リーダーシップ論とは?理論の変遷とコンセプト理論のリーダーシップ像を解説

リーダーシップ論に関する研究は古代ギリシャまで遡ると言われていますが、現代的リーダーシップ論の研究は、19世紀イギリス(大英帝国)の歴史家・評論家トーマス・カーライルが歴史的な「偉人」を採り上げて、「他より優れた何らかの資質を持ち合わせた偉人だけがリーダーと成り得る」と提示したのが始まりと言われています。その後、1900年代になるとアメリカなどを中心にその理論化・体系化が進められてきました。本記事では、比較的新しいリーダーシップ論である、「コンセプト理論」について、見ていきたいと思います。

1.リーダーシップ論の変遷

これまで、研究されてきた主なリーダーシップ論は下記の4つが代表的な理論です。

 

1)特性理論( 1900 年代~)

2)行動理論( 1940 年代~ 1960 年代)

3)条件適合型理論( 1960 年代後半~)

4)コンセプト理論( 1970 年代~現在まで)

 

では、簡単にそれぞれの理論について見ていきましょう。

 

(1)特性理論

特性理論とは、リーダーの性格、個性などの特性に着目したものです。「リーダーシップは先天的な性質で生まれ持った者である」という前提のもとに、優れたリーダーに共通する特性を特定しようと試みられました。

 

アメリカの心理学者ストッグディル(R.Stogdill) が、リーダーのもつ特性、あるいはリーダーシップと高い相関関係がある特性を調査し、「①創造力、②人気、③社交性、④判断力、⑤積極性、⑥優越欲、⑦ユーモア、⑧協調性、⑨活発性、⑩運動能力」などを挙げています。

 

(2)行動理論

「行動理論」は、リーダーの行動に着目して、共通の特徴を抽出しようとしたものです。

さまざまな研究が行われましたが、これらの研究では、リーダーの行動を2つの軸によって定義しています。

 

代表的な理論には以下のものがあります。

 

①ミシガン大学研究モデル

「生産重視」  :生産性や、タスクを重視する

「従業員重視」 :人間関係を重視する

⇒「従業員重視」の方が高い業績を上げる

 

②オハイオ州立大学研究モデル

「構造づくり」 :メンバーの仕事に関心を示し、目標達成に必要な構造を明確化

「配慮」:メンバーに人間的な関心を示し、メンバーの個人的欲求の満足に配慮

⇒優秀なリーダーはともに高い

 

③三隅二不二が提唱したPM理論

「P」:「目標達成・課題解決機能」(Performance

「M」:「集団維持機能」(Maintenance))

⇒共に高いことが理想のリーダーである

 

(3)条件適合型理論(コンティンジェンシー理論)

「行動理論」に関する実証研究の結果から、あるチームで優秀なリーダーであっても他のチームでも優秀なリーダーであるとは限らないことが判明し、部下やビジネス市場、課題の困難さなどのリーダーを取り巻く環境でリーダーシップ行動を変化させるべきであるという「条件適合型理論」へと発展しました。

 

代表的な理論には、オハイオ州立大学の研究の流れを引くロバート・ハウスが提唱した、リーダーが適切なパス(道筋)を踏めば、組織のゴールを達成できるというパス・ゴール理論があります。

 

以上のリーダーシップ理論の研究の文脈で登場したのが、「コンセプト理論」です。

それでは、コンセプト理論について、説明をしていきます。

2.コンセプト理論とは

コンセプト理論は、前身となる「条件適合理論」を継承した理論です。

 

条件適合理論のポイントは、「良いリーダーシップは絶対的なものではなく、相対的なものである」ということです。

 

コンセプト理論は、「条件適合型理論」を前提としながら、さらにビジネス環境や組織・メンバーの状況に応じて、さまざまなパターンでのリーダーシップのとり方を具体的に落とし込んでいったもので、問題設定の際に「リーダー(人間)」と「リーダー(人間)をとりまく環境」の関係性に焦点を当てて議論を行っています。

 

コンセプト理論での代表的なリーダーシップ理論には、以下の5つあります

1)カリスマ型リーダーシップ

2)変革型リーダーシップ

3)EQ型リーダーシップ

4)ファシリテーション型リーダーシップ

5)サーバント型リーダーシップ

 

それでは、それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

 


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3.カリスマ型リーダーシップ

並外れた行動力と発想で、組織を力強く牽引するタイプのリーダーシップです。

 

