目標管理制度とは? MBO(目標による管理)の本質や正しい運用方法を解説

ドラッカーの名著「現代の経営」において、MBO(目標による管理)という概念が登場しました。MBOは、正式名称を「Management by objectives and self-control」と言い、直訳すると「目標と自己統制による管理」となりますが、少し長いですので、本記事では「目標による管理」とします。日本では「目標管理」「目標管理制度」と表されることが多く、成果主義人事制度(その人の実力や仕事の成果・成績、そこに至るまでの過程を評価し、昇進や昇給を決めていくシステム)の理論的背景となりました。本稿ではMBOの概念を改めて整理すると共に、企業経営に有益な「目標管理制度」の在り方を検討してみます。

1.日本の多くの企業に採用されている「目標管理制度」

本来ドラッカーの提言したMBO(目標による管理)は、個々の社員に自分で目標を設定させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理するという自己統制に重きを置いた考え方です。

 

本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて結果として大きな成果が得られるという人間観/組織観に基づいていると考えられます。

 

MBO(目標による管理)は1960年代に、日本に導入されましたが、大部分の企業は上司が指示する目標を本人の目標として押し付けるノルマ的管理として使用し、一部の企業が人材育成・モチベーション向上を目的として利用するに止まりました。

 

日本の企業で本格的に導入されるようになったのは、バブルが崩壊した1990年代からで、その背景には、「個を活かす経営」や「成果主義制度」などと言われる人事管理の変化が大きく影響していると言えるでしょう。 

 

(1)ドラッカーの目標による管理

ドラッカーは、目標による管理について次のように述べています。

①組織の統制手段としての目標

「事業が成果を上げるには、一つひとつの仕事を事業全体の目標に向けなければならない。」「期待すべき成果は事業の目標に基づいて決められる。」

 

②自己統制手段としての目標

「目標管理の最大の利点は、支配によるマネジメントを自己管理によるマネジメントに代えることにある。」「自らの仕事ぶりを測定されるための情報を、早く得ることが必要である。」「情報は自己管理の道具であって、上からの管理の道具にしてはならない。」「人は自らの仕事について情報を持つとき、初めてその成果について全責任を負うことができる。」

 

③コミュニケーションにより目標の納得感を醸成する

「年に二回『マネジメント・レター』なるものを書かせている組織がある。」「上司が目標とすべきものと、自らが目標とすべきものを書く。期待されていると思う水準を書く。」

 

目標を達成するためになすべきことと障害になっていることを書く。組織と上司が行っていることのうち、助けになっていることと妨げになっていることを書く。

 

自らの目標を達成するために、次の一年間に行うべきことを提案する。この手紙が上司に受け入れられたとき、それは憲章となる。」

 

以上のように、ドラッカーにとって、目標による管理は、一人ひとりが立てる目標が会社全体の目標にリンクしていることを前提とした、「Management by objectives and self-control」のself-controlを重視したものであると言えます。

 

また、管理者の役割は、目標の適正度を確認するとともに、障害を取り除くなどのサポートを行うことを示しています。


(2)日本の目標管理制度

バブル崩壊以前、多くの日本企業では、「個人の成果」によってではなく、「個人に期待される職務遂行能力」によって処遇を定める「職能資格制度」が用いられていました。

 

職能資格制度とは、従業員が有する職務遂行能力を基準に区分・序列化する日本独自の

等級制度です。職務遂行能力は、企業が社員に期待する能力であり、勤続年数が長くなれば、それだけ職務を遂行する能力が高くなると考えられます。

 

従業員にとっては、安心感を持って勤務しやすい制度といえ、また、会社にとってもゼネラリストの育成に役立ち人事異動を考えやすくなるというメリットがあります。

 

その反面、「高い成果を出した若手社員」よりも「勤続年数の長い社員」が優遇され不公平感が増すことや事業継続に伴って人件費が高くなりがちなことが職能資格制度のデメリットです。

 

さらに、バブル崩壊によって、総人件費を抑えつつ、貢献度の高い社員に高い賃金を支払うという成果主義的な仕組みが必要になり、いわゆる「成果主義人事制度」が導入されると共に、成果の評価手法としての「目標管理」の考え方が注目されるようになりました。

 

この段階で、MBOは、ドラッカーが提唱した「目標による管理」という自己統制に重きを置いた考え方から、人事評価制度としての意味合いが強くなり、日本では、最終的に、「職能資格制度」と組み合わせて、評価制度として組み込まれる形の「目標管理制度」として運用されていきます。

 

2000年代からは、導入後の問題点に各社がカスタマイズを行い、各社の方針にマッチするような仕組みとする努力を行っていますが、上手く運用できていないという実感を持つ方も多いのではないでしょうか。

 

2.「目標管理制度」の運用に見られる問題点

「目標管理制度」は、一般的には次のような運用が行われています。

ⅰ)期初に設定された組織の目標が先にあって、個人・グループの目標を組織の目標にリンクする形になるよう調整する。

 

ⅱ)評価は、個人・グループの目標に対する達成度合いで決まり、又、進捗状況は、半期ごとあるいは、期末に一括して行われる。

 

このような目標管理制度を導入している企業でよく見受けられる問題点は次のようなものが挙げられます。

 

