1999年ヒット商品番付 21世紀型ニューカテゴリー商品の「胎動」

99年は、景気がようやく上向きに転じたものの、リストラや公的負担の増大などからくる先々の不安感のため、個人消費は総じて盛り上がりを欠いた。このため、もう一息で横綱というヒット商品はあったものの、マーケット全体の低調さに引きずられて横綱昇進が見送られ、昨年に続いて横綱不在の年となった。

ただその一方で、21世紀を予感させる新しい特徴を持った商品の「胎動」がはっきりと感じられた1年でもあった。この「胎動」からやがて生まれてくる新しい商品は、既存の商品の性能を単に向上させただけではない全く次元の違う商品、言いかえれば「21世紀型ニューカテゴリー商品」だと予想される。

異次元の機能や性能

90年代を通してヒット商品番付の上位を占めてきた携帯電話では、今年はさらに新しい展開が見られた。「i-MODE」は、パソコンを介さずに、携帯電話からそのままインターネットを利用できる新サービスである。電子メールの受発信だけでなく、銀行預金の残高照会や振込、株式の売買注文、各種チケットの予約などさまざまなサービスが利用できる。サービス開始からわずか9か月で250万台を突破し、2000年3月には500万台に近づく勢いである。


「i-MODE」が利用方法の革新であるのに対して、通信方法そのものの革新によってヒットしたのが「cdmaOne」である。従来の通信方法は1つの基地局からの電波しか受信できなかったが、「cdmaOne」は同時に3つの電波を受信可能で、高速移動中でも通信が切れにくく高音質である。


男性用育毛剤の市場で次元の違う効果をアピールしたのが「リアップ」である。主要成分の「ミノキシジル」は、もともとは血管拡張作用のある血圧降下剤として開発されたが、開発中に多毛の症状が現れたことから発毛剤へ転換された。ただ、動悸などの副作用も報告されている。「健康エコナクッキングオイル」は、体脂肪として蓄積されにくいジアシルグリセロールを主成分とした食用油である。その効用が認められ、食用油としては初めて「特定保健用食品」に認可された。「ケアガーデン」も全く新しいアプローチで市場を開拓した。これは、加齢とともに皮膚から発生し体臭のもととなる「ノネナール」という成分を除去する生活改善商品である。


平成元年(1989年)からの番付を公開中!

その他の年のヒット商品番付はこちら

次世代を担うスーパールーキーたち

今年は驚くべき実力を見せつけるスーパールーキーの当たり年でもあった。大型ヒットが乏しかった今年のポップス界で、800万枚を超える記録的ヒットを放って1人勝ちの様相を見せたのが宇多田ヒカル『First Love』である。16歳とは思えぬ作詞・作曲能力と歌唱力を持ち、流ちょうな英語を使いこなす姿は、次世代の日本人像を強くイメージさせる。


野球界では、強打者にもストレートで真っ向から勝負しピンチにも動じない松坂大輔・上原浩治スーパールーキーが話題を独占した。また、日本中にさわやかな感動を呼び起こしたのは、先天性四肢切断というハンディにも関わらず明るく前向きに生きる乙武洋匡『五体不満足』である。


今年1年、とかく話題にのぼった「カリスマ」であるが、渋谷109を皮切りに急速に店舗を展開中の「EGOIST」では、「カリスマ店員」が顧客に新しいファッションを提案し、自らが店内でファッションショーを開いた。

価格・性能比は厳しく、やはり強い「優しさ」と「定番」

相変わらず消費を牽引するパソコン市場においては、最新鋭の高性能マシンよりも、平均的なユーザーにとって十分な性能を持つ10万円以下パソコンに人気が集まった。また、デジタルカメラ市場では、銀塩写真の画質にかなり近づいた200万画素デジタルカメラが好調である。パソコンもデジカメも、価格・性能比に対する要求はますます厳しくなっていくだろう。


不振の大型耐久消費財において一人気を吐いたのは、地球に優しいことを全面に押し出したリッターカーの「ヴィッツ」である。


娯楽関係では、音楽に合わせてステップを踏むゲーム機「ダンスダンスレボリューション」が若者たちの自己表現の場として発展し、ダンスパフォーマンスの全国大会も行われた。「ファービー」「たれぱんだ」『だんご3兄弟』に共通するのは「優しさ」である。また、『スターウォーズ・エピソード1』「ファイナルファンタジー8」は、「買って(見て)間違いはない」という「定番の強さ」を見せつけた。いずれも、不安な時代に対する人々の本音の気持ちかもしれない。不安と言えば、流行語にまでなったのが、『買ってはいけない』である。データの信憑性をめぐって論争が激化し、真っ向から反論する本も多数出版された。



今後の注目株としては、インターネット常時接続サービスDVDエコファンドLinuxをあげたい。特に、インターネット常時接続サービスは、これによってはじめて一般家庭にもインターネット本来の使い方が広まると言ってよい。インターネット家電の普及にも重要な意味を持っている。


より未来的な観点では、パソコンの基本ソフトLinuxの普及は、最も注目すべき出来事である。Linuxは世界中の技術者がボランティアで開発したソフトで、プログラムソースが公開されていて、誰でも無料で使うことができる。それは、貨幣を媒介としない新しい経済が生まれようとしている確かな「胎動」であり、高齢化に伴う介護や地球環境の保護などの問題に対しても新しい解決の糸口を示しているように思われる。


このように考えると、売上高や利益額を基準にする「ヒット商品」という概念自体を、もっとサステナブル(持続可能)な観点から見直さなくてはならない時期に来ているのかもしれない。


平成元年(1989年)からの番付を公開中!

その他の年のヒット商品番付はこちら


(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。

 

プロフィール

InfoLounge編集部

SMBCビジネスクラブ「InfoLounge(インフォラウンジ)」は、企業経営や人材育成、法務、労務などの領域で、実務に今すぐ役立つ情報をお届けするコミュニティサイトです。著名人へのインタビュー記事や注目企業への取材レポートのほか、実務支援コンテンツ、動画、セミナー・お役立ち資料など、盛りだくさんの内容で様々な情報をお届けします。

受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート

受付中

【15分動画】印紙税の基礎