デザイン思考とは? 5つのプロセスを具体的事例で解説

大量生産・大量消費に支えられてきた従来のビジネスモデルは、経済のグローバル化・デジタル化という環境変化の中で、通用しなくなってきています。そうした環境下において、イノベーションを起こし、新たなビジネスチャンスを探すために、身につければならないのが「デザイン思考」です。この記事では、デザイン思考のエッセンスについて、説明をしていきます。

1.「デザイン思考」とは

「デザイン思考」は、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の思考法から発展し、現在ではあらゆる複雑な問題に適用できるプロセスへと進化しています。

 

詳細は後ほど述べますが、デザイン思考の根幹にあるのは、複雑な問題や課題は、問題解決を開始した時点では問題自体が明確に定義されておらず、そのため、当然解決方法も不明瞭となりますが、問題の定義を行うことで、解決するアイデアが生まれ、誰もが問題を解決できるという信念です。

 

つまり、「デザイン思考」は、「人々が持つ本当の問題を解決するための考え方・マインドセット」であり、「画期的なアイデアを生み出して、社会に新たな価値を提供するためのアプローチ方法」とも言えます。

 

(1)「デザイン」とは

「デザイン」は、日本では一般的には、「見た目」に属するものと考えられ、「美しさ」に価値がありましたが、最近ではキャリアデザイン、生活デザイン等「美しさ」より、「計画的に作る」という、意味合いで使われることが増えてきています。

 

「デザイン思考」でいう「デザイン」とは、『特定の環境下かつ様々な制約の中で、目的を達成するために、未完成の要素を組み合わせて、要求を満たすような仕様を明示すること』です。

 

つまり、どのような目的を定めるのか、達成するためにはどんな技術が必要で、どのような見せ方をするのか、というビジネスの一連の流れです。

 

(2)「イノベーション」と「デザイン思考」

「イノベーション」は、オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターによって、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と定義されています。

 

日本では、「イノベーション」が「技術革新」と翻訳されてきことから、研究開発によって新しい技術を生むこと、つまり発明( インベンション) とほぼ同義のように考えられてきました。

 

しかし、イノベーションの本来の意味は、発明や発明を実用化することより、既存の技術を新たに結合し、その結果として社会を変えることに重点が置かれています。

 

そのため、社会のニーズを利用者視点で見極め、技術を新しい価値に結び付けること、すなわちデザインが介在してはじめてイノベーションが実現すると言えます。

 

よって、「デザイン思考」は「イノベーションに対する、新しいアプローチ」と言い換えることもできます。

2.デザイン思考を実現させるためのプロセス

デザイン思考は、複雑な問題に適用できるプロセスに発展したとお話ししましたが、ここでは、デザイン思考の総本山とも言われるスタンフォード大学の機関であるHasso Plattner Institute of Design、通称「d.school」が提唱している5つのプロセスをご紹介します。


  

具体的事例として、今回は、「新しい『移動体験』をデザインする」をテーマに設定したいと思います。

 

(1)共感 Empathize

新しいビジネスチャンスを探すということは、新しいニーズを探すということです。

 

共感のプロセスは、ニーズを探すプロセスであり、人間中心を原則としたデザイン思考の過程において、核となる重要な段階です。

 

残念ながら、新しいニーズは、ユーザーにアンケートを取れば出てくるというものではありません。むしろ、ユーザー自身が気付いていないニーズこそが、すばらしいビジネスチャンスであるといえます。

 

であれば、ニーズを聞くことよりも、解決すべき問題点を探ることが近道となる場合が多いかも知れません。

 

そのために、人々の気持ちに共感することで、彼らが本当に求めているものを解決すべき問題を通して、明らかにしていきます。

 

共感するためには、観察する体験するインタビューを行うことで、相手に寄り添い、好奇心を持って、何が本当の問題かを探し求めることが必要です。

 

画期的な解決策は、人間の行動や心の動きに潜むインサイトから生まれることが多いと言えます。インサイトとは本人も気付いていない事実や潜在的な心の動きです。

 

例えば、『移動体験』の中にある解決すべき問題は、人によって様々です。 一般的に長い通勤時間は問題かも知れませんが、ある人にとっては、その時間が非常に有意義な読書時間かも知れません。

 

まず、固定観念や偏見に囚われず、“ユーザー視点”で悩みや願望に共感するところから始めましょう。

 

この例では、「長い通勤時間は困る」と答えた人は、一見、時間の浪費を問題にしていると思われますが、「実は座れる席があり、有意義に時間を活用出来るのであれば、苦痛には感じない」ことから、「通勤電車の混雑解消」がニーズかもしれません。

 

(2)問題定義 Define

共感のプロセスで集めた情報をもとにブレインストーミングを行い、取り組むべき課題の定義付けを行うのが、問題定義のプロセスです。

 

共感から発見したニーズやインサイトに関して、ブレインストーミングを通して深化・統合させ、残りのプロセスを上手く進める為の実用的な問題定義文としてのあなたの着眼点(Point of View)を設定していきます。

 

