マネプラ・オピニオン ある研究者のチャレンジ

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



今回で私のコラムも最終回となります。最後に、少し私自身の研究者としての経験をお話しさせていただきます。


私は京都大学で電子工学を学び、研究者の道へと進みました。選んだ研究テーマは電波を中心とした宇宙科学や宇宙太陽光発電でした。後者は、生み出された電力を宇宙から地球に送電するという研究テーマにもつながります。こうして、宇宙科学の分野において、宇宙プラズマ物理学、宇宙電波工学などを専門分野として研究に取り組みました。元来、宇宙科学は理学系の学問でしたが、私が取り組む研究テーマは、工学系、理学系の研究者が共同で行う研究分野となりました。理学系学問の究極の目標は真理の探究です。これは崇高な目標ですが、私はより実用的で社会貢献につながるような工学的研究を大切にしつつ、科学研究を進めていきました。


恩師、先輩の研究を承継しつつ、新しい研究分野を切り拓き、国際舞台で活躍することが研究者としての目標でした。新しい分野への挑戦には勇気が必要です。経験のある分野であれば、大きな失敗はありませんし、成果も上げやすいでしょう。しかし、私は失敗を恐れず挑戦する精神こそ貴重だと思ってやってきました。失敗を乗り越え、それを次の成功の糧とするために必要な資質とは何でしょうか。専門分野の知識を深め、経験を重ねるだけではなく、専門分野を超えた根源的な哲学、世界観、歴史観などを身につけることが必要ではないかと、私は考えます。迂遠(うえん)に感じるかもしれませんが、深い教養を身につけ、人格の幅を広げることは、新しい分野の目標に到達することにつながっていきます。


以上は、私が研究者として経験し、感じてきたことですが、深い教養を備え、新しい分野に挑戦する勇気は、ビジネスなど他の世界においても必要とされる資質ではないでしょうか。



◎「SMBCマネジメント+」2023年2月号掲載記事

プロフィール

公益財団法人国際高等研究所 所長 松本 紘

京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、同大学助手、助教授等を経て1987年教授。宙空電波科学研究センター長、生存圏研究所長、理事・副学長などを歴任し、2008年10月総長(~14年9月)。15年4月より国立研究開発法人理化学研究所理事長、18年4月より現職。文部科学大臣表彰 科学技術賞、紫綬褒章、仏政府レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ、名誉大英勲章OBE、瑞宝大綬章 等、国内外での受賞多数。

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