Netpress 第2080号 どうすればいい?テレワーク中の労務トラブルQ&A

■Point
1.労使ともにテレワークをうまく活用していきたいところですが、準備不足で開始したことや、慣れないなかでの運用によって、さまざまなトラブルも生じています。
2.テレワークならではの労務トラブルの防止・解決法や雇用管理のポイントをQ&Aでみていきます。


特定社会保険労務士・産業カウンセラー 須田 美貴


業務管理のために、カメラを常時ONにするよう求めることは、プライバシーの侵害になりますか。



   

テレワークでは、部下の仕事の様子がわかりにくいため、必要以上に業務報告を求めたり、カメラを常時ONにさせたりする上司もいるようです。


しかし、自宅でカメラを使用する場合は、プライバシーへの配慮が必要となります。カメラを常時ONにすれば、家族との会話や生活音なども聞こえてしまいます。また、室内の様子などに関する指摘がハラスメントになってしまうこともあり得ます。


会社が従業員を管理する際に、「監視する」という考え方でいると、労務トラブルが発生しやすくなります。業務の進行を管理するなら、チャットなどのツールを使うことでも事足りるはずです。また、上司への報告やミーティングが頻繁にあると、従業員が本来行うべき業務が滞ってしまい、結果的に生産性を低下させてしまいます。


テレワークで従業員の仕事ぶりを評価する際には、プロセスよりも結果を重視しましょう。そうすれば、従業員の仕事ぶりを監視する必要もなくなるはずです。



業務時間中に「中抜け」をする従業員をどのように管理すればよいですか。



   

テレワークでは、どうしてもプライベートな理由による中抜け時間(業務を一時中断する時間)が発生しやすくなります。


基本的に勤務時間に対して賃金が支払われるため、会社としては「働いている時間」をきちんと把握したいのは当然でしょう。しかし、ある程度の中抜けは許容して、従業員の自主性に任せたほうが生産性はかえって高まるものです。また、育児や介護などを理由とした従業員の退職を未然に防ぐことにもつながるので、会社にとってもメリットは大きいはずです。


もちろん、ショッピングやゲームといった行為は論外ですので、中抜け時間が長いとみられる従業員には、勤務状況を監視するのではなく、業務の進行を管理することで、生産性を下げないようにさせるとよいでしょう。


育児や介護などで、まとまった中抜け時間が必要な従業員がいる場合は、勤怠管理ソフトなどを使って、所定労働時間中に業務を中断できるようにしてもよいでしょう。


なお、従業員が中抜けを申請した場合に、その分終業時刻を繰り下げるといった始業・終業時刻の変更が行われる場合には、その旨を就業規則に記載する必要があります。


また、中抜け時間を休憩時間ではなく、時間単位の年次有給休暇として取り扱うことも可能です。この場合には、就業規則への記載と労使協定の締結が必要となります。



テレワークになってから長時間労働になりがちな従業員がいるようです。会社として、どのように対応すべきですか。



   

仕事とプライベートの境目が曖昧になることで、長時間労働をしてしまう従業員もいるようです。従業員の心身の健康を守るためにも、適切な労働時間の管理が重要になります。


勤怠管理ソフトなどを使って労働時間を把握し、長時間労働が顕著な従業員には、1日の働き方を確認して、業務の内容や進め方を見直すよう指導しましょう。


また、テレワークでは、自宅から会社のシステムにアクセスして業務を行うことがあります。深夜や休日には、基本的にシステムにアクセスできない設定にしておくことも、長時間労働の防止に有効です。


なお、労働者の健康確保のため、会社には、必要な健康診断とその結果等を受けた措置、長時間労働者に対する医師による面接指導とその結果等を受けた措置、ストレスチェックとその結果等を受けた措置を講じる労働安全衛生法上の義務があります。



テレワークによるメンタル不調に悩む従業員には、どう対応すればよいですか。



   

テレワークをある程度経験がある従業員に限定している会社もありますが、全員一律にしている会社では、特に新卒で入社した新入社員などがメンタル不調に陥るケースが多いようです。


この原因としては、近くに同僚や先輩がいないため気軽に質問や相談ができず、1人で悩みを抱え込みやすいことが考えられます。


オンライン会議などを使って、悩みを打ち明けられる環境を整える会社もありますが、実際に会っていない人に対して、カメラに向かって相談はしにくいものです。孤独感を抱える従業員も増えていますので、実際に会える場所を提供することも必要です。


しかし、定期的に集まることを強制することは望ましくありません。なかには、顔を合わせないことに働きやすさを感じている従業員もいるからです。絶対にこうしなければならない、という画一的な考え方ではなく、それぞれの従業員の性格等に合わせて、働きやすい環境を整える必要があります。


制度やセキュリティに関することなど、物理的、人的に解決できることは、運用しながら適宜改善をしていけば、大きな問題に発展することはそれほどありません。それよりも注意しておきたいのは、メンタルの問題です。


テレワークのおかげで、快適に仕事ができるようになったという人もいますが、テレワークでお互いが顔を合わせる機会が減ることで、従業員の体調不良や悩みに気づきにくくなる、見えにくいところでハラスメントなどが発生しやすくなるといった弊害もあります。


社内チャットなどでコミュニケーションをとる会社もありますが、文章だけでは誤解を招きやすいものです。テレワークによる労務トラブルは、直接会話をせずに、メールやチャットなどでのやりとりから始まっているケースも多くありますから、便利なツールに頼りすぎるのは問題です。従業員のメンタルに配慮したテレワークができれば、自然と業務の生産性も向上するでしょう。



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