ロジカル・シンキングとは?三角ロジックなど代表的フレームワークと鍛え方を解説

会議や打ち合わせで、「で、何が言いたいの?」「もう少し整理して話して」などと、思うことがありますよね。 これは、ロジカル・シンキングが出来ていない典型的な事例と言えます。ロジカル・シンキングは、ビジネスの様々な場面で役立つことから、ビジネスパーソン全員が身に付けるべきスキルです。
〇新規事業案について社内会議で説明し、上司に納得してもらう
〇部門の問題点を洗い出し、改善策を提言する
〇商談の場で、それぞれの条件をまとめて妥協点を探る
〇複雑な契約書や取引条件を確認する
など、問題解決や円滑なコミュニケ―ション、仕事の効率化にロジカル・シンキングは効果を発揮します。

1.ロジカル・シンキングとは

一貫していて筋が通っている考え方、あるいは説明の仕方のことで、論理思考あるいは論理的思考と日本語訳されます。

 

ビジネスシーンでロジカル・シンキングという場合は、日本で生まれた、コンサルティング業界に由来する業界用語と捉えてください。

 

日本でロジカル・シンキングや論理思考の概念が広まった契機は、大手のコンサル会社「マッキンゼー」でエディターとして活動していた照屋 華子さん、岡田 恵子さんの著書である『ロジカル・シンキング』によって、様々なツールや手法が企業向けに提唱され、注目されたことが挙げられます。

 

違和感を感じられるかもしれませんが、ロジカル・シンキングは業界用語で、英語訳する場合、 critical thinking(批判的思考)が選択されることも多く、このことが、クリティカル・シンキングの理解を複雑にしている側面もあるかもしれません。

 

クリティカル・シンキングとは

日本語では、「批判的思考」と訳され、あらゆる物事の問題を特定して、適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法のことです。

 

ここでいう「批判」は、単に否定的になるのではなく、情報を分析、吟味して、客観的把握をベースとした正確な理解を目指します。

 

また、他者に対してだけでなく、自身の論理構成や内容について内省することも意味しています。 

 

後ほど、詳しく説明していきますが、ロジカル・シンキングを行い、一貫していて筋が通っていても、考える前提や情報が間違っている場合、結論は、当然間違ったものになってしまいます。

 

以上からロジカル・シンキングとの関係性でいえば、補完的な関係にあると言えますし、ロジカルとクリティカルの両方を行うことで、初めて、「物事を正しい方法で正しいレベルまで考える」ことが出来るとも言えます。

 

それでは、ロジカル・シンキングの基本の考え方について、見ていきましょう。

2.ロジカル・シンキングの基本のトレーニング方法

論理的に物事を考える場合、私たちは無意識のうちに演繹法と帰納法という2つのアプローチを用いています。なじみのある言葉ですが、これらをきちんと理解しておくことが、ロジカル・シンキングをトレーニングする上で非常に重要です。

 

帰納法

帰納法はデータ(事実)から傾向や法則を読み取り、論拠(理由)で仮説・推論して主張を導きだす論理法です。

 

例えば社内で、AさんとBさんとCさんが高い評価を受けていたとします。3人はいずれも、海外経験を有しています。すると、そこから帰納法的に考えれば、「我が社で高い評価を得るためには海外勤務が必要である」という一つの仮説が成り立ちます。

 

演繹法

演繹法(えんえきほう)は一般論となる ①論拠(理由)から観察事項となる ②データ(事実)を結びつけてそこから ③主張を導き出す論理法です。

 

先ほど取り上げた「我が社で高い評価を得るためには海外勤務が必要である」というルールに対して、「私は海外赴任を経験していない」という事象を組み合わせると、「私は高い評価は得られない」との結論に達します。

 

このように演繹法では、あるルールに事象をあてはめることで、おのずと結論が導き出されてくるのです。

 

帰納法や演繹法を利用する際の注意点

 

ⅰ)帰納法は、前提となる物事や事例の「事実としての質・量」が大切となります。共通点を見つけ出す物事や事例の内容に誤りや偏りがあれば、正しい結論は導かれません。

 

