2020年ヒット商品番付 「New Normal」への挑戦 withコロナ時代で変わるもの、戻るもの
この過程で提唱されたのがwithコロナ時代における「新しい生活様式」。手洗いや、人との3密(密閉・密集・密接)を避けるといった感染予防対策はもちろん、外出できなくなったことにより、買い物では電子決済や通販の利用が促進され、食事はデリバリーなどが推奨された。それらは当然、働き方にも影響を及ぼした。テレワークや時差出勤、会議はオンラインで行われることなどが急速に広まり、社会は非対面での活動が急拡大した。
そんな中、2012年から2度目の首相を務めていた安倍晋三氏が、体調不良から辞任。後任は安倍政権を支え続けた、菅義偉官房長官が第99代内閣総理大臣に選出され、コロナ禍における経済対策であるGo Toキャンペーンなど政策を引き継いだ。海を隔てたアメリカでも11月3日に激戦となった大統領選挙が行われ、混乱が続いている。
新型コロナウイルス感染症拡大により、今年は社会構造に急速に変革が起きた年。今後、どのような事柄が、「New Normal=新しい日常」を牽引するのか。それを念頭に2020年のヒット商品番付を発表したい。
オンライン生活の中で
新型コロナウイルス感染症拡大により、政府は新型コロナウイルス対策特措法を制定。それに基づき、4月7日には、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言が発出され、不要不急の外出自粛などが要請された。その後、16日には対象が全国に拡大。家族以外の人と直に接する機会が激減し、コミュニケーションはインターネットを介して行われることが主となり、人々はオンライン生活を営むことを余儀なくされた。
それに伴い、自宅で仕事を行うためにノートPCの需要が伸びたほか、ZoomやWebex、Teamsをはじめとしたオンライン会議システムが認知度を高めた。中でもZoomは19年12月には全世界で有料会員数は1千万人だったが、4月には1日あたりの会議参加者が3億人を超える急成長を果たした。企業は、これらのシステムを使い、会議だけでなく、新入社員研修なども実施。これまであったビジネス講座なども、オンラインへの置き換えが進んだ。
大学においても、施設を閉鎖したことから授業のオンラインによる実施が増え、小中高の学校でもWEBを活用したカリキュラムを組むなど、年齢に関係なく、オンラインがこれまで以上になくてはならないものとなった。
当然、仕事や学校以外でもオンラインは大活躍した。今年はコロナ禍により、東京オリンピック・パラリンピックが延期されただけでなく、開催予定だった各種大会、コンクールなどが中止。特に全国高等学校野球選手権大会をはじめとした学生の大会やコンクールの中止は、卒業前の最後の取り組みと頑張っていた生徒たちを悲しませた。その気持ちを汲んで開催されたのが、いろいろなオンライン選手権だった。日本体操協会が、男子新体操オンライン選手権を開催したほか、紳士靴・婦人靴・スニーカー等の販売を行う株式会社チヨダは第8回となる全国高等学校ダンス部選手権をオンラインで実施。他にも、毎日新聞社と株式会社NOIAB(ノイア)は「一生に一度しかない あなたの舞台を取り戻したい」と中学1年生から高校3年生までを対象としたオンライン吹奏楽ソロコンクールである第1回学生吹奏楽コンクール・オンラインを企画した。さまざまなジャンルで、新型コロナウイルスによって活躍の場を奪われた学生のためのオンライン選手権が行われ、懸命に参加する姿は、それを見る多くの人々をも励ました。
快進撃を続ける将棋の藤井聡太氏の奮闘も、人々を勇気づけた。6月には史上初となる竜王戦ランキング戦で4期連続優勝を達成。6月から7月に行われた第91期棋聖戦五番勝負では渡辺明九段に挑戦し、見事3勝1敗で戦いを制して史上最年少となる17歳11カ月でタイトルを獲得した。さらに、7月から8月の第61期王位戦七番勝負では、木村一基九段に勝利を収め、史上最年少18歳1カ月でのタイトル二冠保持と八段昇進を果たした。ちなみに、棋聖戦で敗れた渡辺明九段は、8月に第78期名人戦で豊島将之名人を破り、タイトル在位26期目にして自身初となる名人位を獲得、三冠に復帰している。
エンターテインメントでは、お笑いタレントでユーチューバーのフワちゃんがブレイク。カラフルな衣装に身を包み、ハイテンションで話すフワちゃんが、自分を自由に表現する姿は若者たちの憧れを生んだ。そんな彼女は、東京都の「感染防止徹底宣言ステッカー」を周知するCMに起用されるなど、活躍の場は広がり続ける。
Nizi Project(虹プロジェクト)も、人々の期待を集めている。グローバル・ガールズグループをつくるために、日本のソニーミュージックと、韓国の芸能事務所JYPエンターテインメントによって企画・運営された同プロジェクト。1万人以上の応募者から厳しい審査を経て選ばれた9人が、ガールズグループ「NiziU(ニジュー)」を結成した。彼女たちのプレデビュー曲はYouTubeでの公開2カ月で1億回再生を突破。さらに12月2日のデビュー日前に、第71回NHK紅白歌合戦への出場を決めるなど、今後の活動が期待されている。
