Netpress 第2282号 令和5年度税制改正 電子帳簿保存法に新たな要件緩和措置を導入
1.令和5年度税制改正で、電子帳簿保存法の要件が一部緩和されました。令和4年度改正で設定された宥恕期間は今年12月31日で終了しますが、いまだに電子保存に対応できていない中小企業は少なくありません。
2.ここでは、電子帳簿保存法の改正ポイントを整理し、具体的な緩和措置の内容を解説します。
公認会計士・税理士
佐久間 裕幸
1.「優良な電子帳簿」の範囲の見直し
「優良な電子帳簿」とは、税務署長の承認を得る以外の従来(令和3年度の税制改正以前)の電子帳簿保存法の要件を満たす状態での電子保存です。
現在の市販の会計システムは、そのほとんどが優良な電子帳簿の要件をクリアしていますが、帳簿の作成を行うシステムは、会計システムに限りません。
売上帳や仕入帳であれば、販売管理システムや購買管理システムから、賃金台帳であれば給与計算システムから出力されます。現金の入出金を管理する現金出納帳は、表計算ソフトで作成されている場合もあります。
こうした販売管理システム、購買管理システム、在庫管理システム、給与計算システムなどには、「電子帳簿保存法による帳簿の保存」という発想自体がなかったような気がします。そのため、こうしたシステムを利用している場合には、優良な電子帳簿の要件を満たすことができないことになります。
そこで、令和5年度税制改正では、優良な電子帳簿の範囲を狭めることになりました。具体的には、現金出納帳、預金出納帳、賃金台帳などが優良な電子帳簿の対象から外れます。
この緩和措置によって、たとえば給与計算システムが訂正・削除の履歴を残す仕様になっていなくても、また現金出納帳を表計算ソフトで作成していても問題ないことになりました。
これにより、優良な電子帳簿による過少申告加算税の軽減のための届出書を提出しようという企業が増え、真実性や内部牽制が確保された優良な電子帳簿が普及していくことが期待されます。
2.スキャナ保存制度の要件緩和
スキャナ保存制度については、一定の要件を満たす必要がありますが、令和5年度税制改正により、次の要件が廃止されることになりました。
・解像度・階調情報の保存
・大きさ情報の保存
・入力者等情報の確認
また、「スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持」の要件については、契約書や領収書のほか、請求書など重要な書類についてのみ求められることになりました。
今回の改正により、一般書類のスキャナ保存文書については、会社が業務に利用できる範囲での検索性さえ確保できていればよいことになり、その意味では、中小企業もスキャナ保存に踏み切りやすくなったといえます。
また、必要な機能はスキャナ読み込みだけで、OCR(光学的文字認識)がなくても大丈夫になる可能性が広がったことになります。
3.電子取引のデータ保存義務の見直し
令和3年度税制改正で、電子取引のデータ保存義務が打ち出されましたが、電子取引の概念は、いわゆる電子商取引など特定の取引先と大量のデータをやり取りする電子取引ばかりではありません。ネット通販やホテルのネット予約のほか、請求書のPDFファイルを電子メールに添付してやり取りするような行為も対象になります。
そのため、中小企業も含めて多大な影響が生じることになり、令和4年度改正で2年間の宥恕期間が設けられました。
また、ネット通販やホテルのネット予約などの電子取引は、零細企業でも利用されているため、電子取引情報を管理する証憑管理システムの導入コストに耐えられない企業も多く存在していました。
そもそも「宥恕期間を置く」という発想自体が、すべての企業が電子保存できる状況に向かって対処する前提に基づくものであり、コスト的に見合わない企業の存在は想定していなかったのかもしれません。
そのため令和5年度改正では、保存要件の緩和と保存が困難な企業への対処という2つの措置が講じられました。
(1)保存要件の緩和
保存義務者が、税務職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じられるようにしている場合に、検索要件のすべてを不要とする措置の対象者を次のように定めました。
売上高5,000万円以下である保存義務者 |
その電磁的記録を出力書面(整然とした形式および明瞭な状態で、取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理されていれば可)で提出できる保存義務者 |
従来、売上高1,000万円以下という極めて小規模な事業者のみが対象でしたが、売上高5,000万円以下まで拡大することで、電子ファイル保存システムなどを導入するとコスト倒れになる規模の事業者への配慮が進んだことになります。
この基準は、消費税の簡易課税が適用される課税売上高5,000万円の基準に近いことから、従来、課税仕入れに係る請求書等の保存の必要がなかった事業者への配慮がなされたと考えることもできるでしょう。また、電子データに加え、そのデータを適正に出力書面にしていれば売上規模に関わらず検索性を問われないことになりました。
(2)保存が困難な企業への対処
納税地等の所轄税務署長が、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存できなかったことについて相当の理由があると認め、かつ、一定の要件を満たす場合には、その保存要件にかかわらず、電磁的記録の保存をすることができることとされました。
4.各緩和減措置による実務への影響
令和3年度の電子帳簿保存法の抜本改正に対して、令和4年度、5年度と、緩和方向の改正が行われました。
結果として、2年にわたる改正のなかで、実務を動かすために次のような修正がなされたという評価ができます。
① | 電子化、DXが生産性の向上につながらないような小規模な企業への対応 |
② | 「帳簿」というものは会計システム以外の業務システムからも作成されるという実務の世界の常識への対応 |
③ | スキャナ読み込みをしたデータと帳簿との相互関連性の保持など、実務での運用の困難さへの対応 |
こうした観点から、令和3年度改正に対する法令の不具合の修正は完了したということになるでしょう。
したがって、当面の間、さらなる緩和策を期待するべきではなく、電子保存をしたほうが生産性のアップを見込める企業や、電子化により業務改革を実行したい企業は、今回の改正を受けて「前進あるのみ」です。
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