ⅱ)演繹法が前提とする物事や事例は「一般論(ルール)」です。したがって、前提とする一般論(ルール)に誤りや偏りがあると、正しい結論は導かれないので注意が必要です。また、演繹法ではデータにルールを関連付けて結論を導くため、データとルールを結び付ける筋道に無理がないことも意識することが大切となります。

 

演繹法は「一般論(ルール)」をもとに結論を導き出すというものですから、変化の大きい現在においては、過去の事象から導き出されたルールが、すべてにおいて適応できるわけではありません。

 

新たなチャレンジに直面するビジネスにおいては、目の前で起きている事象から新しいルールを生み出すという帰納法的考え方が重要視される場合も多く見受けられます。

 

演繹法的な思考に必要な知識をしっかり身につけるのと同時に、目の前の事象から何らかの解釈を導き出していく帰納法的な思考を鍛えることを反復しながら、素早い意思決定ができるように、日々トレーニングすることが大切です。 



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3.ロジカルに議論をするためのトゥールミンの三角ロジック

(1)三角ロジックとは

「三角ロジック」は、イギリスの哲学者であるスティーヴン・トゥールミンが示した論証のパターンの枠組みのもっとも基本的な形です。

 

普段意識することなく行っている思考方法ですが、論理的思考の基礎となる考え方であり自説を確認したいときや、相手の論理に疑問を感じたときなどには活用できるツールです。

 

先に説明した演繹法や帰納法も三角ロジックに当てはめて考えることができます。また、三角ロジックを段階的に用いると、より論理的で強固な論理展開が可能となります。

 

(2)論証の方法

トゥールミンは、ある主張(claim)を論証するためには、それを支えるデータ(data)と、データが主張につながるためのロジックであるワラント(warrant)が必要であるとしました。このようにデータと主張をつなぐロジックをトゥールミンは「ワラント(warrant)」と呼びました。ワラントは日本語訳されて「論拠」と呼ばれることもあります。



例えば、「商品Aの売り上げを増加させるために広告を増加させるべきだ」という主張を論証するためには、まず「売上が年間10億円から5億円低下した」というデータを持ってきます。

 

これは事実ですので、論証する必要はありません。しかし、「売上が5億円低下した」というデータが、「広告費を増加させた方がいい」という主張に直接つながるかというとそうではありません。

 

以前に同様の事態の際に、広告費を増加させたことで売上が上がった成功経験をしている場合、「売上が低下した」と言われれば、すぐに「広告費を上げた方がいい」というかもしれません。

 

以前の成功体験に基づく対応が、いつまでも効果があればいいのですが、変化の激しい現代では、もう少し冷静に議論をする必要があります。

 

顧客のニーズの変化や往訪等による営業力の低下や競合商品の値下げ、代替品の登場等、売上が低下している原因が変化している可能性もあります。

 

あなたが、この議論に賛成できない場合、どのよう対応をしていけばよいでしょうか。トゥールミンの三角ロジックを使って考えていきましょう。

 

この議論には、次のようなロジックが間に挟まっています。

 

「売上が5億円低下した」             データ

5億円の低下は問題だ」           暗黙のロジック1

「広告費を増やせば売上が上がる」      暗黙のロジック2

「売上が上がると問題が解決する」      暗黙のロジック3

「問題は解決しなければならない」      暗黙のロジック4

だから「広告を増やした方がいい」      主張


(3)反対する方法

反対する方法にはどのようなものがあるのでしょうか。反対の方法は、反駁、質疑、反論の3種類があります。以下に詳しく見ていきます。

 

①反駁(Rebuttal

反駁(はんばく)とは、相手の意見や批判に対して、反対する根拠や問題点などを持ち出して、論じ返すことです。

 

「いや、広告費は増加しない方がいい」と単に主張に対して反対しても、反対するだけの理由をきちんと述べていなければ、堂々巡りとなるだけで反駁とはなりません。

 

例えば、「広告費を増やせば売上が上がる」というワラントに対して、「もし商品力が低下しているならば広告費を増やしても売上は上がらない」というワラントを出せば反駁になります。

 

また、例えば、「売上が5億円低下した」にしても、「未契約ながら、既に確約している売り上げが、5億円以上ある」のであれば反駁となります。

 

