チームビルディングとは? タックマンモデルや混乱期の具体的な対応策を解説
1.チームビルディングを行う効果・目的
仕事を行っていくうえで、一人でできることは限られています。そこで私たちはより効果的にパフォーマンスを出すためにチームで仕事をしていきます。
しかし、チームを作れば、自動的に成果が上がるかと言えば、当然そういうわけではありません。多様な人材が集うチームでは、それぞれの能力をうまく活用しなければ、成果にはつながりません。
チームは単なる配置による集団とは異なり、メンバーの相互作用によって、各自の持てる力を十分に発揮し、一つのまとまりとすることが重要です。チームが生み出すパフォーマンスは、そのチームの成長のプロセスそのものです。
つまり、よりパフォーマンスを上げるためには、チームを成長させなければなりません。「チームビルディング」とは、チームを強い組織へと成長していくための手法です。
2.チームビルディングのチームの意味は?
(1)チームとは
そもそもチームビルディングの「チーム」とは一体何を指すのでしょうか。はじめに「チーム」の定義について触れておきたいと思います。
マッキンゼーのコンサルタントで『「高業績チーム」の知恵─企業を革新する自己実現型組織』(ダイヤモンド社、1994年)などの著者であるジョン・カッツェンバック、ダグラス・スミスによると、「チーム」とは「共通の目的、達成すべき目標、そのためのアプローチを共有し、連帯責任を果たせる補完的なスキルを備えた少人数の集合体である。」とされています。
つまり、チームビルディングの「チーム」とは共通の目標やゴールに向かい全員が当事者意識を持って進んでいく組織なのです。
(2)チームとグループの違い
ではここで、混同されがちなチームとグループの違いについても触れておきたいと思います。Google
re:Work(Googleが、データ分析を基に考えられた人事施策について、他の組織と一緒に共有し推進しようとする取り組みにより公表されているサイト)では、「ワークグループ」と「チーム」の区別を次のように説明しています。
ワークグループ
相互依存性が最小限という特徴があり、組織または管理上の階層関係に基づいています。ワークグループのメンバーは、情報交換のために定期的に集まる場合があります。
チーム
メンバーは相互に強く依存しながら、特定のプロジェクトを遂行するために、作業内容を計画し、問題を解決し、意思決定を下し、進捗状況を確認します。チームのメンバーは、作業を行うために互いを必要とします。
チームとは先程も述べた通り、同じ目的や目標を目指している組織体である一方、グループは同じ場所にいる、また同じことをしている会社に認められた公式な集団だと捉えることができます。
また、グループは相互依存性が少ないことから、グループの成果は所属する各メンバーの成果の総和となり、それ以上になることはありません。
一方でチームは目標達成のためのチームへの貢献意識が、メンバー同士の手助けや効率的な役割分担につながり、結果としてチームメンバーの総和を大きく上回るパフォーマンスを期待することができるのです。
3.チームビルディングに必要なタックマンモデルによるチームの形成過程
次に、チームが正しく形成される過程について、タックマンモデルを使って見ていきましょう。
タックマンモデルとは
タックマンモデルとは、心理学者のブルース・W・タックマンが発表した論文で提唱された組織発展の考え方です。
タックマンは臨床現場を調査し,チームには5つの発展段階があることを示し、その過程を体系化しました。チームは作っただけでは正しく機能するものではなく、段階を踏むことで理想的な成果をもたらすというのがタックマンの考え方です。
組織形成やチームワークに関しては現在まで様々な研究がなされてきましたが、その中でも最も重要な理論の一つに位置付けられています。
それでは、5つの発展段階について、見ていきましょう。
(1)形成期 (Forming)
ばらばらだった個人がお互いに知り合っていく段階です。
チームへの帰属意識も希薄であり、目的や役割分担も不明なので、感情をあまり表に出さないで、お互いに探りを入れながら情報収集し、まずはチームに順応しようとします。
(2)混乱期 (Storming)
各人の間に目的の優先順位、各自の役割と責任、リーダーシップなどについて強烈な対立が 生じる段階です。
メンバーそれぞれの経験から,価値観の相違、意見の相違や食い違い、多様性の受入の困難性などの問題が発生し、チームに緊張や葛藤が生じます。
対立は個人としての自由がその集団によって脅かされることに対抗することの表れとも言えます。対立が強すぎる場合には、チームから抜け出す人間が出てしまい、極端な場合にはチームが崩壊してしまうこともあります。又、時には、リーダーに敵意が集まることもあります。
