エンパワーメントとは? 意味・導入のメリット・高め方を具体的に解説

「エンパワーメント(empowerment)」という言葉は,権利や権限を与える意味の法律用語として17世紀に使われ始め、その後アメリカの公民権運動やフェミニズム運動などの社会変革活動を契機に広く使われるようになりました。当時のエンパワーメントの発想には,「力のない」人々が力を得ていく、又は、「強者」が「弱者」に対し力を与え、弱者を解放していくというニュアンスが強くありました。時代と共に、教育、介護・福祉の領域でもエンパワーメントという言葉が使われるようになり、社会や組織で弱い立場の人たちに権利などを与えるというマイナスからゼロへというイメージの意味だけではなく、「人間性の尊重」や「人の可能性を信じ、その潜在能力を最大限発揮してもらう」といったゼロからプラスのイメージを持った言葉として使用されるに至っています。

1.エンパワーメントとは

「エンパワーメント」は、ビジネスシーンでは「権限委譲」や「権限付与」又は「能力開花」と訳されることが多いと思います。

 

しかし、英語における「empowerment」の意味は、「(法的に)権限を持たせること・権利を与えること」「自信を与えること」「力を付けてやること」といったもので、「人間に生来備わる能力を表に出す」といったニュアンスを持っています。

 

カタカナのまま「エンパワーメント」として使われる場合も、基本的にこのような意味合いになります。また、広い意味では「夢や希望を与え、人々を鼓舞する」といった使い方もされます。

2.エンパワーメントの概念の変遷

ⅰ)1970年代後半から1980年代に入ると,ジョン・コッター(ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授で、リーダーシップ論の世界的な権威。)やロザベス・モス・カンター(ハーバード・ビジネス・スクールの終身教授)などにより、組織が市場に素早く適応するためには,権限をミドルマネジメントなどに委譲していくという形のエンパワーメントが提言され注目されるようになりました。

 

その背景には、当時の米国の典型的なマネジメントスタイルの多くが指揮命令型であり、経営環境の変化への対応に必要な組織の柔軟性を阻害し、組織の硬直化を招いているという状況にあったためです。 

 

ⅱ)多くの企業が権限委譲によるエンパワーメントを標榜するようになりましたが、その本質が理解されず、形骸化しているケースも多くみられました。

 

形骸化の主な原因 

●権限委譲を導入した企業にとって、当時主流のトップダウン型企業がボトムアップ型企

へ変化する大きな組織構造の改革が必要であったこと。

●権限委譲される従業員サイドのスキル・能力面が追いついておらず、有効な効果が出なかったこと。

 

以上の形骸化の反省から、エンパワーメントは、次の三つ側面から捉えることが主流となってきています。



3.エンパワーメントの三つの側面

1)構造的アプローチ  ー客観的な権限(パワー)を与えるー

これまで上司の持っていた権限を部下個人又はチームと共有すること、あるいは部下個人又はチームに移譲すること

 

2)心理的アプローチ  ―自らをパワーがある者と認知する特定の心理状態を促すー

いくら権限といった客観的な権限(パワー)を与えたところで、それを認知しない限りは機能しません。具体的には、次の4つの感覚を持っていることを心理的にエンパワーメントされた状態とします。

 

●有意味感         自分の行っていることには意味があると思える

●自己効力感        やればできると思える

●自己決定感        自分が選択して決定していると思える

●影響感          周りに影響を与えているという自覚を持つことができる

 

心理的エンパワーメントの測定に関しては,Spreitzer 1995)が開発した尺度が使用されることが多くありますので、ご紹介します。それぞれの次元を3 項目の質問によって測定します。 

 


【出典】「心理的エンパワーメント研究の現状と課題」(吉野有助、松尾睦)より図1:心理的エンパワーメントの測定尺度(Spreitzer1995)を適宜編集

 

3)環境要因アプローチ  ―       上記①②を作り出す組織設計―

構造的エンパワーメント(権限付与)や心理的エンパワーメントを持つためには、リーダーシップのあり方(サポート)や職務設計のあり方など人を取り巻く環境が深く関係します。

 

環境要因は、エンパワーメントが発現するための先行条件であり、米国企業の形骸化の原因で述べたとおり、権限委譲を導入する前に、経営者をはじめ全従業員がエンパワーメントに対する共通認識を持てるよう企業風土の確立に取り組む必要があります。

 

権限委譲する側の取り組み姿勢として、エンパワーメント・リーダーシップという考え方と星野リゾートの導入事例をご紹介します。

 

4.エンパワーメント・リーダーシップ

エンパワーメント・リーダーシップとは、部下が戦略に基づく意思決定を主体的に行うことができるよう組織を構築(=権限委譲を組織の中に構築)し、部下のモチベーションを高め、組織としての目標を達成するために発揮するリーダーシップです。

 

エンパワーメントは、構成員の動きに統一性や一貫性がなくなり、組織の目標を実現できなくなる可能性があるため、部下の能力を見極め、適切な業務の権限委譲を行うことが重要となります。