(1)目標設定に関する問題点

ⅰ)制度の建前は、自主申告であるが、実質的には、経営陣・上司から数字が降りてくるだけで、各人の等級やレベルにあった目標が設定されず、目標のレベル格差が大きくなります。

 

ⅱ)目標は上から与えられるものという受け身の姿勢が強化され、個人の自律性や主体性が希薄化します。

 

ⅲ)目標管理制度が人事評価に活用される場合、達成可能性が十分ある低い目標を設定したり、チャレンジングな目標を自ら課すという動機がそがれてしまいます。

 

(2)チームワークの阻害や個人主義の助長を生む

ⅰ)とくに部下や後輩を持つ立場の社員に起こりがちですが、自分の目標達成に関係ない後進の育成を怠るようになります。また、それぞれが個人の目標にとらわれすぎると、チームの助け合いや協調性も失われてしまいます。

 

ⅱ)自部署の業績を目標とした場合でも、他の部署に対する関心が低下し、全社レベルでは、部分最適な組織が固定化し、部門横断的なイノベーションが起こりにくくなります。

 

(3)プロセスを軽視してしまう

結果ばかり重視されプロセスを軽視しがちとなることから、自発的な次のアクションが生み出されなくなります。MBOは半年~1年の評価面談のみで運営しているケースが多く、進捗を知り、軌道修正するための面談はなく、一方的に評価を伝えるだけの評価制度になってしまいます。

 

3.「目標管理制度」の運用に失敗しないためのポイント

先ほど紹介したように「目標管理制度」の問題点は、多くの企業で認識されているものの、うまく改善できていないケースも多く見受けられます。 次に本来の「目標による管理」を参考に、「目標管理制度」の効果を上げる運用方法を検討していきます。

 
(1)目標設定に関する改善点—会社と個人の双方の目的を一致させる―

目標設定は以下のステップで行っていきます。

 

ⅰ)企業や部署といった組織の全体目標を各個人が共有した上で、企業の目標達成とリンクした個人目標を自ら設定します。

 

ⅱ)個人の目標に関しては、「組織への貢献に加えて、自分の成長のためにもなる」という観点から設定する。具体的には、完全に達成できるものよりも少し難しい目標の設定を行うことで、「やればできそう」という意識が芽生え、モチベーションが高まります。

 

ⅲ)以下の4つの項目等により、数値による目標以外の定性項目を加えることで、企業・個人のバランスのよい成長を促します。

 

●能力開発目標:生産性向上や自己啓発等に対する目標

●職務遂行目標:中長期的な成果につながる行動も含めた役割期待に対する目標

●業務改善目標:「労働環境の改善」「生産性の向上」「品質の向上」等に資する目標

●組織貢献目標:他者への働きかけを通してチーム部門の業績に与える目標

 

ⅳ)目標の期限や目標達成基準のビジョンを共有します。

年間を通じた目標を設定する場合、優先度や行動実施のタイミングも、検討する必要があり、又、比較的短期に達成可能な項目もあれば、長期に取り組む必要があるケースもあります。 「この時までにこうなっていれば目標達成とする」といったビジョンについて、自己評価と上司の評価にギャップが出ないよう議論を行うことが必要です。

 

ⅴ)個人の目標が設定できたら、上司は次のような点を確認します。

 

●組織目標とリンクする目標設定となっているか。

●社員の能力に対して、簡単すぎる目標となっていないか。

●実現不可能な目標となっていないか。

 

確認により必要があれば、話し合いの上で目標を調整し、最終的な目標を決定することで、社員と企業の連帯と社員の自律を両立させていきます。

 

(2)進捗確認に関する改善点

せっかく目標を設定しても、しばらく触れなければ目標意識が薄れたり、結果だけの報告や管理を行うことになりかねません。

 

定期的に上司が部下の進捗状況を確認することで、部下に目標意識を維持させます。また、このときに意識したいのが、部下の主体的な思考や行動を重視することです。

 

面談時には、以下の点に留意しましょう。

 

●部下のセルフコントロールを尊重し、上司は、アドバイザーとサポーターに徹する。

●プロセスをしっかり確認し、必要であれば軌道修正を促す。

 

部下の進捗が滞っている場合、「反省させる」のではなく「反省を促す」つもりでコミュニケーションを取りましょう。

 

(3)評価との改善点

人事評価制度的な利用を行う場合、公平感を担保するために、まずは意欲や姿勢といった定性的要素を排除し、目標達成度のみで部下を評価しましょう。

 

その後で、定性的要素について、目標達成度を踏まえて反省点を洗い出します。「何が問題だったのか」「次はどのようにすれば目標を達成できるか」といったことを部下に自ら考えさせ、それをサポートすることで成長を促します。

 

4.まとめ

目標管理制度は、日本の多くの企業に人事評価制度として導入されており、何らかの目標や達成基準を決めて、それができたかどうかで期末に評価するという成果主義において業績(パフォーマンス)を「査定」するツールとして活用されています。

 

しかし、単に成果に基づく査定を行うのであれば、定量面で縛り、もっと簡単に行うことも可能です。

 

目標を定量的にも定性的にも設定できる自由度の高い制度である利点を活かし、ドラッカーの提言した、「Management by objectives and self-control(目標と自己統制による管理)」に立ち返った運用を心がけていただければと思います。



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