カリスマとは、預言者・呪術(じゅじゅつ)者・軍事的英雄などにみられる、超自然的、超人間的な力をもつ先天的資質であり、この資質をもつ者による支配を19世紀のドイツの政治学者であるマックス=ウェーバーはカリスマ的支配と名づけ、合法的支配・伝統的支配とともに三つの支配類型の一つとしました。

 

又、一般的にカリスマは、 人々の心を引きつけるような強い魅力または、それをもつ人を意味し、「カリスマ性のある人物」「ファッション界のカリスマ」というような使われ方をします。

 

コンセプト理論における「カリスマ型リーダーシップ」は、1977年ハウス(R.House)によって再定義がなされ、先天的な特性ではなく、「部下にカリスマと認知されることで、リーダーはカリスマとなりうる」「きわめて高水準の自己信頼と部下からの信頼があることで、リーダーは部下を目標に導くことが可能である」と主張しました。

 

更に部下からの認知、という視点から「具体的にどんな行動を取れば、リーダーはカリスマと認知されるのか」を、リーダーシップ研究者であるコンガー(J.Conger)、カヌンゴ(R.Kanungo)が研究を行い、カリスマ型リーダーの行動特性として、以下の6つの特徴を挙げています。

 

ⅰ)ビジョンの表明

フォロワーを鼓舞する戦略的・組織的目標を示し、効果的に表明し浸透させる。

 

ⅱ)環境への感受性

組織を取り巻く環境やメンバーの能力について正しく認識する

 

ⅲ)型にとらわれない行動

常識や前例にとらわれない手段を用いる

 

ⅳ)リスクをいとわない

リーダー自らが責任を取る覚悟を持つ

 

ⅴ)メンバーのニーズに対する感受性

フォロワーと尊敬し合える関係を作りだし、ニーズや感情に敏感になる

 

ⅵ)現状の否定

現状に満足せず、常に変化と成長を求める


カリスマ型リーダーシップは、次にご説明する「変革型リーダーシップ」とともに、組織を変革するためのリーダーシップとして理論構築されており、組織を急成長させる原動力となる大きなメリットがある一方、リーダーの影響力が強すぎることで生じるリーダーへの依存や、後継者育成の問題などが生じる懸念を孕んでいます。

 

代表的な人物にはAppleのスティーブ・ジョブズ氏、Microsoftのビル・ゲイツ氏、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文氏などが挙げられます。

 

4.変革型リーダーシップ

「変革型リーダーシップ」とは、変革型リーダーシップ理論の代表的な学者である、ミシガン大学ビジネススクールのノール・M・ティシー教授が1986年に発表した「変革型リーダーシップ理論」から生まれた言葉です。

 

経営危機の会社のトップなどに求められるスタイルで経営方針を抜本的に見直し、メンバーに「自発的な行動」を促し大きな改革を推し進めるように働きかけるリーダーシップです。

 

代表的なものとして、ハーバードビジネススクールのコッター教授による「リーダーシップ論」やティシーによる「現状変革型リーダー論」などがありますので見ていきましょう。

 

①コッターのリーダーシップ論(Kotter’s Leadership Theory

コッターのリーダーシップ論は、リーダーシップとマネジメントの違いを「リーダーシップは変革能力であり、マネジメントは管理能力である」とし、変革の時代に必要なものはリーダーシップである点を強調しています。

 

ここで誤解してはいけないのは、この両者はいずれも同じくらい重要だとコッターが認識していることです。

そして、リーダーシップにおける最も重要な要素を「リーダーの掲げるビジョン」であるとし、変革を実現する為8段階のステップを提唱しました。

 

1)リーダーの行うべきこと

組織をより良くするための変革を成し遂げる。複雑な環境にうまく対処し、既存のシス

テムの運営を続ける 。

 

2)変革の8段階

企業を取り巻く環境は常時「変化」にさらされている。そうした環境下においては、企業自らも常に「変革」を行っていかなければ生き残っていくことは難しい。組織を変革させる為に必要なのが「リーダーシップ」であり、「変革」は8段階のプロセスによって実行して行く事が望ましい。

 

第1ステップ    緊急課題であるという認識の徹底

第2ステップ    強力な推進チームの結成 

第3ステップ    ビジョンの策定

第4ステップ    ビジョンの伝達

第5ステップ    社員のビジョン実現へのサポート

第6ステップ    短期的成果をあげる計画策定・実行

第7ステップ    改善成果の定着と更なる変革の実現

第8ステップ    新しいアプローチを根付かせる

 

