フォロワーシップとは? 意味・リーダーシップとの関連、フォロワーの育成法を解説
1.フォロワーシップとは
フォロワーシップとは、チームの成果を最大化させるために、「自律的かつ主体的にリーダーや他メンバーに働きかけ支援すること」です。
具体的には、リーダーの意思決定や行動に誤りがあると感じた場合は、臆することなく提言を行ったり、チームがより良い方向に進むようメンバーに働きかけたりと、自分の置かれたポジションだからこそできることを主体的に実行していくことを指します。
フォロワーやフォロワーシップという言葉は、1980年代になるまで、学術的文献には登場していないといわれており、フォロワーシップ理論の歴史が極めて浅いことがわかります。
したがって、定義についてはさまざまな見解があり、今のところ統一されたものは定まっていません。
一般的には、「組織・集団の目的達成に向けてリーダーを補佐する機能・能力」(Wikipedia)のようですが、厳密には、フォロワー自身がどれだけ努力していると自負していても、リーダーによって認められていなければ、そこにフォロワーシップは存在しませんので、「リーダーによってフォロワーシップが認知されている」ことを条件とする研究者もいます。
フォロワーシップという言葉を、書物で初めて日本に紹介したのは、カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授であると言われています。
その著書である「指導力革命:リーダーシップからフォロワーシップへ」の中でも、フォロワーシップの明確な定義は行われていませんが、フォロワーシップの特徴として、以下の2点が挙げられています。
ⅰ)リーダーの言動に対して、建設的批判をし、自分らしい考えを持つ「独自のクリティカルシンキング(批評的思考)」を行う。
ⅱ)主導権を取り、責任を持ち、自発的で担当業務以上の仕事をする「積極的関与」を行う。
このことは、ケリー教授が考える「フォロワー」としての機能や能力を示唆しています。
2.フォロワーとは
では、フォロワーとは、何かを考えていきたいと思います。
フォロワーシップを考える場合、厳密には、フォロワー=部下ではありません。それは、例えば、課長や部長がすべてリーダーとして機能しているわけではないことと同じです。
簡単に説明しますと「部下」は、給与等を得るためにリーダーに関与している者であり、「フォロワー」は、「部下」の中で、個人とリーダーの目指すものが一致していることや、リーダーを支えることに誇りを感じている等により、組織に積極的に関与しているとリーダーから評価された者です。
逆にいえば、上司が部下からリーダーとして認められていなければ、フォロワーも存在しません。
フォロワーシップが本格的に議論される前に、リーダーシップ研究においてフォロワーの存在が論じられていたことからも、リーダーシップとフォロワーシップに密接な関係にあることがわかります。
3.リーダーシップ論とフォロワーシップ論の関係
近年、フォロワーシップについての関心が高まっていますが、そのことは、リーダーシップ論の歴史を振り返れば、当然の結果であることがわかります。
主なリーダーシップ論は下記の4つが代表的な理論です。
1)特性理論( 1900 年代~)
「リーダーシップは先天的な性質で生まれ持った者である」という前提のもとに、優れたリーダーに共通する特性を特定しようと試みられました。
2)行動理論( 1940 年代~
1960 年代)
リーダーの行動に着目して、共通の特徴を抽出しようとしたものです。優秀なリーダーは生産性や、タスクを重視する「業務への関心度」と人間関係を重視する「人間への関心度」がともに高いことが発見されました。
3)条件適合型理論( 1960 年代後半~)
部下やビジネス市場、課題の困難さなどの、リーダーを取り巻く環境でリーダーシップ行動を変化させるべきであるという理論です。
4)コンセプト理論( 1970 年代~現在まで)
「条件適合型理論」を前提としながら、さらにビジネス環境や組織・メンバーの状況に応じて、リーダーシップのとり方を具体的に落とし込んでいったもので、問題設定の際に「リーダー(人間)」と「リーダー(人間)をとりまく環境」の関係性に焦点を当てて議論を行っています。
特性理論や行動理論では「リーダー」にのみ関心が寄せられていましたが、条件適合型理論以降は、フォロワーの存在が重要視されてきています。