つまり、主張を支えている「データ」または「ワラント」に反対することが反駁です。

 

②質疑(Question

反対の方法の2番目は質疑です。質疑は、三角ロジックの「データ」または「ワラント」そのものに疑問を提示することです。議論においては、データとギャップについて、確認を行うことが重要です。

 

たとえば、「売上が5億円低下した」というデータに対して、「なぜ5億円低下したと言えるのか?」「5億円低下したことは問題といえるのか?」という質疑を出します。

 

または、「広告費を増やせば売上が上がる」というワラントに対して、「なぜ広告費を増やせば売上が上がるのか?」という質疑を出します。

 

質疑を受け主張側は、データやワラントの根拠を提示することで回答します。これによって、議論はさらに、明確に深まっていきます。

 

③反論(Counter argument

反対の方法の3番目は反論です。反論は、主張側の三角ロジックとは別の新しい三角ロジックを立てることによって、相手側の主張が不適切であることを示していきます。

 

例えば、反論の例として、「売上が5億円下がった」(データ)「広告費を削って、営業人員を増やす方が売上が上がる」(ワラント)「広告費を減らした方がいい」(主張)という三角ロジックを立てます。

 

ここでは、「売上が5億円下がった」というデータは、主張側のものをそのまま使っていますが、ワラントを新たに立てることで正反対の主張を組み立てています。

 

このように反論によって、相手には新しく立てられた三角ロジックに反対する義務が生じます。この義務が果たせなければ自分の主張を取下げなければなりません。

 

また、ワラント次第で、ひとつのデータに関して、正反対の主張をすることも可能なのです。

この例からワラントを考えるのがいかに重要かということがわかると思います。

4.問題解決のためのロジカル・シンキング

問題解決を行う場合、課題が大きくて複雑であればあるほど対応策を考えることが難しくなります。そのような場合、課題を論理的に小さく、よりシンプルな形に場合分けする必要が出てきます。

 

また、検討に必要な要素を網羅しながらも、それらが重複しないようにする考え方も同時に必要となります。そうして分けた小さな要素ごとに検討し、それを積み上げていく作業を「構造化」や「セグメント化」と呼び、問題の全体像を把握し、有効な解決を行っていくことに役立ちます。

 

問題解決のためには、問題の真の原因を探す必要がありますから、切り分け方にモレがあると、問題の解決策にもモレが生じることとなります。

 

また逆に、重複が出るような切り分け方をしていると、同じ検討を何度も繰り返すことになり非効率的です。

 

そこで登場するのが、「MECE」の考え方です。

 

(1)MECEとは

MECEは「モレなく、ダブりなく」と訳し、Mutually(お互いに)、Exclusive(重複せず)、Collectively(全体に)、Exhaustive(漏れがない)の頭文字を取った用語です。



MECEに考えていくためのフレームワークを紹介します。


(2)ロジックツリーとは

ロジックツリーとは直訳すると論理の木で、問題をツリー状に分解し、その原因や解決策を論理的に探すためのフレームワークです。


1)足し算ロジックツリー



 

 2)掛け算ロジックツリー


 

 

足し算型・掛け算型のいずれにせよ、その階層における足し算や掛け算の結果を一段上の階層のものとほぼ一致させることで、MECEとなります。

 

次に、ロジックツリーの作り方には、目的に応じて、大きく3つのタイプがありますので見ていきます。

 

1)What型:要素分解ツリー

要素分解ツリーとは、その名の通り物事の要素をどんどん分解していって、何が起こっているのかを細かく見ていき、現状のどこに問題点があるのかを把握します。上の足し算型ロジックツリーで、首都圏の売上に問題があることがわかりました。

 

2)Why型:原因追求ツリー

原因追求ツリーとは、ある問題に対して原因を列挙し、根本原因が何なのかを突き止めるという使い方です。この例では、首都圏の売上に問題があり、売上の内容をさらに調べていきます。上の掛け算型ロジックツリーで、首都圏の売上の問題点は、購買客数を構成する購買率が最近は低下していることが根本原因であることが分かりました。

 

3)How型:問題解決ツリー(イシューツリー)

