2022年ヒット商品番付 新時代を模索した1年 ~混沌とした情勢下での挑戦~

2022年は前年、前々年から引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた1年だった。東京都では1月22日に感染者数が初めて1万人を超え、その後も高止まりが続いた。一方で、多くの感染者は軽度から中等度の症状であり、社会は徐々に行動制限解除の方向へ進んでいった。それに伴い、ゴールデンウィークや夏休みは3年振りに行動制限のないものとなり、各地で祭りやイベントが復活した。また、政府は10月11日に入国者数の上限を撤廃。インバウンドの受け入れも再開したことから、本格的な行動制限なし・水際対策緩和のwithコロナ時代に突入した。
国内外でショッキングな出来事が相次いだのも2022年の特徴だ。2月24日にロシアがウクライナに侵攻。戦火は長期化しており、多くの人が犠牲になっているほか、世界にエネルギー不安をもたらしている。国内においても、7月8日に参議院議員選挙の応援演説で奈良県を訪れていた安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、多くの国民に衝撃を与えた。経済面では、記録的な円安が続く中、エネルギー価格の高騰や輸入コストの増加が物価上昇につながり、食料品の値上げが家庭や企業を直撃。インフレ時代に備えて人々のライフスタイルが変化しつつあり、今後の動向に目が離せない。

このような混沌とした情勢下、次の時代を担う若者の挑戦が人々を勇気づけた。海外では、エンゼルスの大谷翔平選手が、ベーブ・ルース以来約100年ぶりの2桁勝利・2桁本塁打という偉業を達成。国内でも、ヤクルトの村上宗隆選手が、王貞治氏の持つ日本人選手のシーズン最多本塁打記録を58年ぶりに更新する56本塁打を放つなど、日本プロ野球界も話題が尽きなかった。
ビジネス界では、中長期的な企業価値向上につなげるための人的資本経営やリスキリングが注目され、企業のあり方や組織の再編が進む一方、メタバース、フードテック、Deep Techなど、さまざまな次世代テクノロジーが新しいビジネスを生み出している。先が見えないからこそ歩みが止められない時代に、どのようなものが注目されたのか。2022年のヒット商品を番付したい。

withコロナ時代幕開けの一方で、新たな不安が

7月の3連休初日の京都市内。祇園祭の山鉾巡行を翌日に控え、観光客らでにぎわう歩道では交通整理も行われていた(朝日新聞社提供)

2022年は、やはり新型コロナウイルス感染症に大きな影響を受けた1年であった。年明けから東京都など首都圏を中心に感染者が増加。1月22日には東京で初めて1万人を超える感染者が確認され、人々は昨年から引き続き、行動制限を受けることとなった。だが一方で、多くの感染者は軽度から中等度の症状に留まり、社会は再び行動制限のない生活へと歩みを進めていった。結果、ゴールデンウィークや夏休みは行動制限のないものとなり、各地で祭りやイベントが復活。多くの人が久しぶりの自由な休日を謳歌した。さらに水際対策も緩和され、政府が10月11日にこれまで続けていた入国者数の上限を撤廃したことから、徐々に訪日外国人旅行者の数も増えてきており、冷え切った観光産業の活性化に期待がかかる。とはいえ、再び感染者数が増加を見せていることから、まだしばらくは不安定な中での手探りの動きになることも否めない。

そのような状況下で、この先をさらに不透明にする出来事も起こった。2月24日に突如始まったロシア連邦のウクライナへの軍事侵攻は、2国間の問題に留まらず、世界にエネルギー安全保障上の危機を生み出した。ロシアは世界有数の化石燃料輸出国であり、EU諸国は陸続きである同国に依存していた。ただでさえ上昇が続いていた世界のエネルギー価格は、侵攻による影響でさらなる高騰へとつながり、3月7日には、1バレル=130米ドルを13年8カ月ぶりに超えた。当然、日本への影響も大きく、大手電力10社における10月の電気料金は過去5年間で最高水準に達した。加えて、円安も進んでいる。3月以降、ドル高円安の傾向は続いており、10月20日の東京市場におけるドル円レートは1ドル150円台に乗せ、32年来の安値水準を更新。これらエネルギー価格の高騰や、円安による輸入コストの増加は物価上昇につながり、10月には6700品目以上の食料品が値上げされるなど、家庭や企業を直撃した。

これに対し、人々は多くを求めなくとも満足感が得られ、心豊かに生きていけるミニマムライフにライフスタイルを改めようとするなどの値上げ対策で、生活を守ろうとしている。こうしたライフスタイルの変化は、ソロキャンプの流行にも現れている。キャンプ市場自体が拡大している中、一人でキャンプをしたいというニーズも増えた。その理由はさまざまだが、静寂を求めて一人になりたいなど、心の豊かさを求める人が増えているとも考えられ、確実に人々の生活・人生に対する考え方は変化しつつあるのだろう。


