OODAループ(ウーダループ)とは?概要を簡単に!PDCAと使い分けを解説

今、私たちは、VUCA時代と言われる、外部環境が目まぐるしく変化し、複雑で予測不可能な時代に直面しています。この急激な変化に対応するためには、各企業は迅速に意思決定を行い、臨機応変な行動を取っていくことが重要です。

しかしながら、多くの企業では、過去の前例や現状分析などから演繹的に導き出されるPDCAアプローチを偏重する傾向にあることから、小規模な改善に止まり、イノベーションや変革を起こすに至っていません。

OODAは、状況の不確実性や不透明性を前提に、機敏な意思決定と行動によって優位性や高いパフォーマンスを実現しうるスキルであるといわれています。本コラムでは、OODAがどのようなフレームワークなのか、PDCAとの違いなどについて説明して行きたいと思います。

1.OODAループとは

OODAループは、アメリカ合衆国の戦闘機パイロットであり、軍事戦略家でもあるジョン・ボイド大佐が提唱した意思決定・行動方法です。

 

元々は航空戦に臨むパイロットの意思決定を対象としていましたが、作戦術・戦略レベルにも応用され、更にビジネスや政治など様々な分野でも導入されています。

 

OODAループは、よく比較対象となるPDCAサイクルと同じように4つのステップ「観察(Observe)」「情勢判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」に分かれています。


OODA」は、この4つのステップのイニシャルを取って名付けられており、「ウーダ」と読みます。

 

ボイド自身にはOODAに関する著書はありませんが、アメリカの著名な経営評論家であるトム・ピーターズ(「マッキンゼーの7S」の考案者の一人「エクセレントカンパニー」の共著者)などによって紹介され注目されました。


日本には、2019年にボイドの愛弟子であった経営コンサルタントのチェット・リチャーズの著作「OODA LOOP」によって、広く知られるようになりました。


2.OODAループが注目される背景

(1)VUCAの時代に適したOODAループ

後ほど、詳しくご説明しますが、OODAループの最大の特徴は、その時々の状況に応じて素早く判断をし、意思決定していくフレームワークであることです。

 

現在は「VUCAの時代」と言われますが、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」が高く、あらゆる物事が目まぐるしく変化する予測が難しい時代のことを意味しています。

 

緻密な計画を立てるよりも、状況を見てすばやく判断して勝機を逃さないことが重要といえます。そういった意味でも、OODAループが必要となるのです。

 

(2)PDCAサイクルとの使い分けで力を発揮するOODAループ

PDCAサイクルは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)という4つのステップから成り立っています。

 

PDCAサイクルは使い勝手の良いフレームワークですが、もともとPDCAサイクルは品質管理や生産管理のためのフレームワークであり、決められた工程の中で生産性を高めることに焦点を当てています。

 

昨今のビジネス環境は変化が激しく、PDCAだけでビジネスを進めていくだけでは十分に対応できない状況になっており、決まった工程がなく刻一刻と変化する状況においても活用できるフレームワークとして、OODAループと使い分ける必要が出てきました。


3.OODAループを簡単に解説

 

OODAループとは、次の4つのステップ繰り返し行い、マーケットの状況に合わせて業務活動を効率的に行うフレームワークです。

 

O:観察 (Observe)

「観察」のプロセスは、ニーズを探すプロセスです。固定観念や偏見に囚われず、“ユーザー視点”で悩みや願望に共感するところから始め、ユーザー自身が気付いていないニーズを

明らかにしていきます。

 

O:情勢判断 (Orient)

「観察」のプロセスで集めた情報をもとにブレインストーミングを行い、取り組むべき課題を特定するのが、「情勢判断」のプロセスといえます。

 

D:意思決定 (Decide)

「情勢判断」の段階で判断された課題をもとに、行動として具体化するための方策・手段を選択する段階です。

 

A:行動(Act

「意思決定」段階で採択された方針に基づいて、実際の行動に移る段階です。

 

新しいビジネスを行う場合は、顧客の問題解決のために考え出したアイデアが、当初の意図通りにうまく機能するかどうか確かめると共に、ユーザーからフィードバックをもらうことでアイデアをブラッシュアップしていくことが必要です。

