2019年ヒット商品番付 平成から令和へ 変化する生活スタイル、進化するサービス

4月30日に明仁天皇が退位され、徳仁皇太子が即位。国民の祝賀ムードの中、元号も平成から令和へと変わり、新しい時代が幕を開けた。国内では、来年に控えた東京オリンピック・パラリンピックに向けた準備が急ピッチで進められ、さまざまな関連イベントも催されたほか、日本がホスト国を務めたラグビーワールドカップ2019において日本代表チームが躍進。アイルランドをはじめとする強豪チームを次々と打ち破り、初めて決勝トーナメントに進出し、改元の年にふさわしい明るい話題を日本に提供した。
しかし、一方で9月の台風15号、10月の台風19号では記録的な暴風雨が日本を襲い、各地に甚大な被害をもたらした。このところの猛暑なども含め、過去とは違う自然環境になりつつあることを、まざまざと見せつけられた年でもあった。

こうした中、今年もさまざまな日本人が海外に認められた。旭化成の吉野彰名誉フェローが、リチウムイオン電池の開発に主導的な役割を果たした業績を認められノーベル化学賞を受賞。また、ラグビー日本代表以外にも、女子ゴルフでは渋野日向子選手が、「AIG全英女子オープン」で日本人女子選手として42年ぶりの海外メジャー優勝。米プロバスケットボールリーグNBAでは、八村塁選手が日本人史上初1巡目9位指名を受けてワシントンウィザーズに入団、実績を重ねている。

経済においては、10月に消費税が8%から10%に増税され、それにともない政府は消費税ポイント還元を実施。キャッシュレス社会に向けての動きが加速している。実業界では働き方改革が進み、三井住友銀行やパナソニックなどの大手企業はドレスコードフリーを実施。これまでの常識とは違う動きが顕著となっており、着実に人々の考え方が変わりつつあることを実感した1年であった。
こうした変化を意識しつつ、今年のヒット商品番付を発表したい。

新しい時代の幕開け

4月30日に明仁天皇が退位され、徳仁皇太子が即位し、平成から令和へ新しい時代が始まった。昭和天皇の崩御という悲しみから始まった平成と違い、人々は明仁天皇、美智子皇后のお二人にこれまでの感謝を表すことができたこともあり、祝賀ムードによる幕開けだったと言えよう。


新天皇の即位にともない、改元された5月1日と、新天皇即位を公に示す「即位礼正殿の儀」が行われた10月22日が令和元年に限り祝日となった。特に、4月27日から5月6日までが10連休となったことは、国内の観光産業にメリットをもたらした。例えば、JRグループ6社ではゴールデンウィーク中の期間を含む4月26日〜5月6日の11日間の新幹線や特急列車の輸送人数が前年比19%増、航空各社では同期間内の国内線の搭乗者数が前年比14%増、国際線は3.8%増だったという。また、観光庁によると、今年1-3月期の宿泊旅行消費額は前年同期比4.7%減だった一方で、4-6月期は前年同期比16.4%増という結果であり、天皇即位にともなう大型連休は経済効果を生んだと言える。


その中でも目立ったのが埼玉県飯能市の「ムーミンバレーパーク」だ。その名の通り、フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの「ムーミン・シリーズ」と呼ばれる一連の小説・絵本をテーマとした施設で、郊外型レジャー施設「metsä(メッツァ)」内に今年3月にオープンした。昨年11月には北欧の生活をテーマにしたショッピングモール「メッツァビレッジ」が先行してオープンしていたが、3月16日のムーミンバレーパークのオープンにより、同月26日には来場者50万人を達成。6月には初年度の来場数目標を100万人から137万人に上方修正した。来場者は埼玉県内からが圧倒的に多く、次いで東京都、神奈川県と近隣からとなっている。一方で、アジア圏を中心にインバウンドの来場者も増えているという。


また、香川・岡山県の島々を舞台に開催された「瀬戸内国際芸術祭2019」も盛況であった。春・夏・秋の3つの会期に分かれて開催されたが、特に4月26日〜5月26日の春会期の来場者数は約38万7,000人と3年前となる前回を52%も上回った。夏会期は前回から5%増の約31万9,000人、秋会期は台風が続き失速したが、欧米メディアが「今年の行くべき場所」として採り上げたことから世界的に注目された。