3)リーダーに必須の能力  「対人態度」と「高いエネルギーレベル」

 変革を起こすためには、組織内外にいる多くの人間とコミュニケーションを交わし、関係を維持・強化することと、変革を起こそうという強烈なエネルギーがなければ、組織を率いてビジョンを達成することは出来ないと主張しています。

 

②ティシーによる「現状変革型リーダー論」

コッターのリーダーシップ論と同様、リーダーはビジョンを提示し、それを実行させるべくメンバーに働きかける存在であり、日常の反復業務やルール通りの管理に長けた「マネジャー」ではなく、変革を実行する「リーダー」のあり方を明確に定義しました。また、リーダーが組織のあらゆる階層に存在し、リーダー自らが次世代のリーダーを生み出していく仕組みづくりが大切である、という「リーダーシップ・エンジン」という概念を主張しています。

 

1)リーダーが行うべきこと

 

ⅰ)現状をあるがままに捉え、ステップを辿りながら変革を実行する

ⅱ)リーダー自身のアイデアと価値観によって他者を導き、動機付け、物事を達成する

ⅲ)3つの組織システムへ働きかける

技術的システム(経営資源の組織化)

・政治的システム(従業員にやる気を起こさせるために権力、影響力、報酬をどのように使うか)

・文化的システム(従業員を結束させる規範と価値観)

 

2)変革型リーダーの特徴

 

ⅰ)変革者と自らを任じている

ⅱ)勇気のある人たちである (リスクを取ることをいとわない)

ⅲ)人を信じる (人の気持ちに敏感で、人への動機づけに重きを置く)

ⅳ)価値によって動く

ⅴ)生涯にわたって学び続ける人である (失敗を将来への糧と考える)

ⅵ)複雑さ、あいまいさ、そして不確実性に対処する能力がある

ⅶ)ビジョンを追う人間である 

 

3)リーダーシップ・エンジン

 

ティシーは、組織の全階層で、人々がアイデア、価値観、エネルギーとエッジ(大胆な意思決定力)をもって、すばやくかつ適切に意思決定を下し、行動することが必要であると述べています。

 

そのためには、リーダーが組織のあらゆる階層に存在し、彼ら自身が次代のリーダーを次々と生み出していく仕組みである「リーダーシップ・エンジン」こそが、組織が永続的に「勝ち」続けていく為に必要であると提唱しています。 

 

代表的な人物には、良品計画の松井忠三氏、日本マクドナルドホールディングスの原田泳幸氏、日本航空の稲盛和夫氏などが挙げられます。

 

5.EQ型リーダーシップ

 

人間関係を重視し、職場環境の改善や部下のモチベーションの維持に細かく注意を払うリーダーシップで、組織内の人間関係やモチベーションなどの改善が問題となっている場合は効果的です。

 

EQとは「Emotional Intelligence Quotient」の略で、直訳すると「感情的知能指数」となり、「心の知能指数」と呼ばれています。

 

心の知能指数とは、

●自身の感情や他人の感情に気づけること

●感情を適切に分けられること

●自身の感情を認識し行動できること  といった能力の事を指しています。

 

これまでは、IQ=知能指数(Intelligence Quotient)が高い人ほど、ビジネスで成功すると考えられていましたが、IQが高くてもビジネスで失敗している人がいるのが現実です。

 

そこで、ビジネスで成功している人の共通点から導き出された答えが、「ビジネスで成功している人は対人関係能力に優れている」という概念なのです。

 

20世紀末期にアメリカの心理学者、ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)により提唱されたこのEQ型リーダーシップは、「部下の感情を正しく導くことで、組織運営を良い方向に導く」という考えに基づいています。

 

EQ型リーダーシップは、メンバーとのコミュニケーションが不可欠とされており、以下のの4つのポイントを段階的にクリアしていくことは「人間関係を適切に管理する」という最終的なフェーズへ向かうためのステップであり、EQ型リーダーシップを適切に発揮できるとされています。

 

ⅰ)自己認識:「自分の感情を読み取り正しく自分を評価できる能力」

ⅱ)自己管理:「自分の感情をコントロールし状況に柔軟に誠実に対応していく能力」

ⅲ)社会認識:「他者の気持ちを汲む能力」

ⅳ)人間関係の管理:「求心力と紛争処理と協調性の能力」

 

人は気持ちが落ちている時と高まっている時では、判断に違いが生じます。その為、まずは自分の感情を正しく認識できている必要があります。

 

又、メンバーを理解し、信頼関係を構築するには、共感が必要です。共感するためには、まず自分の感情をコントロールした上で、メンバーの気持ちを認識することが重要です。

 

