2021年ヒット商品番付 次なる一歩を踏み出した1年 〜東京2020、コロナ禍を越えて〜

新型コロナウイルス感染症の影響が続いた2021年。延期されていた「東京2020オリンピック・パラリンピック」が7月23日に開幕し、日本は金メダルをオリンピックで27個、パラリンピックでは13個獲得するなど大きな成果を残した。日本人選手たちの活躍は、コロナ禍で抑圧された人々の心に感動を与え、活力を生み出す力となった。
また、人々に力を与えたのは、オリンピック・パラリンピックで活躍した選手たちだけでなかった。最後までホームランタイトル争いに絡んで、投手との二刀流でファンを魅了した米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手。ケガや病気で大関から西序二段48枚目まで陥落しながらも、奇跡の復活で横綱に上り詰めた大相撲・照ノ富士関。日本人で初めてゴルフのメジャー大会であるマスターズ・トーナメントで優勝した松山英樹選手や、全米女子オープンを制した笹生優花選手。また、米プリンストン大学上席研究員の眞鍋淑郎氏はノーベル物理学賞を受賞。記者会見では日本の生きづらさにも言及し、これからの日本のあり方にヒントを示した。

一方で、新型コロナウイルスのワクチン接種は、2月17日に開始された医療従事者等を皮切りに、徐々に対象を拡大。11月16日には、2回接種を完了した人が人口の75.1%に達したとする集計結果を政府が発表するに至った。これはG7各国の中でもトップ水準であり、9月末の緊急事態宣言の解除と相まって、停滞していた経済活動が動き出す後押しとなることが期待される。

2021年は東京オリンピック・パラリンピックという節目を終え、さらにコロナ禍を越えて進もうと、新たな一歩を踏み出した1年だった。逆境の中でも歩みを止めない人々の勇気に敬意を表し、2021年のヒット商品番付を発表したい。

ワクチン接種で新型コロナウイルスを抑え込む

2021年は年明け1月7日に東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象に、昨年に続き2度目の緊急事態宣言が発出されるという厳しい幕開けとなった。その後、緊急事態宣言は対象地域を拡大。対策としてはコロナワクチンに期待するしかない状況だった。


コロナワクチンは2月14日の米ファイザー製を皮切りに厚生労働省の正式承認を受け、同月医療従事者を対象に先行接種を開始。4月には高齢者への接種が始まった。だが、G7各国よりも出遅れており、当時の菅義偉首相が打ち出した「1日100万回」の接種を実現するべく、政府は1日も早く希望する全国民への接種が可能となる体制づくりを急いだ。結果、6月には1日平均110万回を達成するものの、肝心のワクチンが不足。7月に入ると、各自治体では接種予約受付の一時停止が相次ぎ、混乱を来した。同月には、人々の必死の対策を嘲笑うかのように、第5波が到来。それでも努力が実を結び、8月上旬には国内でのワクチン総接種回数が1億回を超えるに至った。


さらに政府は、11月16日に2回接種を完了した人が人口の75.1%に達したとする集計結果を発表。これはG7各国の中でもトップ水準であり、結果的には遅れを取り戻すことには成功したといえよう。もっともその間、医療体制の逼迫から自宅療養が増加し犠牲者が出たことも忘れてはならない。


11月25日現在、新型コロナウイルス感染症拡大を抑え込んだ状況は続いており、内閣府発表の10月の消費動向調査によると、消費者心理を表す消費者態度指数はコロナ禍前の2019年12月の水準に回復。人々の心に大小さまざまな傷跡を残しながらも、9月末の4度目の緊急事態宣言の解除と相まってワクチンに一定の効果はあったと見られており、停滞していた経済活動が動き出すことが期待される。


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開催で変わった「東京2020オリンピック・パラリンピック」への印象

「東京2020オリンピック・パラリンピック」は新型コロナウイルス感染症が世界中に拡大したことから、2020年3月24日に1年程度の延期が決定された。

これは近代五輪として初めての延期であり、先行きの見えない情勢の中、本当に開催できるのかも不透明な中での決断であった。


朝日新聞社提供
そして今年3月30日に組織委員会、国際オリンピック委員会、東京都、政府は7月23日に開会することに合意。この開催決定は、社会に大きな波紋を投げかけた。実際、新型コロナウイルスの感染者数に歯止めはかかっておらず、世論は開催と中止、それぞれに分かれ激論が交わされた。


