コーチングとは?意味や簡単なやり方とGROWモデルなど重要スキルを具体的に解説

本記事では、ビジネスに役立つコーチングの基本的な考え方である「GROWモデル」や、コミュニケーション改善の参考にしていただける代表的なコーチングスキルである「質問スキル」についてご説明していきたいと思います。

1.コーチングとは

コーチングの定義については、様々ありますので、代表的なものを上げておきます。

 

(1)名テニスプレイヤーのティム・ギャルウェイの定義

コーチングは個人の潜在能力を解き放って,彼ら自身が最大限に力を発揮できるようにするものである。それは,教えるというより彼らが学ぶことを助けるもの―促進的アプローチ―である。

 

(2)コーチ・エィ著「コーチングの基本」より抜粋

コーチングとは、対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要なスキルや知識、考え方を備え、行動することを支援するプロセスである。

 

以上の定義は次のことを示唆しています。

 

●コーチの役割は、クライアントの支援である

●コーチを受ける対象であるクライアントが目標設定も達成も行う

●達成をもとにクライアントの内面に自信を構築していく

●コーチングは対話を重ねることで行われる

 

2.コーチングが注目される背景

現代の企業やその中で働く個人はイノベーションの創出、グローバル化やダイバーシティの高まり、働き方改革の実現などによって、これまでになく不確実で複雑性の高い環境に直面しています。


こうした環境は、チームや一人ひとりの社員が直面する課題の個別性が高まる状況を生み出したことから、「組織内コミュニケーション」のあり方を見直す流れになりました。


また、経営にスピードが求められる中、マネジメントの軸が、年に数回の評価面談から短期的かつ定期的に実施される1on1ミーティングにシフトする企業が増えています。


このような背景の中で、大企業を中心に、リーダー育成やコミュニケーションスキル向上を目的としたコーチングの考え方やスキルが注目されています。

3.コーチングの基本となるGROWモデル

最も一般的なコーチングのモデルに「GROWモデル」というものがあります。漠然とした目標を適切な順序で確認し、具体的な行動につなげるコーチングの基本スキルです。


GROWモデルの5つの要素    


GROWとは次の5つの頭文字を取ったものです。

Goal目標・目的の明確化

Reality現状把握

Resource-すでにある資源の把握

Option行動の選択肢の創造

Will目標達成の意思確認・自己決断

 

「目標・目的」を明確にし、「現状」を理解し、利用できる「資源」を確認した上で、「行動の選択肢」から選択し、「実行の意志」を固めるという流れで目標達成を支援することがコーチングの基本と言えます。

 

では、それぞれについて、見ていきましょう。

 

(1)Goal – 目標・目的の明確化

 第一ステップ「目標・目的」を明確化していきます。

 

クライアントの理想やなりたい姿が目的であり、目的を達成するためのマイルストーンを目標と考えてください。

 

目標や目的の設定は、クライアントが自ら定めたものでなければなりません。自ら定めたといっても「しなければならない」では十分ではなく、「真に達成したい」と思うものでなければなりません。

 

なぜなら、他人から与えられた目標には誰でも愚痴も出ますし、失敗すれば他人のせいにしたくもなります。

 

しかし自分で決めたことなら、何とか成功させようと努力し奮闘するからです。ですから、「G」はGOWの4つのステップの中で、一番時間をかけるべきステップと言えます。

 

これを明確にしていくためには次の5W1H を使った6つの質問をうまく活用していきます。

What「何を」成したいのか

When「いつまで」に達成したいのか

Who「誰が」達成するのか

Where「どんな」環境(会社、プライベートなど)で達成したいのか

How「どのよう」に達成したいのか

 

ビジネスの場では、組織目標から導き出された個人の目標を設定するケースが多いと考えられますが、例えば「今期売上○○億円」とした場合でも、それを達成するために必要であり、かつ本人が成長実感を味わえるクライアントの内面のゴールも同時に考えておくことも必要です。

 

目標・目的に関するよくある間違いは、「○○君を~できるようにする」といった、他者を対象としたものです。この場合は○○君の成長のために「私が◇◇を行っていく。具体的な行動は・・・」と自分の行動と成長に目標を修正してください。

 

尚、目標の設定に関しては、達成を測る客観的な基準を設定する必要があります。これを曖昧にしておくと、コーチングの進捗を確認することも、軌道修正をすることもできなくなります。

 

(2)Reality – 現状把握

達成したい目標が決まったら、今どのような状態なのかを正確に把握する必要があります。なぜならば、目標に対する現状が正確に把握できて初めて双方の間に存在するギャップに気づくことが出来、行動のために必要な要素が浮かび上がってくるからです。

 

また、「ギャップがどうなれば望ましいのか」という理想の目標をさらに明確にします。このステップで一番重要なことは、クライアント自身に自らを客観視してもらうことです。

 

コーチングでは、現状のスキルや感情・思考などに着目することが多いです。加えて、ギャップに対する原因もしっかり分析していきます。その際に、原因を他人や環境に求めるのではなく、自分自身の課題として捉えることが必要です。

 

以下の質問の例を参考に会話を進めていきます。

〇そのことについて、今どのような状況ですか? どのように感じていますか? なぜそう感じましたか?