これらができて、はじめて人間関係を適切に管理することが可能となり、価値観を共有しながら組織を率いるリーダーシップを図ることができるのです。

 

又、ゴールマンは、リーダーシップのスタイルには「権威主義型」「コーチ型」「親和型」「民主型」「先導型」「強圧型」の6種があり、最高の成果を出しているリーダーは、特定のリーダーシップ・スタイル(emotion style)に依存しているわけではなく、状況の変化に応じてたえずリーダーシップのスタイルを変えていると主張しています。

 

では、簡単に見ていきます。

6つのリーダーシップ・スタイル


 

代表的な人物には、積極的にあいさつする、声をかける、ほめる、認めるなどでメンバーの感情をポジティブな方向へリードしている元ダイエー会長 林文子氏が挙げられます。

 

6.ファシリテーション型リーダーシップ

メンバーの自発的な行動を尊重し、業務意欲や成長を促すような行動をとるリーダーシップで、民主主義的な組織作りで、業務を通しての信頼関係構築を目指すスタイルです。

 

「部下と上司」という上下関係に基づくコミュニケーションではなく、同じ目線に立って部下の声を傾聴するのが特徴です。

 

ファシリテーション(facilitation)とは、楽にする、促進する、容易にするという意味のfacilitateから転じて、対立しがちで合意形成や相互理解が妨げられがちなチーム・組織などを効果的・効率的に運営することを指し、ファシリテーションを実践する人のことを「ファシリテーター」と言います。

 

『ファシリテーター型リーダー時代』の著者であるフラン・リース氏は、ファシリテーターの定義を「中立な立場で、チームのプロセスを管理し、チームワークを引き出し、そのチームの成果が最大となるように支援する人」としています。

 

これに「チームメンバー全員を共通の目標に向かわせること」をつけ加えることで、一層ファシリテーション型リーダーの役割が明確になると思います。

 

ファシリテーション型リーダーシップにおいて重要なのは、リーダーによる意見の押し付けや指示命令を行うのではなく、自身は中立な立場で、メンバーを主体に意見や情報を引き出した上で、意見や結論をまとめ、メンバーに主体制をもって行動させるようにします。

 

その結果、メンバーのモチベーション向上にとても効果的であると言えます。

 

一方、メンバーの意見の取りまとめができなければ、議論が堂々巡りとなるばかりか、意見の対立からメンバー同士の軋轢を生み出すことにつながる危険性も孕んでいます。

 

そのため、リーダーは適切なファシリテーションスキルを身につけるとともに、日頃からメンバーとの信頼関係を築き、相互に協力する人間関係を構築する必要があります。

 

代表的な人物には、星野リゾートの星野 佳路氏が挙げられます。

 

7.サーバント型リーダーシップ

リーダーがメンバーの業務をサポートする構図をとるリーダーシップです。リーダーが裏方の仕事を行って等でメンバーに奉仕・サポートすることにより、メンバーは顧客業務などに集中し、顧客満足度を向上させビジネスを好循環させる狙いがあります。

 

もちろん、組織としての大きな決断の最終意思決定や責任はリーダーが行いますが、その上で、メンバーを上手くサポートすることで、メンバー一人ひとりが思い切った行動をとりやすくなるのが特徴です。

 

「サーバントリーダーシップ」の提唱者は、元AT&T(米国の大手通信会社)マネジメントセンター所長のロバート・K・グリーンリーフ(1904-1990)です。

 

グリーンリーフが、1970年に書いた『リーダーとしてのサーバント』という小論で、初めて「サーバントリーダーシップ」という言葉が使われました。

 

「サーバントリーダーシップ」の啓蒙拠点である「ロバート・K・グリーンリーフ・センター」の所長であったラリー・スピアーズが、「サーバントリーダーシップ」の10属性をあげています。

 

スピアーズによる10属性


代表的な人物には、現場第一主義、お客さまへの奉仕を第一に考え、お客さまに接する店頭のスタッフを支えるべき存在として上層組織を位置付けた、資生堂の元社長 池田 守男氏が挙げられます。

8.まとめ

コンセプト理論は、具体的にどのような状況でどのようなリーダーシップが有効なのかを示しているリーダーシップ論です。

 

当然のことながら、状況の数だけ適したリーダーシップが存在することになりますが、自社の抱える課題や状況に応じてどのようなリーダーシップが有効であるのかを追求し、求められるリーダーシップについて掘り下げてみるのはいかがでしょうか?

 


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