1998年ヒット商品番付 消費新時代幕開け前夜の「型破り商品」

戦後最悪の不況のなかで個人の消費マインドも著しく冷え込んでしまった98年は、当番付でも5年ぶりに横綱不在の年となった。そのような逆風にも負けず大きく売り上げを伸ばしたヒット商品の特徴をみると、「感動」「形」「中味」「売り方」などにおいて従来の常識や規格を打ち破った「型破り商品」が目だった。不況の暗いトンネルの向こうにある「消費新時代」の姿はまだはっきりと見えてこないが、今年ヒットした「型破り商品」のなかにその萌芽が感じられる。

「感動」が型破り

アカデミー賞を11部門受賞した映画『タイタニック』は、日本でも『もののけ姫』を上回る空前の興行成績を記録した。サントラCD、ビデオ、海底からの引き上げ品の展示会、最後のメニューを再現したディナーなど、関連する幅広い分野で大きな経済効果をあげた。映画のみどころは、原寸大のタイタニックをプールに浮かべて撮影した沈没シーンの圧倒的な臨場感。まさに型破りな感動が、映画史上最大のヒットを生んだといえる。


大魔神・佐々木投手をはじめとする選手全員の活躍で38年ぶりの優勝を果たした横浜ベイスターズ、夏の甲子園大会での激戦の末に春夏連覇を達成した横浜高校、今年の横浜は型破りな感動に包まれ、百貨店・外食店・ホテルなどの売り上げにおいて顕著な経済効果があった。


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「形」が型破り

ノート型パソコンは持ち歩くには重すぎるという不満を型破りな薄さで解決した「VAIOノート505」は、これに追随する他社商品が多数現れ「薄型B5銀パソ」という新しいカテゴリーを生んだ。また、「iMac」は、丸型スケルトンボディのかわいさと高性能なスペックに対比した値ごろ感が、アップルコンピュータ起死回生の大ヒットを生んだ。


女性ファッションでは、本来は下着であったキャミソールがアウターに変身し、見ていて心配なほど背が高い厚底サンダルも街中にあふれた。「アサヒスーパードライ スタイニー」は、瓶の形自体はリバイバルながら、リターナブル性と値ごろ感を消費者に強くアピールした。

「中身」が型破り

麦芽比率を25%未満に抑えて税制上のメリットを得ていた発泡酒の市場では、大麦のうまみを生かした「麒麟淡麗(生)」が、ただ安いだけではないことをアピールして大ヒットとなった。急成長のデジカメ市場では、「ファインピックス700」が150万画素の高画質と実売価格7万5000円程度という値ごろ感から競合製品を引き離した。


また、イタリアセリエAのペルージャに移籍した中田英寿は、無愛想で周りの雑音を気にしない生き方が若者の共感を呼んでCMなどにも多数登場、存在感を示している。


規格の改正で一回り大きくなった新規格軽自動車は、不振を続ける普通車を尻目に好調な売り上げを記録。省エネという時代の要請とともに、衝突時の安全性が従来の軽自動車と一味違うところが好調の要因だという。

「売り方」が型破り

半額という型破りな価格設定でファーストフード市場を席巻したのは半額マックバーガー。コスト積み上げによる売り手本位の価格設定に一石を投じる結果になった。音楽界では、B'zベストアルバムが「ベストアルバムはそれほど売れない」という定説を覆した。しかも最初に出たアルバムの選曲が不満だったファンに投票してもらって2枚目のアルバムを出すという方法も型破り。


イトーヨーカ堂を皮切りに、大手スーパーが全国規模で消費税還元セールを実施。期間中は顕著な需要喚起効果がみられた。市外通話と違ってずっとNTTの独占が続いてきた市内通話の市場に3分間9円の通話料で殴り込みをかけたのが「東京電話」。懐かしい寺内貫太郎一家のCMも効果をあげて加入者数を伸ばした。また、従来高額商品が当たり前だった美容液市場では、4000円程度の美白化粧品が若い女性を中心に人気を呼んだ。


それ以外には、透明でさっぱりとした味のニアウォーター飲料が昨年に引き続き好調で、赤ワインに含まれる健康によい成分を前面に打ち出したポリフェノール入り食品も注目を集めた。また、95年に大フィーバーを巻き起こしたWindows95の最新バージョン「Windows98」は、「95」とあまり変わらないという声もあったが、さすがに貫禄を示してパソコンの売り上げ増にも大きく寄与した。

「消費新時代」を読む

未曾有の不況を打開すべく、従来の常識や規格を打ち破る「型破り商品」が多数発売されたが、それから先の方向性はまだまだはっきりと見えてこないのが実情である。


ただ、大量生産・大量消費時代の最後の残り火が燃えつきようとしているなかで、すべての市場がニッチ化し、かつてのような大ヒット商品が生まれにくくなりつつあることだけは間違いないようだ。そして今後は、自然との共生が可能な商品、持続可能性を持った循環型商品、等身大でコンパクトな商品、個人の知的創造性を高める商品、高齢化などの社会的問題を解決する商品がより強く求められるようになるのではないだろうか。


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(注)本番付は、大相撲の番付の形式を採用しているため「東」と「西」に分かれていますが、選ばれた商品と地理的な東西の関係は一切ありません。対象は、個別の商品に留まらず、一定のカテゴリーの商品群や人物・社会現象等を含みます。また、番付の順位は、出荷台数、売上高等の実績だけでなく、マーケットに与えた意義やインパクト、今後の成長性等を総合的に判断し、決定したものです。


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