組織を考えた場合、従業員のほとんどがフォロワーであることを考えれば、フォロワーが重要視されることは、当然の結果ともいえます。
さらに言えば、コンセプト理論の一つである、「サーバント型リーダーシップ」は、リーダーが裏方の仕事を行う等によりメンバーに奉仕・サポートすることで、メンバーは顧客業務などに集中し、顧客満足度を向上させビジネスを好循環させるとされています。
このことは、上司(リーダー)が部下をサポートするフォロワーであるともいえフォロワーシップの概念の広がりも示唆しています。
4.フォロワーシップ向上に取り組むメリット
いわゆる、VUCA(「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」)の時代と言われる変化が激しく経営環境では、
ⅰ)業界の概念を覆す画期的な新サービスの登場や他業界から参入する
ⅱ)テクノロジーの著しい進化によって、人や設備などの経営資源が不要になる
など、今までの常識が非常識になるリスクが生じます。
VUCAの時代を乗り切るために、IT関連企業などの先進的な企業は、組織構造をフラット化し、権限と責任を幅広くフォロワーに委譲することでモチベーションを高めるとともに、積極的な意見出しやリスクテークを求め、変化に対応しようとしています。
ケリー教授の研究によると、組織が出す結果に対してリーダーが及ぼす影響力は1割~2割程度で、残りの8割~9割はフォロワーの力に左右されると言われています。
フォロワーシップを強化することによって、組織の変化への対応力や生産性を向上させることができるのです。
では、フォロワーシップを強化するためには、フォロワーのフォローシップのスタイルごとに異なる対応をする必要がありますので、まずどのようなスタイルがあるのか見ていきましょう。
5.フォロワーシップのスタイル
ケリー教授は、フォロワーシップの特徴である「独自のクリティカル・シンキング(批評的思考)」と「積極的関与」を使って、5つのフォロワーのスタイルに分類しています。
(1)模範的フォロワー (exemplary followers)
フォロワーシップの二大特性である独自のクリティカル・シンキングと積極的関与の両次元を満たしているフォロワーです。このようなフォロワーは組織の非能率的な壁に阻まれても才能をいかんなく発揮し. 目指すべき目的に対して積極的に取り組んでいくという特徴を有してます。
(2)孤立型フォロワー (alienated followers)
独自のクリテイカル・シンキングを有していますが、組織に対して消極的関与を示すフォロワーです。多くの孤立型フォロワーは元模範的フォロワーです。
リーダーや組織に対して何かに嫌気がさし、不当な扱いを受けた犠牲者であると自らのことを考えているとされています。
このタイプのフォロワーのエネルギーは仕事に向かうのではなく、組織のいやな部分に対する挑戦として表れます。俗に言う一匹狼タイプがこれにあたります。
(3)順応型フォロワー (conformist followers)
組織に積極的に関与するが、依存的・無批判の考え方のフォロワーです。このタイプの型フォロワーは、リーダーに対して服従し順応することが義務であると考えます。俗に言うゴマすりタイプがこれに当たります。
(4)実務型フォロワー (pragmatist followers)
ある程度に独自のクリテイカル・シンキングと積極的関与を示すフォロワーです。いい仕事はしたがりますが、進んで自らを危険にさらすことはなく、失敗も避けたがる。俗に言うリアリスト・タイプがこれに当たります。
(5)消極的フォロワー (passive followers)
依存的・無批判の考え方で消極的思考という、一見すると最悪の組み合わせのフォロワーです。考えることをリーダーに頼り、仕事に対する熱意はゼロ、積極性と責任感に欠け、与えられた仕事も指示がなければできないし、 自分の分担を超えるような危険は犯さない。俗に言う無気カタイプがこれに当たります。
6.フォロワーシップのスタイル対応策
ケリー教授は、組織全体としてフォロワーシップを強化していくためには、模範的フォロワー以外のタイプのフォロワーを、模範的フォロワーに近づけていくことをポイントとして挙げています。
具体的な対応については、リーダーシップ論の一つであるSL理論を使ってご説明していきます。
この理論の提唱者は、リーダーシップ理論の研究者であるポール・ハーシー(Paul
Hersey)とケン・ブランチャード(Kenneth H Blanchard)です。
