ワークエンゲージメントとは?3つの要素や具体的な高め方・測定方法

「ワークエンゲージメント」とは、仕事に対してのポジティブで充実した心理状態のことです。

社員のパフォーマンスの向上には、仕事へのやりがいや働きやすい環境づくりが不可欠です。しかし、具体的にどのような対策を講じればよいのかわからず悩む経営者や管理職の方も多いのではないでしょうか。

そこで今、注目されているのが「ワークエンゲージメント」です。
本記事では「ワークエンゲージメント」の3つの要素や具体的な高め方、測定の方法などについてご紹介します。

1.ワークエンゲージメントとは

(1)エンゲージメントとは

「エンゲージメント=engagement」という言葉には、「婚約、誓約、約束、契約」と言う意味がありますが、そこから派生して「歯車などがかみ合っていること、順調に進行・動作していること、活動などへ積極的に関与していること」などの状態を示す意味もあります。

 

ワークエンゲージメントはビジネスシーンで使われるエンゲージメントの内、従業員と仕事との関係性を示すものです。

エンゲージメントは、次の三つに分類されます。

(1)顧客エンゲージメント

(2)従業員エンゲージント

(3)ワークエンゲージメント

など、それぞれ「企業と顧客」・「企業と従業員」・「従業員と仕事」の3つの関係性を示す意味で使われます。

 

(2)顧客エンゲージメント ―企業と顧客の関係性―

主に、マーケティング領域で使う「顧客エンゲージメント」とは、商品やサービスを提供する企業と顧客との間の信頼関係のことです。企業や商品に対して高い信頼性を感じている顧客は、他社商品に見向きもせずに商品を購入してくれます。 

 

顧客エンゲージメントを高めていくことで、継続した売上を生み出すため、LTV(顧客生涯価値=顧客が自社と係る期間中にもたらす利益)の向上にも繋がるのです。

 

(3)従業員エンゲージメント ―企業と従業員の関係性

人事領域で使う「従業員エンゲージメント」とは、従業員の愛社精神や企業に対する愛着を表します。従業員と企業が一体となってお互いに成長し合い絆を深める関係をイメージするとよいでしょう。

 

「従業員エンゲージメント」が注目された契機は、1990年頃にジャック・ウェルチ元GE会長が「従業員エンゲージメントを何よりも優先しろ。企業規模の大小にかかわらず、どんな企業も、組織のミッションを理解し、それをどうやって達成するかわかっている、やる気のある従業員なくしては、中長期的に勝ち続けることは不可能だからだ」という指示を出したことにあると言われます。

 

ウェルチが指摘した「従業員エンゲージメント」という概念は、従業員を会社の帰属物から、従業員の持つ有形・無形の力を雇用契約を超えて投入してもらう、「投資家」的存在と捉えるように変えました。

 

従業員エンゲージメントが高い会社では、自社に貢献したい従業員が自発的に、かつ意欲的に仕事に取り組むため、労働生産性も高まり企業全体の業績向上が期待できます。

 

さらには、企業価値の向上にも繋がり、そのことから従業員のエンゲージメントも高まるという好循環が生まれるのです。

  

(4)ワークエンゲージメント 従業員と仕事の関係性

ビジネスシーンや心理学や産業保健心理学(メンタルヘルス)領域でも広く使われる「ワークエンゲージメント」は,人間の有する強みやパフォーマンスなどポジティブな要因に注目するポジティブ心理学の流れを受け,新たに提唱された概念です。

 

令和元年度版労働経済白書でワークエンゲージメントが特集されていることからも、注目されている概念と言えるかも知れません。


 オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリらの定義

「活力,熱意,没頭によって特徴づけられるポジティブで充実した仕事関連の心理状態である。特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態でなく,仕事に向けられた持続的で全般的な感情―認知の状態」

とされ,バーンアウト(燃え尽き症候群)の対立概念として位置付けられています。


2.ワークエンゲージメントの3要素

仕事に対するポジティブで充実した心理状態を保つために、「活力・熱意・没頭」の3要素で高い水準にあることが必要と考えられています。 それでは、「活力・熱意・没頭」が高い状態とは、具体的にどのようなことかをご説明します。

 

(1)活力 (Vigor)

