2023年ヒット商品番付 新たな時代の兆しが見えた1年 ~New Lifeの幕開け~

2023年は新型コロナウイルス感染症の影響から脱した1年であった。5月8日に「5類感染症」へ移行したことから国内の人流は活発化。インバウンドも2019年のコロナ前に迫る勢いであり、コロナ後の経済活動が順調に回復しつつある様子がうかがえる。
しかし一方で、為替市場では、10月以降ドル円レートが1ドル150円台を付けるなど、再び歴史的な円安水準となったほか、幅広い品目で価格上昇が続き、多くの人々が初めて経験する物価が上昇する世界に不安を感じている。また、米中の対立やロシアとウクライナの戦争に加え、イスラエルとハマスが戦争状態になるなど、国際政治は先行きが見通し難い情勢になっている。

そんな中、新たな時代を築くための兆しが見えた年でもあった。2022年11月に公開された人工知能チャットボット「ChatGPT」をはじめとした生成AIは、さまざまな職場で取り入れられつつあり、今後の仕事のあり方に影響を与えている。また、社会では「Well-being」の重要性が高まり、いろいろな取り組みが見られた。「Well-being」とは1946年に世界保健機構(WHO)が設立されたときに世界保健憲章の一節、「健康とは単に疾病がないのではなく、肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態である」で最初に使われた言葉だ。先の見通せない時代だからこそ、いかに幸せに生きるかが人々に重要視されており、企業はそうした視点から経営戦略を見直し始めた。
人々が漠然とした不安を抱く中、2023ワールド・ベースボール・クラシックでの日本代表の優勝、また藤井聡太棋士が史上初の八冠を達成するなど、勇気づけられる話題もあったこの1年。コロナ後の新たな時代とは、どのようなものなのかを念頭に置きつつ、2023年のヒット商品番付を発表したい。

コロナ後の開放感と不安

7月の3連休中に混雑する京都駅タクシー乗り場の様子(写真提供:朝日新聞社)
2019年12月初旬に中国の武漢市で第1例目の感染者が報告されて以降、世界を混乱に陥れた新型コロナウイルス感染症だったが、日本においては今年2023年5月8日に季節性インフルエンザと同じ5類感染症に移行。これにより、感染対策も個人の判断に委ねられるようになり、人々はコロナ後を実感することとなった。コロナ禍で落ち込んでいたインバウンド需要も大きく回復し、6月には約3年半振りに訪日外国人数が200万人を記録。堅調に回復を果たしており、新型コロナウイルス拡大前の実績に迫る勢いを見せている。インバウンドを見据えた観光拠点も続々と開業しており、その一つが3月にJR東京駅直結の複合商業施設として誕生した「東京ミッドタウン八重洲」である。三井不動産が六本木、日比谷に続いて手掛ける「東京ミッドタウン」ブランドで、地上45階・地下4階、高さは240m。施設のコンセプトは、「ジャパン・プレゼンテーション・フィールド~日本の夢が集う街。世界の夢に育つ街~」であり、イタリアの高級宝飾店・Bulgari(ブルガリ)による「ブルガリ ホテル 東京」を最高層フロアに擁するなど注目を集めている。

インバウンドだけでなく、久しぶりの国内旅行を楽しむ人々も増えた。5類引き下げ後、初の夏休みとなった8月には、旅行する人々の姿で国内各地が賑わった。9月には、観光庁が発表した日本人延べ宿泊者数が4,074万人泊とコロナ前である2019年の同月比0.6%増となるなど、旅行関連業が好調であった。また、上場企業の令和5年9月中間決算では幅広い業種が大幅増益を記録するなど、コロナ後の経済活動が順調に回復しつつあることがうかがえる。

とはいえ、人々の間で不安があるのも事実だ。総務省統計局が10月20日に公表した消費者物価指数によると、今年9月の消費者物価(コアCPI)は前年比2.8%上昇。物価上昇率が2%を超えたのは、2022年4月以降18ヵ月連続となり、調査対象のうち86%の品目で物価が上昇した。歴史的な賃上げの動きもみられたが、多くの人々が、初めて経験する物価が上昇する世界に漠とした不安を感じている。

ほかにも、WMO(世界気象機関)は、今年7月の世界の平均気温が16.95℃となり、史上最も暑い月になったと発表。これを受け、国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と会見で発言した。日本においても7月1日には、気温が40度に達する地点が全国6カ所にも及び、過去最多を記録。コロナ後の開放感とともに、不安を感じる年ともなった。


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新たな変化と不安への対応

前述以外にもさまざまな不安や変化に人々が戸惑う中、新しい取り組みも相次いでいる。例えば「ChatGPT」を始めとした生成AI。これまで人間が行ってきた、調査や思考、入力といった時間を必要とせず、学習データから会話やストーリー、画像、動画、音楽など、新しいコンテンツやアイデアを作成できる生成AIの活用は、新しいビジネスのあり方を生み出すものといわれ、企業はその有効な活用法の模索を始めた。また、生成AIによりいろいろな業務が自動化されれば、労働生産性を高めることができ、日本が陥っている労働力不足を突破する一助になる可能性があり、その方面でも期待が持たれている。一方で、生成AIは偽動画などを簡単につくれてしまうため、フェイクニュースの拡散など悪用する事例も出ている。日本においては岸田文雄首相の偽動画がSNSで拡散されるなどが記憶に新しいが、こうした問題も含め、世界各国で今後の法整備に向けた議論が始まっている。