(3)規範期 (Norming)
行動規範やルールがメンバーの間に確立する段階です。
混乱や分裂を乗り切り、チームの目標に向けて活発で、オープンな議論ができるようになります。この段階では、メンバー同士の関係が緊密になり、チームへの帰属感や信頼関係も強まります。
(4)実行期 (Performing)
チームが目的となる成果に向かって行動する段階です。
これまでの葛藤や目標などに対する曖昧さが減少し,メンバー全員が目標を明確化し、一体化した統制の取れたチームとして課題の達成に向けて議論や行動を起こすようになります。相互理解に向けられた各人のエネルギーは、集団の目的達成動に向けられる。
(5)解散期 (Adjourning)
一時的に形成された集団は、目的達成によって解散することとなります。
時には、外部の圧力、リーダーシップの欠如や集団の有効性を損なうチームのルールが発達することで、目標を達成せず、解散する場合もあります。
タックマンモデルが最終的に目指すチームは、『メンバー同士がそれぞれの役割を認識することができ、各々の存在意義を感じてリスペクトできる関係となって、一人一人がチームの為にすべきことを自分で考えて遂行できるチーム』なのです。
4.チームビルディングに大切な「混乱期」の対応策
タックマンモデルからは、「混乱期」をいかにして乗り越えるかが、強いチームを形成するために重要であるということがわかります。 それでは、まず、なぜメンバー対メンバーの衝突が起こるのかを掘り下げていきましょう。
(1)混乱期の主な原因
主な原因としては、3項目ほど挙げておきます。
①メンバーの多様性を受け入れられない。
会議でも、どうして、あの人の発想や意見は、私と大きく違うのだろうと思うことはあります。
ましてや、一時的に召集されたプロジェクトチームの場合は、個人的なメンタルモデル(頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」)の違い以外にも、元の組織で培われた価値観等の違いなどから、大きな違和感や疎外感を感じることがあります。
②メンバー間でビジョンや目的が共通の認識として定着していない。
新しいプロジェクトのために、召集されたチームの場合、メンバーにはプロジェクトそのものに意義を見いだせていない場合があります。
例えば、新商品の販売推進に営業部から参加することになった場合、現在の商品を拡販する方が優先事項だという意見を持っているかもしれません。
③仕事のやり方や役割がはっきりしていないのでお互いに不満を抱えてしまう。
メンバーはそれぞれの経験から、独自の仕事のやり方やペースを持っています。また、得意・不得意もあり、仕事に対する自由裁量が制限されると感じた場合には、大きな反発を招くことがあります。
混乱期を上手に乗り越えるためには、これらの要因をクリアしていけばよい、ということになります。それでは、チームビルディングにおいて具体的にどのような対策が有効なのか見ていきましょう。
(2)混乱期の対応策
主な対応策としては、4項目ほど挙げておきます。
①心理的安全性を高める
「心理的安全性」は、組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した概念で「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。
心理的安全性が高い状況であれば、質問やアイデアを提案しても受け止めてもらえると信じることができ、思いついたアイデアや考えを率直に発言することができます。
Googleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果を発表したことから注目されています。
具体的には、チームからの意見やアイデアを求めることや、個人的な仕事の進め方の好みをチームメンバーに伝え、チームメンバーにも自分自身の好みをチーム内に共有するよう促すことで、チーム内の心理的安全性を高めていきます。
②相互信頼を高める
メンバーの役割と責任を明確にし、各自がそのことにコミットメントし、クオリティの高い仕事を時間内に仕上げていくことで、相互信頼を高めていきます。
言い換えると、メンバーは仕事に対する真摯さを持つとともに、メンバーが真摯さを持つことを信じあえるチームでなければならないということです。
仕事に対する真摯さで大切なのは、その仕事によって期待されている使命、成果物をなんとしてでも仕上げるという粘り強さと強い意思です。
③ビジョンの共有
ビジョンとは「意志ある将来の見通し」です。魅力的なビジョンをチーム内で共有することで全員がこれに集中し、同じ方向に向かって進むことができるようになります。