仕事に対して前向きに取り組む姿勢や、困難な状況を乗り越えるための粘り強さがある状態です。活力があると、傷ついても立ち直る心の回復力、仕事に対する惜しみない努力、粘り強い取り組みなど、精神力や継続力が向上し、トラブルや失敗に対してストレスを感じにくくなります。

 

(2)熱意 (Dedication)

仕事そのものや、自分のスキル(知識・技術)キャリア(経験・個人業績)に対してプライドを持ち、挑戦意欲を持っている状態です。熱意があると、仕事や自分のキャリアに興味を示し、仕事への興味心や探究心が向上し積極的な姿勢で努力することができます。

Dedication」は「熱意」と訳されていますが、自分以外の人のため、自分を越えたもっと大きなものに意義を見出し、使命感を持って従事するというニュアンスが含まれており、「献身」「真摯な姿勢」と訳されることもあります。

 

(3)没頭 (Absorption)

没頭とは、熱中して仕事に取り組むことを言います。仕事にのめり込んでいる時の幸福感、時間が早く経つ感覚など、没頭が高まることで、質の高い仕事を効率的に行えるようになり、人為的ミスが減少します。

 

3.ワークエンゲージメントに関連する概念

 ワークエンゲージメントと関連する概念としては、「ワーカホリズム」、「バーンアウト(燃え尽き)」、「職務満足感」の3つがあります。

 

「仕事への態度や認知」と「活動水準」を基準に図のように区別します。

 

(1)ワーカホリズム

ワークエンゲージメントと同じく活動水準は高いのですが、仕事への態度や認知が否定的な状態を指します。

 

ワークエンゲージメントが楽しく仕事をしているのに対し、ワーカホリズムでは仕事をしていないと不安など「過度に一生懸命に強迫的に働く傾向」が見られ、動機づけがネガティブなところに違いがあります。

  

(2)職務満足感

仕事を評価した結果から生じる、ポジティブな心理状態のことを指します。


ワークエンゲージメントは「仕事をしている時の状態」に対する感情や認知ですが、職務満足感は労働条件や職場環境など「仕事そのもの」に対する感情や認知という点で違いがあります。ワークエンゲージメントのように、仕事に没頭している状態ではないため、活動水準は低くなります。

 

(3)バーンアウト

 アメリカの精神心理学者 ハーバート・フロイデンバーガーが「バーンアウト」という概念を初めて学術論文でとりあげました。

 

彼は保健施設に勤務していた間、数多くの同僚たちが、徐々に、あたかもエネルギーが失われていくかのように仕事に対する意欲や関心を失っていく状況を目の当たりにし、同僚が陥った状態を表現するのに 「ドラッグ常用者(がおちいる無感動無気力)の状態」 を意味する俗語であったバーンアウトという言葉を用ました。

 

その後の研究により、以下の3つの症状により「バーンアウト」は定義づけされています。


 ①情緒的な消耗

ひたむきに働く人はあまりにも多くの仕事を成し遂げようとしできない場合できないことに深く悩みがちです。

 

際限なく繰り返される相手からの要求と慢性的な人材不足そのような環境の中でひたむきに他人との深い関わりを保ち続けている人が極度の消耗を経てバーンアウトに陥ることは想像に難くありません。つまり、人を気遣うことで自身の精神を大幅にすり減らすことになります。

 

②脱人格化

精神がすり減って、情緒的なエネルギーが減少した状態になると身体が防衛本能を働かせて、これ以上の精神消耗を防ぐために、顧客や周りの人間に対して思いやりのない、紋切り型な態度を取るなどの割り切った対応をするようになってしまいます。

 

③個人的達成感の低下

精神が消耗したり、脱人格化したりすると、当然ですが仕事の質が低下します。結果、顧客へ十分な質のサービスが届けられず成果を得られなくなります。仕事での成果も達成感も得られなくなると、やりがいを感じなくなったり自信がなくなったり、悪循環に入ってしまいます。

  ▶︎参考:厚生労働省「平成30年度版労働経済の分析 コラム2-5 ワーク・エンゲイジメントが労働者の健康・仕事のパフォーマンス等へ与える影響」

 

4.ワークエンゲージメントを高める効果 

ワークエンゲージメントを高めることで、仕事に対するポジティブで充実した心理状態が高い水準となり、以下の様な効果があると言われています。

 