とはいえ、開催の決定は覆らず、大半の会場は無観客となるなどの制約が設けられるといった異例ずくめで、7月23日に開幕した。人々の不安・不満を残しつつも始まった大会であったが、そんな中、日本人選手たちは奮闘を見せ、結果を残してくれた。スケートボートでは、ストリート競技で13歳の西矢椛選手が日本史上最年少で金メダルに輝き、競泳では、女子個人メドレーで、大橋悠依選手が日本女子初の2冠を達成。卓球でも、新種目の混合ダブルスで水谷隼選手、伊藤美誠選手のペアが日本卓球界悲願の金メダルを獲得した。他にも日本人選手は活躍を重ね、最終的なメダル獲得数は金27、銀14、銅17の計58個。これは史上最多の記録であり。金メダル27個はアメリカ、中国に次ぐ世界3位の成績だった。


また、パラリンピックでも日本人選手の躍進は続いた。水泳・男子100m自由形では、鈴木孝幸選手がパラリンピックレコードで優勝した。杉浦佳子選手は、自転車・女子ロードタイムトライアルにおいて、50歳で初出場、金メダルという偉業を達成した。結果、獲得したメダルは金13 、銀15、銅23の計51個の堂々たる成績を残した。


こうした選手たちの活躍は、コロナ禍でのオリンピック・パラリンピック開催への印象を変えた。SNSでは開催に対する否定的なコメントが多い中、徐々にポジティブなコメントが増えていった。PIAZZA株式会社がオリンピック後に行ったインターネット調査によれば、東京オリンピック開催に満足した人は43%、不満な人が27%と、満足した人が上回る結果となった。


今回の大会では、開催の賛否だけでなく、国際オリンピック委員会のあり方や、組織委員会における諸問題など、さまざまな課題が明らかになった。しかし、開催後の人々の反応を見ると、この東京2020オリンピック・パラリンピックの開催は、コロナ禍の中でも日本が先に進んでいくための一つのきっかけとなったといえるのではないだろうか。

人々の活躍が支えた心

人々に明るい話題を提供したのは、オリンピックやパラリンピックだけではない。投手・打者の二刀流で知られる米大リーグの大谷翔平選手は、ここ数年はケガに苦しみながらもリハビリに励んできた。その努力が実を結び、今シーズンは序盤からホームランを量産、4月26日には3シーズン振りの勝利投手に輝き、復調を印象づけた。大谷選手の活躍は続き、シーズン終了時には打者としては46本塁打、100打点、26盗塁、投手としては9勝2敗、156奪三振という記録を残した。10月28日には大リーグ選手会主催の選手間投票で選ばれる「プレイヤーズチョイス賞」で、最高の栄誉となる年間最優秀選手賞とア・リーグ最優秀野手賞をダブル受賞。11月18日には、ア・リーグMVP(最優秀選手)の満票での受賞が発表された。彼の活躍は多くの人を奮い立たせた。


また、7月場所後に横綱昇進を果たした、大相撲の照ノ富士関の努力も多くの人に感動を与えた。モンゴルに生まれた照ノ富士関は2011年の初土俵以来、順調に昇進を重ね2015年には大関に昇進。しかし、昇進後相次ぐケガに見舞われ成績が振るわず、2017年には大関から陥落。糖尿病も患い、2019年には序二段まで番付を下げた。だが、応援してくれる周囲の人々のためにも相撲をとろうと決意し、関取に復帰。白星を重ね、2020年には幕内復帰を果たす。そして、今年の5月場所では大関に復帰し優勝。7月場所では優勝こそ逃したものの優秀な成績を収め、史上初の序二段陥落からの横綱昇進を決めた。


他にも、ゴルフ界では歴史に残る快挙が遂げられた。4月11日には、ゴルフのメジャー大会であるマスターズ・トーナメントで松山英樹選手が日本人初のメジャー制覇。同じく全米女子オープンは、笹生優花選手が大会最年少記録に並ぶ19歳11カ月17日で制した。


