2002年ヒット商品番付 一つずつ夢を実現することが不況脱出の近道

今年2002年は、前半には景気回復の兆しが見られたものの、その後、アメリカの景気回復の遅れや日本国内の構造改革の遅れなどから、後半には株価も大幅に下落し、本格的な景気回復の足音が遠のいてしまった。このような経済環境のなかで個人消費も盛り上がりを欠き、大型のヒット商品が少ない一年となった。しかし、それぞれは小粒ながらも、今年の番付にはなにか昨年までと違うものが感じられる。それは「夢」ではないだろうか。「こんなものがあればいいのに…」という消費者一人ひとりの「夢」を実現する商品が目立ち始めた。日本から2名のノーベル賞受賞者が選ばれた今年2002年の番付は、5年ぶりに、横綱以下のすべてが勢ぞろいとなった。

「物語の夢」と「実現した夢」

みごと東の横綱に輝いたのは本・映画・DVDすべてにわたって今年の話題を総ざらいにした『ハリー・ポッター』シリーズである。まず5月15日に、昨年大ヒットとなった映画版『ハリー・ポッターと賢者の石』(シリーズ第一作)のDVDが発売され、DVDソフトとしては初めて百万枚の大台を突破した。そして10月23日には、シリーズ第四作の日本語訳『ハリー・ポッターと炎のゴブレット(上)・(下)』が発売された。発売当日に筆者が訪れた書店では、レジの前の行列の三人に一人はこの本を手にしていた。さらに、11月23日には、シリーズ第二作の映画化『ハリー・ポッターと秘密の部屋』が公開され、一年を通じて夢と冒険に満ちたファンタジーの世界が日本中を明るくした。


一方、西の横綱に輝いたのは、実現した夢である。日韓共催の「FIFAワールドカップ」は、日韓両国だけなく、世界中を熱狂の渦に巻き込んだ。両国とも決勝トーナメントに進出し、韓国は三位決定戦まで駒を進めた。同じ感動を共有したことで両国民の距離が一気に縮まったのはもちろん、後述するDVDプレーヤーや薄型テレビの需要喚起など、経済的な波及効果も大きかった。


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ありそうでなかったことが現実に

東の大関にあがった「写メール」は、対応する端末が六百万台を突破し(J-フォンの発表から)、もはや一般名詞化した感すらある。従来我々が思い浮かべていたテレビ電話の実現には高速な次世代通信規格が必要であったが、画像を独自の圧縮技術で小さなファイルにしてメールで送るのならば、現在の通信速度でも十分可能である。動画も送れ、画像によるコミュニケーションが十分楽しめる。


西の大関にあがった「Suica」は、JR東日本が発行しているICカードである。パスケースなどに入れたまま自動改札機に触れるだけで改札を通過できる。昨年11月のサービス開始からわずか一年足らずで、利用者は500万人を突破した(JR東日本の発表から)。現在利用できるのは首都圏のJR各駅と東京モノレールだけだが、JR西日本、阪急電鉄、大阪地下鉄などが導入を表明しており、今後全国各地の鉄道に普及するとみられる。また、携帯電話へのICチップの組み込みや、交通機関以外の分野への応用など、さまざまな可能性を秘めている。


ほんの数年前まで、先進的な大企業を除けば、インターネットに接続するためには、いちいちアクセスポイントに電話をかけなければならなかった。その後ISDNが登場し常時接続が可能になったが、それでも通信速度は遅かった。ところがこの一年間にあっという間に普及したADSL(非対象デジタル加入者線)、あるいはケーブルテレビやマンション単位などでの光ファイバー設置など、めざましい勢いでブロードバンドの環境が整った。


ブロードバンドと同じように、今年一気に普及して便利になったものといえば、コンビニATMがあげられる。店舗数が圧倒的に多いうえに、複数の銀行のキャッシュカードがほぼ24時間利用できる。


出張が多いビジネスマンにとっては、乗車券・航空券・ホテル等の予約がインターネットでできるネット予約は、一度利用するとその便利さが分かる。料金の割引など、ネット予約だけの特典がつくものもある。


夏になると、わきの下の匂いが気になるのは女性に限らない。「Ag+(エージープラス)」は、銀イオンが持つ殺菌効果を生かした新しいタイプのデオドラントスプレーである。パッケージも銀色一色で統一、従来のデオドラント製品と違って、購入者の二~三割が男性というのも大きな特徴である。


インターネットを利用していると、英語読解力のなさを嘆くことが多い。翻訳ソフト「コリャ英和!」シリーズは、当初はプロの翻訳家向けソフトとして開発されたもので、翻訳精度が高いと評判である。

そろそろ世代交代の時期に

テレビのブラウン管は、漏斗型をした真空管である。どんなに薄くしようとしても限界があるが、液晶やプラズマ・ディスプレー・パネル(PDP)の技術が発達し、薄型テレビが可能になった。画質的にも価格的にも、そろそろ従来のテレビとの世代交代が起きようとしている。冒頭で述べたFIFAワールドカップも、薄型テレビへの買い替えのきっかけとなった。


