Netpress 第2494号 企業の利益や行動にも影響 「のれん」の基礎知識と会計処理の見直しの行方
1.「のれん」の会計処理の在り方は、企業の利益を左右し、M&Aの意思決定や企業行動に影響を及ぼします。
2.ここでは、のれんに関する基礎知識と会計処理の見直しを巡る議論の行方と影響などについて解説します。
1.「のれん」とは
「のれん」とは、企業が他の企業を取得する際に支払う対価が、取得される企業の純資産の公正価値を上回る部分のことです。
たとえば、A社がX社を取得(吸収合併など)するケースで、X社の純資産の公正価値が350百万円、その取得原価が400百万円とすると、差額の50百万円がのれんです。のれんは、無形固定資産の区分に計上します。
A社がX社を取得するにあたり、X社の純資産の公正価値(350百万円)を上回る額を支払ったのは、合併によるシナジー効果や、X社のノウハウ、従業員のスキル、ブランド力などを考慮したためと考えられます。こうした無形の価値に対する支払いが、のれんの主な発生原因です。
ただし、被取得企業(上記の場合はX社)から商標権などの「分離して譲渡できる無形資産」を受け入れた場合は、のれんではなく商標権などとして、時価で識別します。
会計上の「のれん」という用語は、老舗店の「暖簾」を由来とします。「暖簾」は、その店の商号や伝統、信用といった目に見えない価値の総称として、古くから使われてきた言葉です。
そのため、会計上ののれんも同様に解されることが多いのですが、正確には、被取得企業から受け入れたもののうち、「分離して譲渡できる無形資産」は、のれんに含まれません。
2.日本基準とIFRSにおける会計処理
(1)日本基準における会計処理
のれんは、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり、定額法などにより償却します。償却額は販売費及び一般管理費として計上します。
また、のれんは償却したうえで、必要な場合に減損処理も行います。減損損失は、原則として特別損失とします。
(2) IFRSにおける会計処理
IFRS(国際財務報告基準)におけるのれんの処理は、日本基準と異なります。この違いが、のれんの会計処理の見直しを巡る議論の根底にあります。
IFRSでは、のれんは償却しません。ただし、のれんに減損の兆候があるか否かにかかわらず、毎年必ず減損テスト(帳簿価額と回収可能価額の比較)を行うことが求められます。
3.それぞれの会計処理の特徴
(1) 日本基準の処理の特徴
日本基準では、のれんの償却費が販売費及び一般管理費に計上されるため、各期の営業利益や当期利益は小さくなります。ただし、規則的に償却されることから、のれんについて多額の減損損失を計上する事態は比較的生じにくいといえます。
また、減損の検討に関してかかるコストは限定的です。
(2) IFRSの処理の特徴
IFRSでは、各期ののれんの償却費負担はありません。ただし、買収した会社が期待ほどの利益を出せなかったり、業績が悪化したりする見込みとなった場合には、一度に多額の減損損失を計上するリスクがあります。
また、厳格な減損テストを毎期実施するため、コスト負担が大きいことで知られます。
4.のれんの会計処理の見直しを求める提案
(1) のれんの償却費が及ぼす影響
日本基準を採用する企業では、M&A(合併・買収)を行った後、のれんの償却により各期の利益が圧迫されるのに対し、IFRSを採用する企業では、そのような影響は生じません。
そのため、IFRSを採用する企業のほうが、M&Aにおいて高めの買収価格を提示しやすく、日本基準を採用する企業は、国際的な買収競争において不利であると指摘されています。
また、日本基準を採用する企業では、のれんの償却費負担を懸念してM&Aを見送るケースもあるようです。のれんの償却費は販売費及び一般管理費とされることから、営業利益を押し下げます。業績評価指標として重視される営業利益が悪化すると、株式市場からネガティブな評価を受けやすいため、M&Aに踏み切りづらくなるのです。
(2)のれんの非償却を求める動き
こうした問題意識から、昨年の5月に経済同友会は、スタートアップ関連団体などとの連名で、企業会計基準委員会(ASBJ)の運営母体である財務会計基準機構(FASF)に対し、のれんの会計処理の見直しを求める提案書を提出しました。
その内容は次のとおりです。
① のれんの償却と非償却の選択制を提案する
② のれんの償却費の計上区分を営業外費用もしくは特別損失とすることを提案する(①よりも短期の措置として提案)
5. 見直しを巡る議論の見通し
ASBJは独立した民間の基準設定団体で、会計基準の開発は公正かつ透明なプロセスにより行うものとされています。提案書を受けたFASFは、ASBJに公聴会の実施を依頼し、公聴会が開催されています。
ただし、検討すべき事項は多岐にわたると考えられます。また、のれんの償却の考え方は、これまで日本公認会計士協会などから支持を受けてきました。
こうした状況を踏まえると、短期間で議論が直線的に進む可能性は、必ずしも高くないと推測されます。
のれんの会計処理の在り方は、企業の利益を左右し、M&Aに関する意思決定や企業行動に影響を及ぼします。したがって、その見直しによる影響は、会計処理や開示にとどまるものではないことを認識しておく必要があります。
もっとも、現時点では、見直しを巡る議論が最終的にどのような会計処理に帰結するかを予測することは困難です。
経理部門としては、議論の動向を継続的に把握しつつ、いかなる処理にも対応できる経理人材を長期的な視点で育成・確保することが重要です。
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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