 

OODAループにおいては、再び「観察」段階に戻り、行動の結果を判定して、次の「情勢判断」に続けることとなります。


4.OODAループのフレームワーク

(1)OODAループのフレームワーク

まず、OODAループのフレームワーク図をご覧ください。



【出所】チェット・リチャーズ(2004)「OODA LOOP」を参考に改編


それでは、4つのステップについて、それぞれ見ていきましょう。

 

(2)観察 (Observe)

観察とは、自分自身が直面する、自分以外の外部状況に関する「生のデータ」 (Raw data) の収集を意味します。

 

理論の原型となった航空戦においては、パイロット自身の目視、機体装備のセンサー、あるいは地上レーダーや早期警戒機からの伝送情報により敵機を探知するといったことになります。

 

ただし、「観察」は単に「見る(see)」以上のことを意味し、リチャーズは「吸収する」といった表現の方が適していると述べ、また、ボイドも「敵の身になって」考えるべきだと言っています。

ビジネスの観点からは、「観察」のプロセスは、ニーズを探すプロセスです。新しいニーズは、ユーザーにアンケートを取れば出てくるというものではありません。むしろ、ユーザー自身が気付いていないニーズこそが、すばらしいビジネスチャンスであるといえます。

 

であれば、人々の気持ちに共感し、自分の中に「吸収する」ことで、彼らが本当に求めているものを「顧客の身になって」明らかにしていくことが必要となります。

 

まず、固定観念や偏見に囚われず、“ユーザー視点”で悩みや願望に共感するところから始めましょう。

 

(3)情勢判断 (Orient)

「観察」段階で収集した「生のデータ」をもとに情勢を認識し、「価値判断を含んだインフォメーション」として生成する段階です。

 

ボイドは、この段階をビッグ Oと称して、特に重視しています。情勢判断は、下記の5つの要素から構成される「判断のための装置」により、「データ」から「インフォメーション」へと加工されていくとされています。

 

①文化的伝統(Cultural Traditions
②分析・総合(Analysis & Synthesis
③過去の経験(Previous Experiences
④新しい情報(New Information
⑤受け継がれた特質(Genetic Heritage

 

リチャーズは、情勢判断を「観察した情報を自らの遺伝的な特質や社会環境、過去の経験にもとづく断片的なアイデア、情報、推測、印象などと組み合わせ『多面的で暗黙的な相互言及』を作り出すこと」と説明しています。

 

難しい表現ですので、簡単に言い換えると、「生のデータ」を自分自身の過去の経験や文化などから自然と身についている知識と新たに得た情報をもとに、方向づけを行うということです。

 

なお、情勢判断が現実の状況にどの程度適合しているかは、観察の精度によって決まります。

 

ビジネスの観点からは、観察のプロセスで集めた情報をもとにブレインストーミングを行い、取り組むべき課題を特定するのが、「情勢判断」のプロセスといえます。

 

各人の「判断のための装置」は当然のごとく各人ごとに異なっていますので、発見したニーズに関して、ブレインストーミングを通して深化・統合させ、次の意思決定プロセスを上手く進める為の方向性を設定していきます。

 

(4)意思決定 (Decide)

「情勢判断」の段階で判断された情勢をもとに、行動として具体化するための方策・手段を選択する段階です。

 

図に表示されている点で注意していただきたいのは、以下の2点です。

 

①情勢判断の結果を踏まえて、場合によっては方針・計画が大幅に見直され、「観察」の段階に戻ること


②情勢判断により何をすべきかが明確で直感的に方策・手段が判断できる場合は、本プロセスは省略することができる点です。

 

これは、「暗黙の誘導・統制」という矢印で示され、それが意味するのは、情勢判断から直接、行動に移る方が望ましいということです。

 

(5)行動(Act

「意思決定」段階で採択された方針に基づいて、実際の行動に移る段階です。

 

OODAループにおいては、再び「観察」段階に戻り、行動の結果を判定して、次の「情勢判断」に続けることとなります。

 