ほかにも注視されているのが、東京都で進む渋谷再開発プロジェクトだ。渋谷では、2012年の渋谷ヒカリエの開業を皮切りに、世界を牽引する新しいビジネスやカルチャーを発信するステージとして「エンタテイメントシティSHIBUYA」の実現を目指し、駅周辺において大規模な開発プロジェクトが進行中だ。11月1日には超高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」が第1期開業を迎え、地下2階から14階までを都市型商業施設として大型ショッピングゾーンとしたほか、オフィスフロアは同地区最大級の広さを誇るワークスペースとされた。プロジェクトは2027年度まで続くが、来年度までには駅東口の再開発が完了予定であり、さらなるインバウンド需要が見込まれている。


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期待が膨らむ「TOKYO 2020」

今年は「TOKYO 2020」へのカウントダウンが開催まであと1年に迫った年にふさわしく、スポーツの話題にも事欠かない1年であった。女子プロゴルフにおいては、渋野日向子選手が8月に開催された「AIG全英女子オープン」で、日本人女子選手として樋口久子選手以来42年ぶりの海外メジャー優勝を果たした。国内でも9月の「デサントレディース東海クラシック」で優勝。最終日に8打差を逆転しての優勝はJLPGAツアー史上2番目の記録となり、この試合で獲得賞金も1億円を突破した。出場24試合での獲得賞金1億円突破は畑岡奈紗選手に次いで日本人2番目の記録となった。さらに男子ゴルフでは、10月の「ZOZOチャンピオンシップ」で、松山英樹選手が大会出場のために来日したタイガー・ウッズ選手と好勝負を繰り広げた。勝負は惜しくも敗れて2位だったが、勝ったウッズ選手は米ツアー歴代最多に並ぶ82勝目を記録。松山選手は日本のエースとしての貫禄を見せてくれたといえよう。


海外においても、米プロバスケットボールリーグNBAでは、八村塁選手が日本人史上初1巡目9位指名を受けてワシントンウィザーズに入団。11月24日時点で開幕から14試合連続で先発出場し、10月30日の対ロケッツ戦では23得点を記録する活躍を見せている。八村選手は富山県生まれ。高校時代から、日本国内でウィンターカップ3連覇を達成し、日本代表候補に選ばれるなど注目を浴びていた。大学は、名門・ゴンザガ大学に留学。1年生から全米大学選手権に出場し、3年時には大会MVPにも輝き、将来のNBAスター候補になっていた。この八村選手の活躍は、米メディアの予想を超えており、1年目からどれだけ実績を残せるのか注目される。


こうした選手たちに負けない働きを見せてくれたのが、「ラグビーワールドカップ2019」における日本代表だ。予選プール・開幕戦でロシアに快勝。続く 2戦目は、その時点で世界ランキング2位であった強豪アイルランドと対戦して勝利を収めた。さらに予選プール最終戦で対戦した強豪スコットランドには、先制トライを許したものの逆転。後半の猛攻を凌ぎきって勝利し、予選プール1位という成績で、史上初の決勝トーナメント進出を決めた。準々決勝では後に優勝した南アフリカに敗退してしまったが、ラグビー中堅国であるティア2の国が予選プール全勝で1位となるのはワールドカップ史上初という堂々たる戦いぶりで、多くの国民に感動と誇りを与えた。


国際大会の誘致は、日本人選手の活躍だけでなく、海外の一流選手のプレーも間近に見られることが魅力だが、こうした流れは来年開催される東京オリンピック・パラリンピック=「TOKYO 2020」への期待感をいや応なく高めてくれた。「TOKYO 2020」はマラソンや競歩の札幌開催が決まるなど、直前まで周囲が気を揉む出来事があったものの、12月の国立競技場完成イベントをはじめ開催が今から楽しみでならない。

世界に誇る日本人の業績

朝日新聞社提供
日本人の活躍はスポーツ界にとどまらない。10月には旭化成の吉野彰名誉フェローがノーベル化学賞に輝いた。リチウムイオン電池の開発で主導的な役割を果たしたことが評価されてのことであった。この開発によって小型・軽量で高出力の蓄電池が実現し、現在のスマートフォンなどのIT機器や電気自動車(EV)の普及を可能にした。妻の久美子さんと夫婦で臨んだ会見で吉野氏は、企業はより重点的に基礎研究すべきだと強調したうえで、「GAFAのような企業に『J』が付くようなベンチャーが生まれてほしい」と語った。また、日本経済新聞社の単独インタビューでは、「企業研究は論文として表に出ないことが多く評価されにくいが、今回は特許で発明の証拠を示せた。ノーベル賞の委員会が特許まで見てくれたのであれば、ありがたい」とも話しており、衰えたともささやかれる日本の技術力が、まだまだ捨てたものではないことを世に示す結果ともなった。