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大リーグやプロ野球の選手たちの活躍に勇気づけられる

将来への不安を呼ぶ社会情勢の中ではあるが、そんな中でも人々を元気づけてくれる話題もあった。米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手の今年の成績は15勝、34本塁打。2桁勝利・2桁本塁打という記録は、大リーグのヒーローであるベーブ・ルース以来約100年ぶり。さらに今季の大谷選手は、規定打席、規定投球回に達しており、大リーグで2リーグ制が始まった1901年以降で始めての同一シーズンでこの2つに到達した選手にもなり、その活躍は日本人のみならず、現地アメリカの人々をも興奮させた。

一方で、野球が日本に伝わってから150年の節目となる年に、日本プロ野球界も記録ラッシュを見せてくれた。大小さまざまな記録の中でも、特に記憶に残るのが、4月10日の千葉ロッテマリーンズとオリックス・バファローズの試合。千葉ロッテの佐々木朗希投手がプロ野球新記録の13者連続三振、完全試合を達成した。佐々木投手はこのとき20歳5カ月で、史上最年少での記録となった。この佐々木投手以外にも、2022年には4人がノーヒット・ノーランを達成しており、プロ野球を盛り上げた。

また、今年の東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手は圧巻だった。プロ野球新記録となる5打席連続本塁打、日本人選手として1964年の読売ジャイアンツ・王貞治選手(当時)の55本を抜き、日本人歴代最多記録かつ歴代単独2位となる56号本塁打を記録し、こちらも史上最年少の22歳で三冠王を獲得した。

テクノロジーの進歩に将来の希望を見出す

ビジネス界においても、将来的な希望となり得る取り組みが進んでいる。特にめざましいのが、テクノロジーに関する動きだ。例えば、デジタルの領域では、メタバース・NFT・WEB3といった用語が、日常的に使われるようになった。

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メタバースとは3D仮想空間を指し、通信速度や端末の処理速度の向上により、メタバース内でビジネスや創作活動が可能となった。アメリカのフェイスブック社が昨年10月にメタ・プラットフォーム社に改名するなど、メタバースは世界的にも注目されており、日本でもクラスター株式会社がプログラミングなどの専門知識がなくても、誰でも簡単に自分の想像したメタバース空間を創造できる機能を持つメタバースプラットフォーム「cluster」をリリースするなど、にわかに活気づいている。また、情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続し、取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録する「ブロックチェーン」技術を活用したNFTは、唯一無二な資産的価値を付与することで、新たな市場を生み出している。実際、数十億円でデジタルアートが落札されるなどして脚光を浴びた。

さらにWEB 3(WEB3.0)は、ブロックチェーン技術を基盤とした次世代の分散型インターネットを意味し、現在の中央集権的に大手企業が管理することに対抗し、個人の情報を分散して管理できるものとして注目を集めている。経済産業省でも7月、「大臣官房Web3.0政策推進室」を設置。関連する事業の環境整備の検討体制を強化した。

フードテックも注目されている。ITやバイオ技術など最先端のテクノロジーを駆使して食品に新たな価値を付加するフードテック。新しい食品はもちろん、調理方法、生産、流通、環境を革新しようという意欲的なもので、欧米を中心に熱が高まっていた。大豆ミートなど植物性代替肉などがよく知られ、今後の世界的な食糧不足にも対応できる持続可能なフードシステムの構築に一役買うものとされる。フードテック関連で話題となったのが、日清食品の「完全メシ」。飽食による肥満や無理なダイエットによる新型栄養失調など、食にまつわる課題を解決すべく、長年培ってきた食品加工技術を駆使し、栄養バランスと美味しさを両立した商品として人気となっている。

最先端技術で社会課題を解決するDeep Techも忘れてはならない。人工知能や代替エネルギー、量子コンピューターなどがその一例だ。これらは世界のあり方を変える可能性を秘めており、昨今では大企業のみならず、確かな実績を挙げるスタートアップの存在が大きくなってきた。Deep Techに関わるスタートアップが日本経済復活のカギを握るともいわれており、各大学も大学発スタートアップとして、その設立支援に力を入れている。

これらテクノロジーに関する挑戦以外にも、企業は新たな組織構築・人材育成に動き始めている。人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方である人的資本経営が、企業の注目を集めている。これは従来の人材をコストや資源とみなす経営とは違い、人材を従業員の能力や経験といった「形のない資本」と考えることで、持続的な企業価値の向上を目指そうというもの。そのために、ビジネスモデルや技術革新の変化に対応すべく、仕事で必要とされる新知識やスキルを学ぶリスキリングに力を入れる企業も増えており、日本経済復活の原動力となることが期待される。

