【元監督官の視点】 労基署はここを見ている!人事担当者のための「健康診断」実務を分かり易く解説


1. はじめに

 労働安全衛生法(以下、「安衛法」)に基づき、事業者に実施が義務付けられている「健康診断」は、単なる福利厚生の一環ではなく、労働者の健康管理における法的基盤としての重要な位置づけを担っています。

 労働基準監督署による調査(臨検)においても、健康診断の実施状況は実務上の基本事項として確認されます。健康診断が適正に実施され、その結果に基づき適切な事後措置がとられているかは、労働基準監督官がまず着目する重要なポイントです。

 本稿では、臨検において「どの項目が、どのような意図で注視されているのか」という視点を交えながら、実務に即した健康診断の重要性について紐解いていきます。


2. 健康診断の実施について

 事業者は、受診対象となる労働者に対し、法令で定められた時期に健康診断を実施しなければなりません。これらの健康診断は、常時使用する労働者を対象とする「一般健康診断」と、特定の有害業務に常時従事する労働者を対象とする「一般健康診断以外の健康診断」に分けられます。


図表1 筆者作成


図表2 筆者作成


 なお、「一般健康診断」の対象となる「常時使用する労働者」の範囲は以下のとおりです。


(1)通常の労働者(正社員など)

(2)パートタイマーやアルバイト等の雇用形態にかかわらず、

 (A)(B)のいずれの要件も満たす者

  (A)契約期間に関する要件(いずれかに該当すること)

  • 期間の定めのない契約(無期雇用)
  • 1年以上の契約期間がある(特定業務に従事する者は6か月以上)
  • 更新により1年以上の雇用が見込まれる、または、1年以上継続雇用されている

  (B)労働時間に関する要件

  • 1週間の労働時間が、当該事業場で同種業務に従事する通常の労働者の4分の3以上である


 臨検では、健康診断の実施の有無だけでなく、実施頻度や対象者の選定についても確認されます。

 例えば、パートタイマーや有期雇用労働者を一律に一般健康診断の対象から除いていたり、あるいは社会保険加入者のみ対象としているケースが見られます。

 しかし、上記(2)の要件を満たす者については、本来、一般健康診断を実施しなければならず、これは必ずしも社会保険の加入範囲と一致するわけではないため、注意が必要です。

 また、企業によっては「健康診断は40歳以上の労働者が対象である」などと誤認しているケースも見られます。しかし、法令上は原則として全年齢の労働者が健康診断の対象であり、若年層についても実施義務がある点に注意が必要です。

 また、健康診断を自治体の「住民健診」で代用するケースも見られます。この場合、法定の検査項目や実施頻度といった要件を満たさないときは、健康診断の実施義務を果たしたことにならない点に留意が必要です。


3. 健康診断の事後措置

 健康診断の実施後は、適切な事後措置を講じることが事業者に義務付けられています。臨検では主に、以下の措置が適正に講じられているかが確認されます。

 なお、労働安全衛生法令に規定する事後措置の全体像は、図表3のとおりです。


図表3 筆者作成


3-1 健康診断結果の通知(安衛法第66条の6、安衛則第51条の4)

 事業者は、健診結果を遅滞なく労働者に通知しなければなりません。


3-2 医師等からの意見聴取(安衛法第66条の4、安衛則第51条の2)

 健康診断の結果、異常の所見があると診断された者(有所見者)について、就業上の措置(3-3)の必要性を判断するため、健康診断の実施日から3カ月以内に医師(または歯科医師)の意見を聴くことが義務付けられています。

 特に留意すべきは、意見聴取の対象となる「有所見者」の範囲です。臨検時の指摘で多いのが、軽度異常を示す「B判定」(経過観察)の労働者を、会社判断で「有所見者」から除外しているケースです。軽度の所見であっても、意見聴取の対象となる「有所見者」に含まれる点に注意が必要です。

 なお、意見聴取を行う医師等は、産業医のほか、例えば健診実施機関の医師等でも差し支えありません。


図表4 パンフレット「労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置について(厚生労働省)」より引用


3-3 就業上の措置の検討および実施(安衛法第66条の5)

 意見聴取(3-2)で就業上の措置を講じるよう医師等より意見を受けた場合、事業者は必要に応じて、適切な措置を講じなければなりません。


図表5 パンフレット「中小企業事業者のために産業医ができること(独立行政法人 労働者健康安全機構)」10ページより引用


3-4 健康診断個人票の作成および保存(安衛法第66条の3、安衛則第51条)

 事業者は、健康診断の結果に基づき、労働者ごとに「健康診断個人票」を作成し、これを保存しなければなりません。保存期間は原則として5年間ですが、特定化学物質や石綿の健康診断など、30年間や40年間の保存が義務付けられているものもある点に注意が必要です。


図表6 定期健康診断個人票様式(厚生労働省)


3-5 健康診断結果報告書の提出(安衛法第100条第1項、安衛則第52条)

 定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、特殊健康診断、じん肺健康診断および歯科医師による健康診断を行った際は、「健康診断結果報告書」等により、これらの健康診断の結果を、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません(ただし、「定期健康診断」および「特定業務従事者の健康診断」の報告は労働者数が常時50人以上の事業場に限る)。

 なお、2025年1月以降、一部の健康診断を除き、原則として電子申請による報告が義務化されています。

 臨検では、過去の報告実績や臨検の際に確認した内容をもとに、報告状況や報告頻度が適切であるかが確認されます。


図表7 筆者作成


図表8 定期健康診断結果報告書(厚生労働省HPより)


3-6 保健指導(安衛法第66条の7)

 健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対しては、医師や保健師による保健指導を受けさせるよう努めなければなりません。


3-7小規模事業場への支援(地域産業保健センターの活用)

 労働者数50人未満の小規模事業場では、産業医の選任義務がないことから、有所見者への意見聴取などの対応を行う医師を確保することが難しい場合があります。このような場合は、地域産業保健センター(通称:地さんぽ)が提供する支援制度を活用することも一案です。

 「地さんぽ」では、医師の意見聴取などのサービスを無料で受けることが可能です(利用回数には制限あり)。なお、予約が混み合うことも多いため、早めの相談がおすすめです。


図表9 産業保健センターリーフレット(独立行政法人労働者健康安全機構)より引用


4. おわりに

 健康診断の適切な実施と事後措置は、企業(事業者)に課せられた基本的な法的義務の一つです。臨検において各種手続きや対応の実施漏れといった指摘を受けないためには、普段から適切な運用を行うことが欠かせません。これを機に、自社の運用体制に不備がないか、改めて点検を行ってみてはいかがでしょうか。

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