サイエンスの分野以外でも、驚かされる出来事があった。埼玉県の蒸留所、ベンチャーウイスキーが1985~2014年に製造した和製ウィスキー「イチローズモルト」シリーズの54本セットが香港で競売にかけられ、719万2,000香港ドル(約9,750万円)で落札された。英競売会社ボナムズによると、日本産のウィスキー落札額では過去最高という。近年、和製ウィスキーは世界的に評価が高まっており、世界的なコンクールでも本場ヨーロッパ勢を抑えて優勝することも珍しくなくなった。その魅力は多様性と奥深さにあるといい、「日本がスコッチを越え世界のリーダーになった」と海外メディアに報道されることもあるほど、新しい日本発の文化として定着しつつある。

変わるお金の使い方

平成から令和へと変わった今年は、これまでの社会と一線を画する動きがあった年でもあった。例えば、10月の消費税率10%への引上げにともなって始まった消費税ポイント還元。増税による景気対策として需要平準化に加え、キャッシュレス対応による生産性向上や消費者の利便性向上をも目的としている。中・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援することで、国内の本格的なキャッシュレス化の動きが加速している。


また、サービスにおいては、サブスクリプションが当たり前になった。これまでは物を購入したり、1度のサービスごとに金銭を支払っていた。それがサブスクリプションサービスの普及により、料金を支払うことで一定期間サービスを受けられる方式へと変わった。マイクロソフトの「Office365」や、アマゾンの会員プログラム「Amazonプライム」などがメジャーだが、それ以外にもトヨタ自動車株式会社は昨年11月にクルマとの新しい関係を提案するサブスクリプションサービス「KINTO」を発表。トヨタファイナンシャルサービス株式会社と住友三井オートサービス株式会社の共同出資で株式会社KINTOを設立し、積極的展開を図っている。また、株式会社Jocyの美容室を使い放題とするサブスクリプションサービス「MEZON」など、確実に財に対する考え方が変わりつつある。

企業も変わらざるを得ない

企業の考え方も随分と変わってきた。これまでもIT系企業などベンチャー企業では、勤務時に私服を着用することも珍しくなかった。そのドレスコードフリーを、ついに保守的だと考えられてきた大企業も取り入れ始めた。4月にパナソニックが、本社など内勤の従業員を対象に開始。富士通は9月に、NECも10月から実施を始めた。銀行業界でも、三井住友銀行が9月から東京・大阪の本店で働く行員を対象に、原則としてスーツ着用にしていたルールを見直し、年間を通して服装を自由にした。お堅いイメージを払拭する目的のほか、各社ともカジュアルな装いで働くことで、社員の自由な発想、階層・垣根のないオープンな意思疎通を狙ってのことである。


こうした取り組みは、言うまでもなく自社をよりよく存続させるためである。だが、現在は自社のみを念頭に置いていては、企業の発展はおぼつかなくなっている。その理由の一つとして挙げられるのが、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資だ。投資家は、ESGの観点で経営がなされているかを重視しはじめた。それにともない、SDGs宣言の実施や、SDGs推進のための融資や私募債買受けを行う金融機関も増えた。そのため、SDGsに取り組む企業は、ここ1年で目立って増加。それを受けて、三井住友銀行をはじめとした邦銀各行もSDGsローンを拡充している。従来は、環境や社会面に配慮した事業への資金調達ではグリーンボンド(環境債)などESG関連起債が主だったが、債券発行には一定規模の金額が必要となっていたため、間口を広げることが狙いだ。さらに、SDGsへの取り組みは、リクルート活動にも大きく影響を与えている。社会に貢献する企業で働きたいという意志を持つ若者たちが増えているからだ。これからの時代、ESG経営、SDGsへの取り組みの有無や深度が、企業の先行きを左右することは間違いないだろう。

未来を担う子どもたち

社会貢献を志す若者が増える中、子どもたちへの教育も変化している。例えば、2020年度からはプログラミング教育が小学校で必修化される。狙いは、コンピュータープログラムを意図通りに動かす体験を通じ、論理的な思考力を育むとともに、幼い頃からプログラムの世界に触れることで、ITに強い人材を育成しようというものだ。その影響はマーケットにも出ている。プログラミング教育メディア「コエテコ byGMO」と船井総合研究所が共同で実施した「2018年 子ども向けプログラミング教育市場調査」によると、プログラミングを教える教室の数は、2013年には750教室だったのが、2018年には約6倍の4,457教室にまで増加しているという。また、学習のための教材についても、大手電機メーカーをはじめとした各社が参入し、市場は拡大し続けている。


