Netpress 第2256号 新たな裁判手続の創設など 改正プロバイダ責任制限法で何が、どう変わったのか?
1.インターネット上での誹謗中傷などによる権利侵害が深刻化していることから、より円滑に被害者の救済を図ることを目的として、プロバイダ責任制限法が改正されました。
2.特に重要な改正点は、(1)新たな裁判手続(非訟手続)の創設、(2)開示請求を行うことができる範囲の見直しの2点です。
梅田総合法律事務所
弁護士 今西 知篤
弁護士 伴城 宏
2021年4月28日にプロバイダ責任制限法の改正法が公布され、2022年10月1日に施行されました。ここでは、改正内容と企業に求められる対応について解説します。
1.プロバイダ責任制限法とは
プロバイダ責任制限法は、インターネット上の誹謗中傷といった権利侵害投稿における発信者情報開示を行う場合によく問題になりますが、なぜ「プロバイダ」の「責任」を「制限」する「法」律という名前なのか、疑問に思われた方もいらっしゃるかと思います。
プロバイダ責任制限法の正式名称は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」であり、その名のとおり、次のことについて定めた法律です。
① | 特定電気通信による情報の流通(ネット掲示板・SNSの書き込み等)によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者(プロバイダ、サーバの管理・運営者等)の損害賠償責任が免責される要件 |
② | プロバイダに対する発信者情報の開示を請求する権利、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続 |
つまり、プロバイダ責任制限法という呼称は、法律の正式名称から①の部分についてのみ取り上げた略称になっており、よく一般社会で問題になる②の部分は略称では省略されています。
なお、匿名の人物から企業を誹謗中傷する内容のメールが取引先へ送信されたので、発信者を特定できないかといったご相談を受けることがあります。
プロバイダ責任制限法は、特定電気通信すなわち不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信のみを対象としています。
そのため、メールは1対1の送受信で「不特定の者」という要件を満たさず、プロバイダ責任制限法に基づいて発信者情報の開示をすることができないので、注意が必要です。
2.プロバイダ責任制限法の重要な改正点
今回の重要な改正点としては、「新たな裁判手続(非訟手続)の創設」と「開示請求を行うことができる範囲の見直し」があります。
以下、それぞれの改正内容について詳しく解説します。
(1)新たな裁判手続(非訟手続)の創設
改正前は、権利侵害投稿の発信者を被害者が特定するためには、まずSNS事業者等のサイト運営者であるコンテンツプロバイダに対して発信者情報開示仮処分の申立てを行い、権利侵害投稿のIPアドレスとタイムスタンプを開示してもらう必要がありました。
次に、通信事業者等のアクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起し、発信者の氏名・住所・電話番号等の発信者情報を開示してもらうのが一般的でした。
このため、発信者を特定するまでに2段階の手続を行う必要性があり、時間を要するにもかかわらず、アクセスプロバイダはアクセスログを3〜6か月程度で消去してしまうため、「時間的制約」が問題になっていました。
そこで、改正法では、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダに対する発信者情報開示を一体的に行う新たな裁判手続(非訟手続)として、「発信者情報開示命令事件」が創設されました(改正法8条)。
(2)開示請求を行うことができる範囲の見直し
一般的なネット掲示板であれば、問題となっている権利侵害投稿について、アクセスプロバイダがアクセスログを保存しており、発信者情報であるIPアドレスやタイムスタンプ等の開示を求めることができました。
しかし、Twitterなどのログイン型SNSでは、各投稿自体についてのアクセスログが保存されておらず、ログイン時のアクセスログしか保存されていません。
そのため、ログイン時のアクセスと権利侵害投稿のアクセスの同一人物性が断定できず、改正前はログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ等が、発信者情報の開示対象となるかという議論がありました。
改正前でも、裁判実務上はログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ等について、発信者情報の開示対象として緩やかに認められているケースが散見されました。
改正法では、権利侵害投稿と相当の関連性を有するアカウント作成時、ログイン時、ログアウト時、アカウント削除時の通信(「侵害関連通信」といいます)のIPアドレスやタイムスタンプ等が発信者情報の開示対象となりました(施行規則5条各号)。
このように、ログイン時等の発信者情報の開示請求については、プロバイダ等が権利侵害投稿についてのIPアドレスやタイムスタンプ等を保有していない場合など、発信者の特定をするために必要がある場合に限り認められます(改正法5条1項3号)。
3.権利侵害投稿の被害を受けた企業の対応
企業が権利侵害投稿の被害を受け、発信者情報開示を行う端緒は、企業がインターネット上で当該権利侵害投稿の存在を発見することにあります。
改正法によって、手続の迅速性は確保されるようになりました。しかし、アクセスログが3〜6か月で消去されてしまうという「時間的制約」があることに変わりはなく、必ずしも権利救済そのものが図られるようになったということではありません。
そのため、改正法下においても、迅速な権利侵害投稿の発見が重要となります。権利侵害投稿の発見が遅れると、アクセスログが消去され、発信者の特定に至らないことも十分にあり得るからです。
改正法下においても、適切な権利救済を受けるためには、インターネット上で自社に対する権利侵害投稿がなされていないかを日常的にチェックしておくことが大切です。
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