2024年ヒット商品番付 新しい時代への一歩を踏み出した 1 年 ~転機の年、新たな挑戦へ~

  2024 年は年始早々能登半島地震が発生。その後同地を襲った豪雨災害も深刻な被害をもたらし、復興支援や防災体制の強化が議論された。また日本各地においても地震・台風・洪水・猛暑等の自然災害が多発。防災や温暖化対策の重要性が改めて認識された 1 年であった。
 政治面についてみると、米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が再選。第二次トランプ政権の保護主義的な政策に国際的な注目が集まっている。また、国内では、衆議院議員選挙で自民党が歴史的な大敗を喫し少数与党に転落。立憲民主党・国民民主党等の野党勢力が台頭し、改革が期待される一方、政治の転換期を迎え今後の石破政権の運営を不安視する声も多い。

 そんな中、2024 年は新たな時代に踏み出した1年でもあった。まず注目したいのはパリオリンピック・パラリンピック。大会公式スローガンは”Games wide open(広く開かれた大会)”とされ、カーボンオフセット・SDGs 等を推進して様々な取組みがなされた。国内についてみると、20 年ぶりに新紙幣が発行され、経済の新たな始まりを象徴する出来事となった。渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎の肖像が描かれた新しい紙幣は、最先端のホログラム技術を導入した偽造防止、また日本人以外や目の不自由な人も利用しやすい「ユニバーサルデザイン」が特徴だ。
 人々が今後を不安視する中でも、オリンピック・パラリンピックでの日本選手の活躍や大谷翔平選手の新記録樹立、ワールドシリーズ優勝など、勇気づけられる話題もあったこの 1 年。新しい時代への一歩としてどのようなものが注目されたのか、2024 年のヒット商品番付を発表したい。

活躍する日本人

(写真協力:Vitalii Vitleo/Shutterstock.com)
 2024年は、日本人が世界で躍動し、多くの人々に感動を届けた1年であった。パリオリンピック・パラリンピックでは日本のアスリートたちが歴史に残る活躍を見せ、特に柔道や陸上競技でのメダル獲得が注目を集めた。陸上では若い世代が台頭し、新たなヒーロー・ヒロインが誕生。馬術やフェンシングなどの団体競技でも予想を上回る戦いを見せ、スポーツが国を一つにすることを感じさせてくれた。

 また、2024年も大谷翔平選手の名前はスポーツ界にとどろき続けた。2023年12月にエンゼルスからドジャースに移籍。契約金はプロスポーツ選手史上最高額とされる10年総額7億米ドル(約1,015億円、当時の為替換算)に達した。8月にはMLB新記録となる「43本塁打&43盗塁」を達成。2024年シーズンを通じた成績は、159試合出場、打率.310、本塁打54本、盗塁59、打点130の輝かしい記録。大谷選手が目標と語っていたワールドシリーズ優勝も果たし、リーグMVPを2年連続3度目の受賞。移籍1年目から充実した年となった。

 芸術の分野でも日本の影響力は大きな話題を集めた。ドラマ「SHOGUN 将軍」は、米国で放送・配信された米国制作の時代劇ドラマ。セリフの多くを日本語にすることで、錚々たる俳優陣のキャスティングを可能にした。よりリアルな日本の歴史と文化を新たな視点で描き、世界中で話題となり、米国で優れたドラマに与えられるエミー賞を受賞した。

 宇宙科学の分野でも快挙が生まれた。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の探査機SLIMが日本初の月面着陸を成功させ、宇宙開発における日本の技術力を世界に示した。この月面着陸は「降りたい場所に降りる」ピンポイント着陸の世界初の成功例となり、宇宙探査の新たな可能性を切り開いた。



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新たな挑戦

 2024年は、挑戦と変革が交錯する1年だった。

 家計に注目すると2024年から新NISA制度が導入され、非課税期間の無期限化や非課税上限額の拡大など、これまでより投資しやすい環境が整備された。新NISAは従来のNISAを大幅に拡充し、「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の2つの枠組みを設け、幅広い資産運用の選択肢で資産形成を目指しやすくなっている。その中でも投資対象として特に注目されたのは「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」。通称「オルカン」だ。その名の通り世界中の株式に投資出来ることが特徴で、手軽にリスクを抑えた分散投資ができ、かつ運用コストが安い等の理由から人気を博した。日本人は投資を好まないといわれるが、新NISAにより貯蓄から投資への流れが加速することが期待されている。

