KPIマネジメントとは?意味や具体的な進め方、BSCマネジメントとの違いなどを解説
1.KPIとは
KPIとは、「Key
Performance Indicator(重要業績評価指標)」の頭文字をとった略語で、目標を達成するまでのプロセスにおいて設定される中間的な指標です。
KPIは、R・S・キャプラン氏(ハーバード大学教授)と、D・P・ノートン氏(コンサルティング会社社長)が1992年、「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載した論文の中で、業績評価手法として「バランススコアカード」(BSCと略されることが多く「バランスト・スコアカード」とも言う)を紹介し、その重要なツールとして世の中に初めて登場します。
「KPI」を正しく理解し、活用するために、「バランススコアカード」について、まず、押さえておきましょう。
2.KPIを広めた「バランススコアカード」とは
「バランススコアカード」は、企業業績を定量的な財務業績のみでなく四つの視点(財務・顧客・業務プロセス・学習と成長)で業績評価し、それらをバランスよくマネジメントしようとする経営管理手法です。
例えば、単年度の財務の結果だけを考えるなら、費用となる協力会社からの仕入れ価格を、無理をしてでも引き下げることや、教育費用を大幅に削ったり、IT投資を凍結することで利益を底上げすることが可能かもしれません。
しかし、それでは、将来の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。「バランススコアカード」を使えば、企業戦略やビジョンと企業行動の因果関係を明らかにしつつ連携させ、業績評価や進捗把握を、単に財務面からだけで無く、企業を取り巻くステークホルダーの観点や、業績を支える業務プロセスや従業員教育等の評価も一覧で俯瞰することができ、バランスの良い経営が行えるようになります。
では、「バランススコアカード」の例を見ていただきましょう。
図1 バラアンススコアカード(抜粋)
まず、語句について見ていきます。
戦略目標
戦略の内容を具体的に説明する「道標・戦略が達成すべき項目」です。財務については、戦略の中の「利益の極大化」を「売上増大」と「原価の低減」として具体化しています。
重要成功要因
戦略を成功させるための「重要なプロセス・要因」です。「売上増大」を達成するため、この企業では、新規顧客売上の増大が最重要課題と認識しています。「CSF」(Critical Success Factor)または、「KSF」(Key Success Factor)と表現されます。
業績評価指標
戦略が如何に上手く達成されているかを測定し追跡する指標です。この企業では、「売上増大」の目標を新規顧客売上高〇〇億円と定めて「KGI」結果指標とし、その売上を達成するため必要な販売サイトの閲覧数(ページビュー数=PV数)を「KPI」先行指標としています。
●「KGI」 結果指標(Key Goal Indicator)ex.新規顧客売上高 ○○億円
●「KPI」 先行指標(Key Performance Indicator)ex.PV数の増加 ○○PV
BSCの3つの効果
一見すると、何の変哲もない「表」ですが、「バランススコアカード」を作成することで、以下の3つの効果が期待できます。
ⅰ)企業のビジョンや戦略を財務、顧客、業務プロセス、学習と成長、これら4つの視点に立ってバランスさせると共に、ビジョンや戦略そのものに明確な輪郭を与える。
ⅱ)企業のビジョンや戦略の実現までの道筋を明らかにし、実現可能な目標に翻訳することで、経営者だけでなくその企業に属するすべての従業員が、進むべき方向性を一致させて進捗を確認しながら、実行出来るようになる。
又、実現までの道筋の策定(戦略目標⇒重要成功要因⇒業績評価指標)を因果関係に注目しながら、ブレイクダウンすることで、勘や経験に頼る経営からの脱却を図れる。
ⅲ)社員一人一人に自分がどのような活動を行えば企業のビジョンの実現に繋がるのかが論理的にわかりやすくなり、かつアクションプランで、具体的に行動目標が示されることから、従業員のモチベーションアップや、業務プロセスの見直しに効果があることです。
3.KPIが注目される理由とは?
