Netpress 第2467号 従業員の安全のために 企業が行うべきカスタマーハラスメント対策

Point
1.カスタマーハラスメント(カスハラ)は、今や多くの企業にとって深刻な問題となっています。
2.東京都では、2024年10月に全国初となるカスハラ防止条例(東京都カスタマー・ハラスメント防止条例)が制定され、2025年4月1日から施行されています。
3.2025年6月4日に労働施策総合推進法の改正法も成立し、裁判においては、勤務先企業・組織に損害賠償責任が認められた例もあります。


社会保険労務士法人
NACマネジメント研究所
特定社会保険労務士
中小企業診断士・行政書士
小林 弘和


 近年、顧客や取引先からの著しい迷惑行為である「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の被害が増加し、深刻な問題となっています。


 厚生労働省はカスハラ対策を義務付ける方針を示しており、2025年6月4日に改正法が成立し、公布から1年6ヵ月以内に施行される予定となっています。

1.カスタマーハラスメントとは

 個々の企業や業種等により、顧客等への対応方法や基準は異なると考えられることから、カスタマーハラスメントを明確に定義することはできません。


 そのうえで、カスタマーハラスメントとは、一般的に次のように定義されています。


「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」


 したがって、カスタマーハラスメントに該当するか否かは、次の観点(基準)で判断することになります。


顧客等の要求内容に妥当性があるか
要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるか


 顧客等の要求内容の妥当性については、事実関係や因果関係と、自社に過失がないか、根拠のある要求が行われているかを確認し、顧客等の主張が妥当であるかを判断することになります。


 その際、商品に瑕疵がある場合やサービスに過失がある場合は謝罪し、商品の交換・返品に応じることは妥当ですが、瑕疵や過失がない場合は、顧客等の要求には理由がないことになります。


 また、顧客等の要求を実現するための手段・態様が、暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的、性的な言動であるような場合には、要求内容の妥当性の有無にかかわらず、社会通念上不相当であると考えられ、カスタマーハラスメントに該当し得るものとなります。

2.カスタマーハラスメント対策の必要性

 労働施策総合推進法に基づき厚生労働省が告示している指針において、事業主は顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)によって雇用する労働者の就業環境が害されないように、相談対応体制の整備や被害者への配慮のための取り組みを行うことが望ましく、被害防止のための取り組みを行うことが有効であると定められています。


 また、企業が適切な対応をしていない場合、被害を受けた従業員から安全配慮義務違反として使用者責任を問われ、損害賠償を求められる可能性があり、裁判においては、このような損害賠償請求が認められるケースも出てきています。


 企業としては、このような法的な責任のほか、次のような被害が生じるリスクもあります。


  • カスタマーハラスメントを受けた従業員が精神的に大きなダメージを受けることによりメンタル不調となってしまったり、休職・退職に至ってしまったりする
  • ネットやSNS等への悪評の書き込みにより企業のイメージダウンや業績悪化につながる


 このように大きな被害が生じるリスクもあることから、カスタマーハラスメントに対して十分な対応をとることが重要となります。

3.カスタマーハラスメント対策の枠組み

 企業のカスタマーハラスメント対策の枠組みは、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備と、実際に起こった際の対応として、以下の取り組みを行うことになります。


(1) カスタマーハラスメントを想定した事前の準備

 事前の準備としては、次のようなものが挙げられます。


企業の基本方針・基本姿勢を明確にし、従業員に周知・啓発を図ること
被害者となった従業員のための相談体制を整備すること
カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておくこと
顧客等からのカスタマーハラスメント行為への具体的な対応について、教育・研修を行うこと


(2) カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応

 実際に起こった際の対応としては、次のようなものが挙げられます。


カスタマーハラスメントに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報をもとに事実関係の正確な確認を行い、確認に基づく事案対応を行うこと
従業員に一人で対応させず複数名で組織的に対応すること、メンタル不調への対応等、被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行うこと
同様の問題が発生することを防ぐため、定期的な取り組みの見直しや改善を行い、継続的な取り組みを行うこと


 カスタマーハラスメントによる被害が増加するなか、企業がカスタマーハラスメント対策を積極的に進めることは、職場環境を改善し従業員の職場満足を高めて定着促進につながる等の前向きな効果が期待できますので、カスタマーハラスメント防止策に積極的に取り組んでいただきたいと思います。



◎協力/日本実業出版社

日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/



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