Netpress 第2106号 関連会社との取引 どこが税務調査で問題になるのか?

Point
1.関連会社との取引は、恣意的な価格設定などが行われやすいことから、税務調査で論点となりがちです。
2.実際にどのような取引が疑問を招きやすく、また、適正な処理はどうあるべきなのかを確認します。


税理士・米国公認会計士(ワシントン州)
竹内 茂樹


法人税調査の際、思いもよらない指摘をされることがありますが、その1つとして、グループ会社(子会社、親会社、関連会社、関係会社等)との取引が挙げられます。その否認の中心は、取引価格が適正ではない、受け取るべき対価を受け取っていないなどで、「寝耳に水」といったことが多く、また、それゆえに否認金額も多額に上ることがあります。


さらに、2020年7月から、国税庁は一般の調査部門でも移転価格調査を実施できる体制に組織変更したため、海外グループ会社との取引についてチェックされる機会が増えると予想されます。

1.問題発生のメカニズム

グループ会社との取引は、外部の第三者企業との取引に比べて“なあなあ”で行われやすく、価格も適正でないことが多いのは事実です。


法人税法等の各規定は、市場価格や第三者間で成立する価格を前提としていますが、例外的にそのような価格となっていない場合(無償を含みます)には、税法は寄附金税制や移転価格税制で対応する形になっています。


無償部分や価格が適正でない場合の市場価格等との差額部分について、贈与等があったとして寄附金課税が行われたり、海外グループ会社との取引の場合には、寄附金課税の問題に加えて、海外への所得移転があったとして移転価格課税が行われたりする可能性も出てきます。

2.寄附金税制と移転価格税制の内容

取引相手先が、国内グループ会社なのか海外グループ会社なのかによって、税制の適用が異なってきますので、まず、この点を押さえておく必要があります。


(1)寄附金税制(国内グループ会社との取引)

寄附金税制では、「金銭その他の資産または経済的な利益の贈与または無償の供与」をした場合、寄附金の額は贈与時の価額(時価)とされ、高額買入や低廉譲渡等についてもその差額が寄附金とされます。寄附金税制には、一定の損金算入枠が設けられているため、その範囲内であれば否認が行われることはありません。


(2)移転価格税制(海外グループ会社との取引)

移転価格税制は、海外に所在するグループ会社との取引価格等が適正でない(国外に所得移転が行われた)場合に、「独立企業間価格」におき直して課税されるものです。


独立企業間価格とは、第三者間で成立する価格を意味します。法令等でその計算方法がいろいろと規定されていますが、寄附金での「時価」に近いものになるため、寄附金課税と似た効果を有しています。


移転価格税制の対象となる取引は、法令上、明確に規定されています。移転価格税制においては、国内グループ会社との取引に適用される寄附金税制のように、損金算入枠といったものはありません。


移転価格税制が適用される海外グループ会社(国外関連者)に対して寄附が行われた場合には、例外規定が置かれていて、移転価格税制と平仄を合わせるために損金算入枠は設けられていません。


実際、移転価格の問題なのか寄附金の問題なのか判然としないケースが多くありますが、特に(想定)否認金額が多くなってくると、この区分が非常に重要になってきます。

3.問題となる典型的な事例

以下、税務調査で疑問を招きやすい事項と、実務上のポイントを紹介します。


(1)子会社等の業績低迷による価格改定等(寄附金、移転価格)
この場合には、子会社等を「支援してあげた」ということではなく、「経済環境の変化に従って、ビジネス上、正当な価格に修正したまでである」といったことを丁寧に説明していく必要がある。
(2)債務免除(貸倒損失)・再建支援等(寄附金)
これらは明らかに「支援」に当たるため、寄附金課税が行われやすい事項。税務上、債務免除や再建支援等の損金算入が認められる要件は厳しく、法人税基本通達(9−4−1や9−4−2)の内容を確認しておく必要がある。
(3)グループ会社の工場立ち上げ時の出張(寄附金)
工場の立ち上げは、あくまでもその工場を所有するグループ会社の業務という考え方。この対価を請求すべきとされた場合には、出張者の日割りの人件費をベースに計算される。当該グループ会社がまだ設立されず、その設立について親会社の機関決定もない場合には、コストの親会社負担が認められる。親会社の機関決定以降は、当該グループ会社の開業費(繰延資産)等として処理。
(4)グループ会社の工場立ち上げに伴う親会社中古設備の無償供与・売却(寄附金、移転価格)
たとえば、帳簿残高が時価相場から乖離していると思われる場合には、別途、何らかの計算で時価を見積もって売却価額を決定する必要がある。移転価格の世界では、譲渡価格だけでなく、生産移管に伴って何らかのノウハウ(重要な無形資産)も一緒に移転したのではないかとして調査が行われることもある。
(5)出向・較差補填(寄附金)
較差補填金は、あくまで出向先法人の同レベル役職者と同水準の給与が支払われていることが前提となる。出向先で同水準以下の金額しか支払われず、日本の親会社での較差補填金が本来あるべき金額よりも大きい場合には、やはり寄附金の問題が発生する。
(6)研修費用(寄附金、移転価格)
コスト負担は、研修生を派遣するグループ会社が負うべきというのが税法の考え方。また、移転価格の観点から、重要な無形資産が海外に移転していないかが調査されるケースもある。
(7)グループ内役務提供(寄附金、移転価格)
間接部門のさまざまな業務(経理、IT等)を企業グループ内で一本化して業務の効率化を図る場合、本来、グループ会社が負担すべきコストを回収していないと、問題が生じる可能性がある。企業グループがマトリックス組織を採用している場合にも、給与負担について同様の問題が発生することがある。
(8)金利・保証(寄附金、移転価格)
グループ会社へ貸し付けた場合の金利はもちろん、グループ会社が親会社の保証を受けて金融機関から借入れをした場合にも、親会社はそのグループ会社から保証料を受け取る必要がある。
(9)海外グループ会社の高い営業利益率(移転価格)
海外グループ会社の営業利益率が同業他社に比べて高い場合には、税務当局は国外に所得を移転した結果ではないかとの仮説を立て、移転価格調査を実施することが往々にしてある。



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