Netpress 第2465号 最近増えています 突然、テナント賃料の増額を言われたら…

Point
1.最近の物価高騰を受け、テナント賃料の引き上げの動きがあります。
2.賃料の引き上げ要請への対応は、借地借家法の規定を踏まえる必要があります。


日本橋総合法律事務所
弁護士 北本 大志


 入居しているビルの大家から、来月から賃料を増額するとの通知が来ました。どのように対応すればよいでしょうか。


 本記事では、賃借人である事業会社が、相当な賃料で現在の事務所に入居し続けるために、どのように対応すべきか解説します。


 不動産の賃貸借については、借地借家法の規定を踏まえた対応が必要です。上記の賃料増額の通知は、借地借家法が規定する賃料増額請求の権利を大家が行使したと解釈できます。

1.賃料増額請求(借地借家法32条)とは

 いったん決めた賃料も経済事情等の変動により不相当となる場合があります。


 そのような場合に、同条1項は、賃料増減請求権を認めています。


 この権利は形成権といわれ、賃料増減請求の意思表示が到達した日から賃料の増減の効果が発生します。


 そのため、判決などで賃料増減が認められた場合、その効果は意思表示の到達時点に遡ります。


 ただし、上述のように実務上は、賃料増減請求の到達後に到来する一定の期日以降の増減を請求する例が多く、この場合には、当該一定の期日から増減の効果が発生します。


 賃料増減請求は口頭でも有効ですが、証明等の問題から書面で行われるのが通常です。

2.賃料が不相当となる場合とは

 どのような場合に、賃料が不相当として賃料増減が認められるのでしょうか。


 法律および裁判例は賃料の最終合意時点から以下の事情により賃料が不相当となったことを挙げていますが、これらのみに限らず、あらゆる事情が総合考慮されます。


(1) 借地借家法32条1項

① 土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減

② 土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動

③ 近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき


(2) 裁判例

④ 当事者が事業者か否かの当事者の属性

⑤ 事業の規模

⑥ 建物が居住用か営業用であるかなどの賃借建物の用途ないし性格

⑦ 賃貸借契約締結の際における交渉の経緯

⑧ 当事者の意思

⑨ 契約締結後の事情  など

3.大家の指定する賃料の金額に納得がいかない場合

 賃料増額請求をされたが、指定された額に納得がいかない場合はどうすればよいでしょうか。


 裁判が確定するまでの間、賃借人は賃借人自身が相当と認める額の賃料を支払えば足りる、とされています(借地借家法32条2項本文)。ただし、これは、相当と認める賃料を支払えば解除されないというに留まり、裁判が確定した場合には、不足額と、これに対する年1割の利息を支払わなければなりません。


 実務上は判決が確定するまでの間、従前の賃料を支払うことが多いです。

4.大家と協議をしたがまとまらない場合

 賃料増額請求された場合には、当事者で協議を行うのが通常ですが、それでも話し合いがまとまらない場合には、法的手段が採られることになります。


 賃料増減請求については、いきなり訴えることはできず、まず、訴え提起前に調停を行う必要があります(調停前置主義といいます。民事調停法24条の2)。


 調停では、話し合いによる解決が目指され、調停委員が両当事者に対して調整を行います。賃貸人と賃借人それぞれ別に話を聞くのが一般的です。


 調停では、約3割程度解決するといわれています。


 調停で解決しなければ、訴訟によることになります。

5.訴訟になった場合

 賃料増額請求の訴訟は以下のように進められます。


(1)
 訴訟は当事者の言い分を何度か主張しあった後、争点を整理して、鑑定に付されるのが通常です。当事者の一方または双方が鑑定書(私的鑑定といいます)を出すこともありますが、この場合も通常は裁判所が公平な立場で不動産鑑定士に鑑定を依頼します。

 鑑定費用をどちらが負担するかは判決で決まることになりますが、いったんは原告が予納することになります(被告の同意を得て原告及び被告が折半で予納することも多くあります。)。

 鑑定費用がどの程度必要かは事案によりますが、一般に一物件について50万円程度必要になるのが通常です。

(2)
 鑑定は、以下の手法を複数採用して総合的に判断して決せられます。

差額配分法:新規賃料と現実の賃料の差額を、賃貸人と賃借人とで負担すべき割合に応じて割り振り、相当賃料へと修正する方法

利回り方式:建物の価格を基礎として、これに期待利回りを乗じて得た賃料に必要経費等を加算して相当賃料を定める方法

スライド方式:従前の賃料に、その後の経済事情の変動率(物価指数や家賃地代の変動指数)を乗じて相当賃料を定める方法

賃貸事例比較方式:近隣の賃貸事例と比較して相当賃料を求める方法

(3)
 鑑定が行われた場合には、裁判所は、鑑定評価に不合理なところがないか、当事者間に特殊な事情・約束がないかを検討し、これらがなければ鑑定による賃料を適正賃料として判決してもよいとされています。

 ただ、上記手法を用いて裁判所が独自に適正賃料を算定することはほとんどありません。

 現実には、鑑定をもとに(場合によっては鑑定前に)和解が試みられ、和解で終了する事件がほとんどです。



◎協力/日本実業出版社

日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/



この記事はPDF形式でダウンロードできます

SMBCコンサルティングでは、法律・税務会計・労務人事制度など、経営に関するお役立ち情報「Netpress」を毎週発信しています。A4サイズ2ページ程にまとめているので、ちょっとした空き時間にお読みいただけます。

PDFはこちら



【SMBC経営懇話会会員限定】
SMBCコンサルティングの顧問弁護士による無料経営相談(東京)のご案内
日本橋総合法律事務所はSMBCコンサルティング株式会社の顧問弁護士です。
毎週木曜日の10:00から17:00まで、SMBC経営懇話会会員向けの法律に関する無料経営相談を受けております。
無料経営相談の申込はこちら



SMBC経営懇話会のサービスはこちらをご覧ください
SMBC経営懇話会のご案内

プロフィール

SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 経営相談グループ

SMBC経営懇話会の会員企業様向けに、「無料経営相談」をご提供しています。

法務・税務・経営などの様々な問題に、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・コンサルタントや当社相談員がアドバイス。来社相談、電話相談のほか、オンラインによる相談にも対応致します。会員企業の社員の方であれば“どなたでも、何回でも”無料でご利用頂けます。

https://infolounge.smbcc-businessclub.jp/soudan


受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート