リフレクションとは? 意味・「ALACTモデル」による正しいやり方を解説
1.ジョン・デューイのリフレクション(反省的思考)
まず、リフレクションの理論背景のベースとして登場するのが、経験主義哲学(人間の全ての知識は我々の経験に由来する、とする哲学)の思想で知られるジョン・デューイです。
デューイは、アメリカを代表する哲学者であり、教育思想家です。生徒が受け身の姿勢で学ぶ伝統的教育を、個性の表現と育成を阻止するものだと強く批判し、進歩主義教育運動を展開しました。
デューイは「学習者個人の成長」と「よりよい社会をつくる」という社会との目的を達成するための教育は、経験によって基礎付けられなければならないという経験主義を提唱しました。
また、ただ単に行為を積み重ねることが経験ではなく、「何よりも重要なことは、持たれる経験の『質』にかかっている」と述べています。
又、経験の質を考えるにあたって、行った行為とその行為の結果の関係性を見出すために思考することの重要性を主張しています。
ここでいう思考のことをリフレクティブ・シンキング(反省的思考)と定義しており、リフレクションという考え方が登場しています。
リフレクティブ・シンキングには2つの代表的な原理が存在します。
①連続性
経験は連続したものであり、ある経験が、その後の経験に影響をおよぼし、その後の経験の質も変化するというものです。
②相互作用
正常な経験は、周囲の環境に代表される客観的条件と自己の変化という内的条件の相互作用によってなされるものということです。
つまり、環境と個人の内面が相互に影響し合い経験が形成されていきます。そのような個人の内面と環境をつなぐものこそが、「リフレクション」です。
この2つの原理は、互いに独立している訳ではなく2つセットとなっている経験こそ真の経験であるとデューイは説きます。こうしたデューイの考え方は、後に経験学習理論として発展していきます。
2.ドナルド・ショーンのリフレクション(省察)
日本でリフレクション議論を最初に喚起したといわれるドナルド・ショーンは、組織学習の研究者でクリス・アージリスとともに「ダブルループ学習」の提唱者としても有名です。
ショーンは、「専門的な知識を用いて問題解決を導くことができることが専門性であるという考え方(技術的合理性)」を追求すれば追求するほど、その専門性に特化してしまい、その想定を超えたことへの対応が難しくなるという問題点を指摘しました。
又、ショーンは、技術的合理性だけに偏らない、専門家(プロフェッショナル)と呼ばれる職種の人達を取り上げ、その特徴的な振る舞いを「行為の中の省察」と名付けました。
①行為の中の省察
ショーンは「行為の中の省察」を次のように述べています。
●既に確立している理論や技術のカテゴリーに頼らず、行為の中の省察を通して、独自の事例について新しい理論を構築する。(目的をめぐりあらかじめ意見が一致 している手段をどう用いるかを考察するにとどまらない。)
●手段と目的を分離せず、両者を問題状況に枠組みを与えるものとして相互的に捉える。考えることと行動とを分離せず、決断の方法を推論し、あとでその決断を行為へと変換する。(技術的合理性のもつ二分法の制約を受けない)
難しい表現ですので、簡単にお話しします。専門家が直面する課題は、科学的に証明されていることばかりではありません。
つまり技術的合理性だけでは解決できない場合、あらかじめ持っていた知識や身についた考え方に基づいて判断するのではなく、問題を自ら設定し、解決し、振り返る。このプロセスが「行為の中の省察」ということです。
具体的に教師を例にお話しします。
例えば、二人の教師が、あらかじめ設定された目標に対して、計画された手順で理想的な授業を行える同等の知識を持っていたとします。しかし、子供達の状況や、教室の環境、あるいは天気などによって、目標に対する結果は同じになることはまずありません。
教師は、教室における実践の場面で、子供たちの理解度や、子供達との関係性などを踏まえて、自分の行っている教え方について省察しながら実践を行っているのです。
つまり、この段階でのリフレクションは「状況を適切に読み取り」「自らどの引き出しを開けるかを決め」「行動に移す」ことと言い換えることが出来るかもしれません。
