Netpress 第2191号 “守り”も“攻め”も重要 カーボン・ニュートラルで成長戦略を描く

Point
1.カーボン・ニュートラルには、省エネ・再エネ活用の“守り”と、イノベーションの“攻め”の2種類の方向性があり、方向性は5つのカーボン・ニュートラル・アプローチから構成されます。
2.事業者は、カーボン・ニュートラル戦略評価を活用して、各アプローチの重要度・緊急度を決定します。
3.“攻め”のイノベーションやサービス化によるカーボン・ニュートラルは、成長のために必要となるものです。


一般社団法人中部産業連盟
主席コンサルタント
エネルギー管理士
梶川 達也


カーボン・ニュートラル(以下、「CN」といいます)、ゼロカーボン、脱炭素といった言葉が、すっかり浸透しました。


以下に説明するCN方向性を理解し、CN戦略を決めて、自社のビジネスに活用してみましょう。

1.CN活用の方向性と5つのアプローチ

CNの活用には、2つの方向性があります。


1つ目は、自社が事業を進めるために最低限すべきことです。これは“守りのCN”といいます。自社から直接排出されるCO2をゼロにします。


(1)自社のCO2などの温室効果ガス排出量の算定を基礎にして、(2)・(3)CO2を排出するエネルギーを効率的に利用する2種類の省エネルギーの推進、(4)CO2をまったく排出しない再生可能エネルギーの活用、他社が再エネで生み出した環境価値(クレジットという証明書)の購入などがあります。


もう1つの方向性は、“攻めのCN”で、(5)イノベーションのアプローチです。


具体的には、イノベーションにより、自社のカーボンゼロ製品やサービスを開発・販売することで、顧客側で発生するCO2を削減したり、仕入先からカーボンゼロの材料を購入したりすることです。


CO2を削減する水素還元製鉄、排ガスからCO2を分離・回収する炭素繊維製ろ過膜、回収したCO2を使ってメタンガスを作る技術、植物由来の天然ゴムを使用したタイヤ、トウモロコシの皮などを使ったバイオプラスチック、CO2を使った人工光合成など、攻めのCNのイノベーションで成果を出している企業が増えています。さらに、自動車販売、音楽配信では、サブスクリプション(定額課金)サービス化も進んでいます。




(1)温室効果ガス排出量の把握

自社の温室効果ガス排出量は、どのように把握するのでしょうか。この排出量には3種類があります。


自社内で発生する温室効果ガス(自社で燃料を燃焼させているもの〔Scope1〕、電力会社から購入した電力によるもの〔Scope2〕)に加え、上流にあるサプライヤー・仕入先や、下流にある輸送業者・ユーザー・廃棄物処理業者などで発生するもの(Scope3)もあります。算定法は、
環境省
「地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画
(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/domestic.html)」、
「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/)」、
経済産業省
「事業の区分と義務
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/
factory/classification/
)」
等を参照して下さい。


(2)運用改善による省エネルギーの推進

たとえば、空調機や生産ラインのエアに使われているコンプレッサーは、ほとんどの企業でムダに使われています。設備投資をしなくても、エア漏れや圧力低減などの運用改善だけで、温室効果ガス排出源である電力を減らせます。経済産業省の「省エネ・節電ポータル( https://www.shindan-net.jp/)」を活用したり、エネルギー管理士などのアドバイスを受けたりしましょう。


(3)設備投資+クレジット販売(企業間の協力)

コンプレッサー更新など省エネ設備に投資し、ガス削減分(クレジット)を他社に販売することもできます。たとえば、A社は、削減した200トン分のうち100トン分をB社に販売するとします。省エネ投資を終えて、これ以上は削減が不可能なB社は、A社から購入すれば、100トン分を削減できたことになります。温室効果ガスの削減量や吸収量を国が認証するJクレジット制度は、補助金などの支援が充実しています。


(4)再生可能エネルギーの利用

再生可能エネルギーは、原則、温室効果ガスを排出しません。太陽光発電などの電力に置き換えれば、排出ガスはゼロになります。その利用方法には、自社内で発電する、他社から再エネを受電・購入する、電力契約を再エネメニューに切り替える、電力ではなく環境価値(クレジットに似ています)を購入するなど、いろいろとあります。


(5)イノベーション

日本の産業界は、脱炭素イノベーションの余地が大きいといわれます。製造業は、エンドユーザーのモノ離れ志向に応えるため、自らもサービス化することが急務です。たとえば、自動車産業では、脱炭素のために電動化だけでなく、Maas(マース:Mobility as a Service)などにみられる移動サービスを提供する方向を目指しています。

2.どのアプローチが重要か、すぐに取り組むべきか

「CN戦略評価」(下図)により、どのアプローチが自社にあっているかを判断します。簡単な質問に答えることで、自社のCN戦略を決めることができます。




評価項目は、「財務的に余裕がある」「CO2削減率が高い」「経営トップの意思と一致」の3項目で「あてはまらない」「どちらでもない」「あてはまる」から1つ選びます。


その評価をもとにして、重要度・緊急度を組み合わせて、それぞれのCNアプローチの位置づけを決定します。企業により、各アプローチの重要度や緊急度は異なって当然です。


まずは、重要度・緊急度がともに高いプローチを決めて行動に移してください。



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