なお、少子化については岸田首相が年頭会見で「異次元の少子化対策」の検討を表明。児童手当をはじめとする子育て世帯への支援拡充や、リスキリングの後押しなどを通じた、若い世代の持続的な所得増加に向けた施策が発表されている。一方で、実効性を疑問視する向きもあり、政府の加速した取り組みが期待される。

もっとも、そのためには財源も必要だ。例えば、公的年金・医療・介護などの社会保障や少子化対策のために使われると定められている消費税。これまでは免税事業者や簡易課税制度による納税の免除や軽減などで、「合法的に納税されずに事業者の手元に残った消費税」である益税の存在が指摘されてきた。これをなくすことなどを目的に、10月1日から「インボイス制度」が導入された。しかし、経営管理上のメリットがある一方で、個人事業主や中小企業には大きな手間やコストが発生することから批判もあり、これからの税の使われ方が注視されている。

新たなビジネスの仕組み、制度改定が進むなか、人々の働き方に対する考え方も変化が続いている。昨今、耳にする機会が増えた「Well-being」などは、その代表的なものではないだろうか。「Well-being」という言葉は、1946年に世界保健機構(WHO)の設立時に定められた世界保健憲章の一節、「健康とは単に疾病がないのではなく、肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態である」で最初に使われた。それから年月が経ち、昨今ではモノから心の豊かさに人々の価値観が変化を見せており、それに伴い働き方改革のように労働に対する考え方なども以前とは違うものとなっている。そのため、今後人々が、そして社会がよりよくあるための考え方の拠り所として「Well-being」が注目されるに至った。企業もこれを念頭においた経営やサービスの提供を指向しており、新たな潮流が生まれていくことだろう。

また、そんな心の豊かさを求める考え方を反映してか、「金継ぎ」がブームとなっている。金継ぎとは、割れたり、欠けたりした器を漆で接着し、その継ぎ目を金粉などで飾る日本の伝統的な修理技法のこと。かねてより人気はあり、国内外で注目を集めていたが、コロナ禍の長期間のステイホームによりブームが加速した。流行の背景として、生活を見直す時間ができたことで丁寧で心が満たされた豊かな暮らしを求める人たちが増えたこと。また、欧米を中心にサステナビリティや、資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済であるサーキュラーエコノミーが推奨されていることから、壊れたものを捨てたりせずに補修して大切にする金継ぎが受け入れられた、などのことが指摘されている。


2023年にヒットしたものは……

社会がさまざまな変化を見せる中、他にはどのようなものがヒットしたのであろうか。

その一つとして挙げられるのが「電動キックボード」。以前から新たな交通手段として注目されていたが、さらなる手軽な利用を目指して7月1日に道路交通法の改正により、特定小型原動機付自転車という新区分が生まれ、運転免許が不要、ヘルメットの着用が努力義務など、ルールが整備された。これにより利用者の拡大が期待されているが、一方で事故も増加傾向にあり、業界によるさらなる対策や警察の取締り強化、利用者の安全意識向上が求められている。

また、ユニクロの「ラウンドミニショルダーバッグ」は、国内のみならず世界的にヒットした。

発売開始の2020年12月以降、TikTokで関連動画が5900万回以上再生され、またルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ティファニーなどのブランドを傘下に持つファッション業界最大手のLVMHグループが出資するファッション商品の検索エンジン「リスト(Lyst)」が、2億人以上のユーザーによる検索データを基にした2023年の第1四半期のファッショントレンドでは、「最もホットなアイテム」として選出。価格は税込1500円と安価だが、ファッション関係者の間では「ミレニアル世代のバーキン」と呼ばれ、世界中で“バズっている”商品だ。その人気は模倣品が流通するほどで、ユニクロはファーストリテイリングのコーポレートサイト上で注意喚起を促している。

食では、三大栄養素の一つであるたんぱく質を効率的に摂取できる「たんぱく質食品」が人気を得た。若い世代は美容への意識から、そして上の世代になるほど徐々に健康を保つためという理由で、たんぱく質を意識的に摂取しようとする人が増えており、動物性食品を使用せずに植物由来の原料からつくられるプラントベース食品への注目も重なり、その人気は続きそうだ。大手コンビニ各社の店頭にも、「たんぱく質○g」「たんぱく質が摂れる」といった、たんぱく質を効率的にとれることをアピールした商品が数多く並んでおり、消費者の注目の高さがうかがわれる。