 

例えば、部下の能力をはるかに超えた業務を任せた場合、十分な能力を発揮することはできず、期待通りの結果を得ることは難しくなります。

 

具体的には、「経営理念、ビジョンの共有」「正当な評価と報酬」「能力の把握と資源の提供」「適切なサポート」等が必要です。

 

星野リゾートの導入事例

リゾートホテルや旅館の運営を手がける株式会社星野リゾートは、国内でエンパワーメントを実践している企業として有名です。

 

トップダウン方式を改め、エンパワーメントの考え方を経営に取り入れることで、「一部の経営陣の能力に依存する組織」ではなく、「仕組み・文化・価値観を保持する組織」にし変貌しています。 

 

実施されている施策は、

1)フラットな組織

各施設は、総支配人、ユニット・ディレクター、プレイヤーの3層しかなく、情報の流れが非常に速く行われています。

 

又、この3層を上下関係とは捉えておらず、総支配人とユニット・ディレクターは、年功序列はおろか任命制でもなく、手上げ制の全社員による投票があり、投票結果を加味して決定されています。

 

2)オープンな経営情報公開と経営参画

職責やポジションに関係なく議論できる組織文化を重視している。そのためにも、経営情報は全員にオープンにしていて、毎月の経営会議は誰でも出入り自由であり、誰でも発言・質問・発表することが許されています

 

3)部下に異動希望を出させる

ユニット・ディレクターや総支配人といった管理職になるだけが成長の機会ではなく、違う仕事をすることも成長につながるという考え方です。

 

したがって、毎年、異動希望調査を行い、人事部が一方的に従業員に異動を命じるようなことはない。そして、総支配人は、メンバー全員が異動希望を出すことを目標にするように言われているので、囲い込むこともできません。  

5.エンパワーメント導入のメリット

導入のメリットには、次の3つが上げられます。

 

1)意思決定のスピードがアップする。

業務スピードのアップは、経営環境への対応力の向上や生産性の向上だけでなく、顧客に対してより柔軟な対応が出来るようになり、顧客満足度の向上にも繋がります。

 

2)オーナーシップの醸成

自分自身で意思決定することにより、結果に対する責任感が芽生え、オーナーシップの醸成に繋がります。

 

3)マネジメント能力の習得

裁量権を与えることで、課題解決力やプロセスを考える力が磨かれると共に、経験を積み重ねる結果、マネジメント能力を身につけることができます。又、次世代のリーダーを育成する上でも、効果を発揮します。 

6.エンパワーメントの高め方

それでは、エンパワーメントを高めるための導入・実施ステップについて考えていきましょう。

 

(1)経営層による企業風土の構築

米国企業の形骸化の原因で説明したとおり、エンパワーメントは、全社を挙げて取り組まねば成功しません。

 

経営層は、権限委譲に関わる経営の方針を明確に宣言し、全従業員が共通認識を持てるよう企業風土の構築に努めなければなりません。

 

又、エンパワーメントの効果は、短期より長期的に効果が発現するという研究結果も出ています。経営層・管理層は、権限を委譲したら必要以上に介入せず、部下を信頼して任せる姿勢を持つことが大切です。その上で、困難な状況に陥っているときには、適切に支援していきます。

 

(2)ルールの明確化

エンパワーメントの推進は、構成員の自己判断による行動を促すことになり、結果として、判断のバラツキが発生する可能性がありますので、判断の基本となる行動規範が明示され、浸透していなければなりません。

 

行動規範(バリュー)とは、組織内で大切にする価値観であり、ミッションやビジョンを実現するための考え方や行動を示すものでもあります。

 

行動規範を明示するときには、

 

●自分たちが「何を大切にする組織でありたいか」

●「ミッションやビジョンを実現するうえでどんな行動・意思決定が大切であるか」

●組織でいま実践されている「良い習慣・行動規範」を振り返り確認する

 

等の検討を行い、分かりやすく、企業としてブレのないものとすることが必要です。

 

(3)情報の共有と目標設定

意思決定に必要なのは、情報の共有とビジョンに基づいた目標設定です。意思決定を行うためには、企業の置かれた状況や、現状の立ち位置、経営としてのビジョン等の情報が必要です。

 

又、目標設定においては、心理的アプローチで説明したとおり、有意味感・自己効力感・自己決定感・影響感を持てるよう、目標への合意と共感を得るよう配慮すると共に、手段の自由度を許容します。 

7.まとめ

経営環境が激しく変化する中で、企業には新しいチャレンジやイノベーションを起こすことのできる、自発性と機動性に富んだ個の集まりであることが求められます。

 

エンパワーメントは、企業の課題を“自分自身の課題”と主体的に捉え、強い情熱と責任感を持って取り組む姿勢を育み、具体的な成果をもたらすと共に、次世代のリーダーの育成にも寄与します。

 

日本企業には、もともとボトムアップの風土があり、導入を可能にする基盤があると考えられます。是非、エンパワーメントの本質を理解し、導入を推進して頂ければと思います。

 


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