PDCAサイクルとは? 効果的な回し方と高速回転のポイント・失敗事例を解説
1.PDCAサイクルとは
1950年、品質管理の父といわれるW・エドワーズ・デミングが日本科学技術連盟(日科技連)で講演し、日本に紹介したフレームワークが起源と言われています。
デミングは講演で、「 品質を重視する観念と品質に対する責任感のうえに、①設計、②製造 、③販売、④調査・サービス、の4つが円環状になって回転していくことが望ましい」旨を述べています。
つまり、元々は改良や改善を必要とする部分を、生産プロセスの中で特定・変更できるようにするために提唱されたモデルであり、デミングが提唱したモデルは、DPSR(Design-Produce-Sell-Redesign)と呼ぶべきものです。
その後、日本では、デミングから学んだ「品質管理の考え方」や「統計的手法」を日本流に変えて、「QCサークル活動」や「TQC」(全社的品質管理)が 盛んに行われるようになりました。
又、その中で、「デミングのサイクル」から一般的な管理手法サイクルとしてのPDCAに発展したのです。
現在、日本において、PDCAサイクルは、「Plan(計画)→ Do(実行)→
Check(評価)→ Act(改善)」の仮説・検証型プロセスを循環させ、生産技術やマネジメントなどの品質を高めていく概念として広く使われており、「PDCAサイクル=デミングサイクル」と説明されることも多いですが、正しく言えば、この二つはイコール(同じ)ではありません。
2.PDCAサイクルの効果的な回し方
PDCAサイクルの各プロセスにおいて、具体的に何が行われるのかを見ていきます。
(1)Plan(計画)
目標・目的を設定し、実行計画(アクションプラン)を立案します。
目標やアクションプランの設定は、PDCAを回す際のスタート地点になるものですから、ただ闇雲に目標設定をするのは避けましょう。
なぜそのような目標を立てるのか、なぜそのような実行計画を立てるのかについて、論理的に仮説を設定し、仮説に基づいた効果的なPlanを立てることを意識する必要があります。
①仮説の立て方
達成したい目標に必要な要素を、抜けもれなくロジカルに抽出し、仮説をきちんと立て優先順位や重要度を考慮してPlanを立てることが大切です。
アプローチに偏りがあったり、感性や感情、経験で対応していたりすると、後から「こちらの改善の方が大事だったのでは?」というようなことが起こりかねません。
例えば、目標が『利益を上げる』といった場合
1)利益の要素を分解する
・利益=売上−費用
・利益=利益/個×販売個数
・利益=売上×利益率
・利益=海外販売+国内販売
2)利益に影響を与える要素を検討する
・4P: Product(製品・サービス)、Price(価格)、Place(販売場所・提供方法)、Promotion(販促活動)
・3C: Customer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)
などにより、幅広く可能性を考えることが重要です。4Pや3Cはフレームワークと呼ばれる、経営戦略や業務改善などに役立つ分析ツールや思考の枠組みです。
しっかりとした仮説を立てた上で、取り組むべき課題とアクションプランについて、実行可能性や重要度をもとに、優先順位を決定しましょう。
又、数字で把握できる指標を積極的に用いるなどして、誰が見ても分かりやすく、具体性のある目標やアクションプランを設定することが重要です。
アクションプランについては、実行に必要な以下の5W2Hの要素を意識して検討を重ねます。
5W2H
ⅰ)誰が(Who)
ⅱ)いつ(When)
ⅲ)どこで(Where)
ⅳ)何を(What)
ⅴ)なぜ(Why)
ⅵ)どのように(How)
ⅶ)いくらで(How much)
(2)Do(実行)
「Do」では、「Plan」で設定した目標を実現するためアクションプランを実行していきます。ここで言う実行には、「計画に従って着実に業務を遂行していくこと」だけではなく「試行」という意味も含まれています。
例えば、売上を20%アップさせるために、1日10軒往訪する計画を実行するとします。しかし、この段階では、1日10軒の往訪で、売上を20%アップできるかは分からず、さらには、アクションプラン自体が、実行できるかどうかも不明な状態です。
そのため、アクションプランが、計画通りに進まない場合には、「どうすればできるのか」を考え、「試行」を行いながら、前に進めていくことが重要です。
また、そのプロセスと結果を後で評価できるよう、活動内容を記録しておく必要があります。
(3)Check(評価)
「Check」では、実行したアクションプランの効果検証を行います。
検証は、「Plan」で立てた数値目標をベースに行い、数値を根拠として、具体性を持った検証結果としてまとめあげることが重要です。なぜなら、それが次の「Act」に大きな影響を与えるからです。
例えば、効果が表れなかった場合、アクションプランが計画通りに実行できなかった可能性とアクションプランは実行できたが、効果が上がらず目標に到達しなかった可能性があります。
また、効果が表れた場合にも、アクションプランが計画通りに実行できなかった場合には、違う要因が影響した可能性もあります。
数値を根拠として検証することで、事実に向き合った「Check」を行うことができるのです。
(4)Act(改善)
「Act」では、検証結果を受け、今後どのような対策や改善を行っていくべきかを検討します。「Check」での検証、要因分析がしっかりと行えないと、誤った対応策を立て失敗することがあるため、注意が必要です。
「Act」を検討する際には、
ⅰ)引き続き計画通りに進める
ⅱ)計画を続ける中で、いくつかの視点を改善する
ⅲ)計画を中止、別の解決策を実行する
など、選択肢を多く持つようにし、その中からこの先の課題を検討、決定していくことが次のPDCAサイクルにつながります。
3.PDCAサイクルが失敗する原因
PDCAが失敗する原因を各段階ごとに見ていきましょう。
(1)「Plan」での失敗の原因