問題定義を行うことは、同時にゴールの設定を行うことにもなりますので、余り広範囲なものではなく、個別具体的なものとします。

 

例えば、移動体験の問題定義を「通勤時間」とするか「通勤混雑」とするかでは、その後の展開が大きく異なってきます。

 

ブレインストーミングとは

ブレインストーミングでは、アイデアを量産することを優先する「発散フェーズ」とアイデアを集約するための「集中フェーズ」が繰り返されます。

 

着眼点(Point of View)とは

プロジェクトのテーマに沿ったかたちで、ニーズの解決策を、有意義な挑戦課題として実現可能な領域に変換したものです。d.schoolでは、次のような穴埋め文章によるフレームワークを紹介しています。

 

ⅰ)対象ユーザーとその特徴

ⅱ)持っているニーズ動詞で記述

ⅲ)その背後にあるインサイト

 

具体的には、「①残業が多いために帰宅時間が遅くなる山本さんには、②できるだけ早く家に着くニーズがあった。③なぜなら、趣味に使う時間を少しでも増やすことが彼女にとって重要だからだ」といった形です。

 

ポイントは、ニーズを名詞ではなく動詞で書くことです。動詞を使うことで、ユーザーが「何をしたいのか」を考え、次のアイデア出しのプロセスで発散をしやすくなります。

 

(3)創造 Ideate

創造のプロセスは、解決策を検討するプロセスです。ここではブレインストーミングなどの手法を用いてアイデアを量産することが重要です。ありきたりな解決策を越えて、画期的なアイデアとなるよう、創造行為によって可能性を押し広げていきましょう。このプロセスでは、ただ一つの最善の解決策を見つける必要はありません。それは、後のステップで明らかにしていきますので、仮説段階と捉えて下さい。

 

創造のヒント

創造を円滑に進め、アイデアを量産させるためには、ブレインストーミングを活発化させることが大切です。大胆な発想については、この段階では、可能性を判断せず、むしろそのアイデアに乗っかりながら新しいアイデアを連想していくイメージが必要です。また、着眼点をリフレーミングすることで、解決策にたどり着くこともあります。具体的には、先述の例でいうと、自宅での趣味の時間を電車での趣味の時間に置き換えた解決策や残業を電車の中で行うという解決策もアイデアとしては成立します。

 

解決策の絞り込み

量産されたアイデアから、基準を決めて次のプロセスに進める優先順位を決定します。

基準は様々ですが、最も顧客に喜ばれるもの成功の可能性が高いもの画期的なものなどから設定します。その他にも、コストや収益、製造の容易性や、顧客の対象範囲など様々なものの中から、チームにとって望ましいものを基準としてください。

 

(4)プロトタイプ Prototype

このプロセスは、アイデアを形にする段階です。

優先順位を付けた解決策の仮説を低コストで効率よく検証をするために、プロトタイプ(試作品)を作成します。デザイン思考は、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の思考法から発展したことはお話ししましたが、デザイン思考の特徴として「Build to Think」(考えるために作る)と「早く失敗する」というものがあります。これは手を動かすことでアイデアが深まり、早く失敗することで、深手を負わずに多くの試行を行うという考え方です。

 

プロトタイプのポイント 

ⅰ)時間と費用をかけない

最初のアイデアが正しい解決法となることはまずありません。プロトタイプは、時間と費用を掛けずに作るようにしましょう。

 

ⅱ)アイデアのポイントがユーザーに伝わることを最優先する

プロトタイプは、アイデアがユーザーのニーズに合うか確かめるためのものですから、ユーザー目線で、アイデアのポイントが伝わるように工夫する必要があります。

 

ⅲ)サービスのアイデアは、寸劇やイラストで表現することも考える

プロトタイプの目的は、アイデアの具体化ですから、無形のサービスの場合、造形での表現が難しい場合があります。

 

(5)テスト Test

プロトタイプをユーザーに実際に体験してもらい、フィードバックをもらうプロセスです。

 

目的は、問題解決のために考え出したアイデアが、当初の意図通りにうまく機能するか

どうか確かめると共に、ユーザーからフィードバックをもらうことでアイデアをブラッシュアップしていくことです。

 

テストの結果次第では、プロトタイプの作り直しやアイデアから考え直す必要が出てくるかも知れません。

 

ただ、その場合でも、テストのプロセスを通して、ユーザーとの共感はさらに深まっているはずです。

 

デザイン思考の本質は5つのプロセスをスピーディーに行きつ戻りつしながら、画期的な解決策を見つけていくことです。解決策を再定義・改善するための機会として積極的に取り組んでいきましょう。

3.まとめ

「デザイン思考」は、イノベーションに活用出来るだけでなく、色々な問題解決に役立ちますが、本で学んで身につけるような「知識」ではなく、5つのプロセスを実際にやってみることでしか、身につけることはできません。

 

すでに企業の中にある、情報や知見だけでは複雑な社会の変化に追いつくことができない時代であればこそ、「デザイン思考」で身をもって学び続けることで、変化に対応できる力を鍛えていきましょう。

 

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