問題解決ツリーは、解決したい問題に対して改善策を挙げていく使い方です。最初に問題を取り上げるという意味では、原因追求ツリーと似ていますが、こちらはより今後のアクションに直結している活用方法です。

例えば、商品構成や価格は、競合店対比見劣りはないものの、チラシは他社がカラー刷りであるのに対し、2色刷りでインパクトに欠けることが分かった場合は、チラシの改善に注力していく方針を立てます。

5.ロジカルに理解を促すピラミッド・ストラクチャー

 

ピラミッド・ストラクチャーとは、あなた自身が伝えたい「結論」と「その根拠」をピラミッド状に図式化するフレームワークです。

ピラミッド・ストラクチャーは、 コンサルタントの育成や報告・文章能力の向上を目的に、マッキンゼーによって開発されたものですが、今では世界中のコンサルティングファームや企業、大学などに採用され、論理的に提案や報告をする際の基本スキルとして普及しています。

 

ピラミッド・ストラクチャーを意識した発言や文書は、聞き手や読み手が理解しやすくなる効果があります。これは、ある結論が「論理的に正しい」ことを説明するため、根拠を箇条的にいくつも並べるより、結論を頂点として複数の根拠を、下部に配置したピラミッド構造にした方が、理解がしやすくなるためです。

 

それでは具体的に、見ていきましょう。

 

(1)ピラミッド・ストラクチャーを利用しないケース

   

このように、整理されていない箇条書き状態では、「EV自動車産業に参入すべき」と主張されても、主張している根拠は何かを直ちに理解するのは難しくなります。

 

(2)ピラミッド・ストラクチャーを利用したケース

論理をピラミッド型に構造化するためには、以下のステップで進めていきます。

 

  

作成ステップ1.論点を明確にし、論点に対する主張を決める

まずはじめに、何を考え論じるべきなのかという論点を明確にしたうえで、論点に対するピラミッド・ストラクチャーの頂点となる答え(自分の主張)を決める必要があります。

 

この例では、「EV自動車事業に参入すべきか」という論点に対して、「参入すべき」という主張をしています。

 

もし論点が、「我が社が攻めるべき今後の有望な市場を探る」ということであった場合は、「EV自動車事業に参入すべき」では求められている論点に応えていることにはなりません。

 

また、議論すべき課題に対して、主張が外れていると、その後の議論が成り立たなくなってしまいます。

 

この例でいえば、「EV自動車の市場は、魅力的な市場だ」と主張を行うようなケースです。したがって、論理構造にしていくには、何が課題(論点)かをしっかり押さえ続けて、その課題に対してダイレクトに答える主張を用意する必要があります。

 

作成ステップ2.論理の枠組み(フレームワーク)を考える

結論が決まったら、結論を言うために、どんなことが言えればいいのか?というフレームワークを考えます。

 

フレームワークは、MECEであることを意識する必要がありますが、厳密にMECEでなくてもよく、聞き手や読み手に納得感があるかが重要です。

 

この例では、事業環境を分析する3C(市場・競合・自社)を参考に、関係する論点を整理しています。

 

作成ステップ3.情報をグルーピングしメッセージを抽出する

フレームワークを決めたら、数ある情報をグルーピングした上で、情報にから言えるメッセージを抽出します。メッセージの抽出の際には、演繹法や帰納法を利用し、結論を言うために価値ある解釈をしたメッセージを導き出すことが重要です。

 

作成ステップ4.抽出したメッセージで論理が成立しているか確認する

メッセージが抽出できたら、今度は逆に情報がメッセージの根拠になっているかを確認します。 

6.まとめ

思考法をテーマにしたビジネス書が多数出版されていることは、ビジネスパーソンの間で、これまでの成功事例に頼らない、自分の頭を使って、現状を的確に分析・解釈し、明日の方針を考え出すことの重要性が高まっていることを示しています。

 

ロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングは、認知度の高い思考法ではありますが、実際にビジネスの場で適切に使いこなせているかと言えば、まだまだ向上の余地は大きいとも言えます。

 

「知っている」から「使える」の間の壁を乗り越えるためには、日々の実践が必要です。是非、日頃の業務の中で、使い続けていただきたいと思います。



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