テレビ番組などの録画・再生といえば長年VHS方式のVTRが主流を占めてきた。ところが昨年あたりから録画・再生の方法が多様化してきている。まず第一に、パソコンで使われているのと同じハードディスク(HDD)の活用である。いったんHDDに記憶した後で、VHSに保存したり、あるいは新しい記憶媒体であるDVD-RAMやDVD-RWに保存するなど、まさにハイブリッド・ビデオ・レコーダーと呼べる機能を備えてきている。


ソニーのウォークマンが登場した当時、録音はアナログ方式で記憶媒体はカセットテープだった。ところが録音のデジタル化が進み、記憶媒体もMDが中心となった。そして現在、三度目の変化が起こっている。MP3に代表される圧縮技術と記憶媒体の多様化(メモリー、CD-R、HDDなど)によって、携帯プレーヤーも世代交代の時期に入っている。

競争か共創か

最近の“お茶飲料”戦争には、目を見張るものがある。伊藤園が初めて「缶入りウーロン茶」「缶入り緑茶」を開発して以来、健康ブームとも呼応して「無糖飲料マーケット」は急速に拡大していったが、多くの企業が参入して激戦区となった。今年の特徴は、中国緑茶をベースにした商品が多数登場したこと、加熱できるペットボトル入りのものが人気を博したことなどである。


また、“お茶飲料”戦争の陰で、静かに売上を伸ばした機能性飲料もある。アミノ酸を手軽に補給できる点が評価された「アミノサプリ」である。


“お茶飲料”以外の激戦区に、“玩具菓子”戦争がある。もともとこの分野を牽引してきたのは、フルタ製菓の「チョコエッグ」だった。タマゴ型のチョコレートの中に動物のフィギュアが入っていて、その精巧さに愛好家が多かったが、9月からはタカラが「チョコQ」を発売した。その一方、グリコは、キャラメルに「鉄人28号」や50年代の乗用車などのフィギュアのおまけを付けた「タイムスリップグリコ<なつかしの20世紀>」を発売した。


競争が激化する分野がある一方、共創で効果を上げているコラボレーション企画商品もある。たとえば、家庭用品製造の白元とエステティックサロン「TBC」を展開するコミーとの共同開発商品「シェイプTBC ボディスタイリングシート」。ロッテとたかの友梨ビューティクリニックとの提携による菓子類「エステな生活」などがある。

本来の実力が認められた商品

従来、食器洗い乾燥機に対して「ほんとうに汚れがきれいに落ちるのか」という疑問を持つ人が多かったが、最新の食器洗い乾燥機は手で洗うよりもずっときれいに洗えることが、多くの消費者に認識されるようになり、売上が急増している。


苦戦を続ける出版業界では、今年は日本語に関する本が多数出版されベストセラー上位に入った。『声に出して読みたい日本語』『日本語を反省してみませんか』『日本語の教室』……、検索すると無数に出てくる。その一方で、ロングセラーとなっているのが、『ベラベラブック Vol.1』である。SMAP香取慎吾が出演する番組「SmaSTATION!!」の中でオンエアされたフレーズが掲載された英会話テキストである。最後に、今年大きな夢を叶えた人として、『ワダツミの木』を大ヒットさせた元ちとせをあげたい。

消費者主導の商品づくりが始まる

過去のヒット商品番付(別紙)を一覧して気づくことがある。まとめてみると、


  1. ある年に番付の上位にランクされながら、翌年には、まったく忘れ去られてしまった商品が非常に多いこと。エンターテインメントやイベント関係ではある程度やむをえないが、ハードウエア的な設備投資等を伴う製品の場合、企業業績への影響も大きいと思われる。
  2. この10年間のヒット商品を牽引してきたものは明らかにIT関連商品であり、その横綱は携帯電話であった。しかし、携帯電話もパソコンも、すでに飽和状態に近づいてきていて、性能的にも限界に近づいている。明らかに次の10年を牽引するものは別の何かであること。
  3. インターネットの発達がもたらした最大のインパクトは、ある分野の生半可なプロよりもずっと高度な知識をもったアマチュアの出現である。そしてその高度な情報は(企業にとっていい情報である場合も、悪い情報である場合も)またたく間にネット上を広がっていくこと。
  4. 今年2002年の番付を見て改めて感じたことは、ヒット商品は企業が作るものではなく、消費者が作り出すものであるということ。消費者の「夢」をうまく聞き取って、それを形にできた企業が、ヒット商品を生み出すチャンスを得ること。
  5. IT技術の発達によって、消費者の「夢」を聞き出す方法が増えた今こそ、企業はもっともっとその点に力を注ぐべきであること。
  6. 消費者は、地球規模で世の中の「持続可能性」を真剣に心配し始めていること。企業はこの視点をもっと重視すべきであること。
  7. 個人の「夢」の実現なくして、景気回復はないこと。


21世紀に入って2年目が過ぎようとしているが、個人消費の枠組みが大きく変わりつつあることを強く感じる。


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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。


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