コテンラジオと考える「ポスト資本主義」とは何か? 【第1回】 なぜ「ポスト資本主義」が待望され、価値転換を図ろうとしているのか? 人類史を変えた資本主義の正体とは
第1回は、コテンラジオより『#233カネを持ってりゃ偉いのか!?人類史を変えた「資本主義」の正体』を再構成してご紹介します。
近年多くの人が、資本主義の行き詰まりを感じ、「ポスト資本主義」を論じるようになりました。貧困層と富裕層の二極化が顕在化し、日本でも岸田政権が富の再分配と格差解消を掲げる「新しい資本主義」を提唱しています。この動きは、日本だけではありません。世界各国で同時進行的に、格差是正や資本主義のリデザインが当たり前のように論じられる主要テーマとなっています。
ただポスト資本主義と一言で言っても、本来、「次の資本主義」という意味でしかなく、人によって解釈が異なる難しい言葉です。次の時代の資本主義とは何がどう新しいのか、コテンの代表・深井龍之介さんとコテンラジオのメンバーが解説しています。
ポスト資本主義を論じるにあたって、まずはその前提となる「資本主義」とは何かを定義していかなければなりません。コテンメンバーの深井龍之介さんは、6つの特徴があると説きます。
コテンが説く、資本主義6つの特徴
特徴1.「市場経済を前提として成り立っている」
自由競争により、一人ひとりが創意工夫や効率性を追求するようになり、社会の生産性が上がっていく構造が生まれます。
特徴2.「市場にとって良しとされる行動にのみ報酬・インセンティブが発生する仕組みに
なっている」
資本主義・自由市場経済下では、自分が良いと思った会社に投資するよりも、市場の評価が優先されます。自分の好みではなく、皆の好みを意識する社会です。そのため、市場にとって良しとされる行動にのみインセンティブが発生する仕組みになりがちです。
特徴3.「持続的成長は生産人口に比例してしまう構造」
資本主義においては持続的成長が生産人口に比例します。そして、呪縛のような大前提として、資本主義社会においては、持続的な成長を希求しなければならないものと刷り込まれています。持続的な成長を希求しなければならないから、生産人口も増やさなければならないという流れが生まれます。
特徴4.「期待値が定量化される。ただし、お金しか定量化されない構造」
期待値を定量化できること自体は良いことです。しかし、定量化できる範疇は狭く、儲かるか儲からないかの部分しか数値化できません。その会社がどれだけ社会の役に立っているか、社会から支持されているかといった定性情報や非財務情報は定量化して推し量ることができないのです。
特徴5.「資本が資本を生む構造」
お金を持つ人であれば、簡単にお金を増やすことができる構造です。
特徴6.「資本主義はシステムではなく我々の『OS』として機能している」
資本主義は、「社会システム」として規定されることが多いです。しかし、実相を見ていくと、私たち一人ひとりの生き方や文化、イデオロギー等の習慣や制度などの総体であり、民主主義という言葉とも未分化であり、包括しながら機能する特徴をもっています。
資本主義の特徴はまた、動的です。時代と共に変化しています。
6つの特徴が呼び込む、現代社会の歪み
一方で、深井さんは同時に、それぞれの特徴が問題を孕んでいると続けます。
特徴1.「市場経済を前提として成り立っている」弊害
市場経済とは、商品に価値がつくことを指します。この価値の付き方が、インターネットの登場により変わってしまいました。そして、この影響が非常に大きかったのです。デジタル商品や、シェアリングエコノミー、プロセスエコノミー、クラウドファンディングなどの各概念が市場経済を変容させています。今日では、所有のカタチさえ変わりつつあります。本来商品ではないところまで価値がつく時代になったことで、所有の概念は破壊され、サブスクやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などが誕生。このような市場経済そのものが生み出した新しい経済のあり方が、市場経済の前提となっている基板を崩しつつあります。
特徴2.「市場にとって良しとされる行動にのみ報酬・インセンティブが発生する仕組みになっている」ことによる弊害
資本主義・自由市場経済下では、自分が良いと思った会社に投資するよりも、市場の評価が優先されます。市場にとって良しとされる行動にのみインセンティブが発生する仕組みになっています。これの何が問題なのか。儲かればいいという考え方が横行していくことです。
すでに、この考え方で生きることは、幸せな人生に繋がりにくいことが露見しています。多くの人が、これでは幸せになれないなと気づいてしまっているのです。市場で評価される行動を過度に気にすることで、本来、その人や事業が何をしたいかよりも、周りからの評価が優先されるケースが発生します。たとえば、環境破壊問題においては、人類のことを思えば解決しなければならないのに、それができないのは、悪いインセンティブが働く設計になっているからです。また、金融資本主義の例もあります。利回りが良い投資をすることを数十年続けてきた結果、無理のある設計になって、壊れてしまったのがサブプライムローン問題でした。
特徴3.「持続的成長は生産人口に比例してしまう構造」の弊害
資本主義では、持続的な成長を希求しなければならないがゆえに、生産人口も増やさなければならない。そのため、従来の社会では、生産人口が増え続けることが奨励されてきました。しかし、日本社会はここにきて生産人口は減少傾向に入りました。人口が増えれば成長、減れば減少という、人口に左右されてしまう点が問題です。
特徴4.「期待値が定量化される。ただ、お金しか定量化されない」の弊害
定量化できる対象が、儲かるか儲からないかといった基準しかない場合、企業はその観点でしか動くことができなくなります。その結果、社会の役に立つという本質的な物差しではなく、お金を判断基準にしてしまうという弊害が発生しうることが言えます。そのため、現代社会では、非財務情報をはじめとして色々なものを定量化できたほうが良いと考える潮流も現れ始めています。
特徴5.「資本が資本を生む構造」の弊害
富の偏在が加速度的に進みます。K字経済に見られるように、資本を持つ富裕層はさらに裕福になり、貧困層との格差問題が起きます。これに対し、経済学者のトマ・ピケティは、世界一律の累進課税を資産に課すことを提唱します。この富の再分配が行われないのは、資本主義にとって欠陥そのものと言えます。
特徴6.「資本主義はシステムではなく我々の『OS』として機能している」の弊害
端的にいうと、私たち一人ひとりが、このOSでは幸せになれない現実に直面しています。そして、その事実を多くの人が自覚しています。いまの社会がおかしいと感じながら、改善ができにくい構造があります。正に、成熟社会のアポリア(解決困難な難題)とも呼べるような機能不全です。
アンソニー・ギデンズによる近代の特徴と諸制度
ベンサムの功利主義と自由市場
ポランニーの危惧する自由主義の危うさ
株式会社COTENの広報活動として2018年11月に始まった歴史系Podcastです。株式会社COTEN 代表の深井龍之介氏、メンバーの楊睿之氏と株式会社BOOK代表の樋口聖典氏の3名が、日本と世界の歴史を面白く、かつディープに、そしてフラットな視点で伝える人気番組です。Podcast、Youtube、Voicyなどで配信しています。。
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