Netpress 第2466号 経理課長・マネージャー・リーダーへ 経理部門の責任者 その役割と育成ポイント

Point
1.社長は、単に正確な帳簿を作る人ではなく、「経営の数字的なパートナー」としての役割を期待しています。
2.正確な処理に加えて、会社の未来を見据えた判断・提言ができることが、強い経理部門の要となります。
3.経理部門を“経営の要”として機能させ、人材を育成するには、実務・経験・教育の組み合わせが不可欠です。


株式会社組織デザイン研究所
人事コンサルタント
小笠原 知世

1.社長は経理課長・マネージャー・リーダーに何を期待しているのか?

 社長の経理課長・マネージャー・リーダーへの期待としては、次の5つが挙げられます。


●社長の期待①……今、会社の数字がどうなっているか知りたい

 経理の仕事は、単なる帳簿管理ではなく、「数字をもとに経営をサポートする」ことです。月次・四半期ごとの収支報告、キャッシュフロー分析、財務体質の課題提示はもちろん、「このままだと〇か月後に資金繰りが厳しくなる」といった未来志向の視点も必要とされます。


●社長の期待②……お金が足りなくなる前に手を打ちたい

 売掛金・買掛金の管理、借入金の返済計画、資金繰り表の作成はもちろんのこと、金融機関との折衝、助成金・補助金の提案なども含まれます。昨今、金融リテラシーが高まるなか、手元資金に余力がある場合は、資金の最大化も経理に求められるスキルになっています。


●社長の期待③……問題が起きないようにしてほしい

 税務・労務・会計に関するコンプライアンス(法令遵守)体制の維持により、ミス・ロス・不正といった問題が起きないように未然に防ぐ役割を担います。また、税務調査や監査時の対応力も求められます。


●社長の期待④……いちいち細かく口出ししなくても回る状態にしてほしい

 経理業務はブラックボックス化しやすいことが特徴ですが、そのなかでIT化・自動化(会計ソフトの導入や改善提案)を積極的に進められる経理リーダーは強いです。また、チームの教育・育成や後継者の育成にも取り組んでおり、社長が「経理は任せた」と言えるレベルの自主運営をできる状態が理想的です。


●社長の期待⑤……数字に強い参謀がほしい

 経理リーダーの「単なる事務職」ではなく、「会社経営の一員としての視点」が、会社を強くする力に繋がります。コスト削減や利益改善に向けた提言(例:業者の見直し、無駄な支出の削減)はもちろん、財務分析や予算策定(目標設定)といった、経営管理の一手を担うのも経理リーダーです。


 なお、以下のとおり、企業フェーズによっても、社長の期待は変わってきます。


フェーズ創業期成長期安定期再生期
社長の期待経理の立ち上げ、仕組み作り業務効率化、資金戦略の立案ガバナンス強化、税務最適化コスト管理、資金繰り再構築


2.「強い経理部門」と経理課長・マネージャー・リーダーに求められる資質

 「強い経理部門」とは、単に帳簿が正確であるだけではなく、経営の舵取りを支える存在であり、攻めと守りの両面で貢献できる組織です。中小企業において、社長が経理課長・マネージャー・リーダーに期待している役割と密接に関係しています。「強い経理部門」の実現には、実務とマネジメントの橋渡しができるリーダーの存在が不可欠であり、以下の5つの資質を持っていることが重要です。


●求められる資質①……経営感覚と数字への鋭さ

単に記録するのではなく、「なぜそうなったか?」「これからどうなるか?」を考える力があるか? ⇒経営者の意思決定を支える、戦略的な財務・経理視点
例:「粗利率が落ちている原因は販売単価の下落では?」と提言できる


●求められる資質②……問題発見と提案力

異常値や傾向の変化に気づき、改善策を提示できるか? ⇒数字をもとに行動を変えられる能力
例:「このままでは資金ショートします。借入や回収条件の見直しをしましょう」と提案できる


●求められる資質③……自律性と当事者意識

指示待ちでなく、自ら「何をすべきか」を考え実行できるか? ⇒経理の枠を超え、会社全体に貢献しようとする意識
例:助成金・補助金制度を調べて活用を提案、経費の見直しを自発的に実施


●求められる資質④……チーム運営と育成力

部下・後輩を支え、業務の属人化を防ぎ、ノウハウを共有できるか? ⇒チームで成果を出す意識
例:「この業務を仕組みにして誰でも対応できるようにしよう」と主導できる


●求められる資質⑤……信頼される人間力

正確・誠実・責任ある言動で信頼を築けるか? ⇒社長・他部門・取引先など関係者との円滑なコミュニケーション
例:社長に安心して「経理は任せられる」と思ってもらえる存在

3.経理課長・マネージャー・リーダーの育成のために必要なこと

 これらの5つの資質を身につけるには、単なる知識研修だけではなく、実務・経験・教育を組み合わせることが不可欠です。以下に、各資質に対応する機会・経験・教育の例を整理して紹介します。


経営感覚と数字への鋭さ問題発見と提案力自律性と当事者意識チーム運営と育成力信頼される人間力
機会月次報告会や経営会議に参加させる「売掛金の回収期間が延びているのはなぜ?」と問いかけるような業務振り返り会議「経理業務で困っていることを1つ改善してみよう」などの小タスクを定期的に任せる新人のOJT担当、業務マニュアルの作成責任者に指名する他部署や金融機関・税理士対応の窓口を経験させる
経験「粗利率の悪化要因を分析して報告してほしい」といった分析業務コスト削減プロジェクトなどでのリーダー任命、他部署ヒアリング仕訳ルールの見直し、帳票の電子化など現場課題の改善プロジェクトを主導させチームメンバーの進捗管理、仕事の配分を任せる外部監査対応、税務調査準備などプレッシャーのかかる実務を支援付きで任せる
教育財務諸表の読み方、管理会計、経営分析に関する社内研修や外部セミナー(例:中小企業診断士講座や日商簿記の管理会計パート)ロジカルシンキング、問題解決研修、Excel/BIツールによる分析演習(Power BIやLooker Studioの基礎)PDCAサイクルの実践研修、経理業務改善に関するワークショップリーダーシップ研修(特に部下との接し方・伝え方)、フィードバックの練習、1on1の進め方セミナーコミュニケーション・印象管理・対人スキル研修、社内報告やプレゼンの練習機会を設ける


 こうした育成の取り組みの際には、経理課長・マネージャー・リーダーとなる人材に「役割と期待」を明確に伝えることも忘れないようにしましょう。何を期待して任せるかを明示することで、責任感と成長意欲が高まります。スタートの際は、小さな成功体験を積ませるとよいでしょう。いきなり難しい業務ではなく、達成可能な課題で「やったら変わった!」という実感を持たせることで、自己効力感も高まります。


 また、「やりっぱなし」が一番よくありません、育成側はフィードバックを習慣化することが重要です。日常的なフィードバックが経理リーダーの「成長の鏡」になります。1on1などで定期的に振り返りを行いましょう。



◎協力/日本実業出版社

日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/



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