 そして「Vポイント」の台頭も見逃せない。2024年4月カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループのTポイントとSMBCグループのVポイントが統合。会員数8,600万人(アクティブユーザー数)は、ポイント経済圏においても新たなポジションを確立した。対象店舗でのタッチ決済による還元率が高いことや、三井住友銀行が提供する金融アプリ「Olive」を利用すると最大20%まで還元率が引き上げられるなどユーザーへのサービスも充実。激戦と呼ばれるポイント経済圏が今後どのように変革していくか、消費者としても目が離せない。

(写真提供:東急不動産)
 都市開発の分野でも新しい挑戦が見られた。
東京では渋谷サクラステージ(渋谷区)が2024年7月に全面開業。渋谷桜丘エリアでの大型再開発として地形の不便さをカバーし、未来型の都市空間を提供。駅と繁華街の回遊性を高めた。一方、大阪ではグラングリーン大阪(大阪市北区)が2024年9月先行まちびらき。関西最後の一等地と呼ばれるJR大阪駅北側の再開発プロジェクトで、うめきた2期開発として公園を中心としたまちづくりが注目された。西日本最大のターミナル駅前に圧倒的なみどりを有する大規模複合開発として話題を呼んでいる。

(©Akira Ito.aifoto)

 半導体分野でもビッグニュースがあった。半導体製造受託最大手のTSMC(台湾)が熊本に新工場を開設。日本の半導体産業に新たな活力がもたらされると期待されている。この新工場は最新鋭の製造プロセスを導入し、国内での半導体生産能力を大幅に向上させた。更にTSMCの進出は、日本企業との共同開発や技術交流を促進し、国内の技術者育成やイノベーションの加速にも繋がると注目されている。

 このように、2024年は経済、都市開発、技術の各分野で大きく動いた年であった。これらの挑戦が将来にどのような影響をもたらすか、今後の動向に注目したい。


不安と変化の混在した2024年

 2024年は、不安と変化が交錯する1年でもあった。元旦に石川県能登半島地震が発生し、その翌日には羽田空港で地震の支援に向かう航空機の衝突事故が起こり先行き不安な幕開けとなった。一方で2024年3月に北陸新幹線の金沢―敦賀間が開業。東京から福井まで最短2時間51分でアクセスが可能となり、地震で大きな被害を受けた北陸地方復興の後押しとなることが期待されている。JR西日本の発表によると、お盆期間中の8月9日から18日までの、金沢-福井間の新幹線利用者数は前年と比べて36%増の29万1千人となり、多くの人々が福井県を訪れた。

(出典:財務省ウェブサイトhttps://www.mof.go.jp/policy/currency/bill/230628.html)
 2024年7月には20年ぶりに新紙幣が発行。キャッシュレスの時代においても、いち早く新紙幣を手に入れようと各地で多くの人が両替の列に並び話題となった。偽造防止のために新紙幣に施された高精密なすき入れ(すかし)や3Dホログラムは、この20年間で日本の印刷技術がいかに進化したかがうかがえる。

 2024年8月に宮崎県日向灘を震源とする最大震度6弱を観測した地震が発生。気象庁は初の南海トラフ地震臨時情報を発表した。発生後の一週間、日本国内の広範囲において大規模地震のリスクへの防災情報の確認や日頃の備えの徹底が呼びかけられた。そのため東海道新幹線が一部区間で徐行運転をしたほか、域内沿岸部の特急が運休した。また海水浴はじめ各種イベントの中止が相次いだり、備蓄用に水や米を買い占める人が急増し一時はスーパーなど棚から商品が消えてしまうこともあった。


 その後、新米の収穫前までの間、令和の米騒動と呼ばれる事態が発生。米の価格が大幅に上昇し、多くの家庭が米の品不足の影響を受けた。前年の猛暑の影響で米の出来が良くなかったうえ、物価高騰に悩む家庭にとって割安感があったことや新型コロナウィルスで落ち込んでいた需要の回復等も影響したとみられている。また2024年の訪日外国人客数は過去最高が見込まれており、それによる米の需要への影響も生じていたことも原因のひとつだった。