(1)組織コミットメントの向上

組織コミットメントとは、達成すべき目標そのもの、また、達成すべき目標を定め、未達成の場合は明確に責任を取るという姿勢で目標達成に臨む考え方です。

 
(2)仕事上の創造性やパフォーマンスの向上

職場の問題を自ら解決したり、積極的に意見を出したりすることが活発化し、事業と

自身の成長に向かった仕事上の創造性が高まると共に、高い目標に向かってチャレ

ンジする行動が促され、粘り強く取り組むことでパフォーマンスが向上します。

 

(3)離職率の低下、定着率の向上

ワーク・エンゲージメントが高い従業員は、労働条件だけのつながりではなく、そこ

で働くことの価値を見出しています。従って、人材流出を防ぎ、定着率の向上が期待

できます。


(4)顧客満足度の向上

従業員が企業や自社の商品やサービスに対して興味や探究心をもつほど、分析や改

善にも熱心になり、顧客のニーズに応え、より良い商品やサービスの提供を行うとい

う姿勢に繋がり、その結果顧客満足度が向上します。

 

こうしたポジティブな効果は、人手不足や、価値観の多様化に伴う働き方の選択肢の広がりなどにより、ビジネスにおける人材の確保や育成がますます重要になっている現在、ワークエンゲージメントへの注目度が増している背景となっています。

 

又、ワークエンゲージメントの向上は、「従業員エンゲージメント」と「顧客エンゲージメント」につながっていきます。 

 

5.ワークエンゲージメントを高めるポイント 

各国で行われた実証研究を総合するとワークエンゲージメントは,「個人の資源(自己効力感,楽観性など)」や「仕事の資源(社会的支援,自律性など)」によって高められ,その結果,心身の健康,仕事や組織に対するポジティブな態度,パフォーマンスにつながっていることが分かってきています。

 

つまり、「個人の資源」と「仕事の資源」は、ワークエンゲージメントを生む前提条件と捉えるのが良いでしょう。聞き慣れない言葉だと思いますので、詳しく見ていきます。


 

(1)個人の資源

 個人の資源とは、心理的ストレスを軽減したり、モチベーションをアップさせたりするための原動力となる、その人自身の内的要因のことです。

 

楽観性(現在・未来の成功についてポジティブに考えること)やレジリエンス(問題や逆境に悩まされた時も、成功するために立ち直り、乗り越えること)、自己効力感などがこれに含まれます。

 

特に重要なのが「自己効力感」で、新しい課題にチャレンジする際、「できそうだ」「きっとできる」と思える見込みや自信の源のことです。

 

自己効力感が強い人は、何事にも前向きに取り組むことができますから、いろいろな知識を学べ、成功体験も得やすくなります。

 

「自己効力感」を高めるためには、以下の様な方法があります。

 

●成功体験は小さくてもいいから、自分自身の努力で成功した体験を積むことで、仕事が楽しくなり、自己効力感もさらに高まっていきます。

 

●はじめてのことに対する恐怖心や漠然とした不安要素を解消するため、自分よりも少しキャリアが上で身近な先輩や上司など、「他者の体験を見本にして、自分でもできるかもしれないと思える経験(代理経験)」を積むことです。どんな努力がどういう結果につながっていくのかを間近で学ぶことで自己効力感を鍛えることができます。

 

(2)仕事の資源

仕事の負担を減らす・仕事の負担の悪影響を緩和する・モチベーションを高める、この三つの役割を果たす組織内の有形・無形の要因を「仕事の資源」(組織資源)と呼びます。

 

具体的には上司・同僚のサポート、仕事の裁量権、パフォーマンスに対する評価、トレーニングの機会などがこれに当たります。

 

「仕事の要求度」が高い場合でも、「仕事の資源」が豊富にあることで、やりがいがある仕事と捉えられ、ワークエンゲージメントが高まることが分かってきていますので、繁忙感が高まっている状況では、仕事の資源を活用出来る環境を整備することが必要です。

 

この「仕事の資源」と「個人の資源」には密接な関係があり、仕事の資源が充実すると個人資源もアップします。

 

自己効力感を高めるためには、成功体験が必要だと述べましたが、本人がうまく成功体験を積めるように、また仮に失敗してもそこから何かを学べるように、周囲の上司や同僚がサポートすることが必要です。

