Netpress 第2344号 マンション管理をめぐる動き 区分所有法の改正案と標準管理委託契約書の改訂

Point
1.区分所有建物の管理や再生の円滑化を図るために、集会の決議を行いやすくするための制度の創設など、区分所有法制の抜本的な見直しが検討されています。
2.マンション標準管理委託契約書が改訂され、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やマンション管理業に係る事業環境の変化、カスタマーハラスメントの問題を含む管理員等の担い手の確保・働き方改革に関する対応等について、規定が整備されました。


岡村綜合法律事務所
弁護士 三好 貴子


1.区分所有法制の見直しの背景

現在、老朽化したマンション(区分所有建物)が増えており、今後も急増していくと言われています。また、区分所有者の高齢化も相まって、相続等をきっかけに所在等が不明な区分所有者が増えていくほか、区分所有者が自ら居住しない非居住化も進行していくと言われています。


「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)では、区分所有建物の管理等について決議する集会において、所在等が不明な区分所有者は決議に反対したものと取り扱われることから、決議に必要な賛成を得ることが困難になっています。


建替え等の区分所有建物の再生については、意思決定の要件が厳格に定められていることから、さらに問題は深刻であり、今後、区分所有建物の管理不全化を招くとともに、老朽化した区分所有建物の再生が困難になることが危惧されています。


このように、区分所有建物の管理・再生の円滑化に向けて、区分所有法制の見直しを行うことは喫緊の課題となっています。

2.区分所有法改正の中間試案の主な内容等

(1)区分所有建物の管理の円滑化に向けた仕組み

区分所有建物の管理について決議する集会において、所在等が不明な区分所有者や、決議に参加せず賛否が不明な区分所有者がいると、円滑な決議が阻害されます。


そこで、集会の決議を行いやすくするために、次のような制度の創設が検討されています。



区分所有者が不明なとき、またはその所在が不明なときに、当該区分所有者(所在等不明区分所有者)以外の区分所有者や管理者または理事が、裁判所に所在等不明区分所有者およびその議決権を集会の決議の母数から除外することができる旨の裁判を請求できる制度

集会出席者の多数決による決議を可能とする制度


区分所有建物の管理の円滑化に向けた仕組みとして、ほかにも次のような制度等が検討されています。



所在等不明区分所有者の専有部分や、管理不全の専有部分・共用部分の管理に特化した新たな財産管理制度

共用部分の変更決議の多数決要件を緩和するための仕組み

規約の定めにより、専有部分の使用等を伴う共用部分の管理を集会の決議で決する制度

区分所有者が国外にいる場合における国内管理人の選任の制度


(2)区分所有建物の再生の円滑化に向けた仕組み

区分所有建物の建替えには、区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数による決議が必要とされていますが、この要件を満たすのは容易ではなく、必要な建替えが迅速に行えないという問題があります。


そこで、建替え決議を行いやすくするために、上記(1)①の制度に加えて、安全性に係る建築基準法への不適合等の一定の客観的事由と組み合わせて法定の多数決の割合を引き下げる案や、区分所有者全員の合意により多数決の割合を引き下げる案等、多数決の割合を緩和する制度が検討されています。


また、建替え決議がされた場合に賃借権の消滅を請求できる制度のほか、区分所有関係の解消・区分所有建物の再生のため、多数決による建物・敷地一括売却や建物の取壊し等の新たな制度の創設、すべての専有部分の形状等の変更を伴う共用部分の管理(いわゆる一棟リノベーション決議)に係る見直し等も検討されています。


(3)その他の主な検討内容と今後の見通し

中間試案では、団地の管理・再生や、被災した区分所有建物の再生の円滑化を図る方策についても検討されています。


中間試案に関するパブリックコメントの手続は2023年9月に終了し、2024年の通常国会での法案成立に向けて検討が進められています。

3.マンション標準管理委託契約書の改訂

マンション管理をめぐるその他の動きとして、マンション標準管理委託契約書が改訂されました。なかでも注目を集めているのが、カスタマーハラスメントへの対応に関する規定です。


マンション標準管理委託契約書においては、管理会社が中止を求めることができる行為として、組合員等による「管理事務の適正な遂行に著しく有害な行為」が挙げられていましたが、そこにカスタマーハラスメントに該当する行為を含む旨が明記されました。


また、管理会社が求めても中止されない場合には、管理組合が是正のために必要な措置を講じるよう努めなければならない旨も定められました。


このほかにも、以下のような規定等が整備されましたので、ご確認ください。



書面の電子化やWeb会議システムによる報告を可能とする規定

理事会や総会をWeb会議で開催する場合の機器の調達・設置等に関する業務範囲や費用負担の明確化に関する規定

管理員や清掃員の計画的な休暇、やむを得ず勤務できない場合の休暇、勤務時間外の対応の明確化に関する規定

居住者の高齢化や感染症のまん延等のマンション管理業の事業環境の変化への対応に関する規定



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