Netpress 第2502号 正しく理解していますか? 固定残業代制の制度の概要と留意点
1.残業代計算の効率化を目的に導入されることが多い固定残業代制は、あらかじめ一定時間分の残業代を月給に含めて支払うことで、労使双方にメリットがある反面、正しく運用しないと労務トラブルを招きかねません。
2.ここでは、固定残業代制の制度の概要とその留意点について解説します。
固定残業代制とは、「一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働時間があったものとみなして、これらに対する割増賃金を定額で支払う仕組み」を指します。
この制度のメリットは、効率よく業務を終わらせても残業代が減らず、従業員に生産性向上へのインセンティブを提供でき、人件費の見通しが立ちやすくなることです。一方、デメリットとしては、運用を誤ると残業を前提にした働き方が固定化されることや、割増賃金の未払いによる労基法違反のリスクが挙げられます。
1.固定残業代の支給方法
固定残業代の支給方法は、大きく分けて「手当型」と「組込み型」の2つのパターンがあります。
| 手当型 | 基本給とは別に、「固定残業手当」など企業独自の名称で支給する方法です。管理がしやすく、トラブルも少ない支給方法といえます。 |
| 組込み型 | あらかじめ基本給の中に固定残業手当として組み込んで支給する方法です。この場合、通常の労働時間の賃金にあたる部分と、固定残業手当にあたる部分を明確に判別できるようにします。 |
2.固定残業代制を適切に運用するためのポイント
固定残業代制を適切に運用するには、固定残業代を通常の労働の賃金と明確に区分して設定したうえで、割増賃金の未払いが生じないよう、設定した額または時間を超過した場合は、差額(不足分)を必ず精算する必要があります。
(1) 固定残業代の設定方法
判例では固定残業代の金額を明示すれば足りるとされていますが、より明確に区分するために金額と時間数の両方を示すべきだと考えます。
また、時間外割増賃金のほか、深夜・休日割増賃金も固定残業代に含めることが可能ですが、その場合は固定残業代の中にどの割増賃金が含まれるのかを就業規則等で明らかにしておく必要があります。
具体的な設定方法として、以下の2パターンが考えられます。
① 金額を基準として定める方法
「〇〇時間相当分の時間外割増賃金として△△円を支払う」といったように、金額を基準として定める方法です。
この方法の場合、固定残業代の金額に「相当する」時間数は示すようにしましょう。
② 時間を基準として定める方法
「時間外労働20時間分を固定残業代として支給する」といったように、時間を基準として定める方法です。
この方法の場合、固定残業代の金額は労働者ごとに異なりますので、金額を個別に算出する必要があります。
(2) 差額(不足分)の精算方法について
固定残業代にどの割増賃金(時間外、深夜、休日)を充当するのかを明確にしたうえで、差額(不足分)を精算します。
差額の精算には、以下の2つの方法があります。
① 実際の時間外労働等の割増賃金を計算して固定残業代との差額を支払う
② 実際の時間外労働等の時間数と設定した時間数の差分を計算し、その時間に対応する割増賃金を支払う
どちらの方法も可能ですが、②の場合、特別な手当の支給等で割増賃金の計算単価が上がったのに、従来の計算単価で計算してしまうと、割増賃金の未払いになる可能性があります。未払いを防ぐためにも①をお勧めします。
(3) 何時間相当分が適切か?
設定時間に法的な上限はありませんが、長すぎると公序良俗違反として無効になるリスクがあります。裁判例では、月80時間相当(過労死ライン)の設定を無効としたケースがあります。また、36協定の上限(月45時間)との整合性も考慮すべきであり、実務的には45時間以内で自社の勤務実態にあわせて無理のない範囲で定めるようにしましょう。
3.運用上の留意点
(1) みなした時間(額)を超えた場合の支払い義務
固定残業代制の運用において最も重要なのは、実際の残業時間または残業代の額が、固定残業代として設定したものを超えた場合に、その差額(不足分)を必ず支払うことです。
支払いを怠った場合は、割増賃金の未払いとして労基法違反になることはもちろん、訴訟になった場合、差額(不足分)の支払いをしていないことを理由に、固定残業代が時間外労働等の割増賃金として認められない可能性があります。そうなると、固定残業代を通常の労働に対する賃金の一部として扱わなければならず、遡って、割増賃金の計算単価に含める必要が生じます。さらに、固定残業代に充当していた時間外労働等の割増賃金も支払っていないことになるので、遡って支給しなければなりません。
(2) 就業規則(賃金規程)と労働条件明示書への明示方法
固定残業代制の有効性を確保するためには、就業規則(賃金規程)や労働条件明示書において、(A)「固定残業代の金額および時間数」、(B)「差額精算の際に固定残業代に充当する割増賃金の種類」、(C)「差額(不足分)の支払い」を明確に規定する必要があります。
【就業規則(賃金規程)の記載例】 【労働条件明示書の記載例】
| 第○条(固定残業手当) (1) 固定残業手当は、〇〇に従事する従業員に対し、その全額を(B)時間外勤務割増手当の支払いに代えて支給する (2) 固定残業手当の金額は、以下の計算式に基づき算出する (A)(1時間当たりの賃金額)×1.25×△△時間 (3) (C)固定残業手当の額を超えて時間外勤務割増手当が発生した場合は、その差額を別途支給する |
| 月給〇〇万円 (1) 基本給〇〇万円 (2) 固定残業手当(時間外労働の有無にかかわらず、(A)△△時間分の (B)時間外勤務割増手当の支払いに代えて (A)〇〇円を支給) (3) (C)固定残業手当の額を超える時間外労働分の割増賃金は追加で支給 |
固定残業代制は、正しく定めて運用すれば業務効率化のインセンティブになるなどのメリットがありますが、曖昧な運用では、割増賃金の未払いによる労基法違反のリスクを招きます。就業規則等を整備したうえで、「固定残業代の金額および時間数」、「差額精算の際に固定残業代に充当する割増賃金の種類」、「差額(不足分)の支払い」について労働者に通知し、日々の労働時間管理を徹底することが求められます
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