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コロナ禍で変わる暮らし
今回のコロナ禍でまず起こったのが紙マスクの不足。それにより国民に布マスクを配布する政策が実行された一方、各メーカーは高機能マスクやファッショナブルな布マスクを開発し、市場に投入した。マスクだけでなく、アルコールシートを携帯する人が増える等、感染予防グッズが普及した。また、エレベーターの行き先ボタンで非接触型の製品が登場するなど、最新技術も次々と実装されている。
コロナ禍での非接触ニーズから、さらに進んだのがキャッシュレスだ。昨年から続いたキャッシュレス・消費者還元事業の効果や、紙幣や硬貨を直接やりとりしないという感染拡大防止の面からも、キャッシュレスは一気に拡大。この流れを続けるべく、各事業者もさらなるキャンペーンを打ち出している。レジ袋の有料化が義務づけられたことでエコバッグを持ち、電子マネーで支払う。そんな新しい買い物の姿が、当たり前となった。
不要・不急の外出自粛が要請されたことにより、家にいる時間が増え、人々の生活様式は大きく変わった。例えば、「出前」の復活。昭和の時代は、まちの飲食店がおかもちを持って、各家庭に食事を届ける風景はよく見かけたものだが、すたれていた。だが、コロナ禍によって、Uber Eatsや出前館という、新たな時代の出前サービスが躍進。その他、飲食チェーンもテイクアウトへの対応や出前サービスの拡充など、外食機会の減少に対する取り組みを強化した。
一方で、家庭で楽しむ家食もトレンドとなった。テレビやYouTubeではプロの料理人がアイデアレシピを公開し、レシピ動画サイトなどの閲覧数が増加。外出自粛により、単調になりがちな生活に彩りを与えた。
もっとも、食べるだけでは健康が保てない。自宅フィットネスにより、健康を維持しようとする人が増えた。自宅で使えるフィットネス機器の販売数が伸びたほか、オンライン・フィットネスのサービスが注目され、今後の需要増が見込まれている。
食事やフィットネス以外の楽しみは、さまざまなメディアが担った。例えば、3月20日に発売されたNintendo Switch用ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」。「無人島」を舞台に、プレイヤーが「無人島移住パッケージプラン」に参加し、現実と同じ時間の流れる島でどうぶつたちと一から生活をはじめる、といった内容だ。任天堂の「どうぶつの森」シリーズ7作目となる本ソフトは、発売から3日間で国内推定本数188万626本を記録。9月末までに、全世界で2,600万本を販売するという大ヒットとなった。
また、吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)氏の漫画「鬼滅の刃」も社会現象となった。架空の大正時代を舞台に、主人公が鬼と化した妹を人間に戻す方法を探すために戦う姿を描いた同作。2016年から連載していた「週刊少年ジャンプ」5月18日発売号で最終回を迎えたが、完結後も着実にコミックの売上を伸ばし、10月2日に発売された第22巻をもってシリーズ累計発行部数が1億部を突破(電子版含む)。昨年9月末のテレビアニメ放送終了時点では累計1,200万部であり、1年で8,800万部を伸ばした。また、10月16日に公開された映画『劇場版 「鬼滅の刃」無限列車編』(東宝、アニプレックス/外崎春雄監督)は公開3日で興行収入46億円超、10日間で動員798万人、興行収入107億円を突破。10日間での100億円突破は、日本で上映された映画で初のことだった。
テレビでは、地上波、衛星放送にかかわらず、過去の人気作品の再放送が相次いだ。これらは、各放送局が自粛下で新たな撮影ができないために空いた放送・放映スケジュールを埋めただけではなかった。例えば、日本テレビ系で放映された「野ブタ。をプロデュース」などの名作ドラマの再放送は、視聴者が注目。4月のMF1層(20歳から34歳までの男女)の視聴質ランキングに4週連続で首位になるほどだった。映画館では、6月にスタジオジブリの4作品が相次いで再上映された。中でも「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」の3作品は、興行通信社の全国映画動員ランキングによると3週にわたってトップ3を独占という、リバイバル作品としては異例のヒットを記録した。