〇うまくいっていることは何ですか? うまくいっていないことは何ですか?

〇現状を表す最も重要な事実は何ですか?

〇もし、このままだと、他の人やあなた自身にどのような影響が出ますか?

 

自分自身の改善点を客観的に探ることは、クライアントにとって、つらいステップとなりますので、クライアントの感情を理解・把握することも大切です。

 

他人や環境に原因を求めた場合も一旦、クライアントが抱いている感情に共感すると、信頼感を得ることができます。その上で、自身の課題に意識を集中してもらうことが大切です。

 

(3)Resource – 資源

 ゴールへ近づくために役立つ資源を探します。大きく分けて人・モノ・金など「有形」なものと情報・時間・体験など「無形」のものに分けられるでしょう。

 

「無形」の資源については、クライアント自身の内側にある資源(成功体験、得意分野、温めていたアイデア等)に気づき、それらを効果的に活用できるように質問しましょう。

 

「過去、困難を乗り越えたときにどうやって乗り越えられたのか」 「そのとき誰に助けてもらったのか」「どうやって助けてもらったのか」を振り返り、リソースとして使えるところはないかを探していきます。

 

(4)Option – 選択肢の創造

 解決のための選択肢の検討にあたっては、いつものやり方を繰り返すのではなく、多くの選択肢を考え、検討することがポイントです。

 

そのために、コーチが効果的な質問を行い、本人の固定観念や思考の癖を取り払うことが重要です。現実的かどうか、実行可能かどうかなどの判断には、固定観念が影響することが多くありますので、とにかく自由にアイデアを出してもらいましょう。

 

上記「Resource – 資源」とあわせて、以下の質問を例に会話を進めていきます。

 

●今まで上手くいったことで、今回役に立ちそうなことは何ですか?

●周囲でサポートを得られそうな人は誰ですか?

●1つ目と2つ目の案をヒントに3つ目の案を考えるとどんなことが出来ると思いますか?

●あえてもう1つだけ出すと、どんなアイデアがありますか? 他にはどんなことに取り組みますか? 今までやったことのない方法では、どんなことがありますか?

●他社では、どんなやり方をしていますか? もしあなたがお客さんだったらどうしてほしいですか?

 

ここで、過去の成功体験を利用できる場合と成功体験こそが目的を達成するための制約条件になっている場合があることには、注意が必要です。

 

変化する環境の中で、今適切な行動は何かを問い、現在のクライアントにとって最適な行動を引き出していきます。

 

(5)Will – 目標達成の意思確認

 選択肢から実行する行動を選択し、目標達成のために自分の意志でその行動ができるかどうかを確認し、行動に踏み出す段階です。

 

コーチは、クライアントに質問することで、いつ、何を、どうやって行っていくかを会話の中でクライアントにイメージしてもらい、行動の開始をサポートします。

 

さらに、行動を「宣言」してもらうことで、コーチとの間で「約束」が生まれ、行動が促進される可能性が高まります。

 

この段階で、クライアントのコミットメント(積極的に参加する意思)が弱いと感じられた場合、そのことをクライアントに伝え、さらに対話することも大切です。

 

以下の質問を例に会話を進めていきます。

●もっとも重要な選択肢、方法は何ですか? なぜそのように思いましたか?

●選択肢に優先順位をつけるとしたら、どれから取り組む必要がありますか?

●いつから始めますか?

●最初の一歩はどのように踏み出しますか?
●実現の可能性は何%ぐらいですか?

 

クライアントに行動を起こさせる最初の段階で、コーチが注意することは、クライアントに着実な一歩で小さな成功を挙げてもらうイメージで、寄り添い、エールを送ることです。

 

小さな成功により、クライアントは自信を深め、自信は主体性や自主性を支える基盤となり、次なる課題に挑戦する意欲を得ることが出来ます。

 

4.コーチングに不可欠な質問スキル

コーチングは「質問のスキル」や「質問型のコミュニケーション」と言われることがあります。このことは、質問がコーチングの質を決定する重要なスキルであることを示しています。

 

私たちは普段、自分が知りたいことや確認したいことを聞くために質問を使います。コーチングでは、適切な質問によって、クライアントに考えさせ、気づきや発見を促し、結果として行動を引き出していきます。

 

コーチングにおける「質問」 の目的は以下のようなものがあります。

 

●問題点を明確にする

●相手の視点を変える

●考えを整理する

●気づきや発見を促す

●目標を設定する

 

また、質問をすることは、好意や敬意などを間接的に示すことになりますので、コーチングに必要なコーチとクライアントの関係である「ラポール」(相互に信頼している状態)を築くことにも力を発揮します。

 

コーチングで利用する質問は様々ですが、大きく5つ種類に分けて紹介していきたいと思います。それぞれの種類を適切に意識して使うことで、コーチングは非常に効果的なものとなります。

 

(1)オープンクエスチョン

オープンクエスチョンというのは、クライアントが、自分で言葉を選び、自分で文章を考えて、答えなければならない質問の仕方です。

 