スポーツ以外では、日本出身で米国籍の眞鍋淑郎氏がノーベル物理学賞を受賞。気象学者で地球温暖化理論の第一人者である眞鍋氏は90歳。米プリンストン大学で上席研究員を務め、受賞理由は地球の気候をコンピュータで再現する方法を開発し、気候変動の予測に関する研究を先駆的に切り拓いたことなどであった。だが、眞鍋氏の受賞は日本人を喜ばせながらも、小さくない波紋を投げかけた。それは受賞の記者会見で、米国籍を選んだ理由として、日本人が調和を重んじるがゆえに、他人からどう思われるかを気にせずすることができるアメリカを選んだ、としたからだ。今後の日本の科学技術研究の現場のあり方を考えるうえで、一石を投じる発言だった。

余暇を楽しみ、閉塞感を忘れる

活躍した人以外にも、コロナ禍の中で縮こまる心を満たしてくれるものがあった。例えば、2020年9月に刊行された宇佐見りん氏の「推し、燃ゆ」は、1月の第164回芥川龍之介賞を受賞。2021年本屋大賞へのノミネートや、海外からも注目され5月時点で世界8カ国・地域での翻訳出版が決定するなど話題を集めた。5月20日の重版により累計発行部数は50万部を突破している。


コミックスでも昨年の「鬼滅の刃」に続き、2018年から「週刊少年ジャンプ」で連載を続ける「呪術廻戦」が大ヒットした。昨年10月からのテレビアニメ化で人気が沸騰し、10月発売の17巻で累計発行部数は5,500万部を突破。12月には劇場版映画としても上映される。


歌手Adoの楽曲「うっせぇわ」も、人々の鬱憤を晴らすのに一役を買った。2020年10月に配信限定シングルとしてリリースされたこの曲は、社会人にとってありがちな出来事を「うっせぇうっせぇうっせぇわ」と切って捨てる。その内容は共感を生み、2021年3月29日付のBillboard JAPANストリーミング・ソング・チャートでは累計再生回数が1億回を突破した。Adoは今年高校を卒業。チャートインから17週目での1億回突破は、ソロアーティストとして歴代最年少の記録となった。現在では、ミュージックビデオ、ストリーミング合計で3億回を超えている。


また、日本テレビ系で放送されたテレビドラマ「ハコヅメ」も人気だった。埼玉県警の交番(ハコ)を舞台に、現実にありそうなエピソードで描かれた本作。低予算で制作されたといわれるが、13〜49歳のコア層の視聴率のトップをとり、原作となるマンガ雑誌「モーニング」で連載する同名作のコミックはシリーズ累計270万部を突破。2022年1月にはテレビアニメ化も決まっている。


食ではイタリアのスイーツ、マリトッツォが旋風を巻き起こした。もともとブリオッシュ生地にたっぷりの生クリームを挟んだマリトッツオ。日本では丸いパンとたっぷりのクリームにアレンジされたものが多く、洋菓子店だけでなく、コンビニやスーパーでもオリジナル商品が並ぶほどの人気となっている。マリトッツオ風のスイーツやパンも増えており、まだブームは続きそうだ。


甘味ではないが、チューブ調味料も続々と登場。コロナ禍が続く中で、家での滞在時間が長くなり自炊が増えたことで、手軽に料理の幅を広げることに一役買っている。紅しょうがや、ねぎ・しょうが・にんにくのミックス、大根おろしなど、従来はなかったものも発売となり今や100種類以上あると言われ、食卓の彩りを飾る。

変わり続けるライフスタイル

コロナ禍によるライフスタイルの変化は続いている。家での滞在時間の増加は、お酒の飲み方にも影響を与えた。健康志向も重なり、海外ではアルコール度数の低いお酒の人気が高まっているという。日本においても、アサヒがアルコール0.5%の微アルコール飲料「ビアリー」を発売。ストロング系に替わる新たなマーケティングとして注目を集めた。同製品のお陰もあり、同社の1-6月のアルコールテイスト清涼飲料の売上は前年同期比約20%アップ。世界的にも、2015~19年のノンアルコール・ローアルコール飲料の世界販売数量は年平均で6.3%成長しており、これからの伸びを予想させる。