前述の通り、KPIは「バランススコアカード」のツールであり、業績評価指標としての位置付けでしたが、以下の理由から、今やビジネスの世界では、「バランススコアカード」を越える認知度となっています。
ⅰ)企業経営を取り巻く環境の変化が激しく、企業としては、スピーディーかつ的確に対応していく必要性が高まってきたことから、結果を見てから対応するのではなく、先行指標であるKPIに注目する企業が増えたこと。
ⅱ)前述のような経営環境でも成長している企業(例えば、キーエンス・日本電産・リクルートなど)が、KPIを活用しており、その「成功メソッドを取り入れて自社も事業拡大しよう」という企業も増えました。
最近では、「バランススコアカード」は作成せず、KPIが独立して利用されているマネジメント手法であるKPIマネジメントが、非常に注目されています。
それでは、KPIマネジメントについて、見ていきましょう。
4.KPIマネジメントとは
KPIマネジメントとは、その名の通りKPIを活用したマネジメントです。
(1)KPIマネジメントの特徴
特徴は、大きく2つあります。
ⅰ)「結果(KGI)」ではなく「結果を出すための指標・プロセス(KPI)」をマネジメントする。
ⅱ)KPIが未達の場合は、PDCAを回しながら改善を行なっていく。
つまり、「最終的な業績や成果を達成するための先行指標=KPI」をマネジメントすることで、進捗状況をいち早く把握し、問題解決の手を打っていくことで、先行管理が可能となり、安定した目標達成が可能となるマネジメントです。
(2)KPIの設定方法
以下に、自部門や自チームのKPIを策定することを想定して、KPI設定の方法について順に説明していきます。
①事前準備 戦略を踏まえた、KGIとKPIの設定件数イメージの決定
KGIやKPIの「K」は、Key=重要を意味しますから、多く設定すれば良いというものではありません。KGIについては、キャプラン/ノートンは企業全体でも24程度が適当であると述べています。
部門やチームでは、組織の規模にもよりますが、1~2に絞り込むべきだと考えてください。KPIについては、KGI一つに対して一つのKPIが原則です。ただし、一つでは不十分である場合は、代替指標も設定することもありますが、できるだけ少なくすることをお薦めします。
KPIマネジメントが上手くいかない理由には、KGIやKPIの設定件数が多すぎて、過大な測定負担が発生したり、有効なPDCAの運営が阻害されることが多いのです。まず、しっかりと議論して、重要な項目に絞り込むコンセンサスの醸成を行ってください。
②STEP1 KGIの設定
KGIは、最終的に期末に到達したい最も重要な目標数値です。年度の戦略が、中期計画や今年度計画として示されている場合が多いと思いますが、KGIは定量的に設定しますので万一、不明瞭な場合は関係者間でしっかりと確認する必要があります。人事評価と直接連動させる場合は、納得感のない設定はNGですが、人事評価に連動されていない場合は、大きな目標にチャレンジすることを検討しても良いかもしれません。
③STEP2 プランニングギャップの確認とギャップを埋める仮説の設定
KPIマネジメントの肝となる段階です。プランニングギャップを埋めるためには、新たな挑戦やデータに裏打ちされた施策=仮説である「重要成功要因」=「CSF」が必要になってきます。売上を20%増加させるためには、営業人員を20%増加させるということは、平均の一人当たり売上実績というデータから導き出された施策として、十分に説得力があります。
しかし、さらに分析を進めれば、経験3年以内の若手の生産性を向上できれば達成出来る場合や今まで行っていなかった、Web広告を行うことで販路の拡大が行える場合もあります。仮説の設定は、さまざまな考え方がありますが、今回は事前の調査で既存顧客には、あまり成長を期待出来ないことが判明していることから、プランニングギャップを新規顧客の売上増で埋めることが出来るという仮説を立てます。
④STEP3 KPIの設定
