Netpress 第2458号 証拠の収集、ヒアリングなど 業務上横領が発生したときに取るべき初動対応とは?

1.業務上横領とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領」することを指すとされています(刑法253条)。
2.ここでは、業務上横領の一般的な解釈を前提として、発生した場合の初動対応を中心に解説します。
1.業務上横領の類型
業務上横領は、企業規模の大小にかかわらず発生し得るものです。
特に中小企業では、会社の内部統制システムが適切に運用されておらず、経理や財務などのバックオフィス業務については、信頼関係を基に属人的な業務として、少人数で担っている場合も多いでしょう。このような会社においては、業務上横領などが発生する潜在的リスクが高くなります。
典型的な業務上横領の類型としては、以下のようなものが挙げられます。
① 経理担当者による資金の不正流用
② 従業員による物品の横領
③ 役職者による不正な経費精算
2.業務上横領が発生した場合の初動対応
会社内で業務上横領が発生した疑いがある場合、最終的な処分を含め、適切な対応を取るために、慎重かつ正確に状況を把握する必要があります。
調査の方法や順序は状況によってさまざまですが、以下では典型的な例を解説します。
(1) 客観的な証拠の収集・分析
調査をする際にまず行うべきことは、客観的な証拠の収集です。
ここでいう「客観的な証拠」とは、銀行口座の取引履歴や調査対象の従業員が作成した経費申請書などの「後から動かすことのできない証拠」のことを指します。
このような客観的な証拠をできる限り収集し、当該証拠のみで認められる事実を確認します。
初めにこれらの調査を行う理由はいくつかありますが、最も大事なことは証拠散逸の防止です。
収集すべき証拠のなかには、防犯カメラ映像など一定期間の経過で証拠自体が失われてしまうものもあります。このような証拠が消える前に、証拠の保全を行う必要があります。
また、客観的な証拠の収集と分析を適切に行うことで、後に調査対象の従業員にヒアリングをする際に、適切な追及ができる可能性が高まります。
さらに、客観的な証拠を収集する前に調査対象の従業員にヒアリングを行うと、犯人(調査対象者とは限りません)に証拠隠滅をする時間的猶予を与えることになりかねません。
実際に収集すべき客観的な証拠類について、一般的なものは次のとおりです。
- 会計記録や領収書
- 社内の電子メールやチャットログ
- 銀行の振込記録や帳簿
- 会社施設への入退館記録
- 監視カメラの映像
もちろん、客観的証拠のみから業務上横領に関するすべての事実が判明することはまれで、後の関係者に対するヒアリングも含めて判断する必要があります。
(2) ヒアリング
ヒアリングは客観的な証拠の収集・分析がある程度済んだ段階で、調査対象の従業員以外の関係者から始めるとよいでしょう。ヒアリングを行う際には、次のような点に注意が必要です。
① ヒアリング環境を適切なものにする
② なるべく誘導的な質問を避ける
③ ヒアリングした内容を証拠化する
①は、威圧的な雰囲気をなくし、中立的な立場でヒアリングを行うことで、ヒアリング対象者の供述の信用性を担保する意味があります。②も同様に供述の信用性に関わります。
③は後のトラブルを防止するためです。たとえば、その場で調査対象の従業員が横領を認めたため解雇したところ、後から解雇は無効だと争われたとします。ヒアリングで聴取した調査対象者の供述内容を正確に反映した証拠がなければ、その従業員が横領を認めていた事実を立証できなくなってしまいます。
(3) 供述内容の吟味と再調査
調査を経て得られた証拠と供述を検討し、必要に応じて再度ヒアリングをしたり、新たな証拠を収集したりします。
複数人のヒアリング結果が矛盾する場合、供述と客観的な証拠との整合性やほかの供述との一致、供述自体の合理性などから、どちらの証言がより信用できるかを吟味することも重要です。
3.実務上の留意点と対策
業務上横領の問題に直面した際、いくつかの実務上の留意点も考慮する必要があります。
(1) プライバシー・名誉毀損への配慮
横領行為が確認された場合でも、犯人のプライバシーや名誉を不当に侵害しないよう配慮することが重要です。
社内での告知や情報共有の際には、必要以上に情報を公開せず、関係者のみに事実を伝えるようにします。また、不確かな情報に基づいて第三者に事実を漏らすと、名誉毀損として訴えられる可能性があるため注意が必要です。
(2) 社内規程の整備
業務上横領の疑いが生じた際に、会社が当該事案について調査をしたり、最終的な処分を下したりする場合には、会社の就業規則等に根拠が求められます。実際に事案が発生してからでは対処できないため、あらかじめ就業規則等を確認し、必要に応じて内容を変更することも検討しましょう。
(3) 迅速かつ円満な解決
中小企業にとって望ましいのは、迅速かつ円満な解決です。長期にわたる訴訟や内部調査は、会社にとって大きな負担となり得ます。そのため、問題が発覚した際には、専門家のアドバイスを受けつつ、和解を成立させるなど早期解決を図ることが、経営にとって最も有益な手段となるでしょう。
また、横領行為が発生した際には、再発防止のための改善策を講じることも重要です。定期的な内部監査や業務プロセスの見直しを行うことで、信頼できる職場環境を構築し、再び同様の問題が発生しないよう努めましょう。
◎協力/日本実業出版社
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