一方で、悲しいが切実な教育も必要なことが再認識された年でもあった。その象徴となったのが、弘文堂発行の「こども六法」だ。この本は、子どものときから、やってはいけないことの線引きをきちんと理解し、もし自分が犯罪の被害にあってしまったら現状を正しく理解し、適切な対応が取れるようにという願いで制作された。いじめ・虐待等の、子どもが被害者・加害者となる問題に対し、子どもが法知識を得ることで、自分が被害にあっていることを自覚できたり、知らぬ間に加害者となってしまうことを避ける狙いがあるという。実際、著者の教育研究者である山崎聡一郎氏は、自身がいじめられた体験を持つ。その経験を元に生まれたのが本書であった。8月20日の刊行以来増刷を重ね、3カ月で7刷28万部を発行した。奇しくも、発行後に神戸市で教員同士のいじめが発覚。さらに世間の注目を集めることにもなった。

消費者は何を求めるか?

今年ヒットしたものと言えば、まず挙げられるのがタピオカドリンクだろう。最初にタピオカが日本でブームになったのは、1992年頃。白いタピオカにココナッツミルクを入れた、スプーンで食べるデザートとして登場した。その後、2003年以降のタピオカ&クレープ専門店「パールレディ(Pearl Lady)」の展開や、2013年に台湾からタピオカミルクティー発祥の店とされる「春水堂(チュンスイタン)」が日本に上陸して市場拡大したことによる第2次タピオカブームという状況があった。そして、2017年頃より再びブームが到来。出店が加速し、現在の状況につながっている。その魅力は、ミルクティーだけでなく、ジュースやジャスミンティーなど、タピオカを入れて楽しむドリンクのバラエティーが豊かなこと。そしてコーヒーブームが続く中、それ以外の選択肢を欲しがる人にとって絶好のものとなったことが挙げられるだろう。まだブームは続く気配を見せており、今後は増えた店舗がどこまで定着するかが気になるところだ。


また、ハンディー扇風機もヒットした。ハンディー扇風機は、すでにアジア圏では定着していたが、国内においてもSNSなどを通じて便利さが拡散され、ブームとなった。昨年の商品よりも、選べるカラーやデザインが豊富となり、首から掛けられるハンズフリータイプのものも登場。家電量販店やネット通販では、前年同期比で倍以上を売り上げるところもあったという。各メーカーでは、すでに来夏に向けての商品開発が始まっているとされ、「TOKYO 2020」において暑さ対策の一助となることも期待される。


健康関係で好調なのが、Nintendo Switch用ソフトの「リングフィット アドベンチャー」(任天堂)だ。女優の新垣結衣さんをCMに起用して話題を集め、ファミ通の調べによると10月18日の発売から2週連続で6万本台を売り上げ、累計13.3万本を販売し、10月期の月間ソフトランキングのトップとなった。このソフトの特徴は、付属の専用コントローラーを連動させ、実際に身体を動かしてフィットネスゲームが楽しめることだけでなく、それをRPGとして仕上げたこと。海外レビューでも高い評価を受けており、過去にブームとなった同じく任天堂の「Wii Fit」にどこまで迫るのかが注目される。


エンターテインメントで快進撃を続けるのが、伝説のロックバンド・Queen(クイーン)のボーカリストであるフレディ・マーキュリーの激動の半生を描いた映画「ボヘミアン・ラプソディ」だ。日本公開は昨年11月9日で、その後快進撃を続け、5月12日までで観客動員数941万4,054人、興行収入130億265万円を記録した。4月にはブルーレイ&DVDが発売されている中、11月27日現在で未だ映画館での上映も続いており、世界での興行収入が1,000億円を突破した名作の勢いは続く。


とはいえ、日本作品も負けてはいない。新海誠監督最新作の「天気の子」は、7月19日の公開以来、75日間で観客動員1,000万人を越え、興行収入も10月6日時点で135億円を突破、「ボヘミアン・ラプソディ」を抜いた。配給する東宝は、この「天気の子」のメガヒットもあり、上半期の営業利益は前年同期比32%増の335億円と大幅増となった。新海監督の次回作が、今から待ち遠しい。


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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。


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