ケン・ブランチャードは『1分間リーダーシップ』などがベストセラーになりましたので、ご存じの方も多いと思います。
SL理論
SLは「Situational
Leadership」の頭文字をとったものです。「Situational」とは、「状況の」という意味ですので「Situational Leadership」とは、「状況にあわせたリーダーシップ」のことです。
つまり、リーダー(上司)がどんなフォロワー(部下)に対しても画一的に対応するのではなく、フォロワーの発達度(状況)によって、そのスタイルをしなやかに変化させていくリーダーシップです。
部下の能力と意欲の状況に応じて、発揮するリーダーシップは「指示的行動」と「援助的行動」の組み合わせで4段階に変化するとしています。
●指示的行動
何を、どこで、いつまでに、どのように行うのかを細かく指示し、遂行させ、管理することです。
●援助的行動
部下の話を聞き、努力に対して援助や支持や励ましを与え、問題解決や意思決定への参加を促すようにすることです。
(1)消極的フォロワー
S1(教示型)で対応します。
仕事のスキルが未熟で、かつ意欲も低い部下に対しては、指示的行動が多く、援助的行動が少ないリーダーシップを取ります。
細かい指示を与え、その進捗や取組みを管理するという強制管理タイプです。リーダーとしては仕事のやり方を徹底的に教えながら管理を行う必要があります。
又、低い意欲を高める努力も必要となりますので、仕事のスキルだけでなく、部や組織の目的・目標も説いていくことが必要となります。
(2)順応型フォロワー
S2(説得型・コーチ型)で対応します。
仕事のスキルは未熟ですが意欲の高い部下に対しては指示的行動とともに援助的行動もとっていくことで、高い意欲を継続させながらスキル向上を図ります。
やる気があるため様々な仕事にチャレンジしますが、その分失敗することもあります。失敗を減らすという意味では指示的行動により仕事を教え込むことが必要です。
さらに、仕事の進め方について本人の意見を聞いたり提案を求めたり、意思決定に参画させるなどの援助的行動を行うことで、高い意欲を更に高めます。
(3)孤立型フォロワー
S3(参加型・援助型)で対応します。
仕事のスキルは高いが意欲が低い部下に対しては、指示的行動は減らし援助的行動を取っていくことで、高いスキルを組織に活かすことを考えます。
このタイプの部下に指示的行動を増やすと、ますます意欲を減退させることとなります。その能力を困っている人たちのために活かしてほしい、教えて欲しい、といったように能力を尊重した援助的行動をとることが必要です。
不当な扱いを受けた犠牲者であると自らのことを考えているため、公正な評価と職場以外でのコミュニケーションの機会ももち、頑なな心を解きほぐすことも必要です。
(4)模範的フォロワー
S4(委任型)で対応します。
仕事のスキルが高く、意欲も高い部下に対しては、指示的行動も援助的行動も減らします。自分で物事を判断し仕事を進めていけるタイプですので、大きな目的や目標の共有を心掛け、その達成手段は本人に任せます。
(5)実務型フォロワー
S2(説得型・コーチ型)で対応します。
仕事のスキル・意欲ともまずまずの水準であるものの、リスクを取らず失敗を避けたがるタイプですので、限定的に指示的行動とともに援助的行動もとっていくことで、スキル・意欲ともに少しずつステップアップしてもらう必要があります。
また、失敗を恥ずかしいものではないとする組織文化を醸成することも必要です。
7.フォロワーとしてとるべき行動
ここまでは、フォロワーシップについて、リーダーシップ論と合わせて見てきました。次に、フォロワーとしてとるべき行動について考えていきたいと思います。
経営者向けコーチングの第一人者といわれるマーシャル・ゴールドスミス氏の書籍『リーダーシップ・マスター』(英治出版)に、「意思決定者に影響を及ぼし、サポートするための11の行動」が紹介されています。
こちらを参考に、フォロワーシップで組織を動かす11の行動とその具体例を見ていきましょう。
1)すべての決定は、それを決定する権限のある人によって行われることを受け入れる
意思決定権を持ったリーダーが、常に「適切な」人物、あるいは「最良の」人物であるとは限りません。
そのことに愚痴を言うのをやめて、リーダーが、的確な判断を下せるように行動することで、効果的に組織に良い影響を及ぼし、プラスの変化を生み出すことが出来ます。
2)自分のアイデアを積極的に提案する責任があることを自覚する