ただし、ショーンは「行為中の省察」だけでは、次第に方向性を見失い「問題の場当たり的な解決者」になる可能性も指摘し、「行為の後で行われる省察」の重要性についても指摘をしています。
次に、「行為の後で行われる省察」に関連する「ダブルループ学習」についてお話ししておきます。
②ダブルループ学習
過去の学習や成功体験を通して獲得した考え方や行動の枠組みのうえで問題解決を図る「シングルループ学習」に対して、「ダブルループ学習」とは、既存の枠組みや前提そのものを疑い、新しい考え方や行動の枠組みを取り込む学習プロセスのことです。
ダブルループ学習は、既存の枠組みや前提が変わる今日、本質的な問題を発見することや、大きな変化を生み出す力となります。
そのためには、一度体得した学習や成功体験をあえて排除し、新しい学習を得る「アンラーニング(学習棄却)」が必要となります。
能率よく仕事を片付けるには、ベテランの先輩を模倣することは手っ取り早い解決法です。さらに、模倣した解決法を自分自身でブラッシュアップさせると一層改善されることでしょう。
しかし、状況が大きく変化している際にはその解決法が通用しなくなるかもしれません。仕事の真の意味や特定のやり方をしている理由を自ら内省しながら考え、今のやり方が本当に正しいのかまで深いレベルで考えることが「ダブルループ学習」といえます。
3.コルブの経験学習のリフレクション(省察的観察)
アメリカの教育理論学者であるデイヴィット・コルブは、ジョン・デューイにより従来から提唱されていた学習理論を実務家にも使える経験学習モデルとして単純化し、その理論の普及に努めました。
コルブの経験学習モデルは、経験から人はどうやって学ぶのかを①具体的経験→②省察的観察→③抽象的概念化→④能動的実験→①具体的経験…という4つのプロセスをサイクル化し、繰り返すことによって、学びを獲得していくというものです。
コルブの提唱する「省察的観察」とは具体的経験の内容を多面的に振り返るリフレクションプロセスです。単に経験したことをそのまま取り入れるのではなく、大事なところだけを抽出して取り込みそれをまた次の経験に活かすという経験学習のプロセスにとって、リフレクションが重要な役割を果たすことをコルブは明らかにしました。
例えば、仕事でプロジェクトに関っている期間は、常に一つ一つの行為を振り返って『このアプローチで良かったか』『もっと良い方法はないか』と自問(「行為中の内省」)しながら作業する。
さらにプロジェクトが終わったあとで全体を振り返り(「行為についての内省」)、そこから得たものを次の仕事につなげる。その繰り返しが、さらなる成長をもたらすのです。
4.リフレクションのやり方
ここまで、リフレクションの定義や意義、そして学習プロセスによるリフレクションの果たす役割について見てきました。次にどのようにリフレクションを進めればよいかについてオランダの教育学者でリフレクション研究の第一人者であるコルトハーヘンの「ALACTモデル」を使って考えていきたいと思います。
(1)ALACTモデル
ALACTモデルは、行為が上手くいかなかった時や、行為と結果に違和感を覚えた場面などをもとに、その背景や意味などを掘り下げて考え、自分自身を深く見つめ、学びを促すリフレクションモデルです。それぞれの行為をその時の思いや気持ち等と照らし合わせ丁寧に見ていくことを重視しています。 教育学のモデルですから、リフレクションを相手に促す立場を「教育者(校長や教頭)」対峙する相手のことを「学習者(若手教師)」として表記しますが、それぞれを部長・新任課長と置き換えていただいても結構です。
まず、ALACTモデルを図示したもの見ていただきましょう。
コルトハーヘンは、学習者の理想的な行為と省察のプロセスを 次の5 つの局面に分けています。
第 1 局面 Action (行為)
第 2 局面 Looking Back on the Action (行為の振り返り)
第 3 局面 Awareness of Essential Aspects(本質的な諸相への気づき)
第 4 局面 Creating Alternative Methods of Action(行為の選択肢の拡大)
第 5 局面 Trial(試行)