働き方の変化も続く。ワーク=仕事とバケーション=休暇を組み合わせた造語、ワーケーションは、観光地など自宅以外の場所でリモートワークを行いつつ、休暇を楽しむという新たなワークスタイルとして、続々と企業に取り入れられている。その動きにともない、地域活性化に役立てたい自治体が集まり「ワーケーション自治体協議会」を発足。地元に多くの人を誘致しようと、さまざまな工夫、積極的なプロモーションを展開している。


ワークスタイルの変化は服装にも及ぶ。スーツ専門店のAOKIは2月にアクティブワークスーツを発売。コンセプトは「スーツはもっと自由に。スーツはもっとアクティブに」で、着映えと快適な着心地を追求したものだ。リモートワークが増える中、きちんとしていて着心地がよく在宅ワークにぴったりだと人気を博し、第1弾では3カ月で販売着数1万枚を突破。9月には2万枚を超え、9月末からは第7弾となる秋冬モデルも発売し、その人気は止まるところを知らない。


消費者のライフスタイルが変わる一方で、企業のスタンスも変化を見せている。例えば、資源価格の高騰や半導体不足で商品やサービスの値上げが行われる中、逆に値下げに踏み切る「新」価格・販売戦略を採用する企業の決断が話題となった。携帯電話料金では、NTTドコモの割引プランahamoを受け、キャリア各社が続々と新しい割引プランを打ち出した他、特措法の廃止により、消費者向け価格表示は消費税込みが義務化されたことを受け、ユニクロは従来の税抜価格を税込価格とすることで、実質的な値下げに踏み切った。先のワーケーションの採用なども含め、企業も考え方を変えることで時代の変化を乗り切ろうとしている。

コロナ禍の中でも進まなければいけない

コロナ禍で社会が停滞しているとはいえ、気候変動やDXの進展といった来たるべき社会の課題への対応はしなければならない。政府・企業の取組みが目立ってきた。


4月22日に行われた政府の地球温暖化対策推進本部の会合において、菅義偉首相(当時)は2030年に向けた温室効果ガスの削減目標を2013年度比で46%の削減を目指すことを表明。これは6年前に26%とした削減目標から大幅に引き上げたものとなり、世界的な脱炭素化を日本がリードするといった意欲的なものだ。菅首相は9月に退陣し、後継首相として岸田文雄氏が選ばれたが、この問題は人類の未来に大きな影響を及ぼすものといえよう。


また、その菅首相が設立に力を入れて発足したデジタル庁の今後も注目される。昨年11月26日に基本的方向性が定まり、今年9月1日に発足という異例のスピードで船出したデジタル庁は、「未来志向のDXを大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指し」ている。国連の「電子政府ランキング」では、2020年に14位とされた日本。世界的な遅れを取り戻すことができるのか、その施策に期待したい。


環境問題に関連しては、気候変動や人口の増加による食糧不足に備えて、ベジタブルミートへの関心が高まっている。味や食感を動物性の肉に似せたベジタブルミートは、大豆やエンドウ豆などの豆類や、小麦などでつくられる。以前は、菜食主義者や健康に気を遣う人が食べるものという印象が強かったが、昨今ではスーパーやコンビニで購入できるなど、身近なものとなった。ベジタブルミートを開発するベンチャー企業も、国内に続々と登場しており、今後起こりうる食糧問題などへの有効な対処法として期待が持たれる。

 

本田技研工業のレジェンドもおもしろい。同社は、自動運転レベル5段階のうち、世界に先駆けてレベル3の機能を搭載した新型レジェンドを3月に発表。自動運転レベル3では、システムが要求したらドライバーが運転を代われることを要件に、高速道路の渋滞時に限りすべての運転操作をシステムに任せることができる。「丁寧に販売する必要があるため」と100台限定発売とした同社だが、同社はさらに一段上のレベル4の車両開発にも乗り出しており、10月からは実証実験を本格化。本気で新しい交通サービスを実用化させようという、同社の意気込みが伝わってくる。


このようにコロナ禍の中、未来に向けて、さまざまなことが進んでいる。「東京2020」という節目を終え、このままコロナ禍が終息してくれれば、心情的にも新たな一歩を踏み出す環境が整う。2021年が、未来へ歩み出す区切りとなる1年となることを願いたい。


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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。


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