もっとも、緊急事態宣言解除後の新番組も負けてはいない。正義を貫くバンカー・半沢直樹の活躍を描いたテレビドラマ、日曜劇場「半沢直樹」(TBS系)。シリーズ2作目となる同ドラマは、最終回の平均視聴率で32.7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録。視聴率30%を突破したドラマは、2013年の前作最終回以来であり、コロナ禍の鬱屈した人々の心を励ました。
ちなみに、4月、5月の外出自粛によって、地上波の視聴率は昨年に比べて伸びており、低調だったテレビが人々の娯楽として見直されたのは間違いないだろう。
withコロナを乗り切るために
新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言、それに伴う外出自粛や休業要請により、日本経済は大きなダメージを受けた。痛んだ景気・経済を立て直すために、政府はGo Toキャンペーンを実施し、国内の需要喚起を図ろうとしている。その第1弾となったのが7月に始まった「Go To トラベル」だ。これまで訪日外国人観光客によって支えられていた観光関連産業を支えるのが目的で、国内を対象に指定旅行代理店での旅行商品の購入や、インターネットのホテル予約サイトから宿泊予約をした国内在住者に対し、代金を割り引き、現地での飲食店、土産物店で使える割引クーポン券を発行する。
また10月以降も政府は、農林水産事業者を支援すべく飲食店の需要を喚起する「Go To イート」、イベント業者を支援する「Go To イベント」、さらに地域の商店街を支援する「Go To 商店街」を進めている。
「Go To イート」と同じく、生産者応援の動きも活発化している。在庫の滞留解消や、価格水準の回復を図るべく、政府は新型コロナウイルスの感染拡大により、販売にダメージを受けている国産農林水産物等について、インターネット販売の送料を補助するなどの「品目横断的販売促進緊急対策事業におけるインターネット販売推進事業」を展開。それを受けた各事業者がキャンペーンを実施するなど、生産者応援の輪が広がっている。
3月14日に開業したJR東日本の新駅高輪ゲートウェイ駅では、New Normalにつながる、さまざまな取り組みを見ることができる。開業時は人工知能(AI)を搭載した案内ロボットの配置、無人コンビニエンスストアが開設されたほか、消毒作業、手荷物や軽食・飲料の搬送などを行うロボット、パーソナルモビリティの実証実験も順次行われており、新しい時代の駅のあり方が模索されている。現在、駅周辺では「グローバルゲートウェイ品川」をコンセプトに開発が進んでおり、2024年にまちびらきが予定されている。
新しいものが生まれる一方で、古いものが新しいものへ姿を変える動きもあった。8月31日には、多くの人々に親しまれた西武鉄道のグループ会社が運営する遊園地としまえん(東京都練馬区)が、94年の歴史の幕を下ろした。1926年に開業した同園は、世界初とされる流水プールを持ち、ピーク時の92年には約390万人の年間来場者数を誇ったが、近年では減少。100万人前後となっており、今回のコロナ禍も災いし、6月12日に閉園が発表された。跡地は、周辺住民の避難場所や防災拠点となる東京都の「練馬城址公園」として整備されるほか、一部には人気映画「ハリー・ポッター」をテーマとした「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京─メイキング・オブ ハリー・ポッター」が建設される。新たな施設は、ハリー・ポッターのテーマパークとしてはロンドンに続いて2カ所目となる予定で、2023年の開業が待たれる。
2020年は、新型コロナウイルス感染症一色の1年だった。人々は超常である存在の妖怪アマビエの力に頼ろうともした。アマビエは、江戸時代後期の瓦版に登場し、写し絵に疫病除けの御利益があるという妖怪だ。SNSで話題となったことを皮切りに、マスメディアでも採り上げられ、厚生労働省が感染症対策サイトにアイコンとして用いたほか、複数の交通機関でも病魔退散の祈願として、乗り物にアマビエのイラストを施したりもした。
一方で、人々は自ら考え、行動するためのヒントを得ようとした。災厄や困難に直面した人がどのように振る舞い、生きるべきかを描いた長編小説「ペスト」は、その象徴といえるものだ。文豪アルベール・カミュが1947年にフランスで発表した「ペスト」は、日本における刊行から51年目を迎えて125万部に達した。withコロナ、afterコロナの時代を、いかに生きるべきか。人々の新しい日常探しは続いている。
2021年は新型コロナウイルス感染症の拡大が終息し、明るい社会、新しい日常が迎えられることを願いたい。
平成元年(1989年)からの番付を公開中!
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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。
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