 政治についても激動の1年であった。10月の衆議院議員総選挙は国民の関心を集め、与野党が熱い政策論争を繰り広げた。選挙結果は15年ぶりに与党自由民主党・公明党の連立政権が過半数割れし、少数与党となった。野党の国民民主党等と政策協議を行いながら国会運営をすることとなり今後の第二次石破政権の運営が注目されている。一方、世界情勢においては米国大統領選挙で共和党候補のドナルド・トランプ氏が132年ぶり2人目の大統領返り咲きを果たして大きな波紋を呼んだ。過激な言動でなにかと物議を呼ぶトランプ氏であるが、第二次トランプ政権は”米国第一主義”の保護主義的な政策を推進することを表明しており、その影響に国際的な注目が集まっている。また2024年は英国でも政権交代となり、日本同様、フランスと台湾では与党が少数派に転落、インドや韓国でも与党が弱体化している。そして欧州議会選挙でも連立与党が大敗しドイツも連立政権が崩壊した。このようにコロナとインフレ後に各国の政権与党が不振であったともいえ、国内外で今後大きな変化が感じられる貌となった。


2024年にヒットしたものは

 社会がさまざまな変化を見せる中、2024年他にはどのようなものがヒットしたのであろうか。2024年は斬新な技術やユニークな文化が世の中を彩った年だった。中でもAIスマホは多くの人々の生活を変える商品となる可能性がある。米グーグル社、韓国サムスン電子、米アップル社等で生成AIをスマホに搭載する動きが相次いでおり、「AIスマホ」の登場が今の成熟したスマホ市場をどう打開していくのか注目したい。

 また、2020年にフランスでリリースされたSNSアプリ「BeReal.」は若者を中心に爆発的な人気を集めた。1日1回ランダムに来る通知に合わせて2分以内に撮影する写真共有SNSで、写真はアプリのカメラで撮影したものしか投稿できないため、加工アプリで「盛る」ことも不可能。こうした制限によって、「通知が来た瞬間に加工なしでどれだけ良い写真を撮るか」というゲーム性が生じたことやその2分間で真剣に投稿する人たちを「BeRealガチ勢」と呼ぶなど独特の言葉も出回り人気に拍車をかけた。

 夏は記録的な猛暑が続いたこともあり冷感グッズが大ヒット。おなじみとなったポータブル扇風機のほかにも、ひんやりタオルや冷感シート、涼しさをキープする特殊素材のベッドパッドなど、さまざまな商品が店頭に置かれた。男性用の日傘もメジャーとなり、順調に売上を伸ばした。

 一方、飲料業界では6月に販売を開始した「未来のレモンサワー」がブームに。フルオープンの缶のふたを開けると、中に入っているレモンスライスが浮かびあがる世界初の仕掛けが施されており話題となった。レモンスライスの調達や製造量に制限があるため、1都9県での数量限定販売だったが、多くの量販店で売り切れが相次ぐなど再販を求める声が続出。8月と11月に1都9県で再販、12月には東海・北陸・近畿の2府11県で初めての発売を予定している。

 音楽ではCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」。甲本一氏原作のアニメ『マッシュル-MASHLE-神覚者候補選抜試験編』のオープニングテーマとしても人気を博した。その中毒性のある楽曲と独特なリズムにより世界規模で強烈なインパクトを与えた。

© 2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
 映画では4月12日に公開された劇場版「名探偵コナン100万ドルの五稜星(みちしるべ)」が大ヒット。公開後73日間で興行収入150.5億円を記録し、邦画史上10本目となる150億円突破の快挙を達成した。劇場版「名探偵コナン」シリーズの歴代最高興行収入記録を更新。シリーズアニメで興行収入が2作連続で100億円を突破するのは邦画史上初の快挙となった。なお、公開後もBlu-rayとDVDが11月27日にリリース予定であり、引き続き興奮するファンも多そうだ。

 ドラマでは、宮藤官九郎氏がオリジナル脚本を手がける「不適切にもほどがある!」が、ハラスメントやコンプライアンスなど令和の時代で社会問題となっているネタを昭和の切り口で扱うことで視聴者の共感を呼んだ。昭和世代ならではの刺激的な内容もあったが、それを令和と対比しながら風刺する表現が作品への関心を高めることとなった。


 2024年は自然災害の多発や、国内外の政治の転換期などに不安を生じた1年だったが、そんな中でも様々な新しいものやコンテンツが生み出された年でもあった。今年踏み出した新たな一歩が来年、再来年、その先の明るい未来に繋がっていくことを期待したい。


最後に

1970年代から約50年にわたって発表してまいりました弊社の「ヒット商品番付」は今回を以って最終回とさせていただくこととなりました。

新たな一歩を踏み出し、皆様に更なる付加価値をお届けできるよう、より一層取り組んで参りますので、今後とも宜しくお願いいたします。


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(注)本番付は、相撲番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。

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