これらの5つの局面の頭文字をとってALACT(アラクト)モデルと呼ばれています。
それでは各局面を詳細に見ていきましょう。
①第 1 局面 「行為」
具体的な経験を積み学びのニーズが生まれてくる局面です。「授業がうまくいかなのはどうしてだろう。ここはどうしてこうなったのだろう」と,学習者がどう考えたのか。背景や意味等を深く掘り下げていくきっかけとなる局面です。
②第 2 局面の「行為の振り返り」
第 3 局面とともに「内的方面に向かう局面」であり,起こった状況による深い省察を行うことが期待されています。
第2局面では、深い気付きを得るための「8 つの問い」(詳細後述)を「わたしは」または「相手は」を主語に行っていきます。
「何をしたか?(Do)」
「何を思った、考えたか?(Think)」
「何を感じたか?(Feel)」
「何をしたかったか?(Want)」
という質問によって自分の実践を振り返ることにより,自らの「思考の癖」を知り学習者のリフレクションを促すことができるとしています。
具体的な例でお話ししますと、ある課長は、部下に注意するという行為が上手くいかなかったと感じています。
「8つの問い」によって、この課長は、Do:「注意をしたかったがやめた」Think:「反発されるかもと考えた」Feel:「不安を感じた」Want:「課長としての威厳を見せたかった」と分析でき、この課長は、「部下をうまく叱ることは、課長としての威厳を示すことにつながる」というのがこの課長の「思考の癖」といえます。
③第 3 局面の「本質的な諸相への気づき」
自分と相手の間あるいは自己の内面と行為との間にある不一致や悪循環に向き合い、そこから見出された「違和感の背景にあった物事の本質」「そこにあった大切なこと」など深く探っていきます。
「反発されるかもと考えた」「不安を感じた」をさらに深くリフレクションすることで、「部下との信頼関係に不安があった」や「自分の考えを部下にぶつけることに迷いがあった」などといった、行為の本質に浮き彫りにしていきます。
コルトハーヘンは,この局面で学習者に自己の経験に向き合わせるには,教育者の受容と共感,誠実さが大切であると指摘しています。
④第 4 局面の「行為の選択肢の拡大」
第 3 局面の本質的な気づきを得ることで,もやもやしていたものが印象深い豊かな学びに変容していき,とてもすっきりした気持ちになり、次回はこうしてみたい,こうしてみようという思いをもつようになる段階です。
プラスの結果を予想しながら,アドバイスを自分のものとして受け入れ,改善していくことができるようになります。
「部下との信頼関係に不安があった」や「自分の考えを部下にぶつけることに迷いがあった」などといった、行為の本質が浮き彫りになったことで、「上司に必要なのは威厳より信頼関係である」と気づくことになり、次の行動に変化を与えるかもしれません。
⑤第 5 局面の「試行」
第 4 局面「行為の選択肢の拡大」から得られた知見をもとに,学習者が新たなアプローチを試みる段階です。
その試行が第 1 局面の「行為」となり,新たな ALACT モデルの循環が生まれていき、この循環を繰り返すことで,螺旋的にリフレクションの質も高まっていくのです。
リフレクションを促すことの最終的な目標は,学習者が ALACT モデルのサイクルを自主的にたどれるようになることです。
しかし、一人で何もかも解決することを指す必要はありません。上司や先輩のサポートを受け、客観的に自身の成長をとらえられることの方が、近道となるでしょう。
深いリフレクションとなるためには、第 3 局面において「違和感の背景にあった本質は何だったのだろう」と深く考え,話し合い,言葉にしていくことが特に重要です。
次に、先ほど少し触れました、第 2 局面の「行為の振り返り」から,第 3 局面の「本質的な諸相への気づき」をより促すため,コルトハーヘンが開発した「8 つの問い」について詳しく見ていきましょう。
(2)8つの問い
「8つの問い」は、経験から学ぶための5つの局面からなるALACTモデルを効果的にたどるための重要なツールです。
先ほどまでの例でいうと、「私」は教師・課長に当たり、「相手」は対象となる生徒や部下となります。