チームのビジョンは、組織全体のビジョンや目標達成に貢献するような明確なものをメンバーが共同で策定することが望ましい姿です。
異なる意見が出ることは当然ですが、自分またはチームの仕事がユーザーや顧客、組織に与える影響をよく考えることで、一つにまとめていきます。ビジョンがチームで共有された場合、次のような効果を期待できます。
●ゴールがクリアになり、行動しやすくなる
●不確実な未来にリアルなイメージをもつことで不安が減り、「やれる」「やる」という感覚が高まり、結果として、現実に対応する能力や行動が引き出される
●今やっていることや自分の身に起こっていることの意義や意味を感じることができる
④目標と手順の共有
効果的なチームをつくるには、ビジョンを具体的な目標に落とし込み、目標を満たすためのプロセス、そして行うべきメンバーの行動について、個々のメンバーが理解していることが重要となります。
目標は具体的で取り組みがいがあり、なおかつ達成可能な内容でなければなりません。又、プロジェクトの進捗を確認するルールや、問題点の対応等による方針の変更等を行う必要が出てきた場合の意思決定方法について、ルール化し共有することで、有効な意思決定プロセスがあるチームとなることが出来ます。
問題発生時の対応フローについては、例えば、チーム内で意見の衝突が起こり、平行線をたどるようなケースでは、チームを統括する一段上の責任者に最終判断を委ねる等をイメージしてください。
チームのメンバーが共有すべき目標と手順の主な事項は、以下のようなものです。
●目標達成のために必要なマイルストーン
●マイルストーンの達成状況の評価基準
●意思決定のフローと基準
●問題発生時の対応フローと基準
5.チームビルディングのメリット
チームビルディングを行うことで、次のような効果を得ることが出来ます。
(1)チームのパフォーマンス向上
多様な人材が集うチームでは、それぞれの能力をうまく活用することで、チーム全体として効率的な働き方ができるようになります。
メンバーの相互理解によって、組織の中での自分の役割を考慮し、各自の持てる力を主体的に発揮し、一つのまとまりとすることが重要です。
(2)チームのコミュニケーションの活性化
コミュニケーションが活発化すれば、メンバーの関係性を強化する効果があります。チームでの関係性が向上すればメンバーの長所・短所が理解され、お互いの能力や役割がよくわかり、何を任せて良いのかを認識できるとチームとしての活動が円滑化されます。
又、コミュニケーションの活性化により、アイデアが出やすくなり、その結果、イノベーションが生まれることもあります。
(3)チームのビジョンの浸透
メンバーそれぞれの経験から,価値観の相違,意見の相違が見られることもあるでしょうが、
チームとしてどこに向かっていくのかを共有することで、メンバーの一体感が醸成され、各自のモチベーションの向上が図られます。
(4)成長型マインドセットの形成
マインドセットとは、心理学の用語で人間が持つそれぞれの「無意識の思考・行動パターン」「固定観念や思い込み」「物事を捉える時の思考の癖」を意味する言葉です。
目標が明確になっていたとしても、困難に遭遇することは多く、「粘り強く取り組み、この目標を達成したい」というような成長型マインドセットが形成されていなければ、チームは最大のパフォーマンスを上げることが出来ることはできません。
チームが機能すると、メンバーがそれぞれの役割を果たすことで、刺激を与えあい、粘り強く一歩一歩目標に近づけていこうとする成長型マインドセットが形成されていきます。
(5)適切な人的配置
チームビルディングを行うことで、コミュニケーションが活性化し、メンバーの価値観や考え方、得意な分野などを事前に理解しておくことで、リーダーは最適な人員配置や役割分担を実現することが可能になるでしょう。
又、メンバーがお互いをよく理解できるようになり、自然にメンバー同士で適材適所の配置をする習慣も作り上げられ、常に誰もが能力を活かした働き方をできるようになります。
6.まとめ
様々な価値観を持った従業員が集まり、一人ひとりの能力を最大限に引き出せる環境が整っているかが企業の成長の鍵となります。メンバーの多様性が高まれば、当然、効果的なチームとなるまでの衝突も大きいものとなるかもしれません。
一見、衝突は避けたい気もしますが、本記事で紹介した「タックマンモデル」の「混乱期」は、チームの成長を人の成長に例えるなら、「反抗期」に当たり、どちらも成長の過程で必要なものなのです。
本記事も参考に、チームの状況に合わせた最適な「チームビルディング」を実践してください。
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