1996年ヒット商品番付 キーワードはI.S.D.N

景気回復の足取りが鈍り、夏にはO-157による食中毒騒ぎも発生した96年は、特に耐久消費財にこれといった大型のヒット商品が見当たらず、全体としてはヒット商品不作の年となった。そのなかでもよく健闘した商品は、携帯電話やPHSなどの通信情報関連の機器、こだわりや好奇心を満足させる身近な等身大の商品、安全や自然を志向した商品などであった。この傾向はI(Infomative&Interesting=情報を与える&こだわりや好奇心を満足させる)、S(Safe=安全な)、D(Digital=デジタルな)、N(Natural=自然な)商品というキーワードにまとめることができる。

「I」=Infomative&Interesting

情報化の波はとどまるところを知らない。昨年の大関から横綱昇進を果たした携帯電話&PHSは、契約件数が右肩上がりに順調に伸び続け、道端であるいは電車のなかでと、あらゆる場所で通話する人の姿があたりまえとなった。また、インターネットの急速な普及に伴って、外出先からもあらゆる情報にアクセスできる電子手帳やノート型パソコンなどのモバイル情報機器も確実に売り上げを伸ばした。「こだわり」という点に関しては、女子高生を中心に機械の前に行列ができるほどの話題になった「プリント倶楽部」は、背景の図柄へのこだわりが重要な要因となった。また今年登場した新写真システムAPS対応カメラでは、洗練されたデザインにこだわった「IXY」の独走となった。若者のファッションでは、人気アイドル安室奈美恵と同じファッションにこだわるアムラーたちが街にあふれ、スーパーモデルが普段着として着る服というコンセプトの「elite MODELS」も人気を集めた。1モデルあたりの販売個数が少なくなかなか手に入りにくいバスケットシューズ「エアマックス」にはプレミアム価格がつき、これを履いている人が襲われるという事件も発生した。また、個性的な髪へのこだわりから茶髪が流行し、ヘアカラーの売り上げも伸びた。さらに、春山茂雄氏の『脳内革命』は、脳内モルヒネの分泌によって脳が活性化されるという内容が読者の知的好奇心を刺激してベストセラーになり、またタカシマヤ・タイムズスクエアやキャナルシティ博多などの都市型複合商業施設は、買い物だけでなく手軽な遊びを求める人々の好奇心を駆り立てた。


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「S」=Safe

O-157による食中毒騒ぎは日本中を駆け巡り、死者も出る大きな事件となった。多くの小学校で給食が中止され、スーパーなどでは生鮮食料品の売り上げが大幅に落ち込んだが、反対に薬用石鹸や消毒液などの需要が拡大した。健康志向から肥満に対する警戒感が高まり、ノンシュガー食品が清涼飲料水やチョコレートなどで多数登場し、一般の製品を押しのける勢いで好調に売り上げを伸ばした。


生命の安全という重いテーマでは、手術と抗がん剤中心の日本のがん治療に一石を投じた近藤誠医師の『患者よがんと闘うな』は、賛否両論が入り交じって日本の医学界に大論争を巻き起こしている。またバリアフリー住宅は、21世紀に向けて一段と進む高齢化を背景に、今後ますますニーズが高まっていくと予想される。

「D」=Digital

一般電話回線よりも高速で高品位なデジタル回線である「ISDN」は、より快適にインターネットを楽しみたいというネットサーファーたちに支持され、回線工事が順番待ちになるほどの人気を集めた。


CDがあっという間にレコードに取って代わったように、MDプレーヤーはカセットレコーダーに取って代わる勢いを持ち始め、またデジタルカメラも価格と画質が一般ユーザーに受け入れられる水準になって、インターネット上にホームページを作成するための必須アイテムとして需要を拡大した。


デジタル化の波は来年以降もさらに続くとみられる。先陣を切って放送を開始した「PerfecTV!」の後を「DEREC TV」「JスカイB」の2社が追いかけるデジタル衛星放送、コンテンツの充実が課題ながら次世代の記憶媒体として有望視されているDVDなどが、虎視眈々と来年の番付入りをうかがっている。

「N」=Natural

機能的・人工的・あるいは非現実的(バーチャル)な傾向の商品がヒットする一方で、自然志向の商品も強い支持を得ている。


消費者のなにげないニーズを着実に商品化して成功している花王は、昨年の「クイックルワイパー」に引き続き、貼るだけで鼻の毛穴の汚れがとれる自然志向の美容グッズ「ビオレ毛穴すっきりパック」を大ヒットさせた。


最高視聴率36.7%を記録したドラマ『ロングバケーション』は、30代の女性と年下の男性の自然なラブストーリーが多くの人々の共感を呼び、またドラマのなかで主人公が着た衣装が翌日に店頭で売り切れになる、サウンドトラックのCDがヒットするなどの波及効果ももたらした。


このほかにも、番付にはいま一歩のところで入らなかったものの、宮沢賢治の生誕100年を記念したさまざまな企画によって、自然と夢に富んだイーハトーブの世界に多くの人々の注目が集まった。


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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。


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