社員の睡眠不足が招く企業の損失に要注意![安全衛生委員会トピック推奨]
・社員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために、まず何からとりかかればよいか?
・メンタルヘルス不調者が休職を経て復職した後、再発しないようにするにはどうすればよいか?
上記2点については様々な切り口で解説が可能となりますが、今回はメンタルヘルス不調を語る上で外せない「睡眠」に焦点を絞って紐解きつつ、不眠が招く企業の損失とその対策について解説したいと思います。衛生委員会でのテーマや社員の方々への情報共有としてお使いください。
■睡眠不足=個人の問題 だけでは済まされない!
ひとが生きていく上で非常に重要な「睡眠」ですが、残念なことに現代を生きる私たちはまったく睡眠が足りていません。厚生労働省の調査では平均睡眠時間が6時間未満の方は男女ともに約4割もおり、更には睡眠の質に関しても問題を感じていない男女はわずか3割のみであり、大多数は睡眠に多様な問題を抱えていることが明らかになっています。

そして、こうした現状をそのままにしておくと、「単なる個人の健康問題」のみにとどまらず、企業にもダメージが広がります。
睡眠不足は日中の眠気や疲労・頭痛などの不調につながり、私たちの注意力や判断力を低下させ、身体疾患を悪化させたり精神障害の発症リスクを高めたりすることがあります。これらは企業内において、社員のパフォーマンス低下につながっていき、結果的にプレゼンティーズム※やアブセンティーズム※の問題となり健康管理コストをも圧迫させていきます。
※プレゼンティーズム(presenteeism)とは : 欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、
健康問題が理由で生産性が低下している状態
※アブセンティーズム(absenteeism) とは:健康問題による仕事の欠勤(病欠)

■メンタルヘルス不調を未然に防ぐのも、復職者の再発を予防するのも、ベースとなるのは睡眠ケア!
前述のようなダメージを最小限にするためには、睡眠ケアを社員個人に任せきりにせず、会社がしっかり睡眠施策に取り組み社員をリードしていくことが非常に重要です。どのように取り組むかは下記内容を参考にしましょう。

1. 社員に自分の睡眠の実態を知ってもらう
「あなたの睡眠について教えてください」と尋ねた際に具体的に答えられる社員はどれだけいるでしょうか。そう問われると、大まかな睡眠時間や昼寝の有無程度しか思い浮かばない社員も多いかもしれません。睡眠の改善に取り組むには、まず社員自身が「自分の睡眠」をしっかり把握できるよう記録をとることからはじめてもらう必要があります。記録にとることで可視化され、それにより客観的に自分の睡眠パターンを把握することができ、そのパターンに適した睡眠ケアを行うことが可能になります。記録用紙は下図を参考にしてみましょう。


記録をつけてもらうと、就寝時刻が遅い/土日の寝ている時間が長い/眠れないのに寝床の上で過ごしている時間が多い…など様々な特徴がみえてきます。社員が睡眠について専門的な相談を希望する場合には、この記録を1~2週間程度つけた上でその記録を持って専門家と話しができるよう主治医や産業医・カウンセラー等に繋げるとよりスムーズに相談可能となります。
2. 社員に「適切な睡眠の量」を知ってもらう
睡眠の量に関して気を付けておきたいポイントは社員の年代によっても異なってきます。65歳以上の場合は、長時間寝床の上で過ごすことが健康リスクになり得るため、睡眠時間は8時間以内に留めてもらうことが肝要です。20歳以上の場合は睡眠時間を6時間以上確保することをすすめましょう。しかし中には心身の回復に長時間の睡眠時間を必要とするロングスリーパータイプの方もいるため、そうした方は6時間を目安にしつつ睡眠休養感が得られる時間を確保してもらえるようにしましょう。
3. 社員に「睡眠の質を改善させる工夫」に取り組んでもらう
睡眠の質を改善させていくための具体的方法については(1)~(3)の項目を確認し、社員にとって馴染みのない取り組みがあった場合はこれから生活の中に少しずつ取り入れていってもらえるようすすめていきましょう。


いかがだったでしょうか。今回は「睡眠」に焦点をあてて不眠による損失とそれを防ぐための方策について言及しました。かつては「睡眠を削ってでも頑張る」という姿勢が美徳でもありましたが今はもう時代遅れとなりつつあり、これからは「睡眠を充分にとって頑張る」という姿勢がトレンドと言えます。とはいえ睡眠教育を社員に徹底するにしてもマンパワーが足りないという事情を抱える企業も多いかもしれません。
多田国際コンサルティング株式会社では、企業のメンタルヘルス支援に強い臨床心理士・公認心理師等のカウンセラーによるサービスを展開しているため、自社組織の睡眠施策の拡充や社内のメンタルヘルス支援体制強化をご希望の際にはぜひお気軽にご相談ください。
出典
- Li L, Wu C, Gan Y, Qu X, Lu Z. Insomnia and the risk of depression: a metaanalysis of prospective cohort studies. BMC Psychiatry. 2016;16(1):375
- 厚生労働省 令和元年 「国民健康・栄養調査」
- Resmed 「レズメド世界睡眠調査2025」
- 厚生労働省 「健康づくりのための睡眠ガイドリーフレット」
プロフィール

多田国際コンサルティング株式会社 臨床心理士・公認心理師 羽田野 瑛子
私たち多田国際コンサルティンググループは、多田国際コンサルティング株式会社と多田国際社会保険労務士法人で構成しております。
多田国際コンサルティング株式会社では、労務分野の豊富な知見をベースとした、専門性の高い人材・組織系のコンサルティングサービスにより、人事制度、人材育成、労務管理等はもちろん、 IPO、M&A、海外進出といった企業を取り巻く様々な課題の解決を通して、企業価値向上をサポートして参ります。