最初の目標設定が高すぎると、実行が追いつかず、企画倒れで終わってしまう可能性が高くなります。
高すぎる目標は、「どうせ無理だろう」というあきらめ感や「どうしてそんな目標にするのか」といった納得のなさを生み、効果が上がりませんし、その状態で出た結果を正しく評価することもできないでしょう。
PDCAサイクルは、継続するモデルですから、最初の1回で満点を取る必要はないのです。又、現状把握に時間をかけすぎた計画は、すでに現状とかけ離れている可能性があります。
世の中は常に変化しています。完璧な計画を追求するあまり、計画に時間をかけすぎてはいけません。
(2)「Do」での失敗の原因
多くの場合、「Do」ができない理由はアクションプランに無理があるか、ついつい怠けてしまったかのいずれかです。
ⅰ)活動内容がしっかり予定されていても、スケジュール設定に無理があり、業務プロセスのどこかに作業負荷が集中してしまうと、そこがボトルネックとなり、進まなくなってしまいます。
PDCA活動は通常業務と並行しながら実施することが多いため、スケジュールに無理があると後回しにされやすく、結果として計画通りに実施されず、失敗に終わってしまいます。
PDCA活動にかかる工数を見積もり、通常業務との兼ね合いも考慮して、出来る範囲でスケジュールを立てましょう。
ⅱ)ついつい怠けてしまうというのは、困りものですが、定期的な打ち合わせで関係者とも情報共有しながら、進捗を確認することで防ぐことはできます。
進捗管理の機会は、あまり期間を長く取らず、事前にスケジュールを共有しておきましょう。
(3)「Check」での失敗の原因
PDCAは高速で回すことが重要ではありますが、「Check」を急ぎすぎて感覚で評価してしまうと、深い部分まで検証できず、実効的な改善策を生み出しにくくなってしまいます。
また、改善の成果を急ぐあまり、いくつもの変更を次々と行ってしまうと、多くの要素が複雑に絡み合い、正確な分析ができなくなってしまうこともあります。
最終的な目標達成に向けてこの数値が出た現状はどう判断するかをメンバーで議論し、速さよりも正確さを重んじ、次の「Act」につなげましょう。
(4)「Act」での失敗の原因
「Check」の段階で、数値化された指標から改善点が判明しても、改善に向けた行動が着実に実行されなければPDCAのサイクルは途中で頓挫してしまいます。
また、当初予想していなかった、未知の課題が出てきている可能性もあります。特に、計画通りに進まなかった場合、「とりあえずこのまま進めてみよう」といった消極的な姿勢であれば、PDCA全体の質が下がってしまう可能性もあります。
最終的な目標達成に向けて、「どうすれば実現できるか」とプラスに考えていくことが重要です。
ⅰ)改善に向けて、可能性のあるものはすべて試してみる
ⅱ)思い切って課題自体の見直しにも着手する
といった、途中で投げ出さず、目標に向かって実行と検証と再設定を何度でも繰り返す高い志が必要です。
PDCAは仮説に対する施策の結果を評価し、改善してその効果を再び評価するものです。一度で大きな成果を得られるとは限りませんし、即効性を期待できるものでもありません。速度感を持ってループさせ、繰り返すことで着実な成果を狙いましょう。
4.PDCAサイクルを高速で回転させるには
それでは、PDCAを高速で回転させるためには、どのようなことができるか考えてみたいと思います。
(1)実行計画と進捗は月、週、日単位でCheck
例えば、売り上げを20%上昇させるという目標に対して、訪問件数を30%上昇させるというPlanを設定したとします。以前は、年間に3,600軒往訪していたとすれば、
年間 3,600軒、月間 200軒、週 50軒、一日 10軒
の顧客訪問を行っていたことになります。
この場合、目標を細分化し、週単位や一日単位の目標設定を行い、検証も一日単位や週単位で「Check」を行っていくことが重要です。
こういった場合、一年後に訪問件数を「Check」するようなことは問題外でしょうが、月単位に検証している企業があることは事実です。
検証するための作業が負担になっているケースも見受けられますが、「Plan」の段階での課題の分解が不十分であることが原因となっていることもありますので、注意をして下さい。
(2)Doの中でも、PDCAを行う
Doを行う中でもPDCAを行うとは、先ほどの例でいえば、1日単位の目標設定に到達しない原因を考え、一人一人が問題を解決するPDCAを行い(これをダブルループと呼びます)、チームに共有することです。
「どうすればできるか」という前向きな議論を行うことで、「やらされ感」がなくなっていくとともに、自主性を醸成することが出来ます。
(3)役割分担を明確にし、同時実行をする
売り上げを20%上昇させるという目標に対して、訪問件数を30%上昇させる以外に、4Pの観点から、プロモーションであるWebサイトのリニューアルも優先順位や重要性が高いと判断されているような場合、役割分担を決め、同時実行していくことも重要です。
PDCAは、仮説を検証していくプロセスですので、失敗もあります。
一つのことの結果が出てから、次の対策を行うことより、役割分担を明確にして、対策の実行を同時進行して、有効性を比較していきましょう。
5.まとめ
PDCAサイクルは、単純な円ではなく螺旋階段を昇るように上昇していくもの、つまり、レベルアップや成長を続けていくことの重要性を教えてくれています。
逆に、このことは、今行っている仕事のやり方を一年後も同じように行っていては、ビジネスパーソンとして成長をしていないことを示しているとも言えます。
そういう意味では、PDCAはセルフマネジメントのスキルともいえるかもしれません。
是非、自分と組織の成長を促すPDCAを身に付けていただきたいと思います。
PDCAとよく比較される「OODAループ」や目標や問題解決の仮説設定に必要な「問題解決」「ロジカル・シンキング」などの記事も参考にしていただけたらと思います。
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