ビジネスの観点からは、「意思決定」と「行動」は、「情勢判断」を踏まえて、優先順位を付けた解決策の仮説を効率よく検証することに当たります。

 

特に新しいビジネスを行う場合は、顧客の問題解決のために考え出したアイデアが、当初の意図通りにうまく機能するかどうか確かめると共に、ユーザーからフィードバックをもらうことでアイデアをブラッシュアップしていくことが必要です。

 

結果次第では、方向性から考え直す必要が出てくるかもしれませんが、解決策を再定義・改善するための機会として積極的に取り組んでいきましょう。


一般的には、「観察(Observe)」「情勢判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」「観察」に戻ると考えられていますが、理想形は、「観察」「情勢判断」「実行」です。

5.OODAループとPDCAサイクルとの違い

(1)PDCAサイクルとは

違いをご説明する前に、PDCAサイクルについて簡単に見ていきましょう。

 

PDCAサイクルという名称は、サイクルを構成する「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」4段階の頭文字をつなげたものです。

 

Plan(計画)  :従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する。
Do(実行)  :計画に沿って業務を行う。
Check(評価) :業務の実施が計画に沿っているかどうかを評価する。
Act(改善)   :実施が計画に沿っていない部分を調べて改善をする。

 

1950年代、品質管理の父といわれるW・エドワーズ・デミングが提唱したといわれるフレームワークで、本来的に、品質管理を目的として用いられるツールでしたが、多くのビジネス関係者がより広い経営活動一般に適用しようとしました。


 詳しくはこちらの記事をご覧ください
  PDCAサイクルとは?失敗事例の対応と高速回転のポイントを解説

 

(2)OODAPDCAの違い

もし、本コラムをお読みの方の中で、「PDCAはもはや時代遅れ」という考えをお持ちの方がいらっしゃれば、まず、それは偏った意見であると考え直していただけたらと思います。

 

OODAPDCAはまったく異なる目的で提唱されたフレームワークで、目的によって使い分けられるべきものなのです。それでは、違いについてみていきましょう。


 

OODAループとPDCAサイクルでは、表にお示ししたような違いがあります。

  

OODAループは、まず事実の観察からスタートし、そこから何かを判断し、決断・行動へと移っていきます。その際に最も重要視されるのが、情勢判断です。

 

観察により、事態の流れ、とくにその隠れた潜在的な流れを的確につかみ、情勢判断により小刻みに行動を積み重ね、不確実性を削減していくことが、OODAループの強みなのです。

 

一方、PDCAはある程度不確実性の低い定型型業務の改善等、つまり、大枠の工程が決まっておりその中の効率性を追求するものですから、改善計画段階に時間をかけ、確実に実施し、効果検証を行いスパイラル的に改善が進んでいくのが強みです。

 

この表からもお分かりいただける通り、OODAとPDCAはかなり対照的でマネジメントの手法も異なってきます。OODAでは、上司はゴールを示すのみで、責任と権限は下位に委譲され、PDCAでは上司は、計画とチェックを承認し、責任と権限を持ちます。

 

したがって、両方をうまく使い分けることが、ビジネスの観点からは一番効果的であるともいえます。

 

例えば、中長期計画にはPDCAを利用して大枠を設定し、年度や半期については、権限を委譲しOODAを利用した柔軟な活動を推進する。個々の活動についてはPDCAを利用してしっかりと計画を立てて、チェックを行っていくなどです。

 

リチャーズは、PDCAの「C(チェック)は『結果を観察し、必要なら情勢判断を変えよ』という指示に等しい。このためPDCAサイクルはOODAループのフレームワークの中にうまく収まる」と述べ、PDCAOODAという枠組みの中で解釈しています。

6.OODAループに必要な組織文化

OODAは、前述のとおり、元来、航空戦が起源となっていることから、組織においてOODAループを高速運用する場合には、組織文化の醸成が必要となります。

 

つまり、情勢判断を迅速に行うための環境を整えておく必要があるのです。リチャーズは、必要な組織文化として次の4つを挙げています。組織にOODAループを導入する場合の留意点となりますので、紹介しておきます。

