心理的安全性の作り方とは?具体的方法と高い職場の4つのメリット

VUCA時代と言われる現在では、チームの一人ひとりが、環境や状況の変化に機敏かつ柔軟に適応して、新しいことにチャレンジしていけるような職場環境の構築が必要です。その構築の土台となるのが、チームの「心理的安全性」です。「心理的安全性」が高い職場は、従業員の成長と組織の成功を促す職場環境となります。

1.心理的安全性(psychological safety)とは

 「心理的安全性」の提唱者として知られる、ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・エドモンドソン(Amy Claire Edmondson)は著書『恐れのない組織』で「心理的安全性」を、『率直に発言したり懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを人々が安心して取れること』と定義しています。

 

心理的安全性はチームの大多数のメンバーが共有すると生まれる、集団全体で共有される心理的現象です。例えば会議に出席する大多数のメンバーが「率直に周りと異なる意見を言ったり、質問したり、提案したりしても嫌な顔をされない」と感じているなら、そこには心理的安全性が存在していると言えます。

 

メンバーのAさんがBさんだけには嫌な顔をされないと思っている場合は、「信頼」という個人特有の心理的現象で、明確に区別する必要があります。

2.心理的安全性が注目される背景

 「心理的安全」という用語は、1960年代にMIT(マサチューセッツ工科大学の組織研究者であるエドガー・シャイン教授とウォレン・ベニス教授によって最初に採用されたと考えられています。

 

近年、心理的安全性が注目された背景は、1999年にエドモンドソン教授の研究により、心理的安全性が「チーム学習行動とチームパフォーマンス」を促進することが実証され、その後、効果的なチームを可能とする条件を研究していたジュリア・ロゾフスキ率いるGoogle「プロジェクト・アリストテレス」チームによって取り上げられました。

 

「プロジェクト・アリストテレス」がテレビなどで報道されるにつれ、心理的安全性は、高いパフォーマンスを発揮するチームにとって「最も重要な要因」であると広く認識されることとなりました。


プロジェクトアリストテレス

プロジェクトアリストテレスは、2012年にGoogleが企業に向けて発信した「効率的なチーム」に関する研究報告です。古代ギリシャの哲学者・アリストテレスの言葉、「全体は部分の総和に勝る」にちなんで、「Project Aristotle」と名付けられました。

 

プロジェクトアリストテレスでは、効率的なチームに必要な要素として5つの柱を導き出しました。5つの柱とは「心理的安全性」「信頼性」「構造と明瞭さ」「仕事の意味」「インパクト」を指します。

 

①心理的安全性

効率的なチームに必要な要素の1つ目は、「心理的安全性」です。5つの柱の中でも、その重要性は群を抜いていて、他の4つの土台だと述べられています。

 

②信頼性

チームのメンバー同士が信頼し合っていれば、ハイクオリティかつ時間内に業務を仕上げる傾向にあります。逆に相互信頼の低いチームに所属するメンバーは、責任や自身がやるべき業務を他のメンバーに押し付ける傾向があります。

 

③構造と明瞭さ

チームに高い生産性を求めるにあたり、「職務や業務において要求されていること」「要求を満たすためのプロセス」「メンバーの働きによる成果」を明瞭にし、さらに各メンバーがその構造を理解している必要があります。

 

④仕事の意味

チームでの生産性を上げるためには、「仕事」と「仕事の成果」に対してきちんと意味を持たせる必要があります。「家計を支えるため」「プロジェクトを成功させるため」など仕事の意味は人によって異なります。メンバー全員が仕事の意味を感じられれば、モチベーションアップや働きがいがアップします。

 

⑤インパクト

ここでのインパクトは「自分の仕事には意義がある」ということを、チームのメンバーが自覚できるかどうかを指します。「個人の働きがチームや社内全体の目標達成に貢献している」ということをツールなどで可視化して、メンバーが仕事のインパクトを把握できることが大切です。

3.心理的安全性が低い職場の特徴

 エドモンドソン教授の定義を言い換えれば、素朴な疑問や納得出来ない点や思い付いたアイデアをチーム内で率直に気兼ねなく話せるということになります。

 

一見簡単なように思えますが、一方、誰しもが、例え建設的な意見であったにせよ、実際には言えなかった経験を持っているのではないでしょうか。

 

残念なことに、チームに心理的安全性が不足しているケースが多いのが実情です。まず、心理的安全性が必要であることを理解するために、不足しているチームの特徴についてお話しさせて頂きます。