2022年にヒットしたものは……

これまでは大きな社会の流れを見てきたが、2022年は具体的にどのようなものが人気を集めたのか。

株式会社ヤクルト本社の「Yakult(ヤクルト)1000/Y1000」。宅配用の「Yakult1000」は、同社初の機能性表示食品。2019年に関東1都6県限定で発売し、徐々に販売エリアを広げて昨年4月に全国へ拡大した。ストレスの緩和や睡眠の質を高める機能があることから爆発的な人気を得て、1日の販売本数は180万本。品薄が続き、店頭用の「Y1000」は7月に生産体制を強化、さらに9月には「Yakult1000」の増強に踏み切ったという。

また、猛暑対策関連のグッズも昨年同様、売上を伸ばした。すっかりおなじみとなったポータブル扇風機のほかにも、直接首を冷やすことで体温を下げるネッククーラーも人気で、これらのグッズを活用することで、人々は1898年の統計開始以来2番目に暑い夏を乗り切った。

フットマーク株式会社提供
目新しさでは、ジェンダーレス水着スマホショルダーが話題となった。フットマーク株式会社が発売したジェンダーレス水着の正式な商品名は「男女共用セパレーツ水着」。子どもたちに性差のないデザインを、という学校現場からの声に応えて開発し、長袖・半ズボンかつシルエットもゆるやかで性別問わず着られるものとした。指定の水着として正式採用する学校も増えているとのことで、学校授業における水着のあり方に一石を投じた。

スマホショルダーは、スマートフォンを肩から斜めがけにできるアイテム。手ぶらでいられることや、スマートフォンの落下防止の利便性から、若い女性を中心に利用者が激増している。最近では海外の有名ブランドも参入しており、まだまだ人気は続きそうだ。

不安の中で、コンテンツが心を楽しませてくれた

新たな人気スポットも誕生した。例えば、東京タワーフットタウン内に、4月20日にグランドオープンした「RED゜TOKYO TOWER(レッド トーキョータワー)」は、日本最大規模のesportsパークだ。“GAME CHANGE”を施設コンセプトに掲げ、最新のゲームタイトルや、世界最先端のXR技術を搭載したスタジアムでイベントなどを楽しめる同施設。年齢も性別も超え、誰もが365日遊びつくせるかつてないスケールのesportsパークとして多くの人が集う。

また、11月1日には愛知県長久手市に「ジブリパーク」がオープンした。スタジオジブリの世界を表現した公園施設で、整備主は愛知県。現在は第一期開業で、来年秋頃には第二期開業が予定されており、国内のみならず、世界中のジブリファンの来場も予想される。

エンターテインメントといえば、任天堂株式会社のNintendo Switch向けソフト「スプラトゥーン3」が売上を伸ばしている。ヒトの姿に変身する不思議なイカを操作して4対4のチームに分かれてインクを塗り合い、地面を塗った面積で勝敗が決まる「ナワバリバトル」がこのゲームの最大の特徴。前作「スプラトゥーン2」は、全世界で1330万本を売り上げた大人気ソフト。5年振りとなる今作も、9月9日の販売開始から4週間で全世界で670万本の売上を記録し、その人気の健在ぶりを示した。

マンガ「ONE PIECE」を原作とした劇場版アニメ「ONE PIECE FILM RED」は、公開日の8月6日から驚異の大ヒットとなっている。10月31日現在、観客動員数は約1279万人、興行収入が177億円を突破。配給元の東映株式会社は、本作のヒットにより、1月1日から9月30日までの年間興行収入が220億円を突破。その時点で、同社の歴代1位の成績を収めることが決まった。

テレビドラマでは、NHK総合で4〜6月に放送された「正直不動産」が反響を呼んだ。契約のためならウソを吐くこともためらわなかった売上No.1の不動産営業の永瀬財地が、不思議な力によりウソが吐けなくなることから始まるコメディ。主演は山下智久氏が務め、原作は原案・夏原武氏、脚本・水野光博氏、作画は大谷アキラ氏が手掛けるマンガで、小学館「ビッグコミック」に連載中だ。コミックは8月末時点で累計260万部を突破。テレビドラマも再放送を3度行っているなど続編が望まれている。

テレビアニメで話題となったのが「SPY×FAMILY」。スパイ、超能力者、殺し屋が互いの素性を隠し、仮初めの家族ながらも「家族としての普通の日常」を送るために日々奮闘するといったコメディだ。原作は集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+」に連載中の、遠藤達哉氏によるヒット作だ。テレビ東京では4〜6月に第1クールを放送、10月からは第2クールを放送しており、第1クールは同局歴代最高のタイムシフト視聴率を記録した。

2022年はコロナ禍、世界情勢、経済事情など、将来の不安が募る1年であった。だが、その一方で、ビジネス界で新たな潮流が見られたほか、いろいろなコンテンツが人々を楽しませ、落ち込む心を支えてくれた年でもあった。来る2023年も先行きが不透明ではあるが、今年同様、あらゆる面で新たな一歩が踏み出せる年であることを祈りたい。


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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。

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