表の左側は私を視点とした問いに,右半分は対象者を視点とした問いになっているのが特徴です。自分の行為を振り返る時,どうしても私たちは自分の立場で考えがちですが、対象である「相手」の立場を加えてその両方から考えてみることで、双方のズレを明確にすることができるよう設計されているのです。
それでは、それぞれについて、見ていきましょう。それぞれの問いに空欄があり、埋めていくことをイメージしてください。
①何をしたのか
事実として行った行為を書き出します。「私」が思っている主観的な行為ですから、客観的事実ではないかもしれません。
つまり、主観的に「慰めた」行為であっても、相手が慰められたとは限らないということです。
まず、書き出しに当たっては、主観的な事実で構いません。「したこと」と後に書き出す「したかったこと」に違いがあることを意識していくことが重要です。
②何を考えたのか
行為の瞬間に、内面では何を考えていたと思い出されることを書き出します。意図や方向性といった大局的なものもあれば、瞬間的で局所的な課題や関心事かもしれません。
「落ち込んでいる部下がいては、課の士気にかかわる。」や「落ち込んでいる部下を見るに忍びない」といったものです。
③どう感じたのか
日本人に苦手な人が多いといわれていますが、行った行為や考えた時に、どのような感情を抱いていたかを書き出します。例えば、「落ち込んである部下を見るのは忍びない(と考えた)」であり、感じたことは、落ち込ませた原因に対する「怒り」かもしれませんし、部下と共有した「悲しみ」かもしれません。「考えたこと」と「感じたこと」を区別することが難しい場合には、大きく快・不快やポジティブ・ネガティブなど大きく2分して感情を言葉にすることに慣れていきましょう。「イライラ」「わくわく」「しんみり」などオノマトペを使って表してみることも一手です。
④何をしたかったのか
一見このステップは、「何を考えたのか」に立ち戻ってしまうのではないかと思えるかもしれませんが、もう一つ奥にある、本心レベルで、自分は何をどうしたかったのかを明らかにします。
核心に迫る問いですので、リフレクションにとっては非常に重要です。先ほどの例でいえば、慰める行為は、「課の業績を維持したい」となるかもしれません。
コルトハーヘンは、この作業によって、行為について、いかに感情が大きく起因しているかを思い知ることになると指摘しています。
「8つの問い」によって、感情が私たちの行為の選択を左右することに気づくと同時に、それがまた相手の反応や行為につながっていくサイクルに気づくことで、本質的な課題に迫っていけるのです。
それでは、記入した内容を見ていきましょう。「うまくいかなかった」「違和感を覚えた」場面において,これらの問いを活用することにより,その時の自分の感情や望みがどのようなものだったのか,相手はどのようなことを感じ,どのようなことを望んでいたのかということを重ね合わせていきます。
最初は、表の右側の対象者の欄が埋まらないことが多いでしょう。意外なほど、そういう場面では、相手のことを考えていないことに気づかされるかもしれません。
また、第 2 局面の「振り返り」において,この「8 つの問い」を自分に発しながら行為を振り返ることで、「うまくいかなかった」「違和感を覚えた」局面はどうしても「自分」を視点にした語りになっていることが多いことに気づき、相手を視点とした質問を考えていくことで,誰もが潜在的にもっている「思考の癖」を顕在化させ,払拭することにつながります。
そのことは、また、第3局面の「本質的な諸相への気づき」を促進してくれるはずです。
5.まとめ
「リフレクション」を理解し、実践することで、自分の内面を客観的・批判的に振り返ることが出来るようになり、あらゆる経験から学び、未来に活かしていくことが出来るようになります。
加えて、学んだことを手放すアンラーンにもつながり、現状維持では後退となってしまいかねない変化の激しい現代に求められる、一人ひとりが能力を発揮し続けるための習慣ともいえます。
一人で行うことは、慣れるまでは難しいかもしれませんが、周りの先輩や上司にも協力してもらい、リフレクションの営みを組織全体に広げていっていただけたらと思います。
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