6.具体的な高め方

 (1)心理的安全性の確保

企業における心理的安全性とは、従業員が失敗や非難を恐れることなく、自分らしく発言・行動できる状態をいいます。

 

心理的安全性の確保は、失敗を恥ずかしいことでは無いという組織文化を醸成しますので、「自己効力感」を高めるうえで重要な成功体験の積み重ねに役立ちます。 


 詳しくはこちらの記事をご覧ください
  心理的安全性とは何か? 不足しているチームの特徴や作り方を解説

 

(2)上司による1on1ミーティングの実施

on1ミーティングとは、1~2週に一回程度、上司と部下が15分から30分ほど行う1対1の定期的なミーティングです。

 

ミーティングのテーマは部下が決めますので、部下が目標の進捗について話したければ、目標の進捗がテーマになりますし、部下が自分のパフォーマンスについてフィードバックを求めてくれば、上司はフィードバックを伝えます。

 

部下が将来のキャリアについて抱えている不安や、プライベートでの悩み事など、部下が抱えている問題を解決することもあります。

 

つまり、1 on 1は部下がモチベーションを高め、成長するために上司が支援をするためのミーティングであり、コーチング・ティーチング・フィードバックなどの「手法」を効果的に組み合わせて部下の成長支援を行う「場」です

 

 より詳しい資料を無料でダウンロードいただけます
  基礎からわかる「1 on 1ミーティング」


(3)エンパワーメント(権限委譲)の実施

部下が戦略に基づく意思決定を主体的に行うことができるように組織を構築(=権限委譲を組織の中に構築)することは、部下のモチベーションを高め、組織としての目標を達成する経営手法として最適です。

 

エンパワーメントの実施は、構成員の動きに統一性や一貫性がなくなり、組織の目標を実現できなくなる可能性があるため、部下の能力を見極め、適切な業務の権限委譲を行うことが重要です。

 

 詳しくはこちらの記事をご覧ください
  エンパワーメントとは? 概念の変遷や職場での高め方

(4)適切な人事評価とキャリア開発

公平で納得性の高い人事評価は従業員のやる気を高め、ワークエンゲージメントの向上に効果的です。

 

人事評価は、企業の実情(経営方針・業種・環境・業績等)に合わせて制度化されるため、統一化された共通ルールはありませんが、どういう基準で評価するのかは明確にし、従業員が納得感を得られる制度にすることが大切です。

 

また、1on1ミーティングの際に、キャリアビジョンについてのヒアリングを行い、長期的・計画的な目線で能力開発を支援していくことも重要です。


7.ワークエンゲージメントの測定方法

ワークエンゲージメントを測定する方法は大きく2つあります。

 

(1)ワークエンゲージメントの3要素を測定する方法

 

UWESUtrecht Work Engagement Scales(UWES)


UWESでは、ワークエンゲージメントを構成する3つの要素である「活力」「熱意」「没頭」の尺度を質問項目に盛り込み、17項目の質問に回答することで測定します。

 

(2)バーンアウトを測定する方法

ワークエンゲージメントそのものを測定するのではなく、対概念であるバーンアウトを測定することで、ワークエンゲージメントを間接的に計測します。

これらの方法では、得た結果が低ければワークエンゲージメントが高く、反対に結果が高ければワークエンゲージメントは低いということになります。


 

①「MBI-GSMaslach Burnout Inventory-General Survey)」

「消耗感(疲労感)」「冷笑的態度(シニシズム)」「職務効力感」の3つの尺度について、16項目の質問に回答することで測定を行います。


②「OLBIOldenburg Burnout Inventory)」といった方法があります。

 「消耗感」「冷笑的態度」の2つの尺度について、それぞれネガティブ項目とポジティブ項目から構成されている質問に回答することで測定を行います。


8.まとめ

 ワークエンゲージメントの向上に取り組むことによって、企業にとっては労働生産性が向上し、従業員にとっては働きがいをもって仕事に取り組め、顧客にとっては満足度が向上するという、すばらしい成果が期待出来ます。

 

ワークエンゲージメントは何か1つ対策を実施したからといって、すぐに目に見えて向上するものではありません。しかし、向上を目指して歩み続けられれば、想像以上の成果に驚かれることになるでしょう。




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