 

(1)心理的安全性を阻害する「対人関係のリスク」

「対人関係のリスク」とは、素朴な疑問や思い付いたアイデアをチーム内で率直に気兼ねなく話すことの見返りとして、「無知」「無能」「邪魔」「否定的」だと周りから評価を受ける「罰」や「罰に対する不安」です。

 

前述のエドモンドソンは、心理的安全性を阻害する「対人関係のリスク」を大きく以下の4つのカテゴリーに分類しています。人々は職場で意識的にも無意識にも、「対人関係のリスク」に対応せざるを得ない場合、アイデアや疑問・懸念を率直に話し合うことを制限してしまいます。


 具体的には次のような現象が職場でよく見受けらるなら、心理的安全性が低いと考えられます。


①会議の後に質問がくる。

会議の場では特に質問は出ず、出席者全員が理解してくれた様子でしたが、廊下に出た途端、「さっきの○○はどういう意味?」と質問を受けた経験をお持ちの方は多いと思います。

 

質問を発端として、もっと有意義な議論ができた可能性や関連した問題点の洗い出し、又は、新たなアイデアが出た可能性をムダにしているケースです。

 

②建設的な意見が言えない。正しい現状報告が上がってこない。

上司の反応が分かるまでは、意見を言うことを控えるということが起こりがちです。特に、上司が進めたプロジェクトに関しては、率直な意見を言うことをためらうといったケースがこれに当たります。

 

同様に、現状報告についても、芳しくない状況の場合、「今は報告を控えよう」や「問題点については、触れずに報告する」というようなことが起こってしまいます。

 

③総論賛成・各論反対で、決まったことが進まない。

会議の場では、建設的に反対したり気兼ねなく考えを交換し合ったりということができないため、納得いかないまま実施すると決まったプロジェクトに対して、実施の段階で「実は賛成ではなかった」と協力をせず、プロジェクトが進まなくなるケースです。

 

(2)心理的安全性を阻害するその他の要因

 

①リーダーが、特定の目標を従業員に達成させるために権力を使うことが有効なマネジメントだと誤解している。

個人単位でほとんどの仕事が行われ、需要が右肩上がりで目標の達成が可能であった時代には、目標の未達者に対して、厳しく叱責するようなマネジメント(ノルマ主義)は、短期的に有効な側面を持っていたことは事実ではあります。

 

しかし、これでは心理的安全性にはほど遠い組織となります。又、限度を超えた目標をトップダウンで設定した場合、コンプライアンス違反や、顧客ロイヤルティーの低下を招き、最悪は、従業員の健康状態にまで影響を及ぼしかねません。

 

②リーダーが良い知らせしか歓迎しない

リーダーが良い知らせしか歓迎しない場合には、ミスの報告が遅くなったり、正しい現状報告が上がってこなくなるといったことが起こります。これでは、ミスを契機とした学習や改善が阻害されることはもちろん、経営戦略をミスリードする可能性すら生じます。

4.心理的安全性が高い職場の4つのメリット

心理的安全性を確保すると、どのような効果・メリットが得られるのでしょうか。大きく以下の4つが挙げられます。

 

(1)チーム学習能力の向上

心理的安全性が確保されることで、率直な意見交換やミス・失敗の共有がされることから、知識を共有したり、提案したり、より良いアプローチを話し合ったりする学習行動が活発化します。

 

変わりゆく事業環境の中で、急激な変化にも耐え回復する「しなやかさ」、環境に迅速に適応する「適応性」、そして自ら学び進化する「自己組織化」が推進されます。

 

こうした能力を組織が身につけることによって、長期にわたって持続的にパフォーマンスを出しつづけることができます。

 

(2)生産性の向上

Googleが行った「プロジェクト・アリストテレス」でも明らかになっていますが、組織の心理的安全性は、生産性に大きな効果を及ぼします。心理的安全性が高くなると、チームのメンバーにフロー状態が生じます。

 

フロー状態とは、心理学で夢中になる、のめり込んでいるといった精神状態を意味します。メンバー全員が安心しながら集中して仕事に取り組めるため、業務の生産性も高くなり、効率的に業務を遂行できます。

 

(3)イノベーションの促進

心理的安全性が低い組織は、もし意見やアイデアがあったとしても、「面倒がられるだけ」、「理解してもらえないから言っても無駄」といった状態に陥りやすくなります。

 