クライアントが自由に回答できるため、真意が表現されやすいですが、考えるのに比較的時間がかかります。オープンクエスチョンには、5W1Hなどを使い、相手に深く考えてもらうことに適しています。

 
(2)クローズドクエスチョン

 クローズドクエスチョンは、コーチが回答を準備することになります。回答を一つ用意し、イエス/ノーで答えてもらったり、いくつかの選択肢を提示して、その中から選んでもらうのが、クローズドクエスチョンです。

 

答えるのが簡単で時間がかからない反面、真意が見えづらいことや、質問者の意見の押し付けや誘導になることがありますので注意が必要です。

 

例えば、「〇〇はやりましたか?」という質問は、解決策として「〇〇をやりなさい」と言っていることに等しくなり、意見の押し付けや誘導になりかねませんので注意が必要です。

 

もちろん、すべてが悪いわけではなく、「〇〇は必要ですか?」という事実の確認や、「ABではどちらが良いですか?」という優先順位を見極めるときには有効な質問となります。

 

次からは、オープンクエスチョンの応用です。

 

(3)「掘り下げる質問」と「拡げる質問」

 この2つの質問で、曖昧な情報やアイデアについて、より具体的にしたり選択肢を増やしたりしていきます。

 

「掘り下げる質問」は曖昧な情報を具体的にする質問の仕方です。前のやり取りを受けて、さらに質問で深めることにより、さまざまな情報を得ることもできますし、相互理解も深まります。

 

簡単に言えば、「それってどういうこと?」と質問をしていくことです。この時、注意しなければならないのは、質問にこちらの意図を込めないことです。

 

「なぜ、そうしたのですか?」という詰問調や「その時~とは思わなかったのですか?」と答えを誘導するような質問はクライアントを委縮させてしまいます。

 

「拡げる質問」は他の情報やアイデアを引き出すための質問です。人はだれしも固定観念や思考の癖を持っています。

 

クライアントの中にある因果関係が、例えば「このプロジェクトが遅れているのは、Aさんの遅れが原因」である場合、「Aさんの遅れの原因は何だと思いますか」や「他に原因はありませんか?」など、因果関係のフレームワークを疑うような質問やクライアントの視点を変える質問をしてみることが必要です。

 

(4)「過去質問」と「未来質問」

コーチングは、未来に目標を達成するために行う、未来創造型のコミュニケーションですから、望む未来を想像し、それを実現するために、可能性を拡げたり、選択肢を見つけるための「未来質問」を行っていくことが大切です。

 

具体的には、「これからどうしていきたい?」「どのように進めていこうか?」などです。そして、未来を創るために参考にできる過去があるとすれば、大いに参考にしていく「過去質問」を行います。

 

具体的には、「過去においても困難を乗り越えたことはありましたか?」という質問で、本人の強みや利用できる「資源」に気づいてもらう質問や「いつから問題は発生しましたか?」という質問で、「なぜその時から問題が起こったのだろう」と問いが生まれ、原因追求に役立つことがあります。

 

(5)「肯定質問」と「否定質問」

この分類は、質問する内容や質問の仕方が、前向きか後ろ向きかという内容や気持ちの方向性の違いです。どちらも有効な質問であり、適切に使い分ける必要があります。

 

●肯定質問・・・・「どうやればできたと思う?」「仕事でチャレンジしたことは?」
●否定質問・・・・「どうしてできなかったの?」「仕事でどんな失敗をした?」

 

確かに、否定質問は一見、クライアントの意欲を削ぐように見えますが、質問の目的と意図が、クライアントにとって意味や価値があることにつながっていると分かれば、逆にその問いかけに取り組む意欲になります。

 

ただし、質問者は自分の姿勢や表情、声や口調などの非言語要素に気をつけることが必要です。

 

少し、イメージしづらいかもしれませんので、会話の例を挙げておきます。

 

コーチ   :「どんなふうに成長していきたいと思ってる?」

クライアント:「後輩から目標にされる先輩になりたいです」

コーチ   :「どうであったら『後輩の目標』って言えるだろうか?」

クライアント:「・・・」

コーチ   :「じゃあ、自分が目標にされていないと感じる時はどんな時?」

と質問するような場合です。

 

前述のとおり、コーチングというのは未来創造型のコミュニケーションです。その未来を創造するために扱うべき内容は、それが否定的なものであっても、扱わなければなりません。

 

その否定的な内容に直面しつつ、それを前向きなエネルギーに変えることを支援するのです。

5.まとめ

コーチングは、基本的に訓練された経験豊かなコーチが、コーチングを受ける対象であるクライアントと一対一で対話を重ね、クライアントの目標達成に向けて支援するプロセスで、簡単にマスターできるものではありません。

 

今回は、代表的なコーチングのプロセスであるGROWモデルと代表的なスキルである「質問」について、お話をしましたが、スキルにしても「傾聴」「承認」「フィードバック」など、代表的なものでもまだまだ多く存在しています。

 

この記事でコーチングについて興味を持っていただき、本格的に勉強していただく機会になれば幸いです。

 

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