Netpress 第2481号 令和8年1月1日施行 改正下請法が実務に与える影響

1.適用範囲の基準について、新たに従業員数に基づく基準が加わります。
2.支払手段について、手形での支払いが一律禁止となります。
3.適用対象の取引について、新たに「特定運送委託」が追加されます。
1.はじめに
下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」といいます)を改正する法律案が、令和7年5月16日、国会で可決され成立し、令和8年1月1日に施行予定です。本稿では、紙幅の都合上、実務への影響が大きいと考えられる以下の改正内容を中心に簡潔に解説します。
・従業員数に基づく基準の追加 |
・手形支払い等の禁止 |
・「特定運送委託」を適用対象に追加 |
・「金型以外の型等の製造委託」を適用対象に追加 |
・協議を適切に行わずに価格を一方的に決定することの禁止 |
なお、下請法の実務対応においては、公正取引委員会が公表している「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(以下、「運用基準」といいます)も参照していただくことが重要です。
本稿執筆時点においては、今回の改正内容を反映させた運用基準は公表されていませんが、公表されましたら、こちらも併せて確認してください(改正案は公表されています)。
なお、下請法は、今回の改正により法律の名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:中小受託取引適正化法)へ変更されましたので、本稿では改正後の法律を「取適法」と記載します。
2.従業員数に基づく基準の追加
現行の下請法においては、親事業者と下請事業者の資本金額によって、その適用範囲を定めています。
たとえば、製造委託を例にすると、資本金3億円超の親事業者が資本金3億円以下の下請事業者に委託する場合や、資本金1,000万円超かつ3億円以下の親事業者が資本金1,000万円以下の下請事業者に委託する場合には、下請法が適用されます。
取適法では、資本金額による基準は維持したまま、新たに従業員数に基づく基準を追加し、適用範囲を拡大しています。
再度、製造委託を例にすると、仮に資本金の基準を満たさなくとも、従業員数300人超の委託事業者(親事業者)が従業員数300人以下の中小受託事業者(下請事業者)に対して製造委託を行えば、取適法の適用を受けることになります。
3.手形支払い等の禁止
現行の下請法においては、手形サイトが60日を超える手形払いは禁止されていたものの、手形を支払手段とすること自体は禁止されていません。
しかし、取適法においては、手形サイトに関係なく手形を支払手段とすることが一律禁止となりました。また、電子記録債権やファクタリング等についても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)と引き換えることが困難であるものについては禁止されています。
4.「特定運送委託」を適用対象に追加
下請法の適用対象である「役務提供委託」とは、ある事業者が顧客に対し役務を提供する場合に、その役務の全部または一部を他の事業者に委託すること(つまり再委託すること)を指し、いわゆる自家使用役務(委託事業者が専ら自ら用いる役務)を委託することは対象外とされています。
たとえば、ホテルを運営している者が、リネンサプライ業者に対し、ホテル内のベッドメイキングを委託しても、自家使用役務の委託に該当し下請法の適用がないことがわかりやすいかと思います。
今回の改正では、自家使用役務の委託のうち、メーカーや卸売事業者等が、荷主として、運送事業者に対し、自社で製造・販売する製品等を顧客へ運送するよう委託する場合には、取適法が適用されることになりました(「特定運送委託」)。
運送事業者は荷主と比べ立場が弱く、長時間の荷待ちや契約にない荷役を無償で行わせるなど不当な取引慣行が多発していることから、今回の改正によって運送事業者の保護を図っています。
5. 「金型以外の型等の製造委託」を適用対象に追加
現行の下請法においては、メーカー等が自社製品を製造するために用いる「金型」の製造を委託することは、下請法の適用対象とされているものの、それ以外の型を製造委託する場合は適用対象とされていません。
取適法では、金型以外の型(木型等)や治具等の製造の委託についても、適用対象となりました。
6. 協議を適切に行わずに価格を一方的に決定することの禁止
取適法では、中小受託事業者(下請事業者)が取引価格に関する協議を求めたにもかかわらず、委託事業者(親事業者)が当該協議に応じないこと、または、当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず、一方的に取引価格を決定することにより、中小受託事業者の利益を不当に害する行為が、新たに禁止行為の類型に追加されました。
もっとも、現行の運用基準においても、「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」は、いわゆる「買いたたき」に該当するおそれがあるとされています。
このため、現行の運用基準を遵守している事業者にとっては、今回の改正が与える影響はそれほど大きくないといえます。
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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