一方、心理的安全性が高い組織は、お互いを信頼でき、マネジメント層でなくても各自が、現状をより良くしていこうという前向きなマインド変化が育まれ、次々と新しいアイデアを出すことができます。

 

(4)離職率の低下・エンゲージメントの向上

心理的安全性が高いと、チームメンバーの関係も良好になり、また信頼されていると感じることから自己重要感(自分自身が価値のある存在であると感じる)が高まります。

 

その結果、仕事へのやりがいが生まれ、自分の能力や特技を活かしながら業務にも取り組めるため、エンゲージメントの向上に繋がります。又、今の会社で長く働きたいと思うようになることから優秀な人材の流出や退職の抑制にもつながる。


5.心理的安全性の計測方法

 心理的安全性を高める取り組みを始める前に、現状を計測することが大切です。エドモンドソン教授は、心理的安全性を7つの質問で計測する方法を提唱しています。

  (1)心理的安全性を測定する7つの質問

①チームの中でミスをすると、たいてい非難される

②チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える

③チームのメンバーは、自分と異なる個性を理由に他者を拒絶する場合がある

④チームに対してリスクのある行動や発言をしても安全である

⑤チームの他メンバーに助けを求めることは難しい

⑥チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない

⑦チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる

 

ネガティブな回答が多ければ、チーム内で信頼関係が築けておらず、上述した4つの「対人関係のリスク」に対応する必要が高いと考えられます。

 

(2)心理的安全性が高い職場でみられるサイン

他にも、エドモンドソン教授は心理的安全性が高い職場でみられるサインとして、

 

①ポジティブな発言が多い

②日頃からミスや問題についても話す機会が多い

③職場に常に笑いやユーモアがある

 

などを挙げています。チームメンバーの会話や雰囲気などを観察することで、心理的安全性の高低を確認できるはずです。

6.リーダーの心理的安全性の作り方

(1)チームの心理的安全性を作るのは誰か

エドモンドソン教授の研究により、心理的安全性は、チーム内のメンバーの相性が良くて生まれるものでも、知らぬ間に生まれるものではなく、心理的安全性の条件を上手く作り出せるリーダーがいる一方で、作り出せないリーダーがおり、リーダーが心理的安全性を作る上で重要な役割を果たすことが判明しています。

 

(2)リーダーの心理的安全性の作り方

冒頭に記載した通り、心理的安全性はチームの大多数のメンバーが共有すると生まれる集団全体で共有される心理的現象ですから、心理的安全性が不足している場合は、メンバーが持つ思い込み(「フレーム」)を根底から覆す「リフレーミング」を行う必要があります。

 

失敗を恥ずかしいものではないとする

IBMのトップとして同社を世界的大企業に育て上げ、「世界一偉大なセールスマン」と賞賛されたトーマス・ジョン・ワトソンは「仕事が軌道に乗っていると誤りを犯さないことが大切だが、それだけでは進歩がない。気が付くと人に(他社に)追い抜かれて窮地に立つということがしばしばある。常に新しいことに挑戦しつつ進路を切り開いていくことが大切だ。早く成功したいなら、失敗を二倍の速度で経験することだ。」という言葉を遺しています。

 

VUCAの時代には試行錯誤することを重視しなければなりません。積極的な失敗に「罰」を感じさせては、人は委縮して何も挑戦しなくなります。

 

②メンバーが発言しやすいよう参加を求める

まずリーダーは、気さくで話しやすいことが必要です。そのためにも、自分が完璧で何でも知っている訳ではなく、ミスをする人間であることを開示し、メンバーの発言を心から求める謙虚さを持たねばなりません。

 

具体的には、相手の目を見て報告を聞く、価値観の多様性を認める、否定・批判ばかりせず、例え、良くない報告であったとしても、報告してきたという行動自体を(内容と分けて)褒めるなどです。

 

ビジョンを共有し意欲を刺激する

自分たちの仕事がなぜ顧客や世の中にとって重要なのかをリーダーがメンバーに思い出させることは、困難を乗り越えることや、高い目標に向かうエネルギーが生まれやすくなります。極めて多くの心理学の研究により、目的と意味を実感することが高いパフォーマンスを上げることが証明されています。

 

サポートを意識したマネジメントを行う

前述のとおり、リーダーが組織における影響力を重視し、目標達成に権力を使うことは心理的安全性を大きく低下させます。

 