新規顧客の獲得が、Webからの集客がメインである場合、新規顧客売上高は、
新規顧客売上高=PV数×CVR×単価
に分解して考えることができます。
⑤STEP4 KPIの目標数値設定
KPIの目標数値が100%達成した場合は、KGIも100%達成されなければなりません。したがって、以下のような目標数値を設定することとなります。
売上増加目標 100百万円
新規顧客売上増加目標 80百万円 (既存売上増加は大きく期待出来ないが今年度20百万円の増加は予想できる)
80百万円 =PV数増加必要量(KPI)×20%(CVR)×10万円(CVR)
∴ KPI=4,000PVの増加となります
⑥STEP5 アクションプランの設定
STEP4までで、KPIの設定は完了ですが、KPIマネジメントの成功の可否は、ここからのアクションプランの策定と、PDCAの実施に掛かっています。
先の事例では、PV数を4,000PV増加させることで、今期の売上増加目標が達成出来るはずです。では、PV数を増加させるアクションプランを考えてみましょう。
PV数を増加させる方策としては、
ⅰ)SEO対策の実施(サイトの構造を改善し、検索時の表示ランキングを上げる)
ⅱ)SNSマーケティングの実施
ⅲ)広告の出稿
ⅳ)サイトの回遊性を改善
ⅴ)被リンクを増やす
ⅵ)ページ数を増やす が考えられます。
アクションプランの決定については、何が最も効果があるかを検討し実施すべきなのは当然です。
同時にいくつかのアクションを並行実施する場合、それぞれのアクションが、KPIに及ぼす影響を測定する必要もありますから、組み合わせについても配慮する必要があります。
上記の例では、ⅰ)SEO対策の実施とⅳ)サイトの回遊性の改善を同時に行う場合は、効果の測定が難しくなりますので注意が必要です。アクションプランが決まりましたら、部門やチームで議論を行い、以下の決定を行ってください。
ⅰ)いつまでに
ⅱ)誰が
ⅲ)何を行うか
ⅳ)結果・効果の測定時期
⑦STEP6 PDCAサイクルを回す
PDCAサイクル
KSFやKPIは、仮説であると同時に、プランニングギャップを解消するチャレンジです。ここまでのSTEPで、P:計画 とDO:実行 までは出来上がっています。次のC:評価 については、KPIの項目数を絞り、測定可能な数値に設定したことにより、効果的に実施出来るはずです。又、STEP5で評価の測定時期も決定しますから、C:評価のプロセスがあやふやになることも防いでいます。
A:改善の段階では、C:評価での検証結果を受け、
ⅰ)引き続き計画通りに進める
ⅱ)計画を続ける中で、いくつかの視点を改善する
ⅲ)計画を中止、別の解決策を実行する
など、選択肢を多く持つようにし、その中からこの先の課題を検討、決定していきましょう。
5.KPIマネジメントとBSCマネジメントと用語の違い
KPIとKGIをよく混同される原因は、「BSCマネジメント」と「KPIマネジメント」で、言葉の定義や使用方法が異なっているからだと思います。その違いについて整理をしていきたいと思います。
図2 「BSCマネジメント」と「KPIマネジメント」の用語の比較
この表から、BSCマネジメントとKPIマネジメントでは、「KGI」の内容が異なることがお分かりいただけると思います。
「KPIマネジメント」では、
「KGI」はゴール(目標)で「KPI」はその先行指標(中間指標)
「BSCマネジメント」では、
「KGI」「KPI」共に、中間指標で、「KPI」は「KGI」の先行指標
なのです。
6.まとめ
KPIを設定しているが、上手く活用出来ていないという企業には、KPIの意味がしっかりと理解されておらず、測定しやすい指標をKPIに設定するなんちゃってKPIが良く見受けられます。
KPIマネジメントは「目標達成のために、ロジカルにデータや数字を活用して経営していこう」と言う目標管理手法ですから、この様なKPIを設定しないよう留意してください。
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