役職定年制度について再考する


はじめに

 定年延長に取り組む企業が増えています。「民間企業の勤務条件制度調査(令和5年・人事院)」によると、定年制がある企業の割合は99.4%であり、そのうち75.7%が「60歳」、19.6%が「65歳」となっています(図表1)。また、定年制がある企業のうち「定年制の変更予定がある」と回答した企業の割合は14.7%であり、そのうち変更予定を「65歳」とする企業の割合が58.2%となっています(図表2)。

 定年延長を検討する際の重要な論点の一つとして、「役職者の就任年齢(あるいは就任期間)に上限を設けるか否か」という問題があります。いわゆる「役職定年制度」です。もし、役職定年制度を設けずに定年年齢を60歳から65歳に延長した場合、部長職がこれまでより5年長く就任し続けることになり、その結果、次世代の経営を担う人材が部長職に就任する機会が減るといった状況に陥る可能性があります。

 このように、定年延長において重要な役割を担う役職定年制度ですが、一方で廃止の動きも見られます。そこで今回は、「役職定年制度」について改めて考えてみたいと思います。


図表1.定年制の有無別、定年年齢別企業数割合    (%)


注:調査対象は、事務・技術関係職種の従業員がいる常勤の従業員数50人以上の企業

注:()内は定年制がある企業を100とした割合

資料:「令和5年民間給与実態調査」令和5年人事院


図表2.定年制の今後の変更予定別企業割合                  (%)


注:調査対象は、事務・技術関係職種の従業員がいる常勤の従業員数50人以上の企業

注:()内は変更予定がある企業を100とした割合

資料:「令和5年民間給与実態調査」令和5年人事院


1.役職定年制度とは

 「役職定年制度」とは、役職ごとに定年年齢を設け、その年齢に到達した際に役職を退任する制度です。

 高年齢者雇用安定法において、1986年に「60歳定年の努力義務化」が行われ、1994年には「60歳未満での定年」が禁止されました。これにより、それまで55歳が一般的であった定年年齢が60歳に延長され、多くの企業において「役職定年制度」が導入されました。

 労務行政研究所の調査(資料:人事労務管理諸制度の実施率/第3488/01.4.20)によると、2001年当時に「管理職定年制・離脱制度」(いわゆる役職定年制)を導入している企業は39.8%であり、従業員規模3,000人以上の企業では58.6%が導入していました。

 そして、人事院による「令和5年民間給与実態調査」によると、「役職定年制度」を導入している企業の割合は16.7%(令和5年)へと減少しています。


2.役職定年制度の導入目的と問題

 「役職定年制度」は、1990年代の定年を55歳から60歳に延長するにあたり「人件費の削減」「ポスト不足の解消」「ポストの固定化打破と組織活性化」を目的として導入されました。

 このように、定年延長に伴う課題への対応策として有効な役職定年制度ですが、一方で「対象者のモチベーション低下」という問題を抱えています。その主な理由として、「仕事(役割)の変化」 「金銭的報酬の低下」 「役職(肩書)の喪失」 「周囲との関係性の再構築の難しさ」があります。報道では「金銭的報酬の低下」が取り上げられがちですが、制度を導入する企業においては、これら各要素への対応が求められます。

 

3.役職を取り巻く状況

 一方で管理職を取り巻く環境も変化しています。企業としては優秀人材を計画的に登用する必要があるため、むしろ管理職登用の早期化が進んでいます。また、日本企業はメンバーシップ型からジョブ型への移行が進んでおり、従来のように「役職ポストを増やして人を吸収する」運用が難しくなっています。これにより、役職定年制度の有無にかかわらず、役職者ポストの適正化は避けられない状況です。

 こうしたことから、定年を61歳以上に延長する企業では、役職定年制度の導入を検討する必要性が高まっています。そして、現在役職定年制度を運用している企業でも、役職定年の年齢を据え置くか、定年延長に合わせて引き上げるかといった見直しが不可欠となります。


4.役職定年制度に代わる対応

 役職定年制度の代替案として「ポストオフ制度」が議論されることがあります。これは、年齢や任期、人事評価、目標達成度、後任の成長度などを総合的に考慮し、役職を継続させるか、退任させるかを決める仕組みです。しかし、成果を出している管理職を、後進育成のためだけに降任させる判断は非常に難しく、本人の納得感も得にくいのが現状です。

 どの制度を採用しても降任者が一定数発生する以上、モチベーション低下という本質的な課題は避けられません。


5.重要なのは、役職定年後の職務役割と報酬

 最も重要なのは、「役職定年後の職務と処遇をどのように設計するか」という点です。従来は、定年後の管理職を一般社員と同様の業務に戻し、役職手当を外す代わりに基本給を維持する運用が多かったため、役割意識や貢献実感が薄れ、モチベーションが低下しがちでした。

 本来、役職定年対象者の多くは優秀な人材であり、その能力を適切に活かす仕組みが求められます。例えば、定年を65歳、役職定年を55歳とした場合、10年間の活用期間があります。中期的な重要プロジェクトや新規テーマに専任として配置すれば、大きな成果を期待できます。責任ある役割を明確に与えることで、処遇の大幅な低下を避けることもでき、本人の納得感も高まります。

 あわせて、人事評価の設計も重要です。役割に基づいた適切な目標を設定し、達成度を処遇に反映することで、役職定年後も責任感を持って働ける環境を整えることができます。


最後に

 役職定年制度は定年延長時代における重要テーマですが、鍵となるのは「役職定年者が優秀な人材であり、活用可能な期間が長い」という前提に立ち、企業としてゼロベースで活用方法を再設計することだといえます。この視点に基づき、企業は制度の再考と人材活用の最適化を進めていく必要があります。

 多田国際コンサルティング株式会社では、定年延長、定年再雇用といった高年齢者の活用に関する制度設計及び運用についてご支援しております。お気軽にご相談ください。


※本稿は、多田国際コンサルティング株式会社の同名コラムの要約版です。本編は、以下のサイトでご覧いただけます。

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多田国際コンサルティング株式会社 フェロー 佐伯克志

私たち多田国際コンサルティンググループは、多田国際コンサルティング株式会社と多田国際社会保険労務士法人で構成しております。

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