Netpress 第1943号 否認、追徴課税に注意! 役員が社有車を個人的に使用する際の取り扱い

Point
1.同族会社においては、社有車(法人名義の車両)を、役員(役員の親族等を含みます)が個人的に使用している、使用せざるを得ない、という状況が往々にしてあります。
2.ここでは、私用による税務上のトラブルを防ぐため、どのように対応・処理すればよいかをみていきます。


税理士 杉田 卓也


社有車は、会社の業務のために利用されるべきものですから、役員による個人的な使用は、税務上の問題が懸念されます。最悪の場合、その車両に係る減価償却費が否認されるとともに、役員の認定賞与となって追徴課税される恐れもあるでしょう。

そこで、役員が社有車を個人的に使用する際の事前対策と税務上の注意点を紹介します。

1.役員から利用料を徴収して私用を認める

社有車が100%社用車としての実態を備えている場合、特段の注意点はありません。法人名義で車を購入し、法定耐用年数(普通自動車であれば6年)にわたって減価償却費を計上することで、法人の課税所得を圧縮します。中古車であれば、簡便法によって中古資産の耐用年数を計算します。

次に、社有車を役員がプライベートでも使用しているケースはどうでしょうか。同族(オーナー)会社であれば、そういった状況は往々にしてあり得ます。

この場合には、社有車の利用規程(ルール)を作成したうえで、次のように取り扱って一定程度(頻度)の私用を認めるという方法が考えられます。


(1) 私用1日につき、○○円を利用料として会社に支払う

(2) 1か月当たり、毎月○○円(定額)を利用料として会社に支払う


では、実際の利用料(料率)は、どのように決定すればよいでしょうか。その利用料が常識から乖離していなければ認められると思われますが、実務的にその常識を数値化するのは困難です。また、当然ながら、税法条文には明確な金額基準は記されていません。

そこで参考になるのが、国税不服審判所における過去の採決事例(平成24年11月1日裁決)です。

採決事例の詳細は国税不服審判所のホームページ(http://www.kfs.go.jp/service/JP/89/12/index.html)で確認していただくとして、判断のポイントは次のとおりです。

当該事案において、国税不服審判所は、「役員(の妻)による社有車の無償専属使用は、役員に対する経済的利益の供与に該当する」としたうえで、その経済的利益の金額を、「車両の取得価額を法定耐用年数で除した金額のうち、その利用月数に応じて算出される金額 + 自動車保険料やローンに係る支払利息のうち、その利用月数に応じて算出される金額」と認定しました。

要するに、ざっくりといってしまえば、「(定額法による)減価償却費相当額の役員給与が支払われた」と捉えていることがわかります。

採決事例では語られていませんが、継続的な利益供与であるとともに、その額が毎月おおむね同額であるならば、法人税法34条の定期同額給与には該当するものと考えられます。その結果、源泉所得税の不納付加算税の納付は免れませんが、役員給与の損金不算入は回避できるでしょう。

2.「事前設計」の方法と留意点

上記を踏まえて、同じ問題が生じないように、どのように「事前設計」をしておけばよいでしょうか。
たとえば、500万円の車両(法定耐用年数6年)を会社名義で購入したが、利用の実態は「会社業務70%:役員プライベート30%」である場合、法人税法上はどう処理するのが相当でしょうか。
なお、この例では便宜的に「会社業務70%:役員プライベート30%」という数値を設定しましたが、この数値自体も合理的な基準で区分けする必要があります。使用頻度や走行距離を記録するといった方法により、割合の合理性を説明できるようにしておくことが望ましいでしょう。

<処理方法A>

・500万円を会社資金で購入し、会社名義で車両登録する

・役員から会社へ毎月使用料を支払い、会社側で収益計上する

・月額使用料=500万円÷6年÷12か月×30%≒20,833円 → 約21,000円

・決算時、車両(500万円)に係る減価償却費を計上する


<処理方法B>

・500万円を会社資金で購入し、会社名義で車両登録する

・500万円の30%部分(150万円)を役員から会社へ支払い、車両簿価を同額減じる

・決算時、車両(500万円-150万円=350万円)に係る減価償却費を計上する


いずれの方法でも、法人の課税所得の圧縮効果は6年間でおおむね350万円です。しいていえば、車両は定率法で償却しますので、Aのほうがより早期に節税効果が得られることになります。

ちなみに、社有車の新規購入ではなく、もともと役員が所有していた車を会社業務でも使用することにした場合はどうでしょうか。次の2通りの処理方法が考えられます。

(1) 社長 → 会社へ「時価」で売却 → 決算時、減価償却費を計上

「時価」というのがポイントになります。中古車市場が存在しますので、インターネット検索などで時価水準を調べることができます。売却時点の簿価でもよいという見解もありますが、時価相場が乖離している場合には税務調査で否認されてしまう可能性があります。

また、名義に関しても、法人名義に変更するのが望ましいですが、保険料の関係で個人名義のままにしておきたいというケースが多々あります。名義の部分にどこまでこだわるのかは税務調査に臨場した調査官にもよりますが、もし名義変更をしないのであれば、最低限、売却に関する契約書は作成しておくべきです。

(2) 社長 → 会社へ「適正額」で賃貸 → 決算時、賃借料を計上

「適正額」とは、貸し手である役員サイドで所得税の課税が発生しない程度と考えられます。

つまり、車の所有者である役員側で算出される減価償却費相当額に、維持費を加味した水準で賃貸料を設定しておけば、役員に所得税の課税はなく、法人サイドで不相当に高額な賃借料と認定されるリスクもありません。



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