動機づけられることはなく、結果に対して自分は何も影響及ぼすことができないと考える傾向があります。個人のパーソナリティーは、この3つの志向性のバランスによって特徴づけられます。

 

4)基本的心理欲求理論(basic psychological needs theory

この理論は、内発的動機付けには、「自律性(autonomy)」「有能感(competence)」「関係性(relatedness)」の次の3つの心理的欲求を満たす必要があるという理論です。

 

ⅰ)自律性  自己の行動を自分自身で決めることに対する心理的欲求

ⅱ)有能感  自分の能力とその証明に対する心理的欲求。

ⅲ)関係性  個人的な行動を、他者や集団と関係づけて、他者のためにしたいなどと思う心理的欲求

 

特に自律性の欲求は、内発的動機づけに特に重要な欲求です。

 

5)目標内容理論

人生の目標を「内発的な人生目標(例えば, 人と仲良くなることや社会に貢献することが人生の目標)」と「外発的な人生目標(例えば,金持ちになることや有名になることが人生の目標)」に分け,前者が主である場合に基本的心理欲求が充足され,健康や幸せがもたらされるという理論で、基本的心理欲求理論から派生した理論と言えます。

  

 

4.まとめ

本コラムを、自分のモチベーションを上げるために、お読みいただいた皆さんは、これまでにご説明した理論の中で、自分に一番近いものを見つけていただき、そこに、他の理論も用いて、自分なりのモチベーション理論を作り上げてください。

 

自分自身が、活き活きと活動している際には、必ず何かの要因があるはずです。何かしら仕事に集中できない時も同様です。そのことを自分自身が知ることで、自分自身を制御することが可能になります。

 

また、チームのモチベーションを上げたいと思われて、本コラムをお読みの皆さんは、メンバーが積極的にチームに貢献する行動をとる場合、心の中でどのような意思決定が行われ、どのように貢献意欲が高まるかを理解していただき、実務に応用していただければと思います。


 

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