多くの人を楽しませる秀作いろいろ

エンタメの分野でも、さまざまなヒットが見られた。

5月に任天堂より発売されたNintendo Switch用のオープンワールド形式のアクションアドベンチャーゲーム「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」は、発売開始から3日間で世界累計1000万本、国内224万本という驚異的な販売本数を記録。さらに9月には全世界累計出荷数1950万本に達した。人気の理由は、広大なフィールドを自由に冒険できることはもちろん、ゲーム内にある丸太をつなげて大きないかだをつくってみたり、タイヤなどのパーツを組み合わせて車をつくってみたりできるといったクラフト要素だ。ユーザーによる楽しみ方が増えたことが、ゲームの可能性を広げた。

アニメもヒット作に恵まれた。22年12月3日から23年8月31日まで上映された『THE FIRST SLAM DUNK』は、興行収入157億円を突破し、日本国内歴代興行収入ランキングで第13位となった。大ヒットしたバスケットボール漫画『SLAM DUNK』(集英社)が連載を終えて26年半を経てからの映画公開であることや、原作者の井上雄彦氏自らが監督と脚本を務めたことから、公開前から話題が沸騰。往年のファンから新しいファン層まで獲得し、ヒットとなった。


同じく集英社から発行される『【推しの子】』の人気もすごい。赤坂アカと横槍メンゴのタッグによる同作は、「週刊ヤングジャンプ」に20年より連載中で、主人公の青年が前世の記憶を持ったまま推していたアイドルの子供に生まれ変わるという「転生もの」。23年4月にはアニメ化もされ(6月まで放送)、その人気に火がついた。単行本の累計発行部数は、アニメ放送前の約450万部から、放送中の6月には900万部に倍増。アニメの主題歌となったYOASOBIの「アイドル」も、アメリカのビルボード・グローバルチャート「Global Excl. U.S. top 10」の6月10日付で首位を獲得し、7月にはYouTubeの「music charts TOP 100 songs Global」で首位になるなど大ヒット。6月28日にはアニメ第2期の制作が発表され、さらなる飛躍が期待される。

©nagano / chiikawa committee
イラストレーター・ナガノ氏による漫画作品も、人々の心を掴んでいる。ちいかわを主人公とする同作は、20年よりX(旧・Twitter)で連載を開始。21年に講談社から単行本化され、22年10月には電子版を含め累計部数が100万部を突破し、フジテレビの情報番組「めざましテレビ」内でアニメ放送もスタートした。マツモトキヨシやGU、くら寿司、明星食品、マルイなど、さまざまな企業とも業種にとらわれずコラボされており、コンテンツとしての力強さが感じられる。

実写作品では、TBS系「日曜劇場」で2023年7月16日から9月17日まで放送された『VIVANT』(ヴィヴァン)が人気を博した。主演に堺雅人、共演に役所広司、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李など豪華俳優陣を起用した本作は、連続ドラマでは1話あたりの制作費が通常3000万〜4000万円と言われる中、各話に1億円が投じられたとして話題に。最終話となる第10話の世帯視聴率は19.6%を記録。今年のドラマの中で特筆すべきヒット作となった。


その活躍で人々を元気づけてくれた

2023年も多くの人が活躍したが、まず最初に挙げられるのは2023ワールド・ベースボール・クラシックで日本代表を優勝に導いた侍ジャパンの選手たちであろう。栗山英樹監督の下、MVPに輝いた大谷翔平選手らが集ったチームは、本選出場枠が20チームに広がった激戦を勝ち抜き、大会最多3度目の優勝に輝いただけでなく、ライバルチームとの友情を育む姿も話題となり、人々を感動させてくれた。

また、歴史に名を残す史上初の八冠を達成した藤井聡太棋士。14歳2カ月でプロ入りして以来、将棋における数々の記録を塗り替えてきたが、3月に棋王戦を制し史上2人目の六冠に、続く6月にも名人戦に勝利し史上最年少の名人、かつ史上2人目の七冠に輝いた。そのうえで、永瀬拓矢王座に挑んだ王座戦で、将棋界の頂点を極めることとなった。いまだ21歳であり、これからどのような偉業を見せてくれるのか、期待は高まるばかりだ。

「安心してください、はいてますよ」のパフォーマンスで人気のお笑いタレント・とにかく明るい安村も、日本のタレントのおもしろさを世界に見せつけている。イギリスの人気オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」第16シリーズに「TONIKAKU」の名で出演。定番ネタである水着1枚で全裸に見えるようなポーズで笑いを誘った。日本人初の決勝戦に進出し、惜しくも優勝は逃したが、観客からスタンディングオベーションを受け、また駐日英国大使館によるチャールズ3世の誕生と戴冠を祝賀する会に招待されるなど知名度を高めた。さらに最近ではフランスのオーディション番組「La France a un incroyable talent」にも出演して観客を楽しませており、世界的なタレントとして羽ばたいている。


2023年はコロナ後として新たな時代を迎える一方で、物価上昇など不安を感じた1年だった。だが、そんな中で、着実に新たな時代の兆しが見られた年でもあった。来る2024年は、その兆しを確たるものとする年となることを期待したい。


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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。

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