なぜなら、目標達成のために、部下には自身の影響力を背景に一方的に命令するコミュニケーションをとり、そして、目標未達の場合には、部下を「罰」することで責任を取らそうとするからです。

 

逆に、部下とともに協力して組織運営を行う、「サーバントリーダーシップ」という考え方をご紹介します。

 

「サーバントリーダーシップ」

「サーバントリーダーシップ」は相手の将来性・可能性を引き出し、同時に組織全体の成長にもつながるリーダーシップです。

リーダーは、「奉仕の精神」を中心に捉え、個人間の信頼関係を重視し、部下の話に耳を傾けることで目標を達成していきます。

 

「メンバーへの奉仕」とは、単に「優しく接する」ということではありません。チームメンバーに積極的に関わり、一人ひとりの意見に耳を傾けて理解を共有することを意味します。

 

チームメンバー一人ひとりのモチベーションを常に意識し、失敗があってもそこから学びとることで成功に結びつけようとするのが「サーバントリーダーシップ」であるとも言えます。

 

⑤「1on1ミーティング」を実施する

1on1ミーティング」とは、メンバー一人ひとりの目標や成果を確認するため、1on1(1対1)で上司と部下との対話を定期的に実施することです。上司に自分の意見を話せる場を1on1で行うことで心理的安全性を高める効果が期待できます。

 

1on1ミーティングにおいて重要なのは、上司が部下に現状の問題の解決策を考えさせることです。そのため、「部下に話をしてもらう」「上司が先に自分の考えや答えを言わない」「上司に依存した関係にならないようにする」といったことに注意しなければなりません。

 

また、問題があれば、その解決に向かって部下を実際の行動に導くことも必要です。上司から、相手が質問したくなるような雑談をしてみたり、「Yes」「No」では答えられない「オープンクエスチョン」(「なぜそう思いますか」「どこに旅行に行きたいですか」)を投げかけたりすることで、1on1の時間がより価値のあるものとなり、心理的安全性を高めることにつながります。

 

又、部下が一人で思い悩んで時間を無駄にしてしまうような事態でも、上司と話し合うことで、部下はより早く解決の糸口を見つけることができ、積極的に実施することで、経験学習のサイクルを促進するという効果があります。

 

さらに、「1on1ミーティング」の途中で、上司が「どのような仕事をしたいのか」と問いかけることをきっかけに、部下は自分のやりたいこと、あるいは現状の仕事の不満点などを自省し、「本当の自分」に気づくこともできます。

 

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7.メンバーの心理的安全性の作り方

リーダーが心理的安全性を作り出す柱ではありますが、チームのメンバーがリーダーシップ(他者に影響を与える能力)を発揮し、リーダーとしての役割を行うことも可能です。


(1)競争よりも協力を心掛ける

常にチームのメンバー同士の間で競争状態にある場合、リラックスして仕事をすることは難しく、逆に「困ったときは誰かに助けてもらえる」と感じられれば、安心して仕事ができます。

 

一人ひとりに分からないことや出来ないことがあるのは当然のこととして考え、相互に協力し合えるチームを構築することを心掛けましょう。

 

また、各自が仕事の目標や成果を公表し、互いの業務の「見える化」を行い称賛し合うことで、信頼関係はより強固となります。

 

(2)他のメンバーの意見に感謝する

自身が進めている案件に関して見つかった課題や問題に対する意見を他のメンバーから指摘された場合、自己防衛的な対応を行いがちです。

 

しかし、「自分自身も間違えることもあるしそれを認めても良いのだ」と考え方を少し変えるだけで、「指摘を受け入れて、改善しよう」とポジティブに捉えることできるができます。

 

又、反論する場合にも、指摘をしてくれたことに感謝の一言を添えることで、健全な議論を行うことができます。

8.まとめ

チームで仕事を進める上で失敗や苦労を経験している方、また、前の部署では上手くいったのに、この部署では上手くいかないといった経験のある方もいらっしゃると思います。

 

しかし、上手くいったとき、いかなかったときのご自身の行動をもう一度見つめ直したとき、「心理的安全性」の作り方に原因があったと気付く方が多いのではないでしょうか。

 

「心理的安全性」は組織・チームには今は眠っている多様な可能性と充実感と成果をもたらす土台です。この記事が少しでもお役に立つことを祈念しております。


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SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 教育事業グループ

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