自分のアイデアを、上司が採用してくれるか否かにかかわらず、積極的に提案することが責任です。「うちの上司って全然理解がない、自分のアイデアを採用してくれない」という愚痴や不満は、商品を買ってくれない顧客を非難することと変わりません。
愚痴をやめ、プレゼン能力の開発に時間を割くとともに、上司を教育していくことの方が有意義です。
3)より多くの人々の利益への貢献を中心に据える
フォロワーであっても、自分の目的達成だけでなく、高い視点と利他の精神を持たなければなりません。
自部門の利益(目標、ノルマ)だけではなく、会社全体、ひいては顧客のニーズに寄り添い、より多くの人々の利益への貢献を考えることで、フォロワーとしての視野が広がり、リーダーシップ醸成の良き訓練ともなります。
4)本来の目的を第一に考え、無駄なことでエネルギーと「心理的欲求」を消費しないこと
組織として目的に向かって取り組んでいる以上、真に変化をもたらす事柄に注目し、その他のことは譲歩することも進んで受け入れましょう。
優れたフォロワーは本来の目的で成果を生むことに向かって誠実に粛々と行動し、枝葉末節な議論で時間を浪費しないことが必要です。
5)アイデアの現実的な費用対効果分析を提示する
自分のアイデアが採用される場合、他の人のアイデアが却下される可能性があります。
冷静に数値的観点から費用対効果を分析し、数字でアイデアに説得力を持たせる準備をすることで、反論に備えることもでき、組織としてよりよい意思決定が行えます。
6)倫理性や品位をめぐる問題があるときは「異議申し立て」をすべし
優れたフォロワーは高い倫理性も兼ね備えていなければなりません。フォロワーは倫理違反に対しては、勇気をもって考え行動することで高い倫理観を常に訓練すべきです。
ただし、誤解が原因の場合もありますので、リーダーが意図的に悪いことを指示したとは考えず、批判ではなく役に立ちたいという思いで進言しましょう。
7)上司も完璧でないことを理解し、上司に足りない部分は批判するよりも手助けする
上司にも失敗や弱点があるという事実を受け入れましょう。上司に足りない部分を粗探ししたり、非難したりするのではなく、先回りして手助けすることができれば、フォロワーとして優れた仕事となり、成長の機会にもなります。
8)顧客と接するように意思決定者の気持ちやニーズを考えて行動する
「こびへつらう」べきではないのと同じように、その反対態度もとるべきではありません。
会社や上司を中傷することは、時間の浪費だと考えましょう。顧客に接するように気持ちやニーズを考えて行動することが、ひいては組織の生産性を高めることにつながります。
9)組織の最終決定は支持する
中間管理職はリーダーでありフォロワーです。組織の最終決定を支持しなければなりませんが、部下に対して、「上からこう言われた」という言い方はすべきではありません。
部下に対しては「何故そうなのか」を説得力ある表現で伝え、納得させることが必要です。
上手く説明できない場合は、意思決定者に事前に確認しておくことも大切です。
10)自分のアイデアで組織にプラスの変化をもたらす
他人の過ちより、自分の行動が組織にプラスになっているかどうかに集中しよう。
自分のアイデアをもとにして他の人々が適切な行動を行ってくれるほど、プラスの変化は大きくなります。
組織にプラスの変化をもたらすことに集中し、自分がどのような行動をとるべきかを考え、質の高い行動を目指しましょう。
11)未来志向で考え行動する
過去の出来事の内省は大事ですが、内省は未来に向かっての一手でなければなりません。
フォロワーは未来志向で、明日何ができるかを考えましょう。未来のために「自分のスキル」を磨くことは、組織の未来に大きな変化をもたらすことになります。
8.まとめ
ここまでの説明で、フォロワーシップは、リーダーからもフォロワーからも考えていかなければならない、組織に重要な考え方であることがお分かりいただけたと思います。
リーダーも時としてフォロワーになることが大切ですし、フォロワーも時としてリーダーになることで、組織が活性化し、仕事にやりがいを見いだせ、結果、生産性も組織の変革力も向上します。
また、優れたフォロワーになる努力は、優れたリーダーになる訓練とも言えます。是非、フォロワーシップの概念を理解し、実際のビジネスシーンで具体的な行動に落とし込みましょう。
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