 

(1)相互信頼を醸成する

競争力を生み出す組織文化を構成するそのほかすべての要素の基礎となります。相互信頼の意味するところは、組織の一体感、結束力、統一性で、組織の構成員の集まりをチームとして生まれ変わらせる組織の調和と理解してください。

 

特に重要なのは、従業員と経営者の間の信頼関係です。人々は恐怖ではなく信頼感のある雰囲気の中でこそ自発的に動こうとする傾向にあるからです。 

 

一方、相互信頼を破壊する最大の脅威がマイクロマネジメント(細部にわたる過剰な管理)です。マイクロマネジメントは、相互信頼だけでなく、構成員の経験による知識の習得にも弊害をもたらします。

    

(2)直観的能力を活用する

直観的能力とは、断片的で混沌とした出来事の中から、迅速に洞察(物事の本質を見抜く)を引き出すことを可能にする能力です。直観的能力は前提条件として、基本スキルを徹底的に学び、体に覚えこませることと経験による学習が必要です。そのため、育成には長期の時間が必要となります。又、マイクロマネジメントを行うことは、部下の経験による直感的能力の向上を阻害することになりますので、注意して下さい。

 

 詳しくはこちらの記事をご覧ください
  経験学習とは?コルブの経験学習モデルと企業のサポート方法を解説


(3)リーダーシップ契約を実行する

リーダーシップ契約とは、ミッション達成のために上司と部下が行う契約です。聞き慣れない概念ですので、順序だてて説明していきます。

 

リチャーズは、ビジョンとミッションを以下のように捉えています。

 

ビジョン  :最終到達点または成長の方向性であり、固定的な到達地点であれば「目的」、方向性であれば「焦点と方向性」と読み替える

 

ミッション :ビジョンを時間的・空間的に細分化したもの

 

OODAの命令のタイプはゴールだけを指示するミッション命令型であると先述しました。これは、「達成すべきビジョンを持った上官(上司)」が「ビジョン達成のために支援してくれる部下」にビジョンを提示し、部下がその達成に同意した場合、具体的なミッションの遂行に対する責任と権限移譲を与える一種の契約と言い換えることができます。

 

リーダーシップ契約は、契約内容を調整することで、ミッションの遂行に対する現場の主導性と部下の自主性を高めることができます。当然ながら、この考え方にはマイクロマネジメントは存在しません。

 

その代わりに、部下から状況に関する迅速なフィードバックが必要となる点に注意してください。

 

(4)「焦点と方向性」を与えている

組織のビジョンを方向性として示すことは、組織全体の行動を調整する働きを持ちます。焦点と方向性は、問題を解決するために何に集中すべきか、どのように対処すべきかの指針となります。

 

具体的には、例えば、来年度の利益を20%アップさせるというビジョンを提示した場合、ある部署では新規顧客の勧誘により売り上げを伸ばす方策を、別の部署では人員カット等の経費削減などのミッションを設定する可能性があります。

 

しかし、「焦点と方向性」として、新しいサービスの開発による利益アップを示していれば、組織全体として統一されたミッションを設定しているはずです。

 

多くの企業では、数値目標の設定を行い部下に示していますが、なぜ20%アップなのか、なぜ15%でも25%でもないのか。どうして、20%のアップが必要なのかを示しているでしょうか。

 

「焦点と方向性」は、組織の活動すべてがその達成を支援することで、組織全体を調整するとともに、組織内の摩擦を減らし、ビジョン達成に向けた時間を短縮することとができるようになります。

7.まとめ

OODAループについては、個人やスタートアップ企業など小規模な組織に関しては有効であるが、大規模企業には適さないといった批判もありますが、それも誤解といえます。

 

ソーシャルメディアやビッグデータ、AIなどの急激な発達は、OODAループの可能性を大きく引き上げました。それはリアルタイムに多くのデータを収集し、直観的能力をアルゴリズムに組み込み、即座に判断し行動に移すことが可能になったからです。

 

OODAループを有効に活用し、変革のスピードを高め、競争優位を築くことで、企業の成長を実現していただけたらと思います。


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