Netpress 第2427号 給与、賞与、退職金など 育児休業中の社員の処遇をどうするのか?

Point
1.育児休業中の給与は法律上、支払う義務はありませんが、要件を満たせば雇用保険から育児休業給付金が支給されます。
2.育児休業中の社会保険料は会社、労働者とも免除となりますが、法改正により2022年10月から免除要件が変更されています。
3.育児・介護休業法では、育児休業の申出または取得を理由とした労働者への不利益取り扱いを禁止しており、賞与等の支給では休業期間を超えた減額をしてはなりません。


社会保険労務士法人HRМ
特定社会保険労務士
栗原 幹男


1.給与、賞与、退職金

(1) 給与

 育児休業(出生時育児休業を含む、以下同じ)期間中の給与については、年次有給休暇とは異なり、法律上、支払いを義務づけられていません。

 法律上の支払い義務はないため、休業期間中の給与を有給、無給とするかは就業規則、労働契約等の定めによることとなります。

 また、雇用保険からは、加入期間等の要件を満たせば育児休業給付金が支給されることからも、育児休業中の給与は無給と定めているケースが一般的です。

 有給とする場合も、給与額によっては育児休業給付金の支給額が減額されるため、給付金の支給を考慮して給与額を決定するのがよいでしょう。


【育児休業中の賃金支給額と育児休業給付金支給額との関係】

育児休業中の賃金額育児休業給付金の支給額
休業開始時賃金月額(※)の13%以下
(育児休業開始181日目以降30%)
休業開始時賃金日額(※)×支給日数×67%
(育児休業開始181日目以降50%)
休業開始時賃金月額の13%(育児休業開始181日目以降30%)超~80%未満休業開始時賃金日額×支給日数×80%−賃金額
休業開始時賃金月額の80%以上不支給

※休業開始時賃金月額(日額)は、原則として休業開始前6か月の賃金額より決定


(2) 賞与、退職金

 「賞与支給日に育児休業中である者には賞与を支給しない」「賞与算定期間中の出勤率〇〇%以下の者には賞与を支給しない」と定めることは問題ないでしょうか。

 育児・介護休業法第10条では、育児休業の申出または取得を理由とした労働者への不利益取り扱いを禁止しています。指針(第2の11(2))(後述の「3.不利益的取り扱いを参照)では、「減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと」を不利益な取り扱いとなる行為に該当するとしています。

 賞与の計算にあたり算定期間中の出勤率を設けているケースにおいて、育児休業をした期間を日割りで算定期間から控除することは問題ありませんが、育児休業期間を超えて働かなかったものとして取り扱い、減額または全額不支給とすることは不利益取り扱いに該当するでしょう。

 退職金の計算にあたって勤続年数を計算要素としている場合に、育児休業期間を超えて勤続年数から控除することも不利益的取り扱いに該当します。

 また、他の休職事由と比較して、合理的な理由がなく不公平な取り扱いとなっていないかも留意する必要があります。



2.育児休業中の社会保険料免除

 社会保険加入者について育児休業取得の申出手続を行い、要件を満たした場合は、給与、賞与に関する会社負担と本人負担の社会保険料が免除されます。


 法改正により、2022年10月以降の育児休業中の社会保険料の免除要件は以下のとおりです。


●毎月の報酬にかかる保険料免除……以下いずれかの場合に当該月の保険料を免除

 ① 月末時点で育児休業している場合

 ② 同月内に開始、終了した14日以上の育児休業をした場合(法改正により追加)


●賞与にかかる保険料免除……賞与支給月の末日を含んだ連続した1か月を超える育児休業をした場合

 ※法改正前は、賞与も月末時点で育児休業をしていれば免除対象だったが、改正後は免除対象者が縮小


3. 不利益的取り扱い

 育児・介護休業法では育児休業の申出をし、または育児休業をしたことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いを禁止しています。

 前述の賞与、退職金での行為を含め、指針では以下の行為を不利益な取り扱いとして掲げています。


解雇すること
期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと

あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること

退職または正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと

自宅待機を命ずること

労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限または所定労働時間の短縮措置等を適用すること

降格させること

減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと

昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと

不利益な配置の変更を行うこと